第1節 電力システム改革の断行

1.電力広域的運営推進機関の設置

東日本大震災により、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量に制約があり、また、広域的な系統運用が十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を手当することができず、国民生活に大きな影響を与えたことから、2013年11月に成立した電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)に基づき、強い情報収集権限と調整権限のもとで広域的な系統計画の策定や需給調整等を行う「電力広域的運営推進機関」が2015年4月に発足しました。

電力広域的運営推進機関では、発足当初から、地域間連系線等の整備等に関する方向性を整理した広域系統長期方針の検討を開始するとともに、東西の周波数変換設備及び東北東京間連系線の増強に関する計画の検討を進めています。また、同年4月には東京電力株式会社の供給区域において、同年9月には四国電力株式会社の供給区域において、需給の状況が悪化するおそれがあったため、電気事業法第28条の44第1項に基づき、それぞれ関係する電気事業者に対し、需給状況を改善するための指示を行いました。

2.電気事業法等の一部を改正する等の法律案(第3段階)の成立

電力システムに関する改革方針(2013年4月閣議決定)や、電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)の附則に定めた改革プログラムに基づき、所要の検証を行った上で、電力システム改革の第3段階である「法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保や電気の小売料金の全面自由化」を実施するとともに、電力システム改革と併せて、ガスシステム改革及び熱供給システム改革を一体的に推進(次節参照)するために必要な措置等を定めた電気事業法等の一部を改正する等の法律案の閣議決定を2015年3月3日に行い、第189回通常国会に提出されました。また、同法案は、2015年6月17日に成立しました。

〔電気事業法等の一部を改正する等の法律の内容〕

1.電気事業法の一部改正

①送配電事業の中立性確保(平成32年4月1日施行、②も同じ)

○一般送配電事業者・送電事業者が小売電気事業や発電事業を行うことを禁止(兼業規制による法的分離)。

○適正な競争関係を確保するため、一般送配電事業者・送電事業者と、そのグループの発電事業者や小売電気事業者等に対し、取締役の兼職禁止等の行為規制を措置。

②小売料金規制撤廃

○小売料金規制の経過措置について、対象事業者を指定する制度とし、適正な競争関係が確保されている供給区域では経過措置の解除を可能とする。

③その他の改正等

○現在、一般電気事業者に認められている一般担保付社債の発行の特例を廃止。ただし、施行後5年間は発行を可能とする経過措置を講ずる。また、政投銀や沖縄公庫による一般担保付貸付金を廃止。

○需要抑制の活用に資する電力量調整供給に係る規定の整備や、風力発電への定期的な検査の導入、保安規制の合理化を行う。

○法施行やエネルギー基本計画の実施の状況、需給状況等について各段階で検証を行い、その結果を踏まえ必要な措置を講ずる旨を規定。

2.ガス事業法の一部改正

①小売参入の全面自由化(公布日から2年6月以内に施行、②及び③も同じ)

○現在、一般ガス事業者にしか認められていない家庭等への供給を全面自由化。併せて簡易ガス事業の許可制を廃止。

○自由化に伴い事業類型を見直し、製造(届出)・一般ガス導管(許可)・特定ガス導管(届出)・小売(登録)の事業区分に応じた規制体系に移行。

○LNG基地の第三者利用を促すため、第三者が利用する場合の約款の作成・公表等をガス製造事業者に義務付け。

②ガス導管網の整備

○導管の建設・保守を着実に実施できるよう、一般ガス導管事業には地域独占と料金規制(総括原価方式:認可制)を措置。

○事業者間の導管接続の協議を国が命令・裁定できる制度を創設。

③需要家保護と保安の確保

○競争が不十分な地域においては、現在の一般ガス事業者に対し経過措置として料金規制を継続(経過措置の解除に当たっては競争の進展状況を確認)。

○一般ガス導管事業者に対し、最終保障サービスの提供を義務付け。

○ガス小売事業者に対し、供給力確保、契約条件の説明等を義務付け。

○ガス導管事業者に導管網の保安や需要家保有の内管の点検等を義務付けるとともに、ガス小売事業者に消費機器の調査等を義務付け。

④導管事業の中立性確保 (平成34年4月1日施行)

○一定規模以上のガス導管事業者がガス製造事業やガス小売事業を行うことを禁止(兼業規制による法的分離)。

○一定規模以上のガス導管事業者と、そのグループのガス製造事業者やガス小売事業者等に対し、取締役の兼職禁止等の行為規制を措置。

○法施行やエネルギー基本計画の実施の状況、需給状況等について各段階で検証を行い、その結果を踏まえ必要な措置を講ずる旨や、LNG調達や保安に係る国の責務を規定。

3.熱供給事業法の一部改正(公布日から1年6月以内に施行)

○現在、許可制としている熱供給事業への参入規制を登録制とする。

○料金規制や供給義務などを撤廃。ただし、他の熱源の選択が困難な地域では、経過措置として料金規制を継続。

○熱供給事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課す。

4.経済産業省設置法等の一部改正(公布日から6月以内に施行(設立))

○電力取引の監視及び行為規制の実施等を業務とする「電力取引監視等委員会」を大臣直属の「8条委員会」として設立。

○独立性を確保するため、委員が独立して職務を遂行すること、事業者への業務改善勧告の権限等を措置。

○高度の専門性を確保するため、法律、経済、工学等の知見を有し、公正かつ中立な判断をすることのできる専門家を委員とする。

3.電力取引監視等委員会の設置

電力システム改革は、新規参入の撤廃や市場の価格メカニズムを機能させること等を通じて健全な競争を促し、①電力の安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大を実現することを目指しています。

電力取引監視等委員会は、2015年に成立した「電気事業法等の一部を改正する等の法律」(平成27年法律第47号)に基づき、この電力システム改革の実施に当たり、電力取引の監視等の機能を一層強化し、電力の適正な取引の確保に万全を期すための、独立性と高度な専門性を有する経済産業大臣直属の新たな規制組織として、2015年9月1日に設立されました。

本委員会の委員長及び委員4名は、法律、経済、金融又は工学の専門的な知識と経験を有し、その職務に関し、公正かつ中立な判断をすることができる者のうちから、経済産業大臣により任命されており、委員長及び委員は、独立してその職権を行うこととされています。2016年4月から、電力取引監視等委員会の所掌業務にガス事業法及び熱供給事業法に関する事務も追加され、名称が「電力・ガス取引監視等委員会」に改編されることとなりました。

【第361-3-1】電力・ガス取引監視等委員会 組織図

電力・ガス取引監視等委員会 組織図

(※)
委員会には、総務課、取引監視課及びネットワーク事業監視課の3課からなる専属の事務局が置かれるとともに、各地方の経済産業局等においても電力取引監視室を設置。

委員会は、法律に基づく以下の権限を行使しながら、電力・ガス・熱の適正取引の監視やネットワーク部門の中立性確保のための行為規制等を厳正に実施しています。特に2015年度は2016年4月の電力の小売全面自由化に向けて、①小売電気事業者の登録審査、②託送供給等約款の審査、③各種ガイドラインの整備、④電力自由化に関する周知・広報や消費者保護対策、などに取り組みました(→後述4.)。

◯電力小売やネットワーク部門の中立性確保に係る厳正な監視

小売電気事業者の登録審査、事業者に対する報告徴収、立入検査、業務改善勧告、あっせん・仲裁、託送供給等約款や経過措置料金の審査

・小売供給契約に関し、法外な解約金を請求する、苦情や問い合わせに応じないなど悪質な行為の監視

・大手電力会社が新規参入者を排除するなど、市場支配力行使の監視

・電力会社の送配電部門で知った新規参入者の情報を自社の小売部門に伝えるなど、送配電部門の中立性確保に係る禁止行為の監視

◯電力取引等に係るルールづくり

適正取引や各種行為規制等のルールの原案を作成し、経済産業大臣へ建議

【第361-3-2】電力・ガス取引監視等委員会の役割

電力・ガス取引監視等委員会の役割

4.電力小売全面自由化に向けた準備

(1)電気事業を取り巻く状況の検証

2015年6月17日に成立した電気事業法等の一部を改正する等の法律において、2016年4月1日の小売全面自由化の実施前に、電気事業を取り巻く状況について検証を行うことが規定されました。これを踏まえ、総合資源エネルギー調査会において、2015年6月に電力システム改革小委員会制度設計ワーキンググループ(注1)で議論を開始し、10月に電力基本政策小委員会(注2)が設立されてからは同小委員会に検討の場を移し、合計5回にわたる議論を重ねました。これらの議論を踏まえ、2015年12月、電気事業を取り巻く状況の検証結果を政府としてとりまとめました。

検証結果(まとめ)( 2015年12月)

(1) 2016年4月の小売全面自由化に向けた準備は着実に進んでおり、当面、法律上、検証結果を踏まえて必要に応じて講じることとされている、競争条件の改善、適正な競争条件の確保、安定供給のための資金調達の確保等に関する措置を講じる必要はない。

(2) 他方、現在急ピッチで作業が進められている情報システムの開発・整備は、時間的制約がある中で一定の遅延リスクを内包しており、きめ細かく継続的に状況をフォローすると共に、仮に作業の遅延が生じた場合の対応をあらかじめ検討しておく必要がある。また、必ずしも十分に周知されていない小売全面自由化の意義や手続等について、官民一体となって、一般家庭等に対する広報活動を強化していく必要がある。

(3) なお、電力システム改革は2016年4月の小売全面自由化により次のステージに移る。新規参入の活発化等により競争状況に大きな変化が生じてくる可能性があり、引き続き電気事業を取り巻く状況を継続的にフォローしつつ、現在進めている再生可能エネルギー固定価格買取制度の見直しや原子力事業環境整備等、エネルギー基本計画に基づく各施策を着実に実施すると共に、状況の変化に応じ、必要な措置を講じていくべきである。

(2)小売電気事業者の登録審査

小売全面自由化に先立って、2015年8月から小売電気事業者の事前登録受付を開始し、順次審査を行ってきました。2016年4月1日現在において、小売電気事業329件、小売供給11件の申請を受け付け、審査の結果、小売電気事業280件(みなし小売電気事業者(旧一般電気事業者小売部門)10件含む)、小売供給16件(みなし登録特定送配電事業者(旧特定電気事業者)5件を含む)が登録されました。

法律や省令に則り、資源エネルギー庁が、最大需要電力に応ずるために必要な供給能力を確保できる見込みや小売電気事業を適正かつ確実に遂行できる見込みがあるか、電力取引監視等委員会が、「電気の使用者の利益の保護のために適切でないと認められる者」に該当しないか、それぞれ審査を行っています。

【第361-4-1】登録に係る手続きフローと登録審査に係る条文(抜粋)

登録に係る手続きフローと登録審査に係る条文(抜粋)

(3)各種ガイドラインの整備

小売全面自由化を契機に多様な事業者が参入することを踏まえ、関係事業者が電気事業法等を遵守するための指針を示し、これにより電気の需要家の保護を図るため、新たなガイドライン「電力の小売営業に関する指針」を策定しました。

同指針は電力取引監視等委員会の下に設置した制度設計専門会合(座長:稲垣隆一電力取引監視等委員会委員)において2015年10月から3 ヶ月にわたって議論を行い、電力取引監視等委員会から経済産業大臣に建議し、1月29日に経済産業大臣が制定しました。

また、電力の小売全面自由化に合わせ、 電力市場を競争的に機能させる観点から、経済産業省と公正取引委員会が共同で定める「適正な電力の取引についての指針」についても所要の改正を行いました。

同指針のうち経済産業省が担当する部分については、制度設計専門会合において2015年10月から3 ヶ月にわたって議論を行い、電力取引監視等委員会から経済産業大臣に建議し、3月7日に経済産業大臣が制定しました。

2つの指針の内容については、説明会の開催などを通じて、4月から電力小売市場に参入する事業者への周知徹底を図っています。

「電力の小売営業に関する指針」のポイント

(1)需要家への適切な情報提供

①望ましい行為

・一般家庭を始め低圧需要家向けの「標準メニュー」を公表すること。

・平均的な電力使用量における月額料金を例示すること。

・他社からの切替えの際、既存契約の解除に係る違約金等の発生の可能性を需要家に説明すること。

・自社のホームページやパンフレット、チラシ等で電源構成を開示すること。併せて、CO2排出係数(調整後排出係数)を記載すること。

※1
電源構成開示については、小規模事業者にとって負担となることや、発電事業者から小売事業者に対し電源種別に関する情報提供が必要なことなどに留意が必要。
※2
需要家ニーズや事業者の取組状況を注視し、需要家のニーズが高まっても事業者の開示の取組が進んでいないなど、市場が適切に機能していないと考えられる場合には、改めて開示のあり方の検討が必要。

②問題となる行為

・料金請求の根拠となる使用電力量等の情報を請求書に記載しないなど、需要家に示さないこと。

・「当社の電気は停電しにくい」など、需要家の誤解を招く情報提供で自社のサービスに誘導しようとすること。

・電源構成を訴求した営業行為を行う場合、電源の割合の計画を示さないことや実績値を事後的に説明しないこと。

・地産地消を訴求した営業行為を行う場合、発電所の立地場所や電気の供給地域について十分に説明しないこと。

(2)契約内容の適正化

○問題となる行為

・不当に高額の違約金等を設定するなど、解除を著しく制約する内容の契約条項を設けること。

・解除手続や更新を拒否する手続の方法を明示しないなど、解除を著しく制約する行為をすること。

(3)苦情・問合せへの対応の適正化

①望ましい行為

・送電線の切断など、送配電要因で停電していることが明らかな場合に送配電事業者がホームページ等を通じて提供する情報を用いて、小売電気事業者が消費者からの相談や問合せに応ずること。

・原因不明な停電発生時に、ブレーカーの操作方法など消費者に対し適切な助言を行うこと。

②問題となる行為

・原因不明な停電に対し、消費者からの問合せに不当に応じないこと。

(4)契約の解除手続の適正化

○問題となる行為

・契約解除の申入れが、契約者(需要家)本人からのものであるか、適切な方法で本人確認をしないこと。

・需要家の意に反した過度な引き留め営業など、解除の申込みに速やかに応じないこと。

・契約解除について、解除予告通知を行うことや最終保障供給・特定小売供給を申し込む方法があることを説明することなどの適切な対応を怠ること。

「適正な電力取引についての指針」の主な改定事項(電気事業法関連部分)

(1)小売分野

・小売事業者が需要家への請求書等に託送供給料金相当の支払金額を明記することを、望ましい行為と位置付ける。

・誤解を招く情報提供により自社のサービスに需要家を不当に誘導することを、問題のある行為と位置付ける。

(2)卸売分野

・常時バックアップの供給量に関する記載を追加(特高・高圧は3割程度、低圧は1割程度)

・インサイダー取引、インサイダー情報の公表を行わないこと及び相場操縦を問題のある行為と位置付ける。

(3)託送分野

・需要家への差別的対応の具体例として、送配電事業のために需要家と需給調整契約を締結する際に、自己の小売部門の需要家を優遇することを追加。

・需要家への差別的対応の具体例として、転居等により新たな供給先を検討中の需要家に対する情報提供において、自社の小売部門と他の小売電気事業者で不当に差別的に取り扱うことを追加。

(4)託送供給等約款の審査

小売電気事業者が東京電力など一般送配電事業者に送電網の使用料として支払う託送料金等を定める「託送供給等約款」は、小売全面自由化実施後、経済産業大臣が認可を行うこととなります。

託送供給等約款の認可にあたっては、電力取引監視等委員会の下に設置した電気料金審査専門会合(座長:安念潤司 中央大学法科大学院教授)により中立的・客観的かつ専門的な観点から検討するとともに、パブリックコメントも実施することで、透明性の高い審査プロセスを経ることとしています。

2016年4月の小売全面自由化の実施に向けて、低圧向け託送料金を新規に設定する必要等があるため、東京電力など現在の一般電気事業者10社が2015年7月、託送供給等約款の認可申請を行いました。

【第361-4-2】託送料金認可手続き

託送料金認可手続き

電気料金審査専門会合では、同年9月から4 ヶ月にわたって、申請内容について厳正に審査を行いました。北陸電力、中国電力及び沖縄電力の3社については、原価の適正性から審査を行いました。また、東日本大震災以降に供給約款の認可を受けた北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、関西電力、四国電力及び九州電力を含む全10社について、制度改正を受けた対応が適正に反映されているかについて審査しました。

電気料金審査専門会合が同年12月2日にパブリックコメントの結果も踏まえ「査定方針案」を取りまとめたことを受け、同年12月11日に電力取引監視等委員会は委員会としての意見(査定方針)を経済産業大臣に提出しました。この意見を踏まえ、経済産業大臣は「査定方針」に基づく申請内容の修正を提出するよう各社に指示を出し、同年12月18日に託送供給等約款を認可しました。

【第361-4-3】託送供給等約款認可申請への査定結果のポイント

託送供給等約款認可申請への査定結果のポイント

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(5)小売全面自由化の広報、消費者保護に向けた取組

電力の小売全面自由化の実施に当たっては、消費者が、正しい情報を持つことで、トラブルに巻き込まれることなく、各々のニーズに合った適切な選択ができることが重要です。

そのため、経済産業省では、全国各地での説明会開催や、テレビ・新聞・雑誌などのメディアを通じた広報、パンフレット・ポスターの配布、専用ポータルサイト・コールセンターの設置など、自由化の周知・広報を積極的に実施してきました。

さらに、電力取引監視等委員会が独立行政法人国民生活センターと消費者保護強化のための連携協定を締結(2016年2月)し、両者が共同で、消費者から寄せられたトラブル事例やそれに対するアドバイスを公表するなどの取組を実施しています。さらに、同委員会では、消費者に対し、電力自由化に関する正確な情報を分かりやすく発信するための周知イベント「電力自由化キャラバン」を全国各地で開催するなど、消費者保護のための取組を強化しています。

【第361-4-4】電力自由化に向けた消費者保護の取組

電力自由化に向けた消費者保護の取組

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5.電気料金の状況と電気料金値上げ認可申請への厳正な対応

(1)電気料金の状況

火力発電所の稼働率上昇に伴う火力燃料費の増大、燃料価格の高騰などにより、電気料金の平均単価(全国)は、震災前の2010年度と直近値の2015年度を比較すると、家庭用で約20%、産業用で約30%、金額にして家庭用・産業用いずれも約4円/kWh上昇しました。他方、2014年後半以降の大幅な原油価格の下落等により、2015年度は1年前の2014年度と比較して家庭用で約5%、産業用で約6%低下しました。

【第361-5-1】一般電気事業者の電気料金の推移(電灯・電力)

一般電気事業者の電気料金の推移(電灯・電力)

出典:
電力需要実績確報(電気事業連合会)、各電力会社決算資料等
(注)
電灯料金は、主に一般家庭部門における電気料金の平均単価で、電力料金は、自由化対象需要家分を含み、主に工場、オフィス等に対する電気料金の平均単価。平均単価の算出方法は、電灯料収入、電力料収入をそれぞれ電灯、電力の販売電力量(kWh)で除したもの。

【第361-5-2】東京電力における平均モデルの電気料金の推移

東京電力における平均モデルの電気料金の推移

出典:
東京電力公表資料

なお、電気料金は、基本料金、電力量料金、燃料費調整額(注)、再生可能エネルギー発電促進賦課金から構成されます。

【第361-5-3】電気料金の構成

電気料金の構成

1 ヶ月の使用電力量は290kwhと想定。
合計額(7,176円)は、口座振替割引額(-54円)を勘案しているため、上記の式の数値は合致しない。
出典:
東京電力公表資料

【第361-5-4】原油価格の変動の電気料金への反映までのタイムラグ

原油価格の変動の電気料金への反映までのタイムラグ

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出典:
資源エネルギー庁
・燃料費調整制度は、事業者が直接コントロールできない為替レートや国際的な燃料市況の変動による影響を、毎月の電気料金に反映する制度です。為替変動による差益を消費者に還元することを目的に、平成8年に導入しました。
 
・海外における原油価格の変動が、原油輸入価格の変動やそれに連動するLNG輸入価格の変動を通じて、電気料金に反映されるまでには、最短で4 ~ 9 ヶ月程度のタイムラグが生じることとなります。

(2)電気料金の値上げ認可申請への厳正な対応

家庭など規制部門に適用される電気料金については、電力会社から電気料金の値上げ認可申請がなされた場合、電気事業法(昭和39年法律第170号)第19条に基づいて、申請が最大限の経営効率化を踏まえたものであるか厳正に審査した上で、経済産業大臣が認可を行うこととなります。

2012年度以降これまで、規制部門に適用される電気料金の値上げの認可に当たっては、経済産業省総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会(以下「電気料金審査専門小委員会」という。)(委員長:安念潤司 中央大学法科大学院教授)により中立的・客観的かつ専門的な観点から検討するとともに、広く国民の皆様から意見を聴取する公聴会やパブリックコメントも実施することで、透明性の高い審査プロセスを経てきました。

【第361-5-5】電気料金改定認可のプロセス

電気料金改定認可のプロセス

(※1)
物価担当官会議申し合わせ(2011年3月14日)に基づく。
(※2)
物価問題に関する関係閣僚会議(1993年8月24日閣議口頭了解)について
構成員:総務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、内閣府特命担当大臣(金融)、内閣府特命担当大臣 (消費者)、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、内閣官房長官。
会議は、長期及び短期にわたる物価安定対策に関する重要問題について協議することを目的とし、内閣官房長官が主宰。会議の庶務は、消費者庁において処理。
出典:
「第20回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会配布資料より抜粋」

東日本大震災以降、原子力発電所の稼働率低下に伴い火力燃料費等が増加し、電力各社の収支を圧迫することとなりました。そのため、2012年以降、東京電力、関西電力、九州電力、東北電力、四国電力、北海道電力及び中部電力が、電気料金の値上げを実施しました。

しかし、原子力発電所の再稼働時期が値上げ実施時に想定していた時期よりも遅延していることにより、火力燃料費が増大し、電力各社の収支を引き続き圧迫したため、2014年11月に北海道電力が、2015年6月に関西電力が、震災後2度目となる電気料金の値上げを実施しました。

【第361-5-6】電力各社の電気料金値上げ改定の動向

電力各社の電気料金値上げ改定の動向

(注1)
27年3月31日までは、激変緩和措置として、さらに2.90%圧縮し、12.43%とすることとした。
(注2)
27年9月30日までは、激変緩和措置として、さらに3.74%圧縮し、4.62%とすることとした。
自由化部門の値上げ率は、規制部門の値上げ率に対応する原価計算上の数値であり、実際の料金は当事者間の交渉によって定められることが原則。
出典:
資源エネルギー庁作成

○関西電力の再値上げ

関西電力は、高浜発電所・大飯発電所が長期間停止したことによる火力燃料費の増加などを受けて、財務状況が大幅に悪化したことから、2013年5月に規制部門の電気料金を9.75%値上げしました。

しかし、両発電所の再稼働が2013年値上げ時の想定(高浜発電所3・4号機:2013年7月稼働、大飯発電所3・4号機:継続稼働)よりも大幅に遅延していることにより、火力発電所における燃料消費量が増加し火力燃料費が更に増大したことから、2014年12月24日、関西電力は電気料金を規制部門で10.23%引き上げること等を内容とした、電源構成変分認可制度(注)に基づく電気料金値上げ認可申請を行いました。

2015年1月から4月にかけて計6回、電気料金審査専門小委員会において、客観的・専門的な見地から審査を行うとともに、同年3月3日には値上げに係る公聴会が大阪市にて開催されました。

その後、委員会で取りまとめられた査定方針案について、同年5月11日まで経済産業省と消費者庁が協議を行い、同月15日の物価問題に関する関係閣僚会議の了承を経て、同月18日に認可されました。

査定のポイントは以下のとおりです。

(ⅰ) 原油価格の下落を踏まえた卸電力取引所からの調達価格の査定の導入など、増分費用等の厳正な審査を行った。この結果、規制部門の値上げ幅は、申請時の10.23%から8.36%となる。実施時期は6月1日とする。

(ⅱ) 効率化の徹底を求め、その成果を料金負担の軽減に充てる。

具体的には、需要のピークを迎える夏の負担を軽減するため、激変緩和措置として、実施から4 ヶ月間はさらに3.7%以上値上げ幅を圧縮し、その間の値上げ幅は4.62%となる。

(ⅲ) 今回の値上げ申請が高浜発電所・大飯発電所の再稼働の遅れに起因するものであることから、値上げの認可に際しては、高浜発電所・大飯発電所の再稼働の状況に応じて、順次値下げを実施するよう、条件を付けることとした。

【第361-5-7】関西電力の料金改定の概要

関西電力の料金改定の概要

出典:
資源エネルギー庁
電源構成変分認可制度について
一般電気事業者の電気料金について、料金値上げの認可を経ていることを条件に、当該原価算定期間内において、社会的経済的事情の変動による電源構成の変動があった場合に、総原価を洗い替えることなく、当該部分の将来の原価の変動(燃料費等)を料金に反映させる料金改定を認める制度です。

【第361-5-8】電源構成変分認可制度における費用の配賦・レートメークの概要

電源構成変分認可制度における費用の配賦・レートメークの概要

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出典:
「第25回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会配布資料より抜粋」

(3)原価算定期間終了後の小売電気料金の事後評価

家庭など規制部門に適用される電気料金については、原価計算期間終了後に小売電気料金の原価の洗い替えを行わない場合において、引き続き当該料金原価を採用する妥当性については、従来、経済産業省で評価を実施するとともに、経済産業省及び一般電気事業者各社において、以下のような情報公開の取組を実施しています。

1.経済産業省において、原価算定期間終了後に毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないかなどを確認し、その結果を公表する(必要に応じて料金値下げに係る変更認可申請命令の発動の要否を検討する)。

2.一般電気事業者各社において、規制部門と全社計に区分した人件費等の実績値の比較結果をホームページで公表する。

また、東京電力については、2012年の料金値上げ時に、継続的に監視していくこととされており、震災後行われた値上げに係る初めての原価算定期間終了後の事後評価であることから、消費者基本計画の工程表においても2015年度に事後評価を行う旨が記載されています。

これを踏まえ、原価算定期間が終了している一般電気事業者4社(東京電力、北陸電力、中国電力、沖縄電力)について、電力取引監視等委員会の下に設置した電気料金審査専門会合(座長:安念潤司 中央大学法科大学院教授)において、料金適正化の観点から、電力会社ごとに原価算定期間終了後の小売電気料金の事後評価を実施しました。

<事後評価のポイント>

A 東京電力、北陸電力、中国電力、沖縄電力

原価算定期間終了後の事後評価において、電気事業法第23条第1項・電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等第2(20)④に基づく値下げ認可申請の必要が無いか。

①電気事業利益率による基準

②規制部門の累積超過利潤による基準又は自由化部門の収支による基準

B 東京電力の事後評価に関する追加手続

①料金原価と実績費用の比較

個別費目について、料金原価を合理的な理由無く上回る実績となっていないか。なお、実績が料金原価を上回っている費目は以下の通り。

▶人件費

▶燃料費

▶購入電力料

▶原子力バックエンド費用

②規制部門と自由化部門の利益率の比較

規制部門と自由化部門の利益率に大きな乖離はないか。乖離が生じている場合の要因は合理的か。

③経営効率化への取り組み

経営効率化への取り組みは着実に進捗しているか。

<事後評価の結果>

A 東京電力、北陸電力、中国電力、沖縄電力

原価算定期間終了後の事後評価において、電気事業法第23条第1項・電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等第2(20)④に基づく値下げ認可申請の必要は認められなかった。

①電気事業利益率による基準

過去3年の電気事業利益率の平均値は、東京電力(1.6%)、北陸電力(0.1% )、中国電力(0.3% )、沖縄電力(3.0%)となっており、基準値である10社10年平均値3.4%を下回っていることから、当該基準には該当しなかった。

事後評価の結果

② 規制部門の累積超過利潤による基準又は自由化部門の収支による基準

①の基準に該当していないことから、②の検討は不要。

B 東京電力の事後評価に関する追加手続

①料金原価と実績費用の比較

個別費目が、料金原価を上回っている以下の4つの費目について、増減要因を確認した。結果、合理的な理由無く料金原価を上回る実績となっているものは無いことを確認した。

▶人件費

▶燃料費

▶購入電力料

▶原子力バックエンド費用

②規制部門と自由化部門の利益率の比較

2012年~ 2014年度の原価算定期間における規制部門と自由化部門の利益率については、規制部門1.7%、自由化部門▲1.6%と差異が生じている。

同期間の販売電力量は、規制部門と自由化部門で約1:1.6となっており、電気料金のうち電力量に応じて発生する可変費の割合が自由化部門は高くなっている。また、料金原価上稼働を想定していた原子力発電所が、原価算定期間中に実際には一切稼働していないため、火力電源の焚き増し・他社からの受電増により、燃料費・購入電力料の可変費が増加している。

規制部門は、低圧のみに必要な配電設備等の各種費用が発生することから、自由化部門と比較して電気料金に占める固定費の割合が高くなっている。また、経営効率化等によるコストの削減効果は、可変費・固定費ともに生じているが、特に固定費でコスト削減が進んでいる。

原子力発電所の停止、火力の焚き増し等に伴う燃料費の負担増の影響(利益を減らす効果)が、可変費比率の相対的に高い自由化部門に大きく影響を及ぼしている一方、経営効率化等によるコストの削減効果(利益を増やす効果)が固定費比率の相対的に高い規制部門で大きく影響を及ぼしていることから、利益率は、規制部門がプラス・自由化部門がマイナスとなっている。

結果として、規制部門と自由化部門の利益率の乖離は、合理的な要因に基づくものであることを確認した。

③経営効率化への取り組み

稼働を想定していた原子力発電所が、原価算定期間を通じて非稼働となり、火力電源の焚き増し等により収支が非常に厳しい状況の中で、2014年1月に経済産業大臣の認定を受けた新・総合事業計画に基づき10年間で約4.8兆円のコスト削減施策が講じられた。結果として経営効率化は、料金改定時(2,785億円)と比較して、実績(6,975億円)の約2.5倍となっており、料金原価策定時よりも深掘りが行われていることを確認した。

コスト削減対象の選定にあたっては、安定供給を前提として、リスクの発生可能性及びリスク発現時の社会的影響度の2つの観点をベースとしたリスクマップを活用し、投資・修繕等の案件を評価し、相対的にリスクの低い案件について、投資の繰り延べを行うなど、リスクに応じた不要不急の案件を中心にコスト削減が進められていることを確認した。

注1
2013年2月の総合資源エネルギー調査会総合部会電力システム改革専門委員会報告書、同年4月に閣議決定された電力システムに関する改革方針、同年11月に成立した電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)等において、遅くとも2020年までに実現すべき電力システム改革の工程、手順の基本的な方向性が示されました。これを受け、電力システム改革を着実に進めていく上での実務的な課題への対応も含めた具体的な制度設計に関する検討・審議を行うため、2013年7月に、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革小委員会の下に「制度設計ワーキンググループを設置しました。2015年度は、計2回(第13回を6月25日、第14回を7月28日)にわたる議論を行いました。
注2
2015年6月の電気事業法等の一部を改正する等の法律案(第3段階)の成立を受け、2016年4月の電力小売全面自由化に向けた詳細な制度設計については、2015年9月に設置された電力取引監視等委員会において議論がなされることとなりました。他方、今後は、電力システム改革が進展する中で、電力分野において、エネルギー政策の基本的視点である、安全性、安定供給、経済効率性、及び環境適合を同時に達成していくことが求められます。そのためには、効率的かつ競争的な電力市場の整備等の環境整備を進めると同時に、電力システム改革が我が国経済における成長戦略としての効果を最大限に発揮するためにも、市場における担い手としてのエネルギー産業を国際的にも競争力のあるものとしていくことが必要不可欠です。このため、電気事業制度に係る制度設計をはじめとして、電力分野の産業競争力強化に向けた幅広い政策課題を検討する場として、2015年10月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の下に電力基本政策小委員会を設置しました。2015年度は、計5回(第1回を10月27日、第2回11月18日、第3回を12月10日、第4回を2月9日、第5回を3月30日)にわたる議論を行い、そのうち第1回~第3回の計3回において小売全面自由化実施前の検証について議論しました。