○国際エネルギー市場の構造変化
1.原油価格高騰と国際的なエネルギー需給逼迫 2005年8月に、大型ハリケーン「カトリーナ」が石油関連施設の密集するアメリカメキシコ湾岸を襲った際には、原油価格(WTI)が一時的に70ドル/バレルを超え、世界のエネルギー市場に大きな影響を与えました。その後、一旦は、50ドル/バレル台に低下しましたが、需給逼迫に、イランの核問題を巡る原油供給懸念やナイジェリアの原油生産混乱の懸念等が加わり、2006年4月16日には、終値で始めて70ドル/バレルを超えました。 こうした原油価格高騰の背景には、ハリケーン被害といった短期的な要因ばかりでなく、世界のエネルギー需給の構造的な逼迫という長期的な変化があります。 世界のエネルギー市場では、1970年代の二度の石油ショックを経て、石油代替と省エネルギー対策が進展する一方、非OPEC諸国の生産拡大も進みました。この結果、国際エネルギー市場は供給過剰構造となり、80年代後半から90年代まで、湾岸戦争による一時的な価格高騰を除いて、原油価格は13〜19ドル/バレルと比較的安定的に推移しました(図1)。
<図1>長期的な原油価格の推移
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しかし、近年、世界のエネルギー消費量は、中国・インドをはじめとするアジア諸国を中心とした急速な経済成長と米国の国内消費を中心とした好景気などにより、格段に増えつつあります。例えば、米国に次ぐ世界第2位のエネルギー消費国となった中国では、90年代前半に純輸入国に転じて以降、2000年から2004年における世界の石油需要増加の約3割を占め、2003年には石油消費量でも我が国を上回り世界第二位となりました。また、世界のエネルギー消費量は将来にわたって増え続け、国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、世界のエネルギー消費量は2030年には2002年と比較して約60%増加し、特に中国における消費量は2倍に増加する見込みです。この間の世界の消費増加量は、現在の日本の消費量の約12倍に相当します(図2)。
<図2>世界の一次エネルギー消費量の推移と見通し
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他方、供給面では、80年代〜90年代の原油価格の低迷による上流開発投資不足の影響もあり、OPEC諸国における供給余力は、この3年間で従来の約3割となる200万バレル/日程度まで落ち込んでいます。また、製油所の稼働率については、とりわけ米国において20年前と比較して上昇しており、日本では約8割、アメリカでは9割以上となっています。更に、エネルギー供給国においては、近年、自国資源への国家管理及び外資規制を強化する傾向が顕在化してきています。これらを含む様々な要因から、エネルギー市場には、円滑にエネルギー供給を増加できないのではないかという懸念が生じています。 このような逼迫したエネルギー需給構造を背景に、原油価格は、2005年度には、概ね50から60ドル/バレル台を推移し、一時は70ドル/バレルを超える値を付けました。 また、2000年以降をみると、OPECからの輸出量が増えているにもかかわらず、例をみないほど原油価格が高騰しています(図3)。さらに、原油価格に関する市場の評価を示す先物価格の構造にも変化があらわれました。期近ばかりでなく期先の価格が上昇し、長期的な先物価格の構造を示す曲線(フォワード曲線)が全体的に上方にシフトしています(図4)。これは、今後、中長期的にもエネルギー価格の高止まりが続くという市場の見方を示しているとも考えられます。
<図3>OPECの石油輸出量と油価の推移
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<図4>WTI先物のフォワード曲線の変化
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なお、原油市場は、需給要因はもとより、原油先物市場に対する商品投資や短期の投機的資金の流入といった金融市場の影響も加わって短期的にも大きく変動しており、天災や政情不安等を材料として、今後も価格が突発的に急騰する可能性にも注視しておく必要があります。 こうした原油価格の高騰や円高に対し、我が国では、石油ショック以降の省エネルギー対策の進展などにより、石油ショック当時のような経済全般に対する大きな影響は今のところ見られないものの、運送事業者、農林漁業者を中心とした一部の業種や中小企業では収益の圧迫や価格転嫁が困難となっているなどの影響が出ています。産業や国民生活に大きな影響を及ぼす懸念があることを踏まえ、政府は2005年10月に「原油問題に関する閣僚打合せ」を開催して、関係府省が連携して取り組むべき対応の方向性としてエネルギー消費削減の努力に対する支援・石油の量的安定供給の確保など5項目について合意しました。関係府省間で密接に連携し、対応を進めています。 エネルギー市場の需給逼迫が構造的なものであることを示す変化は、随所に現れており、それへの対応は喫緊の課題であります。我が国も、世界的なエネルギー需給の逼迫と原油価格の高騰が中長期的に継続することを前提に、エネルギー安全保障の問題に取り組んでいく必要があります。 2.米国ハリケーン被害からの教訓 2005年8月に起きたハリケーン被害は、世界的なエネルギー供給に対する懸念と原油価格急騰の引き金を引き、世界のエネルギー市場に大きな教訓を残しました。 2005年8月に発生したハリケーン「カトリーナ」は、アメリカ・ルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州など中南部の州を中心に、暴風、高潮、洪水等による甚大な被害をもたらしました。これに伴い、メキシコ湾岸の油ガス田、パイプライン、石油精製施設の多くが操業停止を余儀なくされ、アメリカ国内でのガソリン等の石油製品の供給不足が懸念されました。 こうした事態を受け、ブッシュ米大統領は国際エネルギー機関(IEA)に対し、石油備蓄の緊急放出を要請し、IEAは2005年9月2日に加盟各国が協調して備蓄を放出することを決定しました。産油国側においても、石油輸出国機構(OPEC)が10月から3か月間、供給余力の中から必要な供給を行う措置を講じるなど、市場の安定化のための努力が行われました。 我が国でも、IEAの決定を受けて、世界の石油需給の逼迫から我が国の石油需給にも支障が出るおそれがあるとして、経済産業大臣は9月3日に、おおよそ3日分の民間備蓄を市場に放出することを決定し、需給逼迫の緩和による市場の安定化に努めました。また、国内の石油元売り各社は、アメリカ向けに石油製品の輸出を行うなど、米国の石油市場の安定化にも寄与しました。 上記のような消費国及び産油国双方の努力により、世界の石油市場の混乱は沈静化に向かいました。その後、IEAは石油市場の危機的な状況は回避されたとして、12月22日に協調的備蓄放出措置の終了を宣言し、それを受けて我が国も、翌年1月4日に民間備蓄の保有水準引き下げ措置を終了しました。
<図5>IEA協調放出の経緯
ハリケーン被害をきっかけとする石油市場の需給逼迫により、ある特定地域の石油製品の需給逼迫が、世界の石油市場に多大な影響を及ぼすことが示され、世界の原油及び石油製品の市場が一体化している中で、消費国及び産油国が協調して市場安定化に向けた取組を行うことの重要性が確認されました。また、原油の供給量は世界的に見ると需要を満たす水準に達していても、製品ごとの需給が逼迫していれば供給支障は起こりえるものであり、原油の生産から輸送、精製、小売までの一連の流れの中でボトルネックが生じないよう、それぞれの段階に応じた適切な対策を講じることの重要性が認識されました。このことは、石油だけでなく、全てのエネルギー源について当てはまるものと言えます。 政府は、今後とも、世界各国と協調して、エネルギー市場の安定化に努めていきます。 3.地球温暖化問題に関する国際的な動き エネルギー安全保障に関する世界的関心が高まりつつある中、エネルギー需要の増大に伴う化石燃料の大量消費等に起因する地球温暖化問題は、引き続き世界が地球規模で取り組むべき重要な課題です。2005年2月には、温室効果ガスの排出削減を義務付けた京都議定書が発効し、2005年4月には、京都議定書目標達成計画が策定されました。これに基づき、現在政府は、様々なエネルギー起源の温室効果ガス排出抑制対策を実施しています。 京都議定書は、世界が協力して地球温暖化対策に取り組むための重要な第一歩です。しかし、世界最大の温室効果ガス排出国であるアメリカが批准していません。また、エネルギー起源二酸化炭素の排出量が2030年には現在の2倍に達することが予想される中国、インド等に対しては、「共通だが差異のある責任」の考え方から、排出削減義務を課していません(図6参照)。地球温暖化問題は、長期的な展望を踏まえ、世界全体で取り組むべき課題であり、京都議定書後の2013年以降については、主要排出国であるアメリカ、中国、インド等も参加する実効ある枠組みを並行して模索していく必要があるでしょう。
<図6>世界の地域別エネルギー起源二酸化炭素排出量の推移と見通し
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このため、2005年度には、地球温暖化の対策として様々な取組が進展しました。 (1)気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)・京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)(2005年11月〜12月) 将来の長期的協力に関する対話の開始が合意されるとともに、京都議定書の2013年以降の先進国の削減約束についても検討が開始されることになりました。 (2)G8首脳会合(グレンイーグルズ・サミット)(2005年7月) 地球温暖化問題が主要議題の一つとして取り上げられ、国際エネルギー機関(IEA)が各国の設備・機器等の効率や基準等を精査することなどを盛り込んだ、省エネルギー等に関する具体的な行動計画が合意されました。 (3)クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ閣僚会合(2006年1月)(参加国:アメリカ、オーストラリア、中国、インド、韓国、日本) 地球温暖化問題に加え、エネルギー安全保障や地域の環境問題などの課題について、技術の開発・普及・移転を通じた対応を進めることを目的に設置され、再生可能エネルギーなど8つの協力分野で、官民共同の行動計画を作成することになりました。
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