第2節 石油産業・LP ガス産業の事業基盤の再構築
1. 石油産業(精製・元売)の事業再編・設備最適化
我が国の国内石油需要は、ピークである1999年度に比べて2019年度では3割以上減少しており、「2021~ 2025年度の石油製品需要見通し」によれば、年平均で約2%の割合で需要が減少していく見込みです。また、アジア新興国においては、顕著な需要増加と併せて輸出志向の大型で最新鋭の石油コンビナートが次々に建設されており、アジア地域への石油製品の輸出環境は厳しさを増しています。今後も国内石油需要が減少していく見通しの中、全国的な石油サプライチェーンを維持し、平時・有事を問わずに石油安定供給を確保するためには、事業再編等を進めて、経営基盤を強化していく必要があります。
具体的には、①異業種を含めたコンビナート連携の更なる深化等による国内製油所の生産性向上・競争力強化、②アジア等の海外市場への事業展開、③電力市場等他のエネルギー事業への展開を進めていくことが期待されますが、そのためには、十分な投資体力を確保すべく、国内石油事業の収益性回復を図ることが必要です。
このため、石油コンビナートに立地する製油所・石油化学工場等について、「資本の壁」や「地理的な壁」を超えた統合運営・事業再編を通じ、石油製品と石油化学製品等の柔軟な生産体制の構築等による高付加価値化や、設備の共有化・廃棄等による設備最適化、製造原価の抑制に向けた取組を支援するなど、総合的かつ抜本的な生産性向上を進めるための施策を講じました。また、中長期的に原油調達の多様化が必要になることを想定し、非在来原油も含む重質原油の最適処理を可能にする技術開発も促進しました。
<具体的な主要施策>
(1)高度化法による原油等の有効利用の促進【法律】
原油一単位あたりから精製されるガソリン等石油製品の得率を向上させ、余すところなく原油を利用する(原油の有効利用)体制を強化すべく、高度化法に基づく石油精製業者向け判断基準(以下、「告示」という。)を示し、国内精製設備の最適化等を促進してきました。具体的には、2010年7月に施行した一次告示により、我が国製油所全体の「重質油分解装置の装備率」の向上を義務付け、対象となる各石油精製業者は常圧蒸留装置の能力削減及び重質油分解装置の新設・増強の組合せで対応しました。これにより、我が国製油所全体で重質油分解装置の装備率は10%程度(告示制定時)から13%程度(2013年度末)へと改善され、国内の精製能力は告示制定前の489万BD(2008年)から約2割削減されました。
また、2014年7月に施行した二次告示では、さらなる原油の有効利用を進める観点から、我が国全体の「残油処理装置の装備率」の向上を義務付け、各石油精製業者は常圧蒸留装置の廃棄または公称能力の削減及び残油処理装置の新設・増強の組合せで対応しました。これにより、我が国全体の残油処理装置の平均装備率は45%程度(告示制定時)から50.5%程度(2016年度末)へと改善し、国内の精製能力は二次告示開始当時の395万BDから約1割削減されました。
こうした取組により、国内製油所の重質油分解装置等の装備率は世界的に高い水準を実現した一方、実際の分解能力の活用は十分ではなく、国際競争力の高い他国の製油所と比較して多くの残渣油を生産しているとの指摘があります。そのため、2017年10月、さらなる原油の有効利用や製油所の国際競争力強化に向けて、重質油分解装置等のさらなる有効利用を目的とする、新たな告示(三次告示)を施行しました。令和3年度の目標である減圧蒸留残渣油の処理率7.5%の達成に向け、引き続き、原油等の有効利用を促していきます。
(2) 石油コンビナートの生産性向上及び強靱化推進事業費【2020年度当初:275.0億円の内数】
石油精製コストの低減や石油コンビナートの国際競争力強化に向け、複数の製油所・石油化学工場等の事業再編・統合運営に対する支援を行いました。
(3) 高効率な石油精製技術の基礎となる石油の構造 分析・反応解析等に係る研究開発委託費【2020年度当初:4.5億円】
コストの安い原油等から高付加価値製品を生産する「石油のノーブル・ユース」等に資する非在来型原油等の構造等の分析技術、重質油処理プロセスの最適化技術等の開発を行いました。
(4) 高効率な石油精製技術に係る研究開発支援事業費補助金【 2020年度当初:2.2億円】
コストの安い原油等から高付加価値の製品を生産する「石油のノーブル・ユース」や、精製設備の稼働を長期間安定させる「稼働信頼性の向上」に資する実用化、実証の段階にある技術の開発を行いました。
(5) 燃料安定供給対策に関する調査等委託費のうち石油精製に係る諸外国における技術動向・規制動向等の調査・分析委託費【2020年度当初:12.0億円の内数】
国内石油精製業の国際競争力の維持・向上に向け、諸外国の製油所・石油コンビナートに関する設備投資や新技術の導入状況、国際機関による環境規制の動向について調査、分析を実施しました。また、潤滑油原料の多様化を図ることを目的として、国内外における基油の多様化状況及び基油再生に関する動向を調査・分析を実施しました。
2. 石油・LPガスの最終供給体制の確保
消費者に石油製品の供給を行うサービスステーション(SS)は、販売量の減少、それに伴う収益の悪化、さらには「消防法(昭和23年法律第186号)」の改正による地下タンク改修の義務化によるコスト増などの要因により、経営環境が厳しさを増しています。加えて、施設の老朽化、後継者難等も一因となり、1994年度に約60,000か所存在していたSSが、2019年度末には29,637か所にまで減少しています。
そのため、平時・緊急時を問わず石油製品の安定的な供給を確保するため、SS過疎地等において地下タンクの撤去や漏えい防止対策等の環境・安全対策への支援を行ったほか、自家発電設備を備え、災害時にも地域住民の燃料供給拠点となる「住民拠点SS」の整備や地下タンクの入換・大型化などのSS等の災害対応能力の強化を行いました。さらに、過疎化や人手不足等に対応した新たな燃料供給体制の確立等に向けた技術開発等の支援などを行いました。
LPガスについては、その供給網は都市ガス導管の通っていない地域を含め全国に拡がっており、全国総世帯の約4割(約2,400万世帯)の家庭で利用されています。また、平時での熱源としての利用はもちろんのこと、災害時においては燃料供給が滞った場合でも迅速に対応可能な「最後の砦」としての役割を担う重要なエネルギーです。そのため、LPガス事業者が地域において果たす役割を将来にわたって維持していくことが可能となるよう、LPガスの取引適正化を推進するための消費者相談窓口の設置支援や料金透明化等に関する調査及び普及啓蒙を行うとともに、LPガス事業者の経営基盤の強化に資する取組、例えば、自動検針や遠隔でのガス栓の開閉等が可能となるスマートメーターの導入などに対する支援などを行いました。
<具体的な主要施策>
(1) 災害時に備えた地域におけるエネルギー供給拠点の整備事業費【 2020年度当初:30.3億円】
SS等の燃料供給拠点の災害対応能力をさらに強化するため、自家発電設備を備え、災害時にも地域住民の燃料供給拠点となる「住民拠点SS」の整備、地下タンクの入換・大型化、災害訓練、津波被害地域等における燃料供給の早期再開を目的とした災害時専用臨時設置給油設備の導入等を支援しました。
(2) 離島・SS過疎地等における石油製品の流通合理化支援事業費(うち過疎地等における石油製品の流通体制整備事業)【 2020年度当初:44.6億円】
SS過疎地等における石油製品供給網を維持するために、①複数のSSの統合・集約・移転の際の地下タンクの設置、②地下タンクからの燃料漏えい防止対策や地下タンク撤去等の環境・安全対応等を支援しました。
(3) 次世代燃料供給体制構築支援事業費【2020年度当初:6.0億円】
過疎化・人手不足などの構造変化に対応するため、①過疎化・人手不足等の課題克服に向け、AIの活用等新たな技術開発等への支援、②自治体を中心とした地域一体となったSS過疎地対策計画策定への支援、③燃料供給の担い手確保の取組を支援しました。
(4) 燃料安定供給対策に関する調査等委託費のうち石油ガス販売事業者の経営及び販売実態に関する調査【2020年度当初:12.0億円の内数】
LPガスの流通実態・販売事業者の経営実態等を調査し、LPガス産業全体の流通構造の適正化、合理化策を検討するとともに、消費者等に対しLPガスの取引適正化に向けた取組や価格動向等の情報を提供し、消費者意識の向上と市場原理の一層の活性化を図るための調査等を実施しました。
(5) 石油ガスの流通合理化及び取引の適正化等に関する支援事業費【 2020年度当初:7.5億円】
LPガスに関する取引の適正化・安定供給の確保のため、各都道府県の民間企業等が行う消費者相談や防災体制の強化に対する支援や、LPガスの流通構造を合理化するため、自動検針や遠隔でのガス栓の開閉等が可能なスマートメーターの導入に対する支援を行いました。
(6) 石油製品安定供給確保支援事業【2020年度補正:7.6億円】
SS等の燃料供給拠点の災害対応能力をさらに強化するため、地下タンクの入換・大型化、べーパー回収設備の導入を支援しました。また、SS過疎地等における石油製品の安定供給を確保する取組のうち、省人化や燃料配送の合理化につながる設備投資を支援しました。
3.公正かつ透明な石油製品取引構造の確立
<具体的な主要施策>
(1) 燃料安定供給対策に関する調査等委託費のうち石油製品の卸・小売価格モニタリング調査事業【2020年度当初:12.0億円の内数】
石油製品について、SS等を対象に卸価格や小売価格を調査し、流通マージン等を把握するとともに、必要に応じ公正取引委員会への情報提供を行いました。
(2) 石油製品品質確保事業費補助金【2020年度当初:10.4億円】
石油製品の適正な品質を確保するため、全国約3万の給油所においてサンプル(ガソリン等)を購入(試買)し、品質分析する事業に対し支援を実施しました。