

岩手大学
2022年12月12日(月)
岩手大学 人文社会科学部の学生を対象に、資源エネルギー庁から「エネルギーの現状と2050年へのエネルギー戦略」と題し、エネルギー政策に関する授業を実施した。
講義「エネルギーの現状と2050年へのエネルギー戦略」(資源エネルギー庁 須山 照子 氏)
昨今、世界各地で電力需給がひっ迫している。日本でも昨年1月、寒波に加えてLNG不足により需給がひっ迫。今年の3月には、福島県沖地震による電源停止や想定を上回る寒さなどの影響により、東北電力管内において、初めての電力需給ひっ迫警報が発令された。冬の季節を迎え、東北エリアでは、電気の安定供給に最低限必要な予備率3%を確保することが出来ているものの、1月の予備率は4.1%であり、引き続き、厳しい見通しとなっている。そのような状況の中、需要対策として12月から3月までの間、無理のない範囲での節電・省エネへのご協力をお願いしていく。
現在の電力需給がひっ迫している要因として、
①電力自由化の下で再エネ拡大により稼働率が低下した火力発電の休廃止が加速されたこと、
②近年の脱炭素の加速化に伴う新設火力発電のプロジェクトの中断、
③原子力発電所の再稼働の遅れ、
④想定を上回る気象状況などによる需要増大などが上げられる。
また、ウクライナ情勢などに伴い燃料価格が高騰し、大手電力会社の経営状況は厳しいものとなっている。あわせて、円安などの影響により多くの大手電力会社は中間決算期で大幅な赤字となり、今年度の業績予想も厳しい状況となっている。
現在、複数の大手電力において、規制料金の値上げ申請がされており、来年春以降に電気料金が値上げとなる可能性がある。東北電力も、2021年2月及び2022年3月に発生した福島県沖を震源とする地震による火力発電所などの甚大な設備被害、そしてウクライナ情勢を受け燃料価格等の高騰により、先月、規制料金の値上げを申請した。
同様にガス料金や燃料費の高騰により、私たちの暮らしも厳しい状況となっており、その激変を緩和するために、新たな総合経済対策が示された。電気料金、都市ガス料金、燃料費価格の対策として総額6兆円、標準世帯で、来年度前半までに4万5千円の支援を盛り込んだ。あわせて、需要側でエネルギー使用量を抑える省エネルギーの支援も進められている。
厳しい足元の危機を克服し、脱炭素の流れも進めていかなければならない。更なる省エネの抜本強化、ゼロエミッション電源である再エネ、原子力のフル活用によりグリーントランスフォーメーションを加速化していく必要がある。
講義に参加した学生のレポートでは、
「冷戦終結から数十年経った今でも、西側諸国と東側諸国の対立は色濃く残っていて現在のロシア・ウクライナ情勢のように何か起こると表面化してしまうという事実に改めて驚愕しました。また、エネルギー自給率が極端に低い日本はその情勢に大きく影響を受けてエネルギーの転換を迫られている現状を知り、自分でも日本のエネルギーについて考える必要があると改めて感じました」、
「2050年カーボンニュートラル実現について自然に左右されない水力・地熱・バイオマスなどを軸に、太陽光・風力などは+αとしてエネルギー自給率を高めていくべきだと考える。また、日本では火力が最も需要に合っていてこれから脱炭素に向けて再エネだけで火力の分の需要を補うのは難しい。日本のエネルギー安全保障について世界でも活用される安全性の高い原子力発電や水素の利用など、再エネと他のエネルギーを併用することが重要だと考えた。これによって多様性とレジリエンスが高まりS+3Eを満たしたエネルギー自給ができると感じた」、
「原子力発電はほかの方法に比べると効率よく発電できるが、事故が発生した場合非常に危険であり、使用済みの燃料は長期間保存しなければならない。したがって、現在はある程度日本のエネルギー供給を支えていく手段として使用せざるを得ないが、最終的に技術が発展していくにつれて、再生可能エネルギーに置き換えていく方がよいと思う」、
「原子力発電を増やすにしても国民の不安を解消する手立てを考える必要があり、再生可能エネルギーの割合を増やすにも難しい側面は多いように感じます。そこで次世代を担う私たちが積極的にエネルギーについて考え、できることから実践する意識を持つことから変えていきたい」
など、ロシア・ウクライナ情勢の影響より経済・安定供給対策の必要性を感じ、カーボンニュートラルや、エネルギー自給率を高めるために再生可能エネルギーの導入に取り組むべきとしつつも、その課題も理解し、特定のエネルギーやイノベーションに限定することなく、多様な道筋を目指していく必要性を感じているレポートが多く寄せられた。
参加者の声
ロシアとウクライナ戦争によって世界各国で利用するエネルギーに影響を与えている話しが印象に残った。現在、ニュースで毎日戦争映像を見るので、身近な問題に感じられた。
岩手県は地熱資源のポテンシャルが大きいことを知り、他の再生可能エネルギーはどの地域にどの程度ポテンシャルがあるのか興味がわいた。
日本が再生可能エネルギーの導入量が意外に多いことが印象に残った。(日本は化石賞をよく取るから)
中国の再生可能エネルギーの技術力について知りたい。中国の技術の拡散力は強力なので、日本にも影響があると思ったから。
多くの国において、今後原子力発電の利用を拡大していくという話を聞き、どのように安全性を確保していくのか興味深いと思った。安全性の観点から見た他の国のエネルギー政策について聞いてみたい。
私は、宮城県の女川原子力発電所が近くにある場所で生活してきたので、原子力発電についての世界の状況や日本の方針の話は自分ごととして印象に残りました。
水素やアンモニアを用いて発電するのが、環境にとって良い発電ということを初めて知ったのでもっと詳しく聞いてみたい。
水素の性質を用いた実験が印象に残っています。理由は、この実験によって、水素を用いたエネルギーについて理解しやすかった。
他の国で行っている独自の二酸化炭素を減らす取り組みについて聞いてみたいと思った。他の国の取り組みなどを参考にして日本もより二酸化炭素を減らす取り組みを増やしていけると思ったから。
初めは安全性と環境適合性が大事だと思っていた。しかしこの講義を通して、全て大事だけど安定供給の重要さが大きく感じた。