わかりやすい「エネルギー白書2009」の解説

解説1:原油価格乱高下はなぜ起きたか

原油価格は、2004年以降上昇傾向を強め、2008年7月には147ドル/バレルの史上最高値を記録しました。その後は下降に転じ、同年12月には30ドル台、2009年4月末時点では50ドル前後となりました。なぜ原油価格はこれほど大きく変動したのでしょうか。

(2)原油価格形成の要因

原油価格の形成には、足下の需要と供給を反映する需給ファンダメンタルズに加え、将来の供給に対する懸念、金融要因、地政学的リスクなどを反映するプレミアムが大きな影響を及ぼしたと考えられます。

(2)原油価格形成の要因

(3)需給ファンダメンタルズとプレミアムの価格への寄与度分解

今回の白書では前回に続いて、需給ファンダメンタルズとプレミアムの2つの要因が、現在の原油価格に対してそれぞれどの程度寄与していたのかをモデル分析しています。その結果、?ファンダメンタルな価格は2008年第1四半期に既にピークとなっていたこと、?実績値がピークとなった2008年第3四半期(123ドル/バレル)のうち約60ドルがファンダメンタルな価格で、残りの約60ドルがプレミアムであったことが結論として導き出されました。

(4)需給ファンダメンタルズ

それでは、需給ファンダメンタルズの状況を見てみましょう。

世界の石油需要は新興国を中心に増加していましたが、2008年に入ると米国をはじめとするOECD諸国の需要が大幅に減少しました。新興国の需要は金融危機が発生した後、2008年第4四半期から伸びが鈍化しています。

【図 OPECの余剰生産能力の推移】

【図 OPECの余剰生産能力の推移】

【図 OPECの余剰生産能力の推移】(xls/xlsx形式:170KB)

一方、世界の石油生産量は非OPECの生産が伸び悩む中で、OPECへの依存度を高めていきます。その結果、2006年第4四半期から2007年第4四半期までは、OECDのOPECに対する需要をOPECの供給量が下回り、在庫が減少する傾向が続きました。こうした需給状況を反映して、ファンダメンタルな価格は2008年第1四半期まで上昇を続け、それ以降、下落に転じたと考えられます。

(5)プレミアム

次に原油価格が上昇局面にあった時期のプレミアム要因について見ていきます。

2004年以降、市場では将来の需給逼迫への懸念が強まり、原油価格が上昇を続けました。OPECの余剰生産力が低下しているという見方が根強かったこと、新興国を中心に中・長期的に石油需要は拡大していくという予測が大勢を占めていたこと、資源価格高騰に伴って資源ナショナリズムが高揚したこと、さらに資機材価格の高騰等によって油田開発のコストが上昇を続けたことなどがその要因です。

原油価格の上昇に伴い、商品インデックス投資、ヘッジファンドによる投機等が増加し、原油先物市場における取引は急速に拡大しました。特に2007年8月のサブプライムローン問題顕在化以降は、低迷する株式市場、リスクが高まったサブプライム関連証券、利回りが低迷した国債などから商品市場に資金が向かったと見られています。

この時期、原油先物市場の参加者構成に顕著な変化があったと言われています。ただし、市場参加者の取引動向に関する詳しい情報は開示されていないため、どの市場参加者が原油価格高騰に影響を与えたのかについては、様々な見方があります。

【図 ニューヨーク原油先物市場の市場参加の構成(健玉ペース)の推移】

【図 ニューヨーク原油先物市場の市場参加の構成(健玉ペース)の推移】

2008年に入ると、景気減速と原油価格高騰により足下の需要が減退し、短期的には需給が緩和するとの見方が市場の大勢を占めるようになりました。また、原油市場の過熱に対する問題意識が高まり、市場安定化に向けた産油国と消費国の対話が継続的に行われました。こうした状況において、高値を支える材料がなくなり、7月11日に記録した147ドル/バレルをピークに原油価格は下落に転じました。

図 商品のインデックスファンドの残高

(6)原油市場安定化に向けた対応

ここまでは原油価格の乱高下について、その要因を分析してきました。

では、原油価格を安定化させるにはどうすればいいのでしょうか。そのためには、原油価格を形成する2つの要素を考慮する必要があります。つまり、「需給ファンダメンタルズ」を改善するための努力と、原油先物市場の短期的かつ大幅な価格変動を抑制する対策、言い換えれば「プレミアム」を必要以上に増幅させない対策が必要になります。

需給ファンダメンタルズを改善するために

需要側の取組としては、長期的な視点から石油消費を抑制するため、省エネルギー、新エネルギーおよび原子力発電の適切な導入を世界的に促進する必要があります。

供給側の取組としては、将来において石油の供給を確実なものとするため、産油国および石油開発企業が上流事業に投資を行い、着実に生産体制を強化していくことが必要となります。

また、原油価格の乱高下は産油国と消費国の双方にマイナスの影響を及ぼすことから、産油国と消費国が需給に関する共通の認識を持つための対話を促進する必要があります。

原油先物市場における価格変動対策

原油先物市場を、価格操縦や不正取引、需給バランスから乖離した価格変動が生じにくい市場とするためには、原油先物市場をより透明で厚みのあるものとする必要があります。そのための措置としては以下のものが挙げられます。

(ア)取引の透明性を高めるため、世界各国が協調して取引情報に関するデータの開示、消費先物取引の監視態勢の強化、取引内容の開示報告書の改善などの制度を整備する。

(イ)現在、アジアの原油市場は米国や欧州における原油市場の強い影響を受けているが、それぞれの地域における需給バランスをより強く反映した相場決定がなされるために、NYMEX以外の市場の活性化、市場の多極化を図る。

さらに、原油先物市場における過度な価格変動を抑制するためには、以下の措置が必要です。

(ア)各国規制当局が商品先物市場をより適切に監督し、また、当局間の市場監督に関する国際協力を深化させる。

(イ)根拠のない投機行為やパニック行動などを抑制するために石油需給の動向についての正確かつタイムリーな情報を市場に提供する。

(ウ)市場関係者は、将来の石油需要の見通しなどを参照する場合には、発信する側の意図を理解し、多角的に判断する必要がある。