第1節 原子力政策の出発点

東京電力福島第一原子力発電所事故によって、国民の、そして世界中の誰もが原子力エネルギーが有するリスクを改めて認識しました。国民の間には原子力発電に対する不安感や、原子力政策を推進してきた政府・事業者に対する不信感・反発がこれまでになく高まっています。

この事故の結果、現在も多くの人々が避難を余儀なくされ、汚染水等の東京電力福島第一原子力発電所事故をめぐるトラブルは今なお多くの国民や国際社会に不安を与えています。政府は、東京電力福島第一原子力発電所事故の発生を防ぐことができなかったことを真摯に反省し、福島の再生に全力を挙げるとともに、事故の原因や原子炉内の状況を踏まえ、このような事故の再発の防止のための努力を続けていかなければなりません。

また、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から、事故情報の隠蔽問題や、もんじゅのトラブル、六ヶ所再処理工場の度重なる計画遅延、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定の遅れ等、原子力政策をめぐる多くのトラブルやスケジュールの遅延が国民の不信を招いてきたことも事実です。

こうした中、事故前に比べ、我が国におけるエネルギー問題への関心は極めて高くなっており、原子力の利用は即刻やめるべき、できればいつかは原子力発電を全廃したい、我が国に原子力等の大規模集中電源は不要である、原子力発電を続ける場合にも規模は最小限にすべき、原子力発電は引き続き必要であるなど、様々な立場からあらゆる意見が表明され、議論が行われてきています。

政府は、こうした様々な議論を正面から真摯に受け止めなければなりません。

原子力小委員会の設置

政府は、エネルギー基本計画において示された原子力分野に関する方針を具体化すべく、2014年6月に「総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会」(以下「原子力小委員会」という。)を設置し、必要な措置のあり方について検討を行っています。2014年12月に議論を中間的に整理し、さらに、「自主的安全性の向上、技術・人材の維持・発展」や「高レベル放射性廃棄物の最終処分」については具体的な措置等の検討を進めています。

原子力小委員会の中間整理(概要)

1.総論

  • エネルギー基本計画に記載された課題を整理し、必要な措置の在り方を検討するため、本年6月より議論。政府は、この検討を踏まえて、必要な措置を具体化し、講じていくべき。
  • エネルギーミックスは、各エネルギー源の位置付けを踏まえ、地球温暖化問題に関する国際的な議論の状況等を見極めて、速やかに示すべき。

2.福島第一原発事故の教訓

  • 政府及び事業者など原発関係者全体が「安全神話」に陥っていた。事故再発の防止の努力を続けていかなければならない。
  • 広く国際社会に開かれた形で技術を受け入れ、廃炉・汚染水対策を進める必要。
  • 被災者の方々の心情に寄り添い、避難指示の解除と帰還に向けた取組の拡充、福島の復興支援等を進めるべき。

3.我が国のエネルギー事情と原子力の位置付け

  • 我が国の地政学的な状況を考慮すると、再エネや原子力の活用により可能な限りエネルギー自給率を高めなければ、供給途絶の際に国家としての経済活動を維持できない。原子力は、エネルギーセキュリティを高めるためには、重要な選択肢。
  • なお、安全性確保や放射性廃棄物の処分などに留意が必要。
    温室効果ガス削減目標を検討していく中で、運転時に温室効果ガスを排出しない原子力が果たす役割は、再エネと同様、非常に大きい。
  • 電力の安定供給のため、ベースロード電源(水力・地熱・原子力・石炭)を一定規模確保することが必要。原子力は「重要なベースロード電源」として活用していく。

4.原発依存度低減の達成に向けた課題

  • 廃炉に必要となる分野の経験等が必要。また、廃炉するプラントの個々の設計・特徴に精通した人材がいることが望ましい。中長期的な視点の新たな人材育成が重要。
  • 廃炉に伴って発生する放射性廃棄物は、規制基準の未整備部分は早急な策定が必要。また、工程に遅延が生じないよう、事業者は処分地の確保に取り組むことが必要。
  • 廃炉による一括の費用発生を理由に、事業者が廃炉を先送りしたり、安全・確実な廃炉が阻害されたりすることのないよう、費用の計上を平準化する措置を講じることが必要。
  • 廃炉に伴う立地市町村の経済・雇用・財政への影響を考慮し、電源立地地域対策交付金の制度趣旨(発電用施設の設置・運転の円滑化)を踏まえ、限られた国の財源の中で、稼働実績を踏まえた公平性の確保など既存の支援措置の見直し等と併せて、必要な対策の検討を進めるべき。

5.原子力の自主的安全性の向上、技術・人材の維持・発展

  • 米国では原子力産業の根幹が失われ、我が国の技術に依存せざるを得なくなったことを教訓に、我が国の中で必要な技術・人材を確保していかなければならない。
  • 廃炉や海外のプラント建設・保守だけではカバーできない技術が多く存在する。質の高い技術・ノウハウが次世代に伝承されるよう、一定規模のサプライチェーンを確保しつつ、実プラントを通じた経験が可能となる環境を整備しなければならない。エネルギーミックスの検討に当たっては、十分留意すべき。
  • 自主的安全性の向上、技術・人材は、当面、①軽水炉安全技術・人材ロードマップの策定、②産業界の自主的安全性向上にかかる取組の改善すべき内容の取りまとめ(以上、年度明け目処)を行う。さらに、高速炉を含めた次世代炉の研究開発の方向性も議論。

6.競争環境下における原子力事業の在り方

  • 安全性を大前提としつつ、3Eの観点から、あるべきエネルギーミックスを達成することが、国全体のメリットとなる。自由化された市場において、各エネルギー源に対して適切な政策的措置を講じていくことが必要。
  • 原子力事業については、その特徴や状況変化を踏まえ、事業の予見性を高め、民間事業者が主体的に事業を行うことができるよう、必要な政策措置を講ずることが必要。
  • 具体的には、①事業者の損益を平準化し、安定的な資金の回収・確保を図るなど財務・会計面のリスクを合理的な範囲とする措置を講じるとともに、②競争環境下における核燃料サイクル事業について、各事業者からの資金拠出の在り方等を検証し、必要な措置を講じていく。
  • その他の原賠制度の見直し、運転延長の申請時期の見直しなどは、関係機関が相互に連携し、課題の解決に向け取り組むべき。
  • 事業実施主体の体制面の効率化・強化も必要。資産の有効活用、人材集積、財務健全化を目指した体制作りが期待される。

7.使用済燃料問題の解決に向けた取組と核燃料サイクル政策の推進

  • 使用済燃料の貯蔵施設は、各電気事業者の積極的な取組や、電気事業者間の共同・連携による事業推進、政府の取組強化について具体的に検討。
  • 中長期的な視点から、核燃料サイクル事業を安定的に進めるための体制、官民の役割分担、必要な政策的措置、時間軸等について、専門的な視点を踏まえた現実的な検討が必要。
  • 最終処分は、国が科学的により適性が高い地域を示す等により立地への理解を求めるべき。その際、多様な立場の住民が参画する地域の合意形成の仕組みが必要。そのため、①科学的有望地の選定の要件・基準等、②地域に対する支援の在り方等の更なる具体化等を議論。

8.世界の原子力平和利用への貢献

  • 福島事故の知見と教訓を広く国際社会に共有していくとともに、安全性を高めた資機材や技術の輸出等も通じて世界の安全向上に貢献していくべき方向性を確認する。
  • このような観点から、原発輸出にあたっては、オペレーション・人材育成・安全規制等の基盤制度整備により積極的に関わっていく方策を検討。

9.国民・自治体との信頼関係構築

  • 国民の原子力政策に対する不信や事業者への信頼失墜を真摯に受け止め、
    • ①「結論ありき」でなく、科学的・客観的な情報提供を行っていくこと。
    • ②エネルギー政策の観点から原子力の位置付けについて、国民に説得力のある議論を行っていくこと。
    • ③立地自治体や住民の貢献を踏まえ、全国的な理解を深めること。
  • 限られた国の財源の中で、電源立地地域対策交付金の制度趣旨や現状を認識し、既存の支援措置の見直し等と併せて、必要な対策について検討を進め、将来に向けたバランスの取れた展望を描いていくべき。