第1節 世界のエネルギー情勢

1.世界のエネルギー消費動向

(1) 世界の経済成長とエネルギー消費の関係

世界経済の成長とエネルギー消費の上昇との関係は、過去を振り返ると相関関係が見られます。例えば、1979年の第2次石油危機や1997年のアジア通貨危機など、大きな景気後退が発生した際には、エネルギー消費の伸びも鈍化しました。逆に2000年代初頭以降、中国をはじめとした新興国を中心に世界の経済が大きく成長した時期は、エネルギー消費も増加しました。これは、経済の成長は工業生産の増加や所得の高まりによりもたらされ、通常、経済成長による生産活動の活発化や生活水準の向上には、より多くのエネルギー消費を伴うためと考えられます(第121-1-1)。

【第121-1-1】世界のGDPとエネルギー消費の推移

【第121-1-1】世界のGDPとエネルギー消費の推移

(出所)
World Bank, World Development Indicators

(2) エネルギー消費における新興諸国の位置付けの変化

2008年に発生したいわゆる「リーマン・ショック」を契機とした世界的な景気後退からの回復局面を見てみると、新興国のなかでも、中国、インド、ブラジル、ロシア(いわゆるBRIC’s)の経済成長が目覚しく、新興国が経済成長の原動力となっています。

【第121-1-2】地域別経済成長率(名目GDP成長率)

【第121-1-2】地域別経済成長率(名目GDP成長率)

(出所)
IMF, World Economic Outlook, April 2011

【第121-1-3】世界のGDPシェア

【第121-1-3】世界のGDPシェア

(出所)
IMF, World Economic Outlook, April 2011

さて、国際エネルギー機関(IEA)が、2030年のエネルギー消費量の予測を発表しています。

IEAによれば、2008年時点では米国が世界一のエネルギー消費国ですが、2030年には、中国が世界のエネルギー消費の4分の1程度を占め、世界一になります。また、日本、米国、EUの世界全体に占める比率は、2008年の37%から2030年の28%に9ポイント低下すると見込んでいます(第121-1-4)。

【第121-1-4】世界のエネルギー消費量

【第121-1-4】世界のエネルギー消費量

(出所)
IEA, World Energy Outlook 2010

このように、これまでの日本、米国、EUにあった比率が次第に、新興国に移っていくと考えられています。このことは、世界のエネルギー問題を考える上で新興国の動きが一層重要となり、逆に、日本、米国、EUの影響力が弱くなる可能性を示唆しています。

(3) エネルギー市場における新興国の存在感の高まり

ここでは、世界のエネルギー市場における新興国の存在感の高まりと、先進国、特に日本の位置付けの変化をエネルギー別にみてみます。

石油については、20年前(1985年)と比較して世界の輸入量はおよそ倍増していますが、日本の輸入量は概ね同程度です。このため、日本の世界における石油輸入のシェアは大きく減少しました(第121-1-5)。IEAは、今後、中国やインドなど新興国の輸入量が増加し、世界の貿易量はさらに拡大する一方、日本の石油需要は次第に減少し、2020年には日本のシェアがさらに低下すると見通しています。

【第121-1-5】世界の石油輸入量の国別比率

【第121-1-5】世界の石油輸入量の国別比率

(出所)
BP, STATISTICAL REVIEW OF WORLD ENERGY

LNGは、この傾向がさらに顕著です。日本は、1985年当時世界の輸入量の4分の3を占めていましたが、欧州の輸入依存度の高まりや、LNGを利用する国が増えたことによって、現在、日本のシェアは約4割になっています(第121-1-6)。IEAによれば、今後、日本のLNG輸入量は増加する見通しですが、他国の輸入量拡大がそれを上回るため、日本のシェアは低下すると考えられています。

【第121-1-6】世界のLNG輸入量の国別比率

【第121-1-6】世界のLNG輸入量の国別比率

(出所)
BP, STATISTICAL REVIEW OF WORLD ENERGY

石炭についても、これまで日本がおよそ3割のシェアを占めてきましたが、IEAによれば、今後はインド・中国の輸入が急増することにより、日本のシェアは減少すると考えられています(第121-1-7)。

【第121-1-7】世界の石炭貿易1の国別比率

【第121-1-7】世界の石炭貿易

(出所)
IEA, Coal Information

2.エネルギー資源を巡る環境の変化

(1) 強まる資源の国家管理

1960年にOPECが結成された前後から台頭し始めた資源ナショナリズムは、資源の国有化を目指したものでしたが、2000年代に入ると資源保有国のみならず、需要国も資源確保に積極的に取り組み、資源獲得競争が激化しています。

中東、アフリカ、中南米などでは、自国の石油・天然ガス資源から得られる利益を最大限に確保するために国営石油会社が存在しています。これらの国営石油会社の多くは、OPEC結成前の資源ナショナリズムの高揚とともに設立されたものです。他方、今世紀に入ると消費国においても国営石油会社の存在と影響力が大きくなってきています。中国等の国営石油会社は、自国の資源外交路線をもとに国家と一体になり資源確保に積極的な取組を行なっています(第121-2-1)。

【第121-2-1】新興諸国等による石油・天然ガス資源獲得の例

2010年3月 中国 Petro ChinaがShellと共同で豪州Arrow Energyを39億ドルで買収
2010年4月 中国 SinopecがConocoPhillipsのカナダ・オイルサンドを47億ドルで買収
2010年8月 韓国 KNOCが英・Dana Petroleumを37億ドルで買収
2010年10月 中国 SinopecがRepsolの中南米資産を43億ドルで買収
2010年11月 中国 ShinopecがBridas Energyと共同でBPの中南米資産を71億ドルで買収

例えば中国では、大慶・遼河・勝利の三大油田からの原油生産量が伸び悩む中、1990年代半ばから、不足するエネルギー資源を得るため国を挙げた資源獲得政策を取っており、中国石油天然気集団公司(CNPC)、中国石油加工集団(Sinopec)および中国海洋石油総公司(CNOOC)といった国有石油会社は、イラク、エクアドルの資源開発の他、イラン、スーダン、リビア、また近年ではアンゴラへの開発投資を行ない、世界中の資源埋蔵地域に進出しています。

このような動きにより、国際石油メジャーはOPEC結成以前には石油埋蔵量の大半を保有していましたが、今日では4%程度となり、代わって各国の国営石油会社が保有する比率が80%近くに達する状況に変化しています。

【第121-2-2】石油・天然ガス資源の所有者

【第121-2-2】石油・天然ガス資源の所有者

(出所)
Petroleum Intelligence Weekly

(2) 中東・北アフリカ地域のリスクの把握とその対応

原油の確認埋蔵量は、2010年末時点で約1兆3,800億バレルと推定されています(第121-2-3)。このうち77%をOPEC加盟国で占めており、石油資源は中東や北アフリカに偏在していることが分かります。

【第121-2-3】原油の国別確認埋蔵量

【第121-2-3】原油の国別確認埋蔵量

(出所)
BP, Statistical review of world energy 2011

このように、原油の一大産地である中東・北アフリカ地域では、2010年末から民主化運動が活発になっています。この発端は北アフリカのチュニジアにおいて同国の青年が当局への抗議のために焼身自殺を図ったことに始まります。この事件は、失業問題等不満を持つ若者を中心として、各地でストライキやデモを起こすきっかけとなり、近隣国へ影響を与えました。

これらの民主化運動は、チュニジア・エジプトのような現政権打倒に至ったものから、サウジアラビア、バーレーン、オマーンなどのようにひとまず沈静化したものまで様々ですが、中東・北アフリカの国々の中には多くの原油埋蔵量を有する国があり、原油供給の停止という重大なリスクが存在していることを世界に再認識させました。世界第8位の原油埋蔵量を有するリビアでは内戦に発展し、同国から欧州向けの原油輸出が停止し、ブレント原油の価格上昇を招いたのみならず、WTI原油やドバイ原油も価格上昇しました。このように、原油が多く賦存するものの政治、経済的に不安定な中東・北アフリカ地域に、原油輸入の90%前後を依存している日本にとっては、同地域の情勢を把握し、必要な対応を図ることが重要となります。

(3) 資源開発の高難易度・高コスト化

科学技術の進歩は資源の新たな確認埋蔵量を増加させます。しかし、年々増加する世界のエネルギー需要に対応するためには、これまでの中東・北アフリカ地域を中心とする技術的・経済的に開発しやすい資源だけではなく、例えば、北極海域の鉱区やブラジル沖の深海鉱区など技術やコストの面で開発難易度の高い地域での資源開発などが必要になっています。このため、従来型の生産と比較すると高コスト化することが見込まれています。

気象条件の厳しい海洋鉱区における典型的な実例を、幾つか挙げてみたいと思います。

近年、北極海の海洋鉱区が注目を集めていますが、ロシアは、気象条件の厳しい海洋鉱区や、水深の深い海洋鉱区での海洋掘削技術を十分に有していないため、北極圏バレンツ海シュトックマン海洋鉱区開発構想のように、ロシア領海における北極海の海洋鉱区探鉱・開発では、国際石油メジャーとの共同開発が必要となることがあります。この構想においては、当初、ロシア政府は外資参入を拒否しましたが、フランス等の企業2社が第一段階の開発構想に加わることになりました。

【第121-2-4】反政府デモの発生国(2011年3月時点)

【第121-2-4】反政府デモの発生国(2011年3月時点)

COLUMN

国際石油メジャーの探鉱・開発

探鉱・開発・生産が比較的容易な鉱区における新たな生産は少なくなりつつある中、近年、国際石油メジャーの探鉱・開発は、①気象条件の厳しい海洋鉱区(例:北極海など) ②水深の深い海洋鉱区(例:メキシコ湾、東南アジア海洋鉱区、アフリカ沖など)に移行しつつあります。

このような地域に於ける原油・天然ガス探鉱・開発技術は国際石油メジャーが主に保有しています。また、莫大な資金を必要とするため、当該地域・国における今後の探鉱・開発には、石油メジャーの参画が増えることが予想されます。

【第100-C-9】主要国際石油メジャーの2008年-2009年新規鉱区取得

【第100-C-9】主要国際石油メジャーの2008年-2009年新規鉱区取得

(出所)
JOGMEC

3.主要エネルギー価格等の動向

前項では、今後、エネルギー需要の増加と資源獲得の高難易度・高コスト化が見込まれることを検討しました。本項では、このような状況下に主要エネルギーが置かれていることを踏まえ、主要エネルギーの価格動向等について検討します。

(1) 原油価格動向

原油価格について過去を振り返ると、1973年の第一次石油危機の際には3ドル/バレルから11.65ドル/バレルに、1978年からの第二次石油危機の際には12.7ドル/バレルから34ドル/バレルに、そして1990年の湾岸危機の際には13.7ドル/バレルから30ドル/バレルに高騰しました。その後、1998年のアジア通貨危機の際には一時10ドル/バレルまで下落しましたが、概ね20ドル/バレル近辺で推移していました。

2000年代に入ると、2001年9月の米国における同時多発テロの発生による景気減速を懸念した価格下落、2003年のイラク戦争勃発による一時的下落はありましたが、新興諸国の需要増加を背景に、2008年のリーマン・ショックまでは原油価格は概ね上昇の一途を辿りました(第121-3-1)。

【第121-3-1】原油価格の推移(WTI原油)

【第121-3-1】原油価格の推移(WTI原油)

(出所)
米国エネルギー省、“Monthly Energy Review”

また、2000年頃には、NYMEX(ニューヨークマーカンタイル取引所)の原油先物取引のうち2~5割が、実際の石油産業に携わっていない者(非当業者)が投資・投機目的で行っており、原油先物取引高は実際の石油需要の2倍にまで達していると見られ、原油価格の短期的な変動に大きな影響を与えていたと言われています。しかし、この時点では、先物価格の振幅は現物価格より大きな幅になることもありましたが、原油価格の変動は、基本的には需給要因や地政学的リスク要因によって生じていたと考えられます。

その後、年金基金をはじめとする新たな資金が先物市場に流入するようになり、原油が一次エネルギーとしてだけでなく、金融商品としての存在感を強めてきているとの指摘もあります。例えば、サブプライムローンの破綻は、世界各国の投資家からの資金引き揚げを促し、原油価格の先高観からこれらの資金が原油先物市場へと流れ込んだと言われております。2008年7月12日には、WTI原油の価格が147ドル/バレルを突破しました。

その後、2008年9月に米国の投資銀行であるリーマンブラザーズの破綻を受け、世界的な金融危機が始まり、原油価格は暴落し2009年2月には40ドル/バレルを割り込みました。

このように原油価格の変動要因には、需給要因、地政学的リスク要因、さらには金融面の要因も加わり、価格がより変動しやすい状況となっています。

【第121-3-2】ニューヨーク原油先物市場出来高推移

【第121-3-2】ニューヨーク原油先物市場出来高推移

(出所)
CME・NYMEXホームページより作成

(2) 石炭価格動向

石炭は、発電用や産業用などの燃料(一般炭)として、また、製鉄用の還元剤(原料炭)として利用されています。燃料としての石炭は、石油などの他の資源と比較して安価であることや、資源量が比較的多いことから、中国やインドなどの新興国で発電用を中心とした需要が急速に増えており、アジアを中心として需要が堅調です。中国は世界第一位の、インドは同三位の石炭生産国でありますが、インドでは国内生産が需要の拡大に追いつかない状況となっており、また、中国では、国内産の石炭価格が国際的に取引される海外炭より高値で推移していることから、輸入量が増加する状況となっています。IEAは、今後、これらの国において、さらに海外炭の輸入量が増加していくと予想しています。

輸出量が最も多い国は、オーストラリアです。同国は石炭が豊富に賦存する一方、国内の需要はそれほど大きくなく、日本や韓国等への輸出などをはじめ、生産量の約7割を輸出しています。インドネシアも同様に石炭を輸出していますが、近年は国内の電力需要の伸びが著しく、発電用の石炭利用が増やされる計画となっています。

欧州でも石炭を多く利用していますが、その供給はロシアなどから陸路で、あるいは南アフリカやコロンビアなどから海路で輸入するルートが主なものです。

石炭生産国には多くの石炭生産企業があり、なかには生産量の大きな企業も存在しますが、多くの企業は国内販売を中心としていることから輸出量は大きくなく、国際取引における位置付けは、その生産規模に相関するとは限りません。国際取引において存在感が高いのは、輸出販売を中心としている主に英豪系の資源メジャー企業です。例えば世界の輸出量の3割弱を占める、世界最大の石炭輸出国であるオーストラリアでは、同国におけるこれらメジャー企業が主体となって操業する全炭坑の生産量が約70%にもなっており、世界の石炭価格の交渉に大きな影響力を持っていると言われています。石炭供給をオーストラリアなどからの輸入に依存する日本にとっては、こうしたメジャーの動向が注目されます。

石炭の売買契約については「長期契約」と「スポット契約」の2種類に大別できます。日本企業が締結する一般炭の契約は大半が長期契約で、一部がスポット契約となっています。石炭については、石油等の市場価格が参照される取引とは異なり、売主と買主が個別に価格交渉を行い、相対契約を締結することが一般的です。

長期契約は、4月から翌年3月までの1年間を固定価格で契約することが一般的ですが、近年は石炭価格の変動リスクを分散させるため、契約の開始時期を分散させる「期ズレ契約」や、固定価格ではなく調査会社が公表する一般炭価格指標(Global Coal NEWC Indexなど)と連動した価格で契約を行う例もあります。

一般炭のFOB(本船渡し)価格は、1990年代から2000年代初頭にかけてトン当たり20ドル台後半から40ドル台前半で安定的に推移していましたが、経済成長に伴って中国をはじめとするアジアの石炭需要が増加したことや、世界的な原油価格高騰等の影響を受け、その後、石炭価格は上昇傾向に転じました。2008年には豪州の炭鉱が豪雨により冠水し、石炭輸出が一時的に停止するなど需給が逼迫し、2008年7月に一般炭としては過去最高値であるトン当たり190ドルを記録しました。2008年の秋以降は世界経済の減速により石炭価格も下落しましたが、アジアを中心とする石炭需要が堅調であること、前述の資源メジャーによる寡占化等の要因で、以前と比較すれば高めの価格水準で推移しています(第121-3-4)。

【第121-3-3】豪州の石炭生産に占める石炭メジャー4社の生産量割合

【第121-3-3】豪州の石炭生産に占める石炭メジャー4社の生産量割合

(出所)
各種情報より日本エネルギー経済研究所作成

【第121-3-4】日本の輸入炭FOB価格(一般炭指標価格)推移

【第121-3-4】日本の輸入炭FOB価格(一般炭指標価格)推移

(注)
1997年度迄がベンチマーク価格、1998年-2002年度は参考価格、2003年度以降は電力会社契約更新価格
(出所)
2005年度まではBarlow Jonker "Coal 2005"、2006年度以降各種情報より日本エネルギー経済研究所作成

(3) LNG価格動向

天然ガスは、地域内で需給がバランスしていたことや、パイプラインが輸送手段の主流であることから、世界規模での取引は石油ほど活発には行なわれていませんでした。このため、世界の天然ガス市場は大きく北米地域、欧州地域、アジア地域の3つに別れており、それぞれ価格の形成に特徴があります(第121-3-5)。

【第121-3-5】地域別 LNG CIF推移

【第121-3-5】地域別 LNG CIF推移

(出所)
IEA, Energy Prices & Taxes, IEEJ, EDMCデータバンク

アメリカに代表される北米地域は、石油と同様、取引市場での先物取引の価格が指標となって天然ガスの価格が決まる点が特徴です。また、広大な地域にパイプライン網が縦横に張り巡らされ天然ガスの取引地点が各所に存在し指標価格が地域毎に多数存在する点も特徴です。シェールガス(後述)に代表される非在来型天然ガスの生産増加によって天然ガスの需給が緩和し、代表的な指標価格(Henry Hub価格)は欧州やアジア地域より低い水準になっています。

欧州地域は、英国とそれ以外の大陸欧州で価格の形成方法が異なります。英国はアメリカと同様に取引市場での先物取引の価格が天然ガス価格の代表的な指標(NBP《National Balancing Point》価格)となっています。他方、大陸欧州では、重油や灯油など石油製品に連動した値決めが主流です。ここ数年の原油価格高騰は天然ガス価格の値上げを招いていますが、アメリカや英国に類似した天然ガスの取引市場が次第に形成されつつあり、そこでの取引価格が比較的安価であることや、スポット取引等の柔軟な取引が可能であることから、取引量が拡大しています。

アジア地域は北米・欧州地域と異なり、天然ガス取引はLNGによる取引が大部分を占め、その価格は原油価格に連動して決められています。原油価格の上昇によってLNGの価格も値上がりしており、長期契約により従来からの原油価格連動にてLNGの輸入を継続している日本は、欧米との比較では価格が高くなっています。

4.資源開発の新たな動き

(1) LNGを巡る状況

世界のLNG需要の中心は、長年に亘り天然ガス供給のほぼ全量を輸入に依存する日本・韓国・台湾の3カ国・地域が中心でしたが、近年、その状況に変化が見られるようになりました。

米国では後述する、所謂『シェールガス革命』により、天然ガスの国内供給が増加していますが、その他の世界各地ではLNGの需要が増加しています。アジア地域では、中国やインドなど国内エネルギー需要の急増に直面する国々が、エネルギー供給源の多様化やエネルギー利用のクリーン化といった観点から、天然ガス利用を拡大しています。増加する天然ガス需要を国内生産で充足することができないこれらの国は、LNG輸入を増加させています。

また、欧州では、北海ガス田の生産量減少に悩む英国、天然ガス供給の対ロシア依存度低減を目指すフランスやイタリア、東欧諸国など多くの国々では、LNG輸入量の拡大や新規輸入を目指した計画を進めています。

中東地域は、UAEやオマーンなど、発電用天然ガス需要の急増に生産が追いつかない国々では、電力需要のピーク時にはLNGを輸入するようになっています。

一方、カタールでは年産7,700万トンの大型液化設備が完成するなど、現在の需要量に対しては十分な供給量が存在します。アジア太平洋市場では、多くの新規LNGプロジェクトが進められています。例えばオーストラリアでは生産能力が計3,000万トンを越えるプロジェクトが計画されています。特徴的なのは、非在来型の天然ガスであるCBM2(コールベットメタン)を供給源としたLNG計画が複数含まれていることです。一部の案件については今年中に投資決定が行なわれ、新たなLNG供給源となることが期待されています。オーストラリアの他にも、インドネシアやパプアニューギニアでも、新たな計画が動いています。

米国やカナダでは、地域内の天然ガス需給緩和を背景に、LNG需要の旺盛なアジアや欧州向けの輸出計画が立案されており、LNGの物流に変化が生じる可能性があります。

ロシアは、米国と並ぶ天然ガスの大生産国です。ロシアは従来、欧州向けにパイプラインを用いて天然ガスを輸出していますが、しばしば、パイプラインの通過国と紛争が生じています。このため、LNGを含む天然ガス輸出の選択肢多様化を現在検討しています。また、ロシアは、欧州の天然ガス需要が伸び悩んでいることからも、LNG輸出による新規販路の拡大を目指しています。

(2) シェールガス開発動向と今後の課題

シェールガスとは、頁岩(けつがん)3の中に含まれる天然ガスを指します。頁岩層に高圧の水を注入することで岩に亀裂を入れ、含まれている天然ガスが流れるための隙間を作り生産を行います(第121-4-1)。頁岩中に天然ガスが存在することは以前から知られていましたが、従来の技術では掘削と生産に要するコストの高いことが開発の障害になっていました。水平方向に広がる頁岩層に沿って掘削する水平坑井技術と、地中で頁岩に亀裂を入れる水圧破砕技術の発達が生産コストを低下させ、北米において商業化が可能となりました。

【第121-4-1】シェールガスの生産イメージ

【第121-4-1】シェールガスの生産イメージ

(出所)
Canadian Society for Unconventional Gas

現在、シェールガスの商業生産を行っているのは米国とカナダのみであり、特に米国での生産量増加が顕著です。2009年には、シェールガスは米国の天然ガス生産量の約16%を占めるまでになり、EIA等によれば、今後も着実に増加することが見込まれています(第121-4-2)。

【第121-4-2】米国の天然ガス生産推移・見通し(種類別)

【第121-4-2】米国の天然ガス生産推移・見通し(種類別)

(出所)
EIA, Annual Energy Outlook 2011

こうしたシェールガスの増産は、米国のエネルギー市場に、需給の緩和による今後のLNG輸入見通し量の減少と、天然ガス価格の低下という変化をもたらしました。以前、米国は国内での天然ガス生産量の減少によって、将来LNGの大輸入国になると見られていましたが、シェールガスの増産により様相は一変し、LNG輸入見通しは下方修正されました(第121-4-3)。

【第121-4-3】米国のLNG輸入見通し

【第121-4-3】米国のLNG輸入見通し

(出所)
EIA, Annual Energy Outlook 2010

また、このような米国での成功を受け、世界各地でシェールガスの探鉱、開発に向けた動きが活発になっています。中国と米国は、シェールガスの共同研究等を行う旨の「シェールガス・イニシアティブ」発表し、意見交換や実務協力を進めることとしています。

このように開発に向けた取組みが広がっているシェールガスですが、幾つかの理由により、北米以外での生産が本格化するのは早くとも2020年以降との見方があります。例えば欧州では、米国と比較すると土地の利用が密なため、シェールガスに関する地質データが不足していることや、開発に伴う環境汚染に対する懸念が強いことが障害になると言われています。また、例えば中国では、開発技術の習得が必要であることや、割安なガス価格が開発に対する意欲を阻害することが指摘されています(第121-4-4)。

【第121-4-4】シェールガス開発を巡る各国・地域の動向

【第121-4-4】シェールガス開発を巡る各国・地域の動向

なお、ここ数年シェールガス開発で成功を収めてきた米国においても、水圧破砕用の注水が地下水を汚染する可能性が指摘されており、今後の開発においては環境問題が懸念材料と言われています。

COLUMN

メタンハイドレート 技術開発動向

我が国が世界の先端を走る「メタンハイドレート」の商業化の実現に向けた技術開発の動向をご紹介します。

メタンハイドレートは、天然ガスの原料となるメタン分子の周りを水の分子が取り囲んだ氷状の固体結晶です。メタンハイドレートは、海底下の地層の中に低温高圧の状態で存在し、火をつけると燃えることから、「燃える氷」とも呼ばれています。エネルギー資源に乏しい日本において、メタンハイドレートは日本近海の東部南海トラフ海域だけでも約1兆1,400億m3(日本の天然ガス年間消費量の13.5年分相当)の存在が確認されており、国産の次世代資源として開発計画が進められています。

【第100-C-10】日本周辺海域のBSRの分布

【第100-C-10】日本周辺海域のBSRの分布

(出所)
第16回メタンハイドレート開発実施検討会(2009年版)

【第100-C-11】メタンハイドレートの安定領域図

【第100-C-11】メタンハイドレートの安定領域図

(出所)
メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムHP

メタンハイドレートは将来のエネルギー資源と位置付けられ、2000年6月に、経済産業省が「メタンハイドレート開発実施検討会」を開催し、2001年7月にはメタンハイドレートを経済的に掘削、生産回収するための「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」が取りまとめられました。また、2009年3月には「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」が取りまとめられ、2009年度からの第二段階(フェーズ2)以降における基本的な方針及び計画内容が定められました。

【第100-C-12】メタンハイドレート開発計画の概略(フェーズ2以降)

【第100-C-12】メタンハイドレート開発計画の概略(フェーズ2以降)

現在は、2012年度に東部南海トラフ海域において予定している第1回海洋産出試験の実施に向けた準備を進めているところです。

安定的かつ経済的な生産方法を確立するうえでは依然として課題が残されていますが、エネルギー資源に乏しいわが国においては、エネルギー自給率の向上という点からメタンハイドレートに対する期待が高まっています。

1
ここでいう石炭はハードコールを指す
2
コールベッドメタン(Coal Bed Methane)の略称で、石炭層に存在している天然ガスの事を指す。性状は通常の天然ガスと同じ。
3
泥土が積み重なって固まったもので、板状に薄くはがれやすいもの。