第1部 エネルギーを巡る課題と対応
第2節 エネルギー価格変動による経済への影響

2.日本経済への影響

2004年以降の原油価格の上昇局面では、企業や家庭において省エネや燃料転換、新エネ導入等の対策が進められてきました。

原油価格の下落は、短期的には石油製品の価格低下につながり、産業にとってはコスト低減といったプラスの効果をもたらします。しかし、原油価格が大幅に上昇する価格高騰期が続いた後に急激に下落するという、過去に経験したことのない価格の乱高下に直面したために、一部の産業は高騰した原材料価格を製品価格に転嫁できないといった問題も生じています。

今回の原油価格の下落が長期化すれば、企業や家庭での省エネルギーや新エネルギーの行動に変化が生じる懸念がある一方で、2004年以降の原油価格の高騰を経験した後では、中・長期的な視点に立って引き続きこうした行動をとるという見方もあります。また、金融危機に伴う景気の後退という観点に立てば資金調達の問題から、省エネルギーや新エネルギー等への投資の優先度が低下する可能性があります。ここでは、原油価格の乱高下が日本経済に与えた影響について、各種統計から分析を試みます。


(1)石油製品価格の推移

原油価格の騰落は、ガソリン、軽油、灯油等石油製品の価格の騰落を通じて企業や家計に影響を与えましたが、その影響を分析する前にそれぞれの価格の推移をみていきます。

石油製品価格は、原油等のコストに加えて、競争の激しい市場における石油製品ごとの需給等、市場の実勢を反映して決まります。2008年夏以降の石油製品の店頭小売価格は、第112-2-1のとおり、原油価格の下落に伴い大幅に下落しており、最高値の時期と比較した石油製品価格の下げ幅は原油価格の下げ幅以上となっています(2009年4月20日現在)。

【第112-2-1】 石油製品及び原油の価格推移

(出典)レギュラーガソリン、軽油、灯油(店頭):石油情報センター「給油所石油製品市況調査」

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原油(ドバイ):日本経済新聞社調べ(前日26日~当日25日平均)


(2)経済全般への影響

原油価格の高騰を受けて、日本に到着する原油価格(CIF価格 59 )も上昇しました。日本の原油輸入量と輸入額の推移を見ると、第二次オイルショック以降、省エネルギーや代替エネルギー導入等が進展したことで石油依存度は低下し、輸入総額に占める原油輸入額の割合は15%前後で安定的に推移してきました(第112-2-2)。しかし、原油価格の上昇により輸入額が急増したことで2005年以降は20%超の水準で推移しました。2007年度に輸入総額に占める割合は約23%まで上昇し、2000年度と比較すると約9兆円増加しています。

【第112-2-2】 日本の原油輸入量・CIF価格と総輸入金額に占める石油輸入額割合の推移

(注)総輸入金額に占める石油輸入の割合は、原油だけでなく石油製品が含まれる

(出所)通関統計等より作成

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2008年について月別に見ると、日本へ到着した原油のCIF価格は、8月に9万円/kℓを超えるまで上昇しましたが、その後急落し、輸入額も減少しています(第112-2-3)。月別の原油輸入額は、ピークになった2008年8月の約1.8兆円から2009年2月には約0.5兆円まで減少しています。

【第112-2-3】 日本の原油輸入量・輸入額と原油CIF価格の推移(2008年)

【第112-2-3】 日本の原油輸入量・輸入額と原油CIF価格の推移(2008年)

(出所)日本貿易月表より作成

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支払い増加分をどれだけ輸出価格に転嫁できたかを表す交易条件指数60の変化をみると、2004 年以降は、原油価格の高騰等により輸入物価が上昇する一方で、輸出物価の伸びが抑えられていることで交易条件が急激に悪化しました(第112-2-4)。

【第112-2-4】 日本の輸出入価格と交易条件(2005年基準)

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このような輸入物価の変動について要因を分析すると、特に2007年後半頃からの輸入物価指数 61 の上昇は、石油・石炭・天然ガスの輸入価格上昇が主因となっていることがわかります(第112-2-5)。2008年9月以降は、石油・石炭・天然ガスに加え、金属、食料等の輸入価格が下落したことにより、輸入物価も減少に転じています。

【第112-2-5】 日本の輸入物価指数への寄与度要因分解

出所)日本銀行「企業物価指数」より作成

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2007年までの交易条件を他国と比較すると、日本や韓国では年々交易条件が悪化していますが、アメリカやドイツではそれほどの悪化はみられません(第112-2-6)。アメリカやドイツでも輸入価格は上昇しましたが、輸出価格も同時に上昇したため日本や韓国ほどの交易条件は大きく悪化しませんでした62 。輸出価格への転嫁が進まない理由としては、品目によっては海外市場での価格支配力に差があり、それが企業の現地価格の設定へ影響を与えていることが挙げられます。更に、日本や韓国の企業は、世界市場シェアの維持のため、アジア諸国等からの輸出との間で厳しい価格競争にさらされており、価格の引上げに対して抑制的な姿勢であること等が指摘されています 63

【第112-2-6】 各国の交易条件の変化(2000年基準)

(注)輸出入価格は米ドルベース

(出所)IMF「International Financial Statistics」 2009年1月より作成

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【コラム】我が国から産油国への直接投資

原油価格の高騰によって産油国の貿易黒字は拡大し、消費国からの所得移転が進みました。その結果、産油国では高水準の経済成長が維持され、油ガス田開発や国内インフラ整備等、様々なプロジェクトが進みました。我が国から中東とロシアへの直接投資 64 の規模を見ると、産油国の経済力と比べて相対的に低い水準に留まっています(第112-2-7)。今後成長が見込まれる国々に対する直接投資は、将来、これらの国々から我が国に配当等による収入をもたらし、成長の源泉になるものです。しかし、直接投資が停滞すれば、産油国の成長力を我が国の経済成長に取り込めなくなります。

【第112-2-7】 中東とロシアに対する直接投資

(出所)財務省「国際収支統計」、内閣府「国民経済計算」


(3)企業収益への影響

次に、原油価格の変動が日本の企業の収益に与えた影響について分析します。過去5年間の日本企業の前年同期比の収益増減を見ると、原油価格の上昇局面では、原価要因による収益悪化、原油価格の下落局面では原価要因による収益改善の傾向が見られます(第112-2-8)。原油価格が100ドルを突破した2008年については、原価要因による収益悪化傾向が顕著に表れ、原油価格高騰が影響を及ぼしたものと考えられます。

【第112-2-8】 日本の企業収益要因分解

(注)要因分解の考え方は次の通りです。

経常利益を、π=S×(1-α)-L-F [経常利益:π、売上高:S、売上高原価比率:α、人件費:L、他管理費:F]と定義すると、その変動は、Δπ=ΔS×(1-α-1)-S-1×Δα-ΔL-ΔF+交絡項と表す。右辺第1項は売上高要因、第2項は原価要因、第3項は人件費要因、第4項は他管理費要因となります。図の値は前年同期比の経常利益に対する比率で表す。

(出所)法人企業統計四半期別調査より作成

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(4)家計への影響

消費者物価の変動が家計に与える影響については、平成20年度 国民生活モニター調査 65において、原油高騰等による価格の変化に対する消費者の意識を調査しています。

調査によれば、ガソリンについては全ての品目の中で最も多い94%が高くなったと回答しています(第112-2-9)。また、電気代は約半数、都市ガス代は約4分の1が高くなったと回答しています。一方、価格が高くなったが支出を減らせない品目としてもガソリンが最も高い比率となっており、生活上必要不可欠なものであるため大幅に使用を減らすことが出来ないことがわかります。

また、これら値上げが家計にどのくらいの影響を与えているかについては、「かなり影響を受けている」と「ある程度影響を受けている」、「どちらかと言えば影響を受けている」を合わせると、影響を受けているとする回答が99.2%と2008年1月以降の調査で最高となっており、原油高騰等によるエネルギー価格の変化が家計に大きな影響を与えていたことがわかります。

【第112-2-9】 原油高騰等による価格の変化に伴う消費者の意識調査

(平成20年度 国民生活モニター調査結果)



(出所)内閣府国民生活局総務課調査室 平成20年度 国民生活モニター調査結果


原油価格下落に伴うガソリンと灯油の家計負担の軽減額について、2008年の最高値の水準が年間を通して推移した場合と比較すると、1世帯あたり合計で年間約5.6万円の家計負担が軽減されると試算されます(第112-2-10)。

【第112-2-10】ガソリン・灯油価格の下落による家計負担の軽減額試算

最高値(ガソリン:2008年8月4日、灯油:同年8月11日)
直近価格(2009年4月20日)
 ガソリン: 185.1円/ℓ  →  115.1円/ℓ -70.0円/ℓ下落
 灯  油: 132.1円/ℓ  →   63.2円/ℓ -68.9円/ℓ下落

◆ ガソリン価格が10円/ℓ下落した場合、家計負担は年間 約5,000円 軽減。
◆ 灯油価格が10円/ℓ下落した場合、家計負担は年間 約3,000円 軽減。   
(注)2008年度総務省家計調査(2人以上の世帯)のガソリン・灯油の1世帯あたり購入量をベースに試算。

直近価格が継続したと仮定すると、最高値が継続した場合と比較して一世帯当たり年間約5.6万円の負担軽減

(5)石油需要の変化

石油製品(燃料油)の需要は2006年から減少に転じています(第112-2-11)。年々減少率は拡大しており、2008年は対前年比で約5%減少しています。最近では、需要は2008年6月以降、対前年同月比で減少が続いており、石油製品需要の低下傾向が顕著に現れています。

【第112-2-11】 日本の石油製品(燃料油)需要の推移

(出所)石油連盟 「石油製品の用途別国内需要」

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石油製品ごとの需要の増減をみると、ガソリン需要は2008年4月の揮発油税等の暫定税率の失効の影響もあり、同月は前年同月比で17.3%と大幅に増加しましたが、5月以降は価格急騰により急速に減少しています(第112-2-12)。また、灯油や重油等需要についても、2008年6月以降対前年比減少が続いており、価格高騰が石油製品需要減少の1つの要因になっていると考えられます。他方でガス需要については、2008年後半に対前年同月比で減少も見られますが、2006年から2008年初めにかけては堅調な伸びを示しました。近年のガス需要の増加は、原油価格の上昇による燃料転換の進展や地球温暖化対策として二酸化炭素排出量が相対的に少ない等、環境面での優位性があること等が要因として考えられます。

【第112-2-12】 日本の石油製品・天然ガス・LNG月毎需要の対前年同月増減(2005年~)

(注)天然ガス・LNGは原油換算数量。2009年2月は速報値。

(出所)石油連盟「石油製品の用途別国内需要」、経済産業省「資源・エネルギー統計月報」より作成

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用途別の各エネルギー需要の推移を見ると、産業用ではC重油(電力除く)が減少傾向にあるのに対し、工業用都市ガス、大口電力販売が増加傾向にあります(第112-2-13)。業務用でも、電力、ガスが比較的堅調な伸びを示しており、これはOA化の進展やガス冷房、ガスコージェネレーションの導入が進んだこと等が要因として挙げられます。家庭用についてはオール電化住宅の増加の影響等により、灯油需要の落ち込みが続いています。運輸部門では、ガソリン需要が自動車保有台数の減少、軽自動車へのシフト、燃費の改善等の影響で減少基調に転じています。また、軽油も陸運業の輸送効率の改善、ディーゼル車の保有台数の減少 66 の影響で減少傾向が続いています。

【第112-2-13】 部門別のエネルギー需要(季節調整済み67 、2005年=100、トレンドは2次曲線)

産業用
業務用
家庭用
運輸用

 

(出所)経済産業省「電力調査統計月報」「ガス事業統計月報」、石油連盟「石油資料月報」より作成、経済産業省「資源・エネルギー統計月報」より作成

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新車販売台数も2006年から減少を続けており、2008年は508万台まで減少しています(第112-2-14)。新車販売台数が減少し、自動車保有台数が減少した背景として、若者のライフスタイルの変化による自動車離れや人口の減少等がありますが、ガソリン等燃料価格の高騰による需要の減少も要因の1つと考えられます。一方、日本の軽自動車の販売台数は2006年には200万台程度まで増加しています(第112-2-15)。これは燃料価格の高騰や地球温暖化問題への意識の高まり等により、低燃費車志向が強まったことが背景にあります。軽自動車販売台数は、2007年以降は減少に転じていますが、新車販売台数に占める軽自動車の比率は増加傾向にあります。

【第112-2-14】 日本の新車販売台数(軽自動車含む)

(出所)日本自動車販売協会連合会

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【第112-2-15】 日本の軽自動車販売台数

(出所)全国軽自動車協会連合会

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59 CIFとはCost, Insurance and Freightの略で、約定品に加え運賃・保険料込みでの貿易取引を示す表現です。日本向け原油CIF価格とは、産油国で積み込む原油価格に日本へ到着するまでの運賃・保険料を加えた実際の輸入価格を表します。
60 交易条件指数には、輸出物価指数÷輸入物価指数と産出物価指数÷投入物価指数の2種類が存在します。ここでは主に国全体の経済指標として利用される前者について分析します。
61 輸入物価指数のウエイトは、石油・石炭・天然ガス27.6%、金属・銅製品9.5%、食料品・飼料8.2%、化学製品6.9%、繊維品6.1%等となっています。
62 ユーロ圏では、ユーロ高により輸入価格が一定程度抑えられることに加え、ロシアや中東産油国の好景気により輸出価格は上昇していました。
63 内閣府 平成20 年度 年次経済財政報告
64 直接投資とは、ある国の投資家が、他の国にある企業に対して永続的な経済関係を樹立することを目的に投資するものです。
65 内閣府、2008年8月実施。全国の国民生活モニター2,000人に対するアンケート調査、有効回答数1,803人(回収率:90.2%)
66 軽油車の保有台数は2000年度末に1,180万台でしたが、2007年度末には750万台となっています。(財)自動車検査登録情報協会「自動車保有車両数」より
67 季節調整では、季節によるばらつきや変動要因をならすため、季節変動を経済統計の時系列データから除去する手続きを行っています。
第1章 原油価格騰落の要因と影響の分析

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