第1節 競争力のある再エネ産業への進化

再生可能エネルギーの主力電源化には、再生可能エネルギーを電力市場へ統合していくことが重要であり、これを進めるため、2022年度より、FIT制度に加えて市場連動型のFIP(Feed-in Premium)制度が導入されることになりました。FIP制度においては、発電事業者自身が卸電力取引市場や相対取引で売電することとなります。そのため、FIP制度の導入に当たっては、必要な環境整備、特にアグリゲーターの活性化が重要となってきます。こうしたことを踏まえ、電力市場への統合を通じた再生可能エネルギーの導入拡大と新たなビジネスの創出を図るべく、FIP制度の詳細設計とアグリゲータービジネスの活性化に向けた検討を一体的に行いました。

また、近年、分散型エネルギーリソースも柔軟に活用する電力システムへの変化が進む中で、家庭、企業/公的機関、地域といった需要の範囲ごとに、自家消費や地域内系統の活用を含む需給一体型の再エネ活用モデルをより一層普及させるため、分散型エネルギーリソースの更なる導入促進、分散型エネルギーリソースを活用する事業の構築支援、及び関係するプレイヤーの共創の機会創出等の事業環境整備を進めています。

加えて、欧州を中心に世界で導入が拡大している洋上風力発電は、大量導入・コスト低減・経済波及効果が期待される再生可能エネルギーです。再エネ海域利用法の着実な施行により案件形成を進めるとともに、洋上風力関連産業の産業競争力の創出に向け、取り組んでいます。

1.コスト低減、電力市場への統合に向けた方向性

(1)競争力のある再エネ産業への進化

再生可能エネルギーの主力電源化には、再生可能エネルギーを電力市場へ統合していくことが重要です。2020年2月にまとめられた総合資源エネルギー調査会基本政策分科会再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下、「主力電源化小委員会」という。)の中間取りまとめの内容を踏まえ、2020年6月に第201回通常国会において成立した再エネ特措法の改正を含む「エネルギー供給強靱化法」に基づき、2022年度より、FIT制度に加え、市場連動型のFIP(Feed-in Premium)制度が導入されることになりました。

このFIP制度においては、発電事業者自身が卸電力取引市場や相対取引で売電することとなるため、その導入に当たっては必要な市場整備や仲介する役割を担うアグリゲーターの活性化が重要となります。アグリゲーターの活性化については、これまでVPP実証などを進めてきましたが、FIT制度における固定価格での買取りの下では発電側の分散型リソースを束ねるインセンティブがほとんどなかったため、発電側のアグリゲーターについては取組があまり進んでいませんでした。

そのため、2020年7月から、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会と主力電源化小委員会の合同会議において、FIP制度の詳細設計とアグリゲーション・ビジネスの活性化に向けた課題を一体的に検討し、市場統合を通じた再エネ導入拡大と新たなビジネスの創出に向け、取り組んでいます。

①FIP制度について

FIP制度の詳細設計に当たっては、基本的な方針として、FIP制度が再生可能エネルギーの自立化へのステップであることを踏まえ、FIP制度を構成する各要素について、FIT制度から他電源と共通の環境下で競争するまでの途中経過に位置付けられるように設計を行いました。また、再生可能エネルギーの市場統合を進めるため、FIP制度において電力市場をなるべく的確に反映することや、利用しやすい制度とするため、過度な不確実性を抑え、シンプルな制度設計にすることにも留意して検討を進めました。

FIP制度は、再エネ発電事業者が、発電した電気を他の電源と同様に卸電力取引市場や相対取引で自ら自由に売電し、そこで得られる市場売電収入を踏まえ、「あらかじめ定める売電収入の基準となる価格(以下、「基準価格」という。)と市場価格に基づく価格( 以下、「参照価格」という。)の差額(=プレミアム単価)×売電量」を基礎とした金額を交付することで、再エネ発電事業者が市場での売電収入に加えてプレミアムによる収入を得ることにより、投資インセンティブを確保する仕組みです。

基準価格は、FIT制度における調達価格に対応するものであり、FIP制度導入当初は、各区分等のFIT調達価格と同水準となる方向です。また、参照価格は、卸電力取引市場の前年度1年間の平均価格をもとに、月ごとの価格補正や電源の発電特性等も踏まえ算定されることになります。この両者の差額を踏まえたプレミアムが発電事業者に交付されることで、再エネ事業の投資インセンティブが確保されるだけでなく、電力市場への統合に向け、再エネ事業者に電力市場を意識した電気供給を促していくことができます。その際に発現される効果は、基準価格が固定であるため、参照価格の変更頻度によって変わりますが、事業者に対し、燃料調達やメンテナンス時期の工夫等により、電力需給を踏まえた季節をまたぐ行動変容を促すため、上記の算定方法を採用することになりました。また、これに加えて、出力制御が発生するような時間帯にはプレミアムを交付しないという算定方法を設定することにより、事業者に対し、蓄電池併設や太陽光パネル設置方法の工夫等により、電力需給を踏まえた電気供給をするインセンティブとなるよう、設計しました。

さらに、環境価値についても、市場とFIP制度の双方からの環境価値の二重取りにならないようにする前提で、FIP電源の持つ環境価値については、再エネ発電事業者が自ら販売する仕組みとすることとしました。

なお、2022年度のFIP制度の対象については、調達価格等算定委員会において、再生可能エネルギーの電源種毎の発電特性、動向、事業環境、業界団体からのヒアリング等を踏まえながら審議が行われ、太陽光発電や地熱発電、中小水力発電、バイオマス発電の一定規模以上に適用する等の内容が、2020年1月に同委員会の意見として取りまとめられました。

【第331-1-1】FIP制度の概要について

331-1-1

 

出典:
経済産業省作成

②再エネの市場取引を進めていくための環境整備について

FIT制度における市場取引を免除された特例的な仕組みを見直し、FIP制度への移行を通じて他の電源と同様に市場取引を行う仕組みへと改めていくためには、様々な環境整備が重要です。

まず再エネの市場統合を進めていくためには、再エネ発電事業者自らが、発電した再エネ電気の市場取引等を行う必要があります。その具体的な方法としては、①自ら卸電力市場取引を行う方法、②小売電気事業者との相対(直接)取引を行う方法、③アグリゲーターを介して卸電力取引市場における取引を行う方法、の3つが主に想定され、こうした取引を通じて再エネ関連ビジネスの高度化や電力市場の活性化が進むと期待されます。一方で、電気を引き受ける小売電気事業者やアグリゲーターにとっては、発電予測や出力調整が従来電源に比べて容易ではない再エネ電気を相対取引するインセンティブが低い可能性もあるため、発電予測支援ビジネスやアグリゲーション・ビジネスの活性化のための環境整備を進めていくことも重要です。FIT制度からFIP制度へと移行してもなお引き続き再エネの導入を拡大させていくためには、アグリゲーターが小規模再エネ由来のものも含めたより多くの再エネ電気を効率的・効果的に市場取引することが期待されます。

こうした市場環境整備を進めるための仕組みを、FIP制度の詳細設計においても検討しました。例えば、再エネ発電事業者やアグリゲーターが持つ調整電源を上手く活用するため、FIP電源については、FIP電源以外の一般電源や他のリソースと一緒の発電バランシンググループを組成することを認めることにしました。また、アグリゲーションが可能な電源をFIP制度開始当初から増やしていくため、FIT認定事業者が希望する場合には、FIP制度へ移行することを認めることにしました。

加えて、FIP制度においては、FIT制度において免除されてきた再エネ発電事業者のインバランス負担についても、再エネの市場統合を図っていくため、他電源と同様に再エネ発電事業者にその負担が課されることになります。その際、再エネ発電事業者にインバランスを抑制させるインセンティブを持たせ、当該コストを下げるよう努力する制度にするため、FIP認定事業者には、バランシングコストとして、再エネ電気の供給量に応じてkWh当たり一律の額を交付し、特に制度開始当初においては、FIT制度からFIP制度への移行のインセンティブにもなるよう、変動電源について技術やノウハウの蓄積を目的とした経過措置を設けることにしました。

2. 需給一体型の再エネ活用モデルの促進

世界及び日本において、①太陽光発電コストの急激な低下、②デジタル技術の発展、③電力システム改革の進展、④再エネを求める需要家とこれに応える動き、⑤多発する自然災害を踏まえた電力供給システムの強靱化(レジリエンス向上)の要請、⑥再エネを活用した地域経済への取組、といった大きな変化が生じています。加えて、2019年11月以降順次、FIT調達期間を終え、投資回収が済んだ安価な電源として活用できる住宅用太陽光発電(FIT卒業電源)が出現しています。

こうした構造変化により、「大手電力会社が大規模電源と需要地を系統でつなぐ従来の電力システム」から「分散型エネルギーリソースも柔軟に活用する新たな電力システム」へと大きな変化が生まれつつあり、こうした変化を踏まえ、自家消費や地域内系統の活用を含む需給一体型の再エネ活用モデルをより一層促進することが求められています。こうしたモデルの普及のために、民間の様々なサービスやEVを始めとした新たな分散型エネルギーリソースもあわせ、新たなビジネス創出の動きを加速化するための事業環境整備が必要です。

そのため、総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(以下、「再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」という。)において、需給一体型の分散型エネルギーの普及促進策について検討を行いました。また、FIT制度における地域活用要件についても、調達価格等算定委員会において検討を進めました。

(1)家庭・大口需要家

住宅用太陽光発電の価格低下による自家消費のメリットの拡大やFIT卒業太陽光の出現により、今後は、自家消費や余剰電力活用の多様化が進んでいくことが期待されます。一方、住宅を購入する多くの消費者にとっては、太陽光発電の設備投資に伴う追加的な経済的負担は大きく、ZEH化の課題になっています。このような中で、再エネ導入を一層拡大しつつZEHを普及させるためには、太陽光発電等の設備を第3者が保有するビジネスモデルを活用した新たなZEHの在り方を検討していくことが重要になってきています。

また、家庭や大口需要家に設置された再エネによる自家消費を促進するためには、エコキュート、蓄電システム、電気自動車などの分散型エネルギーリソースの導入促進も大事です。そのため、特に定置用蓄電システムについて、定置用蓄電システム普及拡大検討会を開催し、普及拡大に向けた課題及びその対応策を整理するとともに、目標価格や導入見通し等を策定しました。

(2)地域

再エネ電源を自律的に活用する地域での需給一体的なエネルギーシステムは、エネルギー供給の強靱化(レジリエンス)、地域内エネルギー循環、地域内の経済循環などの点で有効です。そのため、地域の再エネをコージェネレーションなどの他の分散型エネルギーリソースと組み合わせて利用するなど、地域レベルで再エネを需給一体的に活用する取組について、より取組を行いやすくするための仕組みの在り方や、他分野の政策と連携強化等について、更に検討を深めていくことが重要です。

また、自営線を活用してエネルギーを面的に利用する分散型エネルギーシステムの構築については、導入コスト等の採算面や工事の大規模化が大きな課題となっています。こうしたコスト面の課題解決に向けて、災害時の大規模停電時に既存の系統配電線と地域にある再エネや分散型電源を活用して、自立した電力供給が可能となる地域マイクログリッドの構築が進められています。一方、災害時だけでなく平時での活用も見据えて、制度的・技術的課題の整理を行い、事業環境の整備につなげていく必要があります。そこで、来年度以降地域マイクログリッド事業に申請する事業者向けに、一般送配電事業者や地元自治体等のステークホルダーとの調整や事業を進めていく上での具体的な手順を示した手引書を作成しています。

また、こうした検討を踏まえ、官民が連携して課題分析を的確に行うとともに、分散型エネルギーに関係するプレイヤーが共創していく環境を醸成することを目的として、令和元年度に引き続き「分散型エネルギープラットフォーム」を開催しました。当該プラットフォームは、経済産業省と環境省が共同で、多様なプレイヤーが一堂に会し、取組事例の共有や課題についての議論等を行う場を設けることで、こうした幅広いプレイヤーが互いに共創する機会を提供するものです。

キックオフシンポジウム(2021年2月5日配信)では、意見交換会のテーマに関するプレゼンテーションを行い、論点の整理を行いました。また、2月~3月にかけてオンラインの意見交換会を開催し、「地域マイクログリッドの構築や配電事業の実施に向けた課題の整理」、「地域資源を利活用するための地域エネルギー事業者と自治体の役割と可能性」、「家庭、企業/公的機関の自家消費促進」という3つのテーマについて、関係する事業者等にご参加頂き、課題の整理を行うディスカッションを行いました。本プラットフォームは、分散型エネルギーに関係する多様なプレイヤーの共創の場を継続して提供するため、参加者のニーズも収集しながら、令和3年度も継続して実施することとしています。

加えて、自家消費や地域と一体となった事業を優先的に評価するため、一定の要件(地域活用要件)を満たす再エネ事業については、当面、FIP制度のみならず、現行FIT制度の基本的な枠組みを維持して支援していく方向です。その具体的な地域活用要件は以下のとおりです。

(ア)自家消費型の地域活用要件(事業用太陽光発電)

小規模事業用太陽光発電は、立地制約が小さく需要地近接での設置が容易である電源です。このため、需要地において需給一体的な構造として系統負荷の小さい形で事業運営がなされ、災害時に活用されることで、全体としてレジリエンスの強化に資することを要件とする「自家消費型」の地域活用要件を設定することが必要です。

特に、低圧事業(10kW以上50kW未満)については、地域でのトラブル、大規模設備を意図的に小さく分割することによる安全規制の適用逃れ、系統運用における優遇の悪用などが発生し、地域での信頼が揺らぎつつあります。地域において信頼を獲得し、長期安定的に事業運営を進めるためには、全量売電を前提とした野立て型設備ではなく、自家消費を前提とした屋根置き設備等の支援に重点化し、地域に密着した形での事業実施を求めることが重要です。このため、低圧事業については、2020年度から、自家消費型の地域活用要件をFIT制度の認定基準として求めています。

自家消費型の具体的な要件については、まず、自家消費を行う設備構造を有し、かつ需要地内において自家消費を行う計画であることを求めることとします。その際、ごく僅かしか自家消費を行わない設備が設置され、全量売電となることを防ぐため、厳格な自家消費の確認を行っていきます。加えて、災害時に活用するための最低限の設備を求めるものとして、災害時のブラックスタート(停電時に外部電源なしで発電を再開すること)が可能であること(自立運転機能)を前提とした上で、給電用コンセントを有し、その災害時の利活用が可能であることを求めることとしました。

ただし、営農型太陽光発電設備については、営農と発電の両立を通じて、エネルギー分野と農林水産分野での連携の効果も期待されるものもある中で、一部の農地には近隣に電力需要が存在しない可能性もあることに鑑み、農林水産行政の分野における厳格な要件確認を条件に、自家消費を行わない案件であっても、災害時の活用が可能であれば、自家消費型の地域活用要件を満たすものとして認めることとしています。

なお、高圧以上事業( 50kW以上)については、2020年度の調達価格等算定委員会の議論を踏まえ、地域活用要件を設定してFIT制度による支援を当面継続していくのではなく、電源毎の状況や事業環境を踏まえながらFIP制度の対象を徐々に拡大し、早期の自立を促していく方針です。

(イ) 自家消費型・地域消費型又は地域一体型の地域活用要件(地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電)

地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電は、太陽光発電に比べて立地制約が大きく、太陽光発電や風力発電に比べてFIT制度開始以降も導入スピードは緩やかであり、現時点では発電コストの低減の道筋が明確化していません。他方、2020年度は、FIP制度においても投資回収の予見可能性が確保されるように制度設計が進められ、また、電源特性の観点から、地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電は、発電予測がしやすい又は出力を調整しやすく、比較的FIP制度への適性が高いことも明らかになってきました。

こうした中、再生可能エネルギーの自立化を促すため、2019年度及び2020年度の調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電でFIT制度の新規認定を認める対象については、FIP制度が施行される2022年度から地域活用要件を求めることとし、その規模を、地熱発電・水力発電は2022年度及び2023年度について1,000kW未満、バイオマス発電は2022年度について10,000kW未満としつつ2023年度以降早期に1,000kW以上をFIP制度のみ認めることを目指す方針です。

また、これらの電源に適用される地域活用要件については、2019年度及び2020年度の調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、FIP制度の適用対象拡大を念頭においた制度設計であるという発想の下で、いたずらにコスト増をもたらさず、相対的に緩やかなものが設計されています。具体的には、2022年度及び2023年度の新規認定については、以下のいずれかの地域活用要件を満たすことが求められる方針です。ただし、今後、必要に応じて見直すこととし、また、地域マイクログリッドについても、将来的に方法が確立した時点で具体的な要件を検討していきます。

(i)自家消費型・地域消費型の地域活用要件

低圧太陽光発電事業の地域活用要件と同程度に電気を自家消費することが求められます。または、再生可能エネルギー電気特定卸供給により供給し、かつ、その供給先の小売電気事業者等が、小売供給する電気の一定割合を当該発電設備が所在する都道府県内へ供給することが求められます。あるいは、発電設備から産出された熱を原則として常時利用しつつ、一定の電気も自家消費することが求められます。

(ii)地域一体型の地域活用要件

当該事業計画に係る再生可能エネルギー発電設備が所在する地方公共団体の名義の取決めにおいて、当該発電設備による災害時を含む電気又は熱の当該地方公共団体内への供給が位置付けられていることが求められます。または、当該発電事業を地方公共団体が自ら実施又は直接出資することが求められます。あるいは、再生可能エネルギー電気特定卸供給により供給し、かつ、その供給先の小売電気事業者等が、地方公共団体が自ら事業を実施又は直接出資するものであることが求められます。なお、こうした地方公共団体が自ら事業を実施又は直接出資するものについては、地方公共団体の主体的な関与を求めていきます。

3.認定案件の適正な導入と国民負担の抑制

(1)新規認定案件のコストダウンの加速化

現在、我が国の再エネの発電コストは国際水準と比較して依然高い水準にあり、FIT制度に伴う国民負担の増大をもたらしています。我が国の再エネの発電コストが高い原因として、例えば、太陽光発電については、①市場における競争が不足し、太陽光パネルや機器等のコスト高を招いていることや、②土地の造成を必要とする場所が多く、台風や地震の対策をする必要があるなど、日本特有の地理的要因が工事費の増大をもたらしている、といった点が挙げられます。

FIT制度では、発電事業者・メーカー等の努力やイノベーションによる再エネの発電コストの低減を促すため、中長期の価格目標を定めています。これまで調達価格は、価格目標との整合性を踏まえつつ、毎年のコスト低減状況からトップランナー方式等による必要コストの積み上げにより設定してきました。しかし、足下の実績を確認すると、低減傾向が鈍化しているため、これまでと同様の価格設定方式では、価格目標への道筋が不透明となる状況です。そこで、2020年度の調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、事業用太陽光発電について、初めて複数年度の調達価格(又は基準価格)を示すこととし、2021年度及び2022年度の調達価格(又は基準価格)を、「2025年に運転開始する案件の平均的な発電コストで7円/kWh」という価格目標の達成に向けた道筋が見えるかたちで設定することとしました。

また、再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立を図るため、FIT制度では、入札により調達価格を決定することが国民負担の軽減につながると認められる電源については、入札対象として指定することができるとされています。事業用太陽光発電は、2017年度の入札制度導入以降、入札対象範囲を「2,000kW以上」としていましたが、競争性を確保するため、対象範囲を2019年度から「500kW以上」、2020年度から「250kW以上」に拡大しました。2020年度には、2回(上期(第6回)・下期(第7回))の入札を実施しています。また、一般木材等バイオマスによるバイオマス発電(10,000kW以上)及びバイオマス液体燃料によるバイオマス発電等についても、入札を実施しています。

今後、2050年のカーボンニュートラル実現を見据えると、再エネの更なる導入拡大は不可欠であり、継続的なコスト低減とともに、案件組成が促されるような制度設計・環境整備が必要です。2020年度の調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、2021年度の事業用太陽光発電の入札については、①予見可能性の向上のため、上限価格を公表し、②参加機会の増加のため、入札実施回数を年間2回から年間4回としています。また、事業用太陽光以外の入札も含め、2021年度以降の入札については、③参加資格審査期間を3か月程度から2週間程度に短縮し、④落札案件の認定取得を年度内から落札から7か月以内としています。さらに、⑤保証金没収事由の緩和のため、工事費負担金が高額となったために辞退した場合、入札保証金の没収を免除することとしています。

入札の対象範囲については、国内における規模別のコスト動向等を踏まえ、2021年度の事業用太陽光発電の入札対象範囲は、2020年度と同じく、「250kW以上」とすることとしています。また、一般木材等バイオマスによるバイオマス発電(10,000kW以上)及びバイオマス液体燃料によるバイオマス発電についても、引き続き2021年度も入札対象とすることに加え、新たに、陸上風力発電についても、事業用太陽光発電と同様に250kW以上について、2021年度から入札制を適用することとしています。

(2) 住宅用太陽光発電設備の意義とFIT買取期間終了の位置付け

太陽光発電は、温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることでエネルギー安全保障にも寄与することに加え、火力発電などと異なり燃料費が不要であり、自家消費を行い、非常用電源としても利用可能な分散型電源となり得る特徴があります。一般家庭が太陽光発電設備を設置する理由は様々ですが、光熱費の節約や売電収入を得るといった経済的な理由だけでなく、自ら発電事業者として再エネの推進に貢献していくことを目指している方もいらっしゃいます。一般に、太陽光パネルは20年以上発電し続けることが可能であり、特に住宅に設置されたパネルは改築・解体等をするまで設備が維持されて稼働し続けることが期待されます。

このような状況の中、2009年11月に開始した余剰電力買取制度の適用を受けた住宅用太陽光発電設備について、2019年11月以降、固定価格での調達期間が順次満了を迎えています。その規模は、2019年11月と12月だけで約53万件、200万kWが対象となり、累積では2023年までに約165万件、670万kWに達する見込みですが、これはFITという支援制度に基づく10年間の買取りが終了するに過ぎず、その後も10年以上にわたって自立的な電源として発電していくという役割が期待されます。

調達期間終了後の円滑な移行に向けて、現行の調達事業者からは、買取期間の終了が間近に迫った世帯に対して、調達期間終了日などが個別通知されています。また、資源エネルギー庁Webサイトに情報提供ページを開設し、調達期間終了後の選択肢の提示や、電気の買取りを希望する事業者情報の提供などを行っています。

4. 立地制約のある電源の導入促進(洋上風力のための海域利用ルールの整備)

(1)洋上風力をめぐる世界の動き

洋上風力発電には陸上風力発電と比較して次の特徴があります。まず、陸上よりも比較的風況が優れているため設備利用率をより高めることが可能(世界平均では陸上約30%、洋上約40%)です。また、輸送制約等が小さいため大型風車の設置が可能であり建設コスト等を抑えることができるので、コスト競争力のある再エネ電源と言えます。さらに、事業規模は数千億円に至る場合もあり、また数万点と部品数が多いため、部品調達・建設・保守点検等を通じて地元産業を含めた関連産業への波及効果が期待できます。

このような洋上風力発電は、現在世界で最も飛躍的に導入が拡大している再エネ電源の一つであり、国際エネルギー機関(以下、「IEA」という。)によると、2040年には全世界で2018年の約24倍である56,200万kWの導入が見込まれています。

欧州では、1990年にスウェーデンで世界初の洋上風力発電所の実証試験が開始されたのを皮切りに、デンマークやオランダ等で次々に実証試験が行われました。2000年頃からデンマークを中心として事業化を目指した洋上風力発電の建設が始まり、2000年代半ば頃からはイギリス、ベルギー、ドイツ等の参入が進み、欧州全体の導入量は2018年末時点で1,900万kWにまで達しています。このように欧州で洋上風力発電の導入が進んだ背景にはいくつか要因があります。

まず、北海などの欧州の海は風況が良く、また海岸から100kmにわたって水深20 ~ 40mの遠浅の軟弱地盤の地形が続くなど自然的条件に恵まれているのです。加えて、2000年代後半以降、洋上風力発電についてのルール整備が進められ、設置のための調査や、事業を実施する区域の選定、電力系統の確保などについて政府の役割が増しており、これによって事業者の開発リスクが低減されてきたことも大きな要因です。また、入札制度も導入され、事業者間の競争が促されることで、コストが急速に低下している点も重要です。例えば、2015年以降の入札では、落札額が10円/kWhを切る事例や市場価格となる事例(補助金ゼロ)も生まれています。

【第331-4-1】欧州における最近の洋上風力発電の入札の動向

331-4-1

出典:
経済産業省作成

アジアでも、IEAによると、累積導入量を中国は2020年に500万kW、台湾は2025年に550万kW、韓国は2030年に1,200万kWとする目標を設定しており、うち中国は2018年末時点で導入量が400万kWに達するなど、洋上風力発電の導入拡大に向けた動きが活発化しています。

(2)日本の状況と再エネ海域利用法の運用

周囲を海に囲まれた日本にとって洋上風力発電の導入は重要です。2018年7月に閣議決定された「エネルギー基本計画」の中でも「陸上風力の導入可能な適地が限定的な我が国において、洋上風力発電の導入拡大は不可欠である」と位置付けられています。また、2020年10月26日の臨時記者会見において梶山経済産業大臣から、洋上風力発電は2050年のカーボンニュートラルを目指す上で不可欠な重要分野である、との発言もあったとおり、洋上風力発電は、海外において急激にコスト低下が進んでおり、大規模な開発も可能であることから、再エネの最大限の導入と国民負担の抑制を両立し得る重要な電源です。しかし、主に次の2つの課題により、我が国においては導入が進んでいない状況にありました。

1つは、「海域の占用に関する統一的なルールがない」ことです。従来、海域の大半を占める一般海域は占用の統一ルールがなく、都道府県が条例に基づき通常3 ~ 5年の占用許可を出す運用がなされていました。FIT制度の調達期間の20年と比較して短期の占用許可しか得ることができないため、中長期的な事業予見性が低くなり、資金調達が困難になっていました。もう1つは、「先行利用者との調整の枠組みが不明確」という課題です。海域を新たに利用するに当たっては、海運業や漁業等の地域の先行利用者との調整が不可欠ですが、調整のための枠組みが存在せず、事業者には大きな負担となっていました。

これらの課題の解決に向けて、2019年4月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)」(以下、「再エネ海域利用法」という。)が施行されました。

本法律により、以下で示す手続の流れに基づき、経済産業大臣及び国土交通大臣が、自然的条件が適当であること、漁業や海運業などの先行利用に支障を及ぼさないこと、系統接続が適切に確保されること、等の要件に適合した区域を促進区域として指定し、公募による事業者選定を行います。選定された事業者は、区域内で最大30年間の占用許可を受けるとともに、FIT制度に基づく認定を得ることができます。公募による事業者選定では、長期的・安定的・効率的な事業実施の観点から最も優れた事業者を選定することで、コスト効率的かつ長期安定的な洋上風力発電の導入を促進する仕組みとなっています(第331-4-2)。

【第331-4-2】再エネ海域利用法の手続の流れ

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出典:
経済産業省作成

制度運用を進めるため、2019年5月に法律に基づく基本方針(海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針)を策定するとともに、2019年6月には関係審議会での議論を踏まえて、2つのガイドライン(海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン・一般海域における占用公募制度の運用指針)を定めました。

上記の法令・ガイドラインに基づき、2019年7月に、今後の促進区域の指定に向けて、既に一定の準備段階に進んでいる区域として、11区域を整理しました。このうち4か所(「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖(北側・南側)」「千葉県銚子市沖」「長崎県五島市沖」)については、有望な区域として選定し、協議会の設置等に着手しました。

「長崎県五島市沖」については、2019年12月に促進区域として指定し、2020年6月から同年12月にかけて洋上風力発電事業を行うべき者を選定するための公募受付を行い、提出された公募占用計画の審査・評価に着手しています。2021年には洋上風力発電事業者の選定を行う予定です。

また、他の3か所(「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖(北側・南側)」、「千葉県銚子市沖」)についても、2020年7月に促進区域として指定し、同年11月に洋上風力発電事業を行うべき者を選定するための公募を開始しました。

この他にも、2020年7月に新たに4か所(「青森県沖日本海(北側)」、「青森県沖日本海(南側)」、「秋田県八峰町及び能代市沖」、「長崎県西海市江島沖」)を有望な区域として選定するなど、案件形成は着実に進みつつあります。

【第331-4-3】再エネ海域利用法の施行状況

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出典:
経済産業省作成

(3)洋上風力関連産業の産業競争力に向けた取組

再エネ海域利用法に基づき、洋上風力発電の案件形成は着実に進みつつあります。洋上風力発電の更なる導入拡大には、洋上風力関連産業の競争力を強化し、コストの低減をしっかりと進めることが重要です。再エネ海域利用法を通じた洋上風力発電の導入拡大と、これに必要となる関連産業の競争力強化と国内産業集積及びインフラ環境整備等を、官民が一体となる形で進め、相互の「好循環」を実現していくため、第1回「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」(以下、「官民協議会」という。)を2020年7月に開催しました。

第1回官民協議会では、①中長期的な洋上風力発電導入のポテンシャルと課題の分析、②計画的導入に向けたインフラ環境整備の在り方、③事業者の皆様の投資やコスト削減等に関する取組などについて議論が行われました。特に、事業予見性の確保のための市場規模について要望をいただき、梶山経済産業大臣からも、「当面10年間は100万kW/年、2040年にかけては3,000万kWを超える規模の見通しがあれば思い切った投資ができるものと思っており、引き続き、本協議会で議論していきたい」との発言がありました。

また、詳細な検討については作業部会で行いたい旨の産業界からの要望を踏まえ、2020年9月に官民協議会の下、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会作業部会」を開催し、より詳細な検討を行いました。

この検討の結果に基づき、2020年12月に開催した第2回官民協議会では、中長期的な政府及び産業界の目標、目指すべき姿と実現方策等について一定の方向性を、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」として取りまとめました。政府による導入目標として、「年間100万kW程度の区域指定を10年継続し、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW ~ 4,500万kWの案件を形成する。」と設定し、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略実行計画にも反映しました。

【第331-4-4】「洋上風力産業ビジョン(第1次)」の概要

331-4-4

出典:
経済産業省作成

洋上風力の産業競争力強化に向けては、①まずは魅力的な国内市場の創出に政府としてコミットすることで、国内外からの投資の呼び水とする、②その上で、事業環境整備等を通じて投資を促進することにより、競争力があり強靱な国内サプライチェーンを形成する、③さらに、アジア展開も見据えて次世代の技術開発や国際連携に取り組み、国際競争に勝ち抜く次世代産業を創造していく、といった方向性を基本方針とし、洋上風力の産業競争力強化に向けた取組を、官民一体となって推進していきます。

(4) 洋上風力発電の導入促進に向けた改正港湾法に基づく基地港湾の指定

洋上風力発電設備の設置及び維持管理に利用される基地港湾においては、重厚長大な資機材を扱うことが可能な耐荷重・広さを備えた埠頭が必要であり、高度な維持管理のほか、広域に展開し、参入時期の異なる複数の発電事業者間の利用調整も必要となります。このため、2019年12月に「港湾法の一部を改正する法律(令和元年法律第68号)」が公布され、国が基地港湾を指定し、当該基地港湾の特定の埠頭を構成する行政財産について、国から再エネ海域利用法等に基づく許可事業者に対し、長期的かつ安定的に貸し付ける制度を創設しました。これらの措置を講じることにより、事業の見込みが立ちやすくなり、洋上風力発電事業のより一層の円滑な導入に資することになります。2020年9月には、当該制度に基づき能代港、秋田港、鹿島港、北九州港の4港を基地港湾として指定しており、既に地耐力強化などの必要な整備に着手しています。このうち秋田港については2020年度に整備が完了しました。