第1節 人類の歩みとエネルギー

1.人類の歴史とエネルギー

人類は、生活スタイルの発展段階に応じて、エネルギー利用の用途を徐々に高度化・多様化させてきました。エネルギー消費量も、エネルギーの利用用途の拡大に加え、石炭や石油、天然ガスなど使い勝手の良いエネルギー源の普及により、一貫して上昇してきました。

人類とエネルギーの関係は、約50万年前に薪などを使って火を利用し始めたときから始まったといわれています。その後、農耕や牧畜を始めた人類は移動や輸送に家畜や風力(帆船)を利用したり、穀物を製粉するために水力や風力を、暖房や炊事のために主として薪を利用していましたが、そのエネルギー消費量及びエネルギーの利用用途は、非常に限られたものでした。

18世紀に入り産業革命が起こると、石炭をエネルギー源とする蒸気機関が工場や輸送機器(蒸気機関車等)において動力源として利用されるなど、工業化の進展に伴いエネルギー消費量が急速に増加するとともにエネルギーの利用用途も広がりました。これによって社会の生産力が上昇し、より便利でより豊かな生活を享受することもできるようになります。

さらに、エネルギーの利用用途が広がるに従って、エネルギー源にも一層の汎用性が求められるようになります。このため、20世紀中頃に石炭よりも使い勝手が良く、利用用途を拡大しやすい石油が主要なエネルギー源としての地位を占めるようになると(流体革命2)、工場や輸送機器(船舶、自動車、航空機)、発電用の燃料として、また、暖房用の燃料や化学製品の原料等として石油が大量に消費されるようになります。また、電気エネルギーの利用が産業部門においても家庭部門においても普及し消費量も拡大したことで、発電に利用できるエネルギー開発も進められました。このようなエネルギー消費量及び利用用途の更なる拡大に応じて社会の生産力もまた大きくなり、それに伴って生活水準や公衆衛生も向上するので人口の増加ペースも一段と急速に伸び、それがまた一層のエネルギー消費量の増加をもたらすようになると考えられます。

また、今後も世界人口は増加する見込みであり、加えて新興国におけるエネルギー消費量も工業化やモータリゼーションの進展等により増加しています。このため、2030年の世界のエネルギー消費量は1990年の約2倍に達するなど、エネルギー消費量はこれからも増加し続けていくものと考えられています。

【第111-1-1】 世界のエネルギー消費量と人口の推移

【第111-1-1】 世界のエネルギー消費量と人口の推移

(出典)
United Nations,"The World at Six Billion"
United Nations,"World Population Prospects 2010 Revision"
Energy Transitions: History, Requirements, Prospects
BP Statistical Review of World Energy June 2012
BP Energy Outlook 2030: January 2013

2.現代社会の多様なエネルギー利用用途

現代社会において、エネルギーは衣・食・住・労働・移動・娯楽などあらゆる方面で活発に利用されています。物資の生産を行う工場等においては各種機械類を稼働させるための燃料や電気が欠かせませんし、人や物の移動のためにも燃料や電気を利用しています。また、オフィスや家庭生活においても、電化製品や情報機器の普及によってより一層のエネルギーを必要とするようになりました。

我が国においても、エネルギー消費量は増加傾向を示してきました。1973年度からのエネルギー消費量の伸びだけを見ても、産業部門は0.9倍にとどまりましたが、民生部門が2.4倍、運輸部門は1.9倍となっています。(後掲 第2部第1章第1節1. 参照)

その原因の一つに、モータリゼーションの進展があります。我が国の自動車保有台数は1973年度末から2011年度末までの間に約3倍となっており、今や人の移動や物流に自動車はなくてはならないものになっています。加えて、業務用及び家庭用といった民生部門のエネルギー消費も顕著に拡大していますが、これはエアコン等の空調機器や大型電化製品の普及、IT化の進行に伴うパソコン等の情報機器の普及が背景にあると考えられます。

また、近年は、工場等の生産プラントの監視制御、電車や道路等の交通管制、水や電気といったライフラインの制御等をコンピュータシステムが担うようになってきています。これらのシステムによって現代社会は円滑に機能することができており、これらのシステムが停止してしまうと、物資の生産が停止したり品質が一定しなくなる、流通が滞ったり移動が円滑にできない、ライフラインが停止するなどの問題が生じてきます。このように、社会がコンピュータシステムによって制御される場面が増えてきている今日では、コンピュータシステムを稼働させるために必要なエネルギーを適切に供給し続けなければ、社会システム自体が機能しなくなることになりかねません。

したがって、現代社会においては安定かつ低廉なエネルギーなくしては、個人の生活が、産業が、ひいては社会全体が機能できず、社会が成り立ち得ない構造になっており、エネルギーの重要性は、ますます高まっています。

【第111-2-1】 エネルギー資源の供給過程と利用形態

【第111-2-1】 エネルギー資源の供給過程と利用形態

【第111-2-2】 自動車保有台数の推移

【第111-2-2】 自動車保有台数の推移

(出典)
一般財団法人自動車検査登録情報協会「自動車保有台数の推移」
(注)
台数は、各年3月末時点のもの

【第111-2-3】 コンピュータ制御されるシステムの例

【第111-2-3】 コンピュータ制御されるシステムの例

3.エネルギーチェーンと課題

2.で述べたように、エネルギーと現代社会は切っても切れない関係にあります。社会生活を維持するためには、エネルギーの供給が脅かされたり、供給されるエネルギーの経済性が極端に悪化するなどして、円滑な利用ができなくなることは避けなければなりません。

現代社会の機能維持に不可欠なエネルギーは、企業や家庭などの最終需用者に利用されるまでに、国境を越えて「生産(調達)」、「流通」、「消費」といった複雑かつ長いエネルギーチェーンを経る必要があります。また、各段階の横断的要素として、「技術開発」も必要となります。

①生産(調達)

エネルギーの利用に当たってはまず、資源の採掘や発電といった生産活動が試みられることになります。

生産活動を行うに当たっては、生産活動を行う許可が得られることが前提となります。また、資源の採掘等に当たって、自然災害や事故、テロ事件が発生した場合などには、商業生産が進まなくなることがあります。

次に、生産が行われているエネルギー資源を調達する場合、資源の生産国が輸出を許可することが必要になります。エネルギー自給率の低い我が国にとっては、非常に重要な段階です。

国際情勢や国内情勢の変化により、生産国における政策変更が生じた場合には、エネルギー源の輸入に支障を来すことが起こり得ます。輸出の停滞は、生産国の外交政策に起因するもののみならず、生産国におけるエネルギー資源の需要増加や資源の枯渇といった理由によっても生起することがあります。

資源が無事に輸出された場合であっても、輸入国まで確実に輸送されることが必要です。周囲を海で囲まれており、資源供給国と物理的に離れている場合が多い我が国にとっては、これも非常に重要な段階です。

国際紛争や沿岸国の政策によって輸送路上のチョークポイントを通航できなくなった場合や、輸送路上で海賊による襲撃等があった場合などには、エネルギー源を円滑に輸入することができなくなります。こうした輸送路上のトラブルは、海上輸送のみならずパイプライン等を使った陸上輸送でも起こり得るため、それに備える必要もあります。

②流通

エネルギーが無事に商業生産あるいは輸入ができた後は、国内の消費者に対し、しっかりと供給されることが必要です。

国内でエネルギーを流通させるに当たって、必要となるインフラ設備に不備があった場合、自然災害によりインフラ設備が破壊された場合などには、必要なエネルギーが行き届かなくなるため、それに備える必要があります。

③消費

エネルギーが物理的に消費者や企業に届けられる場合でも、原油価格の高騰などにより低廉な価格での調達・供給ができない時には、経済活動や個々の家計に対して悪影響を及ぼすことがあります。また、各エネルギー源について、CO2排出等の環境への負荷をできるだけ低減させていくべきであることは言うまでもありません。

④技術開発

資源等を開発し、エネルギーを取り出すためには、それを可能にする技術の開発が必要です。例えば、資源の採掘・利用技術や電気エネルギーに変換するための発電設備の開発、省エネや環境負荷を軽減する技術の開発などです。

これらの技術開発は、長期間にわたって相応の資金と人材を投入することにより、技術的制約の克服が可能になります。

実際にエネルギーが利用されるまでには、エネルギー源ごとに、それぞれたくさんの段階を経る必要があります。そしてその各段階には、それぞれ様々な課題があり、それに対応していくことが求められます。こうしたグローバルなエネルギーチェーンをなすエネルギーの各プロセスの中で、どれか一つでも問題が発生すると、安定かつ低廉なエネルギーが最終需要者に届かなくなる恐れがあります。

人類の発展とともに歩んできたエネルギーの開発利用の歴史には、エネルギーチェーンの至る所で顕在化した課題とその対応策の事例が豊富に存在しています。責任あるエネルギー政策を構築する上では、このような過去の事実から学び得られる知見をしっかりと踏まえることが必要と考えられます。

【第111-3-1】 エネルギーチェーンと課題

【第111-3-1】 エネルギーチェーンと課題

4.エネルギーに係るリスク低減のために

これまで述べてきたとおり、現代社会においては低廉なエネルギーが潤沢に供給され続けることが、社会が機能する上での大前提となっています。社会の機能を維持するためには、適切なエネルギー政策を行うことでエネルギーに係るリスクを全体として低減化しておくことが必要不可欠です。

特に我が国は、資源小国であるため自国内で利用可能なエネルギー源をまかなうことが非常に困難であり、また、国境を越えて送電線やパイプライン等を整備してエネルギーを近隣諸国と融通し合うことも容易ではありません。その点で、欧米諸国等とは置かれている状況が異なり、我が国はこれらの国々と比べてもより厳しいエネルギー環境に置かれていると言えます。

その反面、我が国は従来から厳しいエネルギー環境に置かれているが故に、エネルギー関連技術の開発には長年注力をしてきました。そのため、エネルギー関連技術については、諸外国をリードし得る能力を持っていると評価できるでしょう。

そこで本章においては、このような「技術立国として多くの優れたエネルギー技術を有する一方で、四方を海に囲まれ、天然資源に乏しい」という我が国の特性も踏まえながら、エネルギーチェーンの各段階において過去にどのような課題が発生し、そして各国はどのような対策を重ねることでその課題に対応してきたのか、世界の事例を収集し検証します。その上で、これらの事例に照らして、これからの我が国の責任あるエネルギー政策を構築する上で重要となる視座を抽出し、今後の議論の一助とすることとします。

【第111-4-1】 各国のエネルギー自給率の比較(2010年)

【第111-4-1】 各国のエネルギー自給率の比較(2010年)

(出典)
IEA "Energy Balance of OECD Countries 2012"
IEA "Energy Balance of Non-OECD Countries 2012"
1
本白書に記載されている地図は、我が国の領土を網羅的に記したものではありません。
2
「流体革命」とは、1950年代に中東やアフリカに相次いで大油田が発見されたことを契機として、石炭に替わって石油が交通機関、暖房用、火力発電等の燃料などとして使用されるようになり、エネルギーの主役が石炭から石油に移行したことを言います。