第3節 原子力利用における不断の安全性向上と安定的な事業環境の確立
1.原子力利用における不断の安全性向上
東京電力福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、原子力事業者は、規制基準に適合することにとどまらず、常に安全性の高みを目指した取組を継続していくことが求められます。こうした中、原子力事業者を含めた産業界が行う自主的安全性向上に係る取組を進めるため、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の下に、「自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ」を、2014年9月に設置しました。
2018年2月のワーキンググループでは、業界大で安全性向上の取組実績を積み上げ、規制当局とも対話していく必要性を共有しました。
これを受け、2018年7月には、原子力産業界全体の知見・リソースを効果的に活用しながら、原子力発電所の安全性に関する共通的な技術課題に取り組み、自主的に効果ある安全対策を立案し、事業者の現場への導入を促すことにより、原子力発電所の安全性をさらに高い水準に引き上げることを目的として、原子力エネルギー協議会(ATENA)が設立されました。
ATENAは、2019年7月に原子力規制委員会と意見交換を実施し、「原子力発電所の安全性に関する共通的な技術課題に対し、専門性を持って技術検討を行い、安全対策を立案し、事業者及びメーカーに対策導入を要求する等の活動を着実に行っていくことにより、安全性向上の取組みに貢献していくこと」を確認しました。2020年1月時点で、これまでに非常用ディーゼル発電機の信頼性向上対策などの技術レポートやガイドラインを計2本作成しており、「長期安全運転のための経年劣化管理ガイドライン」など計15件の技術テーマについて検討を進めているところです。
また、既に事業者の取組をサポートするために設置されている原子力安全推進協会(JANSI)と原子力リスク研究センター(NRRC)では、以下の取組が実施されています。
JANSIは、2020年3月時点で12発電所、延べ19回にわたるピア・レビューを実施しました。また、2019年3月に「JANSI-10年戦略」を策定し、発電所ピア・レビューの効果的・効率的な実施と支援活動の充実、情報発信の強化、安全文化の醸成といった支援活動の充実、事業者の技術力の維持・向上について、取り組んでいくこととしています。
NRRCは、事業者と連携し、リスク評価や外部事象評価に係る、安全対策上の土台となる研究を推進しています。事業者においては、パイロットプラントにおける海外専門家レビュー等を通じ、PRAの高度化を進めています。
加えて文部科学省では、原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や、産学官の垣根を超えた人材・技術・産業基盤の強化に向けた課題を総合的に検討していくため、2019年6月に科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会の下に原子力研究開発・基盤・人材作業部会を設置しました。本作業部会では、原子力分野における研究開発、基盤整備、人材育成に関する課題や在り方等について、経済産業省とも連携・協力の上、大学や研究機関等の有識者による議論が進められています。
<具体的な主要施策>
(1)原子力の安全性向上に資する技術開発事業【2019年度当初:30.2億円】
東京電力福島第一原子力発電所事故で得られた教訓を踏まえ、原子力発電所の包括的なリスク評価手法の高度化等、さらなる安全対策高度化に資する技術開発及び基盤整備を実施しました。
(2)原子力の安全性向上を担う人材の育成委託費【2019年度当初:1.0億円】
東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置や既存原子力発電所の安全確保等のため、原子力施設のメンテナンス等を行う現場技術者や、産業界等における原子力安全に関する人材の育成事業を支援しました。
(3)社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業【2019年度当初:6.5億円】
多様な社会的要請の高まりを見据えた原子力関連技術のイノベーションを促進するため、安全性・経済性・機動性に優れた原子力技術の開発に対する支援を行いました。
(4)原子力人材育成等推進事業費補助金【2019年度当初:2.1億円】
原子力の基盤を支えるとともに、より高度な安全性の追求、世界の原子力施設の安全確保への積極的貢献等のためには、幅広い原子力人材を育成することが必要であるという認識の下、産学官の関係機関が機関横断的に連携することにより、効果的・効率的・戦略的に人材育成を行う取組を支援する「国際原子力人材育成イニシアティブ」事業を実施しました。
2.新たな環境下での事業環境の整備
改正された原子力損害の賠償に関する法律の施行について
「原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年6月17日法律第147号)」は、1961年に制定されて以降、必要な見直しが行われてきました。2018年12月には、原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会における検討を踏まえ、万が一、原子力事故が発生した場合における原子力損害の被害者の保護に万全を期するため、東京電力福島第一、第二原子力発電所事故における対応のうち、一般的に実施することが妥当なもの等について所要の措置を講じる「原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第90号)」が成立しました。
同法は、関連する政省令とともに、2020年1月1日に全面施行されました。この改正により、①原子力損害が発生した場合に、賠償の迅速かつ適切な実施を図るための方針(損害賠償実施方針)の作成・公表を原子力事業者に義務付ける制度、②原子力損害を受けた被害者に対して原子力事業者が仮払金の支払いを行おうとする場合に、国が仮払金の支払いのために必要な資金を貸し付ける制度、③原子力損害賠償紛争審査会が和解の仲介を打ち切った場合の時効の中断に関する特例等が創設されました。