
九州地域エネルギー施設 見学会・ワークショップ

9月5日(火)、九州地域の大学生等30名を対象に、玄海町次世代エネルギーパーク あすぴあ、九州電力(株) 玄海エネルギーパーク、玄海原子力発電所の見学および、エネルギーに関する講義・ワークショップを開催した。

開催にあたり、主催者の九州経済産業局 野尻電源開発調整官より「電気代やガス代の高騰やインフレ、ウクライナ情勢を受けて世界的にエネルギーの安定供給が課題となり、カーボンニュートラルも同時に達成していかなければならない。このような大きな時代の流れの中で日本、九州、玄海町、自治体が豊かで元気に発展していくためには、課題を先送りしないで、今できることをこれから時代の主役になる皆さんと一緒に考えていくことが重要である。ニュースで断片的に報道されるようなエネルギーの課題について、どういったつながりがあるか学習し、議論できるような機会になると思うので、ぜひ実りのある見学会にしてほしい」と挨拶された。

次に、脇山玄海町長より、「昔は第一次産業しかなく、多くの若者が関西、中京に出ていった玄海町であったが、原子力発電所の立地とともに二次・三次産業も発展し現在に至っている。教育環境が良いと子育て世代が近隣地域から引っ越してくださる方たちもいらっしゃる。
また、エネルギーは、私たちの暮らしになくてはならないものである。日本は、資源が乏しい国であり、他国から、燃料、原料を輸入し加工した製品を輸出する加工貿易国であり、エネルギーの輸入に費用がかかるのは様々な分野で影響がでてくる。国の電気代を安価に安定的に供給するためにも、新しいエネルギーが出てこない限り原子力発電所は必要であり、その一翼を玄海町は担っている。原子力発電は、安全が第一であり、住民の安全安心につながるよう関係各所とも常に連携を心がけている。一方で、原子力だけではなく、最大規模のバイオガス発電所を竣工し、佐賀牛の一大産地として課題であった糞尿の処理もエネルギーとして使っていく。このような様々な玄海町の姿も見て学んでいただき、玄海町に関心を持っていただけるような機会となることを祈っている。」と歓迎の挨拶をいただいた。
講義「2050年に向けた電源構成への視座」(資源エネルギー庁 須山 照子 氏)

エネルギーの選択の歴史は、電源別の選択の歴史そのものとなっている。1945年、第二次世界大戦終戦以降、戦後復興期には水力から石炭へ、1962年の「原油の輸入自由化」をきっかけとして、石炭から石油へ移行。1970年代には総発電量の約7割を石油火力に依存していたが、1973年、1979年の2回にわたる石油ショックにより、石油から天然ガスや原子力の開発、石炭の再評価がされるようになった。その結果、2010年度には原子力が約25%、石炭が約28%、天然ガスが29%、石油が約9%と、石油への依存が低減しエネルギーバランスの良い発電構成となった。しかし、2011年3月の福島第一原子力発電所の重大事故以降、化石エネルギーの依存率が高くなり、一方で、再生可能エネルギーの導入が進み主力電源に向けての動きが加速していく。2015年のパリ協定以降は、温暖化対策として低炭素化、脱炭素化が最優先の政策目標となってきた。そのような状況の中で、2022年2月14日にロシアへのウクライナ侵略により、エネルギーの安全保障が重視され、安全性を大前提とした原子力発電の利用の動きが高まってきている。2021年度は、全電源構成の約7割が化石エネルギーであるが、2030年度には約4割まで下げ、脱炭素電源である再エネ(水力含む)を現在の約2倍の36~38%に、原子力は20~22%に、水素・アンモニアを1%とし、全電源構成の約6割を脱炭素電源とする野心的な目標を掲げている。安全性、適地の制限、コスト、安定供給など様々な課題を克服し、実現を達成するためには、技術力を高めていくことが鍵となる。それぞれの国々では、経済やエネルギーを取り巻く状況を踏まえ、電源構成を決定している。欧米では、2030年の脱炭素電源への転換を推進、火力への割合を減らしていくが、アジア各国では石炭火力の比率が高く、今後、現実的な転換に向けた道筋を検討する必要がある。2050年を見据えた電源構成の最適解を考える上で、現イノベーションでは実現出来なく、新たなイノベーションへの挑戦、そして、低コスト化に向けての挑戦が求められている。
施設見学

玄海町次世代エネルギーパーク あすぴあ
あすぴあは、平成25年に次世代のエネルギーとして期待される水素エネルギーや燃料電池、身近にある太陽光、風力、バイオマスエネルギーなどについて、「見て」・「触れて」・「体験」ができる、大人から子どもまで楽しみながら学べる施設としてオープンした。参加者は燃料電池と太陽電池をのせたカート、ロードトレインの実物を前に水素エネルギー、燃料電池についての解説を受け、館内ではバイオマス発電の仕組みを、実際に触って動かし体感したりするなど、エネルギーについて関心や興味を持ってもらうための多くの工夫を学ぶことができた。

九州電力株式会社 玄海原子力発電所/玄海エネルギーパーク
玄海エネルギーパークでは、実物大の原子炉模型を目の前に原子力発電の仕組み、原子力発電所の概要や安全対策の説明を受けた。玄海原子力発電所の構内見学では、建屋や、高圧発電機車、取水口、緊急時対策棟建設現場など発電所設備を間近で見学した。見学後の質疑においては、「今使っている原子炉はいつまで使えるのか?」、「新たな原子炉の建設予定はあるのか。」、「高圧発電機車は原子炉によって違いがあるか。」、「トリチウムの影響はないのか。」など活発な質問があった。
ワークショップ
参加者は6グループに分かれ、「S+3Eを目指した2050年の電源構成を考えよう!!」をテーマにディスカッションを行ない、各班の電源構成について発表を行った。




1班
タイトル:「地域に特化した発電」
再生可能エネルギーは全体で50%とした。それぞれの地域の特色を考慮した再生可能エネルギーの発電を組み合わせることを考えた。例えば新潟や長野では豊富な水力を中心に、日照条件の良い香川や愛媛では太陽光を、風況の良い東北地方では洋上風力発電を、温泉の盛んなところでは地熱発電を増やすといった形で、地域に密着した発電を展開。足りない部分を原子力発電の25%で補い安定した電力供給を行っていくことを考えた。火力発電は、太陽光などの自然変動電源の調整電源として、LNGは10%とし、水素・アンモニアは研究の進展が未知数な部分もあるためそれぞれ2.5%とし、石炭火力は多くCO2を排出するためゼロとし、CO2の排出は植林等で吸収できないかと考えた。
その他10%は蓄電をメインとし再生可能エネルギーの余剰分を有効に使うとともに、海流・波力発電等に期待をした。また、送電網を強化して地域間の電力供給に融通をきかせることが重要だと考えた。
2班
タイトル:「未来への期待」
再生可能エネルギーは多種多様な発電方法があり、2030年目標から順調に伸びると考えたが、安定供給の面で懸念もあると考え50%とした。風力発電は特に洋上風力発電に期待し15%とした。原子力発電は、福島第一原子力発電所の事故が起きる前の割合が25%程度であったので、大幅な増設は難しいと考え30%とした。火力発電を0%にするのは難しいとの考えから15%とした。水素・アンモニアは、2030年からある程度普及が進むと考え2030年の1%から5%とした。その他として、佐賀大学などで研究が進んでいる海洋エネルギーの利用に期待をして、5%とした。
3班
タイトル:「再生可能エネルギーで日本を救おう」
再生可能エネルギーを増やし、火力発電を減らしカーボンニュートラルを目指す電源構成を検討。再生可能エネルギーを45%としたが、水力・太陽光は土地が限られるため、風力とバイオマスを各9%と期待。原子力発電所は30%とし、福島第一原子力発電所の事故を踏まえ安全性が向上し、安定した電源供給を得るのに必要と考えた。火力発電を完全に無くすのは難しいと考え、2030年目標の約半分の20%を目指す割合とした。その他として、海に囲まれた国土を活かし、波力発電や海洋エネルギーへの期待をこめて5%とした。
4班
タイトル:「技術革新を信じて」
排出するCO2をゼロにすべく火力発電を0%とし、それ以外のエネルギーで電力を賄う構成を検討した。 再生可能エネルギーは現状でも多く導入されているが、さらに導入が進むのではないかと考え、水力15%、太陽光25%、風力5%、バイオマス7.5%、地熱2.5%とした。原子力発電はベースロード電源として必要不可欠であると考え40%とした。2050年には蓄電池の技術革新が進むと考え、その他を5%とし、火力発電の調整力を補えるのではないかと想定した。
5班
タイトル:「環境性と経済性の両立」
環境性と経済性の両立を目指すことを目標に構成を検討した。原子力発電所を見学し、実際に見た安全面の対応や経済性も考慮し40%とした。再生可能エネルギーは環境性を考慮し、全体で30%とし、水力14%、太陽光9%、風力発電5%、バイオマス2%とした。火力発電は脱炭素に向けて水素15%、アンモニア5%と想定した。その他はまだ想定されていない技術の開発に期待を込めて10%とした。
6班
タイトル:「僕たちのミライ」
再生可能エネルギーが5割を超える電源構成を考えた。水力発電はダムを簡単には増やせないと考え2030年から横ばいとした。太陽光発電は天候に左右される部分もあり、大きく増えないと考えた。風力発電は他の再エネよりも増やしやすいと考え12%とした。安定的な再生可能エネルギーとしてバイオマス発電は8%、地熱発電5%と増えるのではと想定した。カーボンニュートラルに向けて原子力発電所のメリットも活用することを考え30%とした。
火力発電は再生可能エネルギーの調整電源に必要だと考え15%とした。火力発電で排出されるCO2についてはCCUSの技術で対応することを想定。水素・アンモニアは研究開発進むが本格的な導入時期ではないと考え各1%とし、その他は、日本は島国なので潮力発電が有効なのではないかと考え3%とした。
各発表の際には学生同士で質疑を行い、「化石エネルギーの排出するCO2をどのように扱うか。」、「再生可能エネルギーの割合を増やしていく上で、どのように安定性を確保していくのか」、「火力発電を減らすために、どのようなプロセスを考えるか。」など電源構成を考える上で浮かんできた疑問点などをお互いに聞いていた。

全てのプログラムが終了後、玄海町教育委員会 岩崎教育長より「玄海町は教育に力を入れており、小中一貫校の学校内に教育委員会もあって現場をしっかりと見守り、一気通貫で教育行政を行っている。みなさんが真摯に見学され、議論されている様子に大変刺激を受けた。今回は発電所を中心とした見学であったが、玄海町は、美しい棚田や花火大会など、様々な魅力のある町でもあり、街の様子や学校の様子もぜひ見て欲しい。」との言葉をいただいた。
参加者の声
原子力発電所は、自分が想像していた何倍もの手間や時間をかけたり、ものすごく考えた安全対策をしていたことにとても驚いた。
発電所、あすぴあを見たあとのグループワークが良かったです。内容が深まったあとにするため、考えやすかった。
玄海エネルギーパークでの原子力発電所のお話で、福島の原子力発電所の事故を教訓に、様々な方向性から何重にも対策がなされていることを聞き、福島のことについて卒業研究で考える機会も多かったため、きちんと教訓とされていることを知ることができて、安心することができました。
今まで考えたことのなかったテーマだったが、自分たちで調べたり、先生に助けていただきながら良いディスカッションをすることができたり、各班の発表も聞けて良かった。新たな考えにも触れることができた。
原子力発電の安全性をより広く周知するにはどうしたらよいか、議論してみたい。原子力発電の安全性に対し漠然とした不安や、疑問を持っている人が多いと考えられるが、それを払拭するために必要なことを考えたい。
原子力発電所の発電方法と、その仕組みについて大学で触れてはいたけれどあまり理解はできていなかったため、今回の講演やビデオでより深く理解できました。
カーボンニュートラルについて、知識を深める事ができました。過酷な気象がずっと続き、もう以前のような優しい四季は戻ってこないのかと思っていましたが、現在素晴らしい技術革新が進んでいる事を知り、希望を持ってこのCO2排出ゼロを考える事が出来るようになりました。一人一人が自分事として、出来る事から取り組む大切さも、講演を通して気づかされました。「節約をする事も大切」、この言葉いいですね。
日本は太陽光エネルギー導入量が多く、これ以上増やすのは国土面積的に難しいと話していたが、ぜひ送電網の整備を最優先事項として進めていただきたい。特に九州や四国では太陽光の出力抑制が多いため、全国で融通がもっと出来ると効率的と言える。