第3節 東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し
(1) エネルギー・環境会議
国家戦略担当大臣を議長、経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とする、エネルギー・環境会議が2011年6月7日に設置されました。エネルギー・環境会議では、国民同士の対話が進むよう、国民的議論を更に展開し、エネルギー・環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備、意見聴取会の全国11カ所での開催、討論型世論調査、パブリックコメントの募集等を行いました9。
①国民的議論に関する検証会合
国民的議論から得られる含意を政府が検証するに当たって、世論調査やパブリックコメント等の専門家から意見を伺うための会合を2012年8月に開催しました。
(ア) 参加いただいた専門家
- 稲井田茂 一般社団法人共同通信社編集局総合選挙センター次長
- 宇賀克也 東京大学大学院法学政治学研究科教授
- 小幡純子 上智大学法科大学院教授
- 小林傳司 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授
- 佐藤卓己 京都大学大学院教育学研究科准教授
- 曽根泰教 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
- 田中愛治 早稲田大学理事・政治経済学術院教授
- 松本正生 埼玉大学経済学部教授
(イ) 開催経緯
第1回会合(2012年8月22日)
- 検証の対象とすべき調査結果情報
- 調査結果や情報の整理の仕方
第2回会合(2012年8月27日)
- 支持率の数字の解釈の仕方
- 論点の整理の仕方
第3回会合(2012年8月28日)
- 国民的議論から得られることについての総括
同検証会合の検討結果については、第13回エネルギー・環境会議に国家戦略大臣より報告されました。
②革新的エネルギー・環境戦略
2012年9月14日に開催されたエネルギー・環境会議において、「革新的エネルギー・環境戦略」を決定しました。同戦略は、省エネルギー・再生可能エネルギーといったグリーンエネルギーを最大限に引き上げることを通じて、原発依存度を減らし、化石燃料依存度を抑制することを基本方針とし、これまでの広く多様な国民的議論を踏まえ、①原発に依存しない社会の一日も早い実現、②グリーンエネルギー革命の実現、③エネルギーの安定供給、の三本柱を掲げました。
同月19日には、「今後のエネルギー・環境政策について」として、「今後のエネルギー・環境政策については、「革新的エネルギー・環境戦略」(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定)を踏まえて、関係自治体や国際社会等と責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する。」ことを閣議決定しました。
(2)第3回日本経済再生本部における総理指示等
2012年12月26日に安倍政権が発足し、2013年1月25日に行われた第3回日本経済再生本部(本部長 内閣総理大臣)において、「経済産業大臣は、前政権のエネルギー・環境戦略をゼロベースで見直し、エネルギーの安定供給、エネルギーコスト低減の観点も含め、責任あるエネルギー政策を構築すること。」との総理指示があり、同戦略はゼロベースの見直しが行われることとなりました。また、安倍内閣総理大臣は2013年1月31日の参議院本会議の答弁においては、「いかなる事態においても国民生活や経済活動に支障がないよう、エネルギー需給の安定に万全を期します。前政権が掲げた2030年代に原発稼働ゼロを可能とするという方針は、具体的な根拠を伴わないものであり、これまで国のエネルギー政策に対して協力してきた原発立地自治体、国際社会や産業界、ひいては国民に対して不安や不信を与えました。このため、前政権のエネルギー・環境戦略についてはゼロベースで見直し、エネルギーの安定供給、エネルギーコスト低減の観点も含め、責任あるエネルギー政策を構築してまいります。その際、できる限り原発依存度を低減させていくという方向で検討してまいります。原発の再稼働については、科学的安全基準の下で判断していくこととし、3年程度で既存原発の行く末を見極めながら、10年以内に新しい安定したエネルギーミックスに移行させていきます。原発の新設については、今後の我が国のエネルギーをめぐる情勢などを踏まえて、結果の数字ありきではなく、ある程度の時間を掛けて腰を据えて検討してまいります。」との考えを、2013年2月28日の第183回通常国会における安倍総理施政方針演説においては、「長引くデフレからの早期脱却に加え、エネルギーの安定供給とエネルギーコストの低減に向けて、責任あるエネルギー政策を構築してまいります。東京電力福島第一原発事故の反省に立ち、原子力規制委員会の下で、妥協することなく安全性を高める新たな安全文化を創り上げます。その上で、安全が確認された原発は再稼働します。省エネルギーと再生可能エネルギーの最大限の導入を進め、できる限り原発依存度を低減させていきます。同時に、電力システムの抜本的な改革にも着手します。」との考えを明らかにしています。
(3) 産業競争力会議におけるエネルギー政策の議論
2013年2月18日に開催された第2回産業競争力会議において、上記の総理指示(2013年1月25日)を踏まえ、茂木経済産業大臣より、『「多様な供給体制とスマートな消費行動を持つエネルギー最先進国」へのアクションプラン』の説明が行われ、エネルギーコスト削減対策についての議論が行われました。
アクションプランでは、
①東日本大震災や、新興国の台頭を中心とするエネルギー需要の増大など激変する世界情勢の中、我が国は新たなエネルギー制約に直面。エネルギー源の多角化、低廉な「生産(調達)」と、最適かつ効率的なエネルギーの「流通」、スマートな「消費」により、「多様な供給体制とスマートな消費行動を持つエネルギー最先進国」を目指す。
②新たなエネルギー政策の確立へ向け、生産、流通、消費各面において、エネルギー制約の克服とコスト低減への取組に直ちに着手する。
ことが説明されています。
茂木経済産業大臣からは、「エネルギーは活発な産業活動や豊かな国民生活の生命線である。今申し上げた基本的な方向性と、総合資源エネルギー調査会での検討を踏まえ、この危機にしっかり対応していきたい。」旨が表明されました。
また、エネルギー制約の克服に取り組む過程で生まれてくる国際的な強みを有する技術・事業については、それを育て、我が国の成長につなげていく視点が重要です。3月29日に開催された第5回産業競争力会議において、茂木経済産業大臣から高効率火力発電、蓄電池(車載用蓄電池分野では、燃料電池自動車の市場投入に向けた水素ステーションの先行整備10等)エネルギーマネジメントシステム、次世代デバイス(パワーエレクトロニクス等)の4つの具体例を含む「エネルギー分野の『戦略市場創造プラン』」の提案が行われました。
(4) エネルギー基本計画の検討
エネルギー基本計画は、エネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法第十二条に基づき、エネルギーの需給に関する基本的な方針や講ずべき施策等を内容とする政府が策定する計画であり、関係行政機関の長の意見を聴くとともに、総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて、経済産業大臣が案を作成し、閣議で決定することとなっています。
直近のエネルギー基本計画は2010年6月に策定されましたが、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、新たな計画を策定すべく、2011年10月に総合資源エネルギー調査会総合部会に基本問題委員会が設置され、2012年8月以降の3回を含め計33回開催されました。
その後、前述の総理指示(2013年1月25日)も踏まえ、エネルギーの安定供給、エネルギーコスト低減の観点も含め、責任あるエネルギー政策を構築するため、エネルギー基本計画の検討の場を格上げし、基本問題委員会の親部会である、総合部会で行うこととなりました。
総合資源エネルギー調査会総合部会(部会長 三村新日鐵住金(株)取締役相談役)は、2013年3月15日に第1回部会が開催されました。エネルギー政策を巡る最近の動きとして、第3回日本経済再生本部における安倍総理指示(前述)、第183回通常国会における安倍総理施政方針演説(前述)などが示されました。また、エネルギー政策の変遷と最近のエネルギー情勢、主な論点等について議論が行われました。今後、同部会では、年内をめどに15人の委員がエネルギー基本計画についての議論・とりまとめを行っていくこととしています。
【第123-1-1】 「多様な供給体制とスマートな消費行動を持つエネルギー最先進国」へのアクションプラン
【第123-1-2】 エネルギー分野の「戦略市場創造プラン」
【第123-1-3】 我が国のエネルギー情勢
- (出典)
- 総合資源エネルギー調査会総合部会 第1回会合 参考資料
(別表)【第123-1-4】基本問題委員会
各開催回の議題と概要(第31回~第33回)
開催回 | 日時 | 議題 | 概要 |
---|---|---|---|
第31回 | 8月23日 | 東京電力福島原子力発電所事故に関する調査・検証結果について エネルギーに関する今後の重点施策(案)について 等 |
①東京電力福島原子力発電所事故に関する調査・検証結果について議論11 エネルギーに関する今後の重点施策について議論 |
第32回 | 9月18日 | 革新的エネルギー・環境戦略の報告等 | エネルギー・環境会議において決定された「革新的エネルギ-・環境戦略」について報告及び質疑等 |
第33回 | 11月14日 | 革新的エネルギー・環境戦略の進め方について(10月19日エネルギー・環境会議決定)の報告等 | ①革新的エネルギー・環境戦略の進め方、グリーン政策大綱の検討状況、原子力委員会の見直しの状況、原子力政策の課題、省エネ・再エネの取組、電力システム改革専門委員会について報告及び質疑等 ②冬の電力需給対策等について報告 |
(別表)【第123-1-5】 総合資源エネルギー調査会
総合部会 第1回会合 議題と概要
(別表)【第123-1-6】総合資源エネルギー調査会
総合部会 委員一覧(2013年3月15日現在)
- 9
- 2012年7月までのエネルギー・環境会議、情報提供データベースの整備、意見聴取会、討論型世論調査、パブリックコメントの募集等については、平成23年度エネルギーに関する年次報告に記載されています。
- 10
- 第3部第6章第2節2.(1) 参照
- 11
- 〈ヒアリング対象〉東京電力東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)(小川事務局長)、福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)(北澤委員長)