

名古屋大学
2022年12月14日(水)
名古屋大学 工学部1年生、3年生の学生を対象に、資源エネルギー庁から「エネルギーの現状と2050年へのエネルギー戦略」と題し、エネルギー政策に関する授業を実施した。
講義「エネルギーの現状と2050年へのエネルギー戦略」(資源エネルギー庁 須山 照子 氏)
カーボンニュートラルへの挑戦として、再生可能エネルギーは、重要な国産エネルギー源であり、2030年度には電源構成割合を現在の20%から36-38%という野心的な目標に向け、強力に推進していく。再エネの最大限の導入を進めるためには、地域との共生を前提に、適地の確保が課題となっている。また、電力の安定供給の調整力として火力発電に依存しており、蓄電技術の活用も必要となっている。
火力発電は、非効率な施設のフェードアウトを始め、水素やアンモニア、CCUS等による脱炭素化を進めていく必要がある。その中で注目している技術として2030年の電源構成割合にも掲げている水素エネルギーである。水素は、直接的に電源分野の脱炭素に貢献するだけではなく、運輸、産業分野等での脱炭素化にも貢献できるものとして注目されている。
同様に脱炭素化に効果がある原子力は、安全性の確保を大前提に、あらゆる選択肢を検討していく必要がある。新増設・リプレイースを含め、次世代革新炉の建設についても、今後、議論を踏まえ、地元等の関係者とも調整していくことになる。我が国においても、次世代革新炉の開発・建設を行う場合、商用運転開始までに一定のリードタイムを要することから、安全性の確保を大前提に既存の原子力発電の運転期間の延長についても検討を行う必要がある。
カーボンニュートラル達成のためには新たなイノベーションが必要であり、あらゆる可能性を追求していくことになる。
講義後の質疑応答では、「水素生成について、電気分解などで生成するとなっているが、電力を使って、エネルギーを作ることはエネルギー総量的にマイナスにしかならず、意味が無いように思う」、「水素の生成方法等を考えると、水素はエネルギーではなく、エネルギーの輸送形態の一つではないか。なぜ、水素がこれほどエネルギーとして考えられているのか」、「再生可能エネルギーの導入量が多いとあったが、電源構成割合としてみた場合、再生可能エネルギーの割合は少ない。これは、総発電量の影響で少なく見えるのか」「カーボンニュートラルの宣言について、技術力や世界経済等の背景などの根拠を持ってされているのか」等の意見・質問があった。
足元のエネルギー危機の克服と持続的なGX(グリーントランスフォーメーション)推進の両立を行うためには、脱炭素エネルギーのフル活用が必要である。多くの国がカーボンニュートラルを宣言している状況の中で、カーボンニュートラルを目指さないことは、日本としての産業競争力や経済成長が弱まることを意味する。2030年の電源構成割合も、250年カーボンニュートラル達成の為の野心的な目標となっている。今の技術力ではどの国もカーボンニュートラルを達成できない状況において、野心的な目標の達成に向けて、あらゆる政策を総動員しながら取組を進めていく。事業リスクや事業環境に応じて、規制・支援により、民間企業の投資を促し、官民投資を目指す中で、新たなイノベーションを喚起することが現時点のエネルギー戦略の方向性、現状であると締めくくった。
参加者の声
アンモニアへの転換でCO2の排出が減ったとして、NOx(窒素酸化物)による環境への影響が増えることへの懸念はどのように考えているのか。
水素が電力源の一つとして確立されたとして、そこに必要な資源はどのように確保するのか。化石資源からの水蒸気改質法であれば脱化石資源に反する。電気分解であればその電力はどこから来るのか(火力?再生可能?)。
国の方針を満たすためには(下がりつつある国力を上げるためにも)技術の進歩が必要な一方で、研究資金の補助が少ないという現状をどう考えているのか。
電力コストが世界情勢のみならず、いろいろな要因に左右されていて、安定した電力供給を達成するためにいろいろな対策がなされていることが知れて面白いと思った。
原子力発電を再稼働させるとしたら、具体的にどのような安全策を講じるのか。東日本大震災によって原子力発電にネガティブな感情を抱いている人が多くいる中で、その人たちを安心させるような方法があるのか気になる。
燃料の依存度と国際情勢の話が印象に残っています。理由はウクライナ侵攻でどのような影響が出るか分かったからです。
元々、エネルギー自給は自分の中で解決しなければならない課題という認識が大きかったのですが、他のG7加盟国の割合などを詳しく聞いてよりその気持ちが強くなりました。
日本のエネルギーに関する世界の立ち位置についての話が印象に残った。日本は他の国と比べてウクライナ侵攻の影響を受けているということが分かった。
カーボンニュートラルのためには、原子力発電が鍵を握ると思っていたので、原子力発電の内容は印象に残りました。
日本の二酸化炭素の排出量が思ったより多かったため、2050年までに本当にカーボンニュートラルを達成できるのか疑問に思った。
次世代エネルギーとしての核融合についての話も聞きたい。