第3節 今後の我が国のエネルギー政策構築に向けての視座

1.過去の事例から観察される課題

これまで、複雑なエネルギーチェーンに潜む様々な課題と対応について、生産(調達)、流通、消費、技術開発の各段階ごとに各事例を述べてきました。過去の一つ一つの事象は様々な要因が複雑に絡み合い、単純化することは簡単ではありません。しかし、どのような事象であれ、それぞれに潜む課題が顕在化すれば、安定かつ低廉なエネルギー供給が滞る可能性は否定できません。これまでに見てきた事例から、我が国はどのような事を学び今後のエネルギー政策構築に活かしていくべきでしょうか。ここでは、これまでの事例を大きく5つに要約し、その意味合いを考えます。

(1)生産施設の事故・自然災害

スリーマイル原発事故、チェルノブイリ原発事故、東京電力福島第一原子力発電所事故等の原子力発電所事故は、周辺住民等をはじめとして、深刻な影響を与えました。また、メキシコ湾原油流出事故の様に、石油掘削施設での大規模な事故も巨大な影響を及ぼします。加えて、エネルギー生産施設へのテロ攻撃も増加しています。さらに、大規模な自然災害が発生した場合には、大きな影響が出ることは避けられません。エネルギー生産施設の災害は、需要国を含めて多大な影響を与えうる要素として捉える必要があります。

(2)供給国の政策変更による輸出削減

供給国が自国の資源輸出の方針を変更する際、石油危機のように、いわゆる「武器としての石油」として意図的に削減されることがあります。また、生産国の経済成長により、産出されたエネルギーを国内消費に優先するため、輸出が削減されることもあります。これらいずれにおいても、資源輸入国においては、その調達が困難になることに変わりはありません。

(3)輸送ルートの封鎖

海上輸送では資源や物品の輸送上、どうしても通過せざるを得ない「海峡」「運河」などの要衝(チョークポイント)が、管理国に政治的に利用されたり、戦争、事故・災害などで通過困難になれば、世界の物流が遅滞して必要なエネルギー資源の供給が滞るなどの多大な悪影響が生じます。古くは、数度にわたるスエズ運河の封鎖がありました。現在は、ペルシャ湾岸のホルムズ海峡等に視線を向ける必要があります。

(4)流通システム・制度等の不備

世界各国では、大規模な停電がたびたび発生しています。その原因は様々ですが、例えば、北米の例にあるような「樹木の管理不備」を発端に、送電網の管理や運用の不備が重なり大停電が発生し、数千万人に影響が及ぶものもあります。また、我が国においても東日本大震災は、電力・都市ガス・石油・LPガスの各分野において、我が国のエネルギー供給インフラの課題も浮き彫りにしました。このように、流通システムや制度等の不備は、エネルギーチェーンの中で解決すべき大きな課題となっています。

(5)エネルギー価格の高騰・地球環境への影響 

燃料価格は、エネルギーマーケットの乱高下や、エネルギー価格の決定方式により、高騰する場合があります。エネルギー価格の高騰は国民生活、産業活動に直接多大な負担となり経済に悪影響をもたらします。このように、供給自体が支障なく行われ、エネルギーチェーンが繋がっていたとしても、経済的な使用ができなければ、エネルギーは国民生活・産業活動を縛る鎖となり得ます。加えて、たとえ低廉なエネルギー源が大量に存在していたとしても、硫黄酸化物等の大気汚染や、温室効果ガスによる地球環境への影響に充分注意してエネルギーを使用すべきであることは言うまでもありません。

2.課題への対応の方向性

これまで見てきたように、多種多様な課題に対して、各国は多大な努力を重て対応を講じてきました。各国によってその詳細な施策は様々ですが、大きな対応性の方向性としては、以下の5つに整理できると考えられます。

(1)エネルギー源の多様化

「卵を一つのバスケットに入れるな」との外国のことわざがあります。単一の何かに偏ること無く、バランスを図ることで、予見できない様々なリスクに柔軟に対応しつつ、一定のリターンが期待できることを例えていると言えるでしょう。エネルギーチェーンには、生産施設の事故、自然災害、生産国の政策変更による輸出削減、輸送ルートの封鎖、エネルギー価格の高騰等の可能性が内在しています。エネルギーという「全てが割れては困る卵」については、選択肢を増やしてエネルギー源を多様化することは、重要な方策の一つです。

(2)調達先の多角化

エネルギー源の多様化と同様に、調達先を多角化することも、資源の安定かつ安価な供給のために重要な取組です。交通の要衝(チョークポイント)の様に、地理的要因等により避けられない課題に対応するためにも、また、価格交渉力を確保するためにも、調達先の多角化は必要不可欠です。

(3)セーフティーネットの構築

多様化・多角化を図り、いわば「卵を複数のバスケットに入れた」としても、ひとたび課題が顕在化すれば、「いくつかの卵が割れる」事は避けられません。備蓄や、国際的な協力体制など、最後の砦としてのセーフティーネットの構築を行っておくことは、何か問題が発生した場合に備えて冗長性をもって対応するために欠かせないポイントと言えるでしょう。

(4)安全性・安定性の確保

原子力発電所を含め、それまで安全と思っていた施設についても事故は起こり得ます。また、設計時は安定性が保たれていると考えていた様々なシステムや制度にも綻びが生じ、「想定外の課題」が現れ得ることを示しています。安全性・安定性を不断に追求し続けることは重要であり、また、こうした取り組み無くしては、安心できるエネルギーチェーンの構築も成り立ちません。

(5)長期間の継続的な技術開発

エネルギーチェーンの各段階で生じた様々な課題を乗り越えるために、技術開発は時代に応じて様々な解決策を提供してきました。しかし、エネルギー関係の技術開発は一朝一夕に成し得るものではなく、地道な研究開発が、時には数十年後になってはじめて結実することも珍しくありません。エネルギー関連技術は数多くの要素技術を組み合わせて複雑なシステムを構成しているものが多く、他の分野の技術と比べてより投資回収期間が長いという特徴を持つと言うこともできます。それだけに、実用化に至るエネルギー技術の開発には、長期間にわたって継続的に取り組んでいくことが重要です。

以上見てきたとおり、過去の事例から観察される課題と対応の方向性は、図表で示すならば、【第113-2-1】の様に示すことができます。

これまで述べてきた様に、エネルギーを取り巻く様々な要素は、複雑に絡み合っており、どれか一部分をもって全てを解決することは困難です。上記で述べた対応の方向性のいずれについても、きめ細かく対応していくことが、責任あるエネルギー政策を構築するにあたって必要不可欠と言えるでしょう。

【第113-2-1】 過去の事例から観察される課題と対応の方向性

【第113-2-1】 過去の事例から観察される課題と対応の方向性