序節 「エネルギー安全保障」概念の本質

近年、エネルギーをめぐる諸情勢は劇的に変化しています。2000年代に入り、BRICs等の新興国の顕著な経済発展に伴い世界的にエネルギー需要が急増するとともに需給が多極化し、また、米ソ冷戦の終結後、新たな、そして多様な地政学リスクの存在が指摘されるようになりました。

さらに、自国のエネルギー資源を活用した経済発展を目指す資源国の間では資源ナショナリズムが高揚し、これまで資源開発に重要な役割を果たしてきた資源メジャーといわれる国際エネルギー企業等による資源権益へのアクセスが一層困難なものとなっています。一方で新興経済国を含む消費国の間では、資源争奪競争が激化し、こうしたことを背景として2008年末に一旦下落したエネルギー価格は、再び高い水準で推移しています。

「エネルギー安全保障」は、消費国、生産国、輸送ルートにあたる通過国それぞれにおいて、自国の置かれている地理的条件、地政学的状況、経済発展の度合い等によりその意義、戦略的重要性は異なり、また、時代の変遷に合わせてその意義を変えて来たということもできますが、各国のエネルギー政策において、最重要テーマとして常にその中心に据えられてきたことは大変重要です。

現在の「エネルギー安全保障」概念の意義は、「国民生活、経済・社会活動、国防等に必要な『量』のエネルギーを、受容可能な『価格』で確保できること」と考えられます。

エネルギー安全保障を強化するためには、エネルギー自給率等の改善を図ることによりエネルギー安全保障そのものを向上させるとともに、エネルギー安全保障を脅かしうる「リスク」を低減することを目指していくことが基本となります。

本章では、フランス、ドイツ、英国、アメリカ、中国、日本、韓国の各国を対象に、各国が目指すエネルギー安全保障のかたちとその実現に向けた施策を俯瞰するとともに、エネルギー安全保障を構成する要素をいくつか抽出してそれを定量評価することで、各国がどの要素を維持(または改善)するためにどのような施策を講じたのか、あるいはどのような施策を講じた結果としてどの要素が改善したのかを検証するとともに、我が国としてエネルギー安全保障を強化していくための方向性を探ります。

エネルギー安全保障を脅かしうる主要なリスク

●地政学的リスク

  • 各国(産資源国及び近隣国+輸送経路近隣国)の政治・軍事情勢(戦争、内戦、禁輸等)
  • 国際関係
  • 外交ツールとしての利用(原油禁輸、パイプラインの送ガス停止等)
  • 資源ナショナリズム(接収・国有化、課税引上げ、輸出規制等)
  • 消費国間の資源争奪(資源権益獲得競争、領土紛争等)
  • その他の地政学的リスク

近年、テロ、海賊等のリスクが顕在化

●地質学的リスク

  • 埋蔵量の減少
  • 資源の偏在

●国内供給体制リスク

  • 設備投資減退(設備老朽化)
  • 技術開発停滞

●需給逼迫リスク

●市場価格リスク(需給ファンダメンタルズ+投機プレミアム)

●天災・事故・ストライキ・パンデミック等のリスク