第2節 「国内危機」(災害リスク等)への対応強化

1.供給サイドの強靱化

(1)石油・LPガスの供給網の強靱化

石油・LPガスについては、2011年3月に発生した東日本大震災においては、地震や津波等により、東北・関東地方にある製油所やサービスステーション(SS)をはじめとする多くの石油供給拠点が被災したため、被災地等への安定供給に大きな支障を来しました。この教訓を踏まえ、大規模災害が発生した場合においても、その被害を最小化し、石油・LPガスの供給を早期に回復させることを目的としたハード・ソフト両面の対策に取り組んできました。

ハード面の強化では、製油所やSSといった石油供給拠点の災害対応能力強化に対する支援や、国家石油製品備蓄の増強を行いました。具体的には、2014年6月に資源エネルギー庁が公表した、地盤の液状化や設備等の耐震性能等に関する「コンビナート耐性総点検」(産業・エネルギー基盤強靭性確保調査事業:平成24年度補正事業)の結果等を踏まえ、製油所における石油製品の入出荷設備の耐震強化・液状化対策、桟橋等の増強に対する支援を開始しました。また、製油所等における非常用発電機等の導入、SSにおける地下タンクの入換・大型化や自家発電機の設置等への支援、経営安定化に資するベーパー(ガソリン蒸気)回収型設備等の省エネ型機器の導入支援を行いました。加えて、2012年度より拡充を進めてきた国家石油製品備蓄については、ガソリン、灯油、軽油、A重油について全国石油需要の4日分の量を蔵置しました。2014年度以降は、石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」を策定する単位である全国10ブロック毎に、各ブロック内石油需要の4日分の備蓄が蔵置されるよう、増強を進めました。

ソフト面の強化としては、資源エネルギー庁は、石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」の円滑な実行に向けて、2015年度も内閣府、地方自治体(2015年7月は東京都、11月「津波の日」関連は関東1都6県が訓練に参加) 、石油業界と連携して、机上訓練と燃料供給の実動訓練を実施したほか、「国土強靱化基本計画(2014年6月3日閣議決定)」のプログラム等に基づく協力枠組みの確立を急ぎ、内閣府・警察庁・消防庁・国土交通省・防衛省等との間で、災害時物流の円滑化に必要な課題の解決に向けた取組を推進しました。

例えば、内閣府との間では、石油精製・元売会社を災害対策基本法の「指定公共機関」に指定すべく調整を進め、2015年4月1日に8社が指定されました。これにより、タンクローリー等による被災地への石油供給が円滑に行えるようになりました。

また、中央防災会議幹事会でとりまとめられた「南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画」(2015年3月)及び「首都直下地震における具体的な応急対策活動に関する計画」(2016年3月)において、道路管理者は製油所・油槽所へのアクセス道路については道路啓開を速やかに行うことが定められました。資源エネルギー庁と国交省との間では、石油精製業者等の策定した「系列BCP」(業務継続計画:Business Continuity Plan)と整合を取りつつ、「湾岸BCP」に基づき製油所・油槽所に通じる航路の啓開を優先的に行うこと等に向けた調整を進めています。さらに、防衛省・自衛隊との間では、民間のタンクローリー等による燃料輸送が困難な状況や、自衛隊の活動用燃料の確保が困難な状況を想定した緊急時燃料供給に係る訓練を2015年度も実施しました。具体的には、2015年5月、陸上自衛隊西部方面隊が主催する「南西レスキュー」の机上訓練に九州経済産業局が初参画したことに続き、2015年6月には、高知県が主催する「高知県総合防災訓練」(陸上自衛隊中部方面隊・高知県・四万十町等との合同訓練)に四国経済産業局が参画しました。7月には、資源エネルギー庁が石油業界とともに自衛隊統合防災演習(27JXR)に参加し、11月には、東北経済産業局が陸上自衛隊東北方面隊とともに、自衛隊の保有する燃料タンク車やトラックで、民間の油槽所から被災地に所在する中核SSまで燃料を輸送することを想定した燃料供給訓練を実施しました。

加えて、石油精製・元売会社は、2013年度より、製油所からタンクローリーの運送会社や系列SSに至る系列供給網全体を包含する「系列BCP」を石油連盟が作成したガイドラインをもとに策定し、資源エネルギー庁は各社の「系列BCP」を外部有識者による審査・格付けを行なう試みを開始しました。2015年度には、資源エネルギー庁は、石油精製・元売各社に対して前年度審査の指摘事項を踏まえた系列BCPの改訂や社内の危機管理体制の抜本的改革等を促すとともに、各社の訓練の実効性を確認しました。こうして各社が改訂した「系列BCP」に対する外部有識者による審査・格付けを実施し、業界全体の危機管理体制のレベルアップを促しました。

SSにおいては、災害時を想定した店頭混乱回避策等の研修・訓練や自治体の総合防災訓練とも連携した燃料供給訓練を実施しました。

LPガスについては、2014年に改定した「災害時石油ガス供給連携計画」に基づき、連携計画の実効性を担保すべく実際の災害を想定した訓練を実施しました。訓練で明らかになった課題等について、特定石油ガス輸入業者等を中心とした各地域の「中核充塡所委員会」等で、解決策の検討を行いました。また、中核充塡所における全国横断的な課題への解決及び情報の共有化を図るため、全国規模の「中核充塡所連絡会」を設立しました。

(2)東西の周波数変換設備や地域間連系線の強化

2011年3月に発生した東日本大震災により、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量に制約があり、また、広域的な系統運用が十分にできなかったことなどから、不足する電力供給を手当てすることができず、国民生活に大きな影響を与えました。

このようなことを踏まえ、総合資源エネルギー調査会電力システム改革専門委員会が2013年2月に取りまとめた報告書では、東西の周波数変換設備や地域間連系線の増強について提言されました。

現在、東西の周波数変換設備については、まずは2020年度を目標に現在の120万kWから210万kWまで増強するべく、工事の着工準備を行っています。更に、2020年代後半を目途になるべく早期に300万kWまで増強するべく、電力広域的運営推進機関により計画の検討が進められています。地域間連系線については、北海道本州間連系設備を2019年度までに現在の60万kWから90万kWまでの増強を実現するべく2014年度に工事に着工しました。

また、電力広域的運営推進機関では、地域間連系線等の整備等に関する方向性を整理した広域系統長期方針の検討を開始するとともに、東北東京間連系線の2021年度以降の運用容量(570万kW)を550万kW以上増強する計画の検討も行っています。

今後も電力広域的運営推進機関が中心となって、東西の周波数変換設備や地域間連系線等の送電インフラの増強を進めることとしています。

(3) 電気・ガス設備の自然災害等への耐性評価等の実施

中央防災会議による南海トラフ巨大地震による被害想定及び首都直下地震による被害想定の発表(それぞれ2013年5月、2013年12月)等を受け、電力やガスの自然災害等への対策を検討・強化するため、審議会において、各事業者の協力の下、ダムや火力発電所、送配電設備やガス貯蔵施設等の地震や津波等への耐性を評価し、防災対策の方向性を検討しました。この結果を2014年6月~ 7月に中間取りまとめとして公表するとともに、個別設備の詳細な耐性評価など、引き続き検討が必要とされた課題について、検討を行い2015年7月に審議会に報告を行いました。

<具体的な主要施策>

①石油コンビナート事業再編・強靱化等推進事業【2014年度補正:95.0億円の内数、2015年度当初:115.0億円の内数、2015年度補正:70.0億円の内数】

石油コンビナート敷地全体における地盤の液状化や設備等の耐震性能等を調査した「コンビナート耐性総点検」の結果等を踏まえ、製油所等が、首都直下地震等による被害を受け、石油の安定供給が損なわれることのないよう、①設備の耐震・液状化対策等や、②設備の安全停止対策、③他地域の製油所とのバックアップ供給に必要な入出荷設備の増強対策等、④非常用発電機等の導入を支援しました。

②石油製品形態での国家備蓄の増強【2015年度当初:62.8億円】

東日本大震災の発生直後、被災地を中心として円滑な石油供給に支障を来した反省から、石油製品の形態(ガソリン・灯油・軽油・A重油)での国家備蓄の増強に取り組み、2014年度には全国石油需要の4日分に相当する国家備蓄石油製品の蔵置を完了しました。あわせて、「災害時石油供給連携計画」を策定する単位である全国10ブロックごとに供給体制を強化するため、各ブロック内の石油需要の4日分に相当する国家備蓄石油製品の蔵置を進め、石油製品の貯蔵・非常時供給に必要な設備を導入する工事への支援を措置しました。

③地域エネルギー供給拠点整備事業【2015年度当初:33.9億円】

石油製品の安定供給を確保するため、SSの地下タンクの入換や漏えい防止対策、自家発電機導入、SS過疎地における簡易計量機の設置、地下タンク等の放置防止、土壌汚染の有無に関する検査経費等に係る費用について支援しました。

④石油製品流通網維持強化事業

(再掲 第5章第2節2.(1) 参照)

⑤石油製品安定供給体制整備事業

(再掲 第5章第2節2.(2) 参照)

⑥高圧ガス設備の耐震補強の促進

2013年11月の耐震基準改定を踏まえ、2014年5月に商務流通保安審議官名で「既存の高圧ガス設備の耐震性向上対策について」を発出。各企業に対し、2015年5月までの耐震評価の実施と耐震改修計画の提出を求めました。

⑦石油精製業保安対策委託費【2015年度当初:2.4億円】

石油精製プラント等における事故の防止や、高圧ガス保安法における技術基準等の制定・改正等に必要となるデータの取得に向け、事故の原因分析や実験等を行いました。

⑧高圧エネルギーガス設備の耐震補強支援事業【2014年度補正:9.2億円】

最新の耐震基準の適用を受けない既存の球形タンクや、保安上重要度の高い設備について、最新の耐震基準に適合させるべく実施する耐震補強対策を支援しました。

⑨電気施設保安制度等検討調査委託費【2015年度当初:2.7億円】

自然災害発生時における電力ライフラインの復旧迅速化対策や、電力システム改革による新規事業者参入やビジネス機会の拡大に伴う環境変化に適切に対応した保安規制等を検討しました。

⑩ガス導管劣化検査等支援事業費【2015年度当初:2.6億円】

公共の安全を確保するため、保安上重要な公共性の高い建物、不特定多数の人が集まる建物等を対象に、腐食や地震による破損等を原因とするガス漏れの可能性が特に高い、需要家敷地内に埋設された経年埋設内管の交換・修繕に必要な工事費の一部を補助し、経年管対策を促進しました。

⑪石油ガス供給事業安全管理技術開発等委託費【2015年度当初:2.8億円】

非破壊検査方法等の先進的手法を活用したバルク貯槽検査技術等高度効率化等の調査研究等を行いました。また、各地のLPガス販売事業者等に対する指導的役割を担う保安専門技術者の養成、発生した事故の情報整理、原因分析、マスメディア等を通じた保安広報等を行い、LPガスの保安の確保に努めました。

⑫休廃止鉱山鉱害防止等工事費補助事業【2015年度当初:19.0億円】

採掘活動終了後の金属鉱山等について、地方公共団体等が事業主体となって行う鉱害防止事業に要する費用の一部を補助し、人の健康被害、農作物被害、漁業被害等の深刻な問題(鉱害)の防止を図りました。

2.需要サイドの強靱化

被災直後の交通網等の混乱を想定すれば、安定的な石油・LPガス供給が困難な事態が発生することが予想されます。このため、電力・ガス供給が途絶えても、業務継続が必要となる重要施設(災害対策本部や行政庁舎、拠点病院等の施設)においては、自家発電設備等を稼働させるため、自衛的に、供給網が回復するまでの数日間分の燃料備蓄を確保しておくことが望まれることから、「自衛的備蓄」の推進の一環として、石油・LPガスの燃料備蓄の促進を支援しました。

<具体的な主要施策>

○石油製品利用促進対策事業【2015年度当初:7.5億円】

災害等により供給網が途絶した場合であってもエネルギーの安定供給を確保するため、学校や病院、避難所等に設置する災害時に活用可能な石油製品・LPガスの貯槽等の導入を支援しました。