第3節 緊急時対応能力の充実

1.我が国の備蓄システム

1973年に発生した第一次オイルショックに対応し、国は緊急石油対策推進本部(後に、国民生活安定緊急対策本部に改組)を設けるとともに「石油緊急対策要綱」を閣議決定し、全国民的な消費節約運動の展開、石油・電力の使用節減に関する行政指導等を行い、事態の収拾に努めました。更に、これと並行して緊急時における石油の安定供給等に関する立法作業が進められ、同年12月には、いわゆる「緊急時二法」と呼ばれる「石油需給適正化法」と「国民生活安定緊急措置法」が制定されました。

また、国際的には、1974年にアメリカの呼びかけにより我が国を含む主要石油消費国の間で「エネルギー調整グループ(ECG)」が結成されました。同年、同グループにより「国際エネルギー計画(IEP)」協定が採択され、「国際エネルギー機関(IEA)」が経済協力開発機構(OECD)の下部機関として設置されました。

IEP は、加盟国の緊急時におけるエネルギーの自給力確立のため、前暦年の平均純輸入量の90日分の備蓄義務と、消費削減措置付きの緊急時石油融通制度を規定しています。この規定に基づき、1970年代の二度のオイルショックに対応して、IEA 加盟国を中心に石油備蓄の増強が図られました。特に、国家備蓄(日本他)、協会備蓄(ドイツ、フランス他)等公的な石油備蓄の増強が1980年代に図られました。これらにより、IEA 加盟国では、2011年度末現在で、加盟国(純輸入国に限る)平均138日の石油備蓄を保有していました。

2.石油備蓄の拡大整備と利用システムの充実

前述のように、IEPは、加盟国の緊急時におけるエネルギーの自給力確立のため、前暦年の純輸入量の90日分の備蓄を義務付けています。我が国においても、1975年に備蓄法を制定し、民間石油会社に石油の備蓄を義務付けるとともに「90日備蓄増強計画」を策定し、1981年度末には石油会社は90日分の備蓄目標を達成しました。更に1978年には国家備蓄も法制化し、1978年9月からタンカーによる国家石油備蓄を開始しました。

1979年の第二次オイルショックの際には、既に我が国は、「1980年3月末90日分」の石油備蓄目標に向かって、1975年から民間備蓄の増強を開始していました。

1990年8月、イラク軍がクウェートに侵攻することに端を発した湾岸危機の際も、我が国を含む消費国は、二度のオイルショックを経験していたため冷静な対応をとることができ、大きな混乱はありませんでした。我が国もこの頃には、民間備蓄・国家備蓄を合わせて約140日分(備蓄法ベース)の石油備蓄を持つに至っており、国家備蓄目標である5,000万klも1998年に達成しました(第323-2-1)。この過程で、国家備蓄の増強と同時に、民間備蓄の軽減を進め、1989年度から民間備蓄義務日数を90日分から毎年4日分軽減し、1993年度からは70日体制となりました。

【第323-2-1】日本の石油備蓄の整備拡大と石油備蓄日数の推移

【第323-2-1】日本の石油備蓄の整備拡大と石油備蓄日数の推移

(注)
石油備蓄量は年度末実績。民間備蓄、国家備蓄とも製品換算後ベース。
(出所)
資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」をもとに作成

2005年8月末にハリケーン「カトリーナ」によるアメリカ国内の石油施設等の被害が発生し、アメリカ国内の原油や石油製品不足、並びにこれに起因する世界及び我が国の石油市場への悪影響が懸念されましたが、これらを未然に防止する観点から、IEA加盟国と協調し、2005年9月7日から備蓄法に基づく民間備蓄義務日数を70日から67日に3日分引き下げ、民間備蓄石油の放出を行いました。この結果、同年10月8日の段階で我が国の放出分担量(約116万kl)を達成し、石油市場の安定化に貢献しました。なお、2005年12月26日にIEAが協調放出の終了を公表したことから、我が国においても2006年1月5日から基準備蓄量を70日に戻しました。

なお、現在、国家備蓄石油と国家備蓄基地施設を保有する国が、それらの管理をJOGMECに委託し、JOGMECが操業サービス会社に基地操業等を委託し、統合管理しています。

3.LPガスの備蓄

LPガスは、我が国の最終エネルギー消費の約5%を占める国民生活に密着した重要なエネルギーですが、供給面では、供給の約75%を輸入に依存し、輸入の約86%を中東に依存するという供給構造となっているため、安定供給の確保が課題となっています。

1970年代後半、サウジアラビアのアブカイクのプラント事故による2ヶ月にわたる輸入量の激減、第二次オイルショックへの対応等を経て、LPガスの輸入が一定の期間でも途絶または大幅に減少した場合、国民生活及び国民経済に与える影響が大きいとの認識が深まりました。

このため、国は1981年度に石油備蓄法を改正し、LPガス輸入会社に年間輸入量の50日分に相当する備蓄を義務付け、1988年度末に目標の50日備蓄を達成しました。

2011年度末現在、我が国では約56日分の民間備蓄LP ガスを保有していました。また、民間備蓄に加え、国家備蓄についても150万トンを達成することを目標として、全国5カ所で備蓄基地の整備を進めており、このうちの3基地(七尾、福島、神栖)については2005年度中に完成し、2008年度には備蓄が終了しました。2011年度末現在約20日分の国家備蓄LP ガスを保有していました(第323-3-1)。

【第323-3-1】LPガスの国家備蓄と民間備蓄日数の推移

【第323-3-1】LPガスの国家備蓄と民間備蓄日数の推移

(出所)
資源エネルギー庁「LPガス備蓄の現況」年度末(3月)時点をもとに作成

4.レアメタルの国家備蓄制度の構築

レアメタルについても、偏在性が高く、我が国産業界のハイテク製品製造に不可欠な物資となっており、供給国の偏りが著しく、代替が困難で、短期的な供給障害に備える必要があるものについては、備蓄を着実に推進していくことが必要です。このため、生産国の状況、技術進歩、使用される製品の動向等を注視し、備蓄目標の設定を行い、機動的な積み増しや放出が可能な国家備蓄制度を構築してきました。

5.2011(平成23)年度において緊急時対応の充実・強化に関して講じた施策

(1)国家備蓄の維持管理

国家石油備蓄(98,327百万円)

約5,050万klにおよぶ国家備蓄石油及び国内10カ所の国家備蓄基地について、国から委託を受けたJOGMECが一元的に管理を行い、緊急時における国家備蓄石油の機動的な活用が可能な体制を維持すべく、緊急放出訓練等の事業を行いました。

また、産油国(アブダビ首長国、サウジアラビア王国)の原油を我が国に貯蔵し、緊急時に当該原油の優先供給を受けることができる産油国共同備蓄プロジェクト事業を実施しました。

国家石油ガス備蓄(26,905百万円)

石油ガスの安定供給確保の観点から150万トンの国家備蓄を達成すべく、国家備蓄基地の建設等を行いました。国家備蓄基地は、茨城県神栖市、石川県七尾市、岡山県倉敷市、愛媛県今治市、長崎県松浦市の国内5カ所において整備を進めており、このうちの地上3基地が2005年中に完成しました。残る2基地の着実な工事の進展を図るとともに、完成後の基地の管理業務委託を行いました。なお、基地建設については、国家備蓄事業の実施体制の変更に伴い、基地建設に係る権利義務を従来の石油ガス国家備蓄会社から石油公団へ承継した後、JOGMECに承継するとともに、国からの委託事業として実施しました。

(2)民間備蓄の維持推進

備蓄石油・石油ガス購入資金に係る利子補給(3,084百万円)

備蓄法に基づき、石油精製業者、石油販売業者、石油輸入業者、石油ガス輸入業者に対して備蓄義務(石油:70日、石油ガス:50日)を課していますが、当該備蓄義務はこれらの民間企業に対して膨大なコスト負担を強いるものであることから、JOGMECが備蓄石油・石油ガス購入資金の低利融資を行っており、所要の貸付規模を維持するとともに、借入金にかかる利子負担の軽減を図るべく、貸付を受けた企業に対して国が利子補給を行いました。

6.輸送部門のエネルギーの多様化の推進

(1)オイルショックを契機としたエネルギー源の多様化の動き

1979年の第二次オイルショックの発生は、石油代替エネルギーの導入の促進にエネルギー政策の重点が置かれる契機ともなりました。このような状況を背景に、石油代替エネルギーへの転換を加速し、我が国の石油依存度の低減を図ってきました。さらに、近年、原油のみならず化石燃料全般の価格が乱高下していて、また、低炭素社会の実現が目指されている中、中長期的にエネルギー供給構造を高度化していくことが必要であることから、中長期的かつ継続的な取組を早急に開始するため、2009年7月に「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)」及び「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。また、原油価格が大幅に高騰したことから、石油代替エネルギーの導入に大きな経済性が生まれたことも一因となり、1973年に77%であった石油依存度は、2009年度には45.2%まで下がっていて、エネルギー源の多様化が進んだことが分かります。特に、エネルギー源の多様化は、発電分野で著しく、発電電力量でみると、1973年に71.4%であった石油火力の割合は、2009年度にはわずか6.1%まで低下し、その代わりに原子力や天然ガスの割合が大幅に増加しました。しかしながら、運輸部門においては、未だにガソリン等石油系燃料が98.1%を占めており、運輸部門におけるエネルギー源の多様化は重要課題の一つといえました。

7.2011(平成23)年度において運輸部門のエネルギーの多様化の推進に関して講じた施策

(1)揮発油等の品質の確保等に関する法律の改正

(再掲 第2章第2節1.(2)② 参照)

(2)バイオ燃料の導入支援

バイオ燃料導入加速化支援対策費補助金(890百万円)

エネルギー供給構造高度化法におけるバイオ燃料の導入目標を達成し、バイオ燃料の円滑な導入を促進するために、石油精製業者に対し、必要となるインフラ(バイオ燃料の混合設備等)整備支援を行いました。

(3)バイオ由来燃料税制の整備及び施行

バイオ燃料の導入を加速化するため、バイオエタノール又はETBEを混合したガソリンについて、その混合分に係るガソリン税(揮発油税及び地方揮発油税)を免税する措置を講じました(2009年2月25日より2013年3月31日までの間)。当該措置により、バイオエタノールの混合分の税額(1lにつき最大約1.6円)が軽減されました。

また、ETBE のうちバイオマスから製造したエタノールを原料として製造したものに係る関税率3.1%を2010年度に引き続き暫定的に1年間無税とする措置を講じました。

(4)バイオ燃料製造設備に係る固定資産税の軽減措置

農林漁業由来のバイオマスを活用した国産バイオ燃料の生産拡大を図るため、「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原材料としての利用の促進に関する法律(農林漁業バイオ燃料法)」に基づく生産製造連携事業計画に従って新設されたバイオ燃料製造設備(エタノール、脂肪酸メチルエステル(ディーゼル燃料)、ガス、木質固形燃料の各製造設備)に係る固定資産税の課税標準額を3年間2分の1に軽減する措置を講じました(農林漁業バイオ燃料法施行日(2008年10月1日)より2012年3月31日までの間)。

(5)「バイオマス事業化戦略検討チーム」の設置

2012年2月に、バイオマス利用技術の到達レベルの横断的な評価と事業化に向けた戦略の検討を行うため、バイオマス活用推進会議の下に「バイオマス事業化戦略検討チーム」を設置しました。

(6)バイオマスエネルギーの技術開発・実証段階の取組

戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業(1,576百万円)

2030年頃の実用化を見据え、より効果的なバイオ燃料製造手法であるバイオマスのガス化及び液体化手法の開発や、微細藻類由来のバイオ燃料製造技術等の次世代技術開発を実施するとともに、バイオガスをガス導管に注入してバイオマスの活用の幅を広げる等の実用化技術開発を実施しました。

セルロース系エタノール革新的生産システム開発(2,424百万円)

セルロース系バイオマスからバイオ燃料等を高効率で製造する革新的技術の研究開発を実施しました。

セルロース系エタノール革新的生産システム開発(1,900百万円)

経済的かつ安定的な実用化レベルのバイオエタノール生産拡大モデル構築を目指し、食料と競合しないセルロース系資源作物の栽培から、バイオエタノールの製造に至る、革新的技術を用いた一貫生産システムの開発を行いました。

バイオ燃料導入加速化事業(2,355百万円)

近畿圏、首都圏及び沖縄県宮古島において、廃木材やサトウキビの廃糖蜜等の、食料と競合しないバイオマスから製造したバイオエタノールを用いて、輸送用バイオ燃料の導入拡大に向けた大規模実証を行いました。

地球温暖化対策技術開発事業(6,200百万円の内数)

多様な木質系廃棄物等のセルロース系バイオマスから省エネルギーかつ低コストでバイオ燃料を製造する技術の開発等を実施しました。

地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発(940百万円の内数)

国産バイオマスエネルギーの利用促進を図り、地域の活性化に貢献するため、食料供給と両立する低コスト・高効率なバイオマス利用技術の開発を実施しました。

(7)燃料電池/水素エネルギー利用技術開発等

(後掲 第3章第1節2.(5) 参照)

(8)クリーンエネルギー自動車の導入促進

(後掲 第5章2.(3)①(カ) 参照)

(9)天然ガス利用技術(ガス・トゥ・リキッド(GTL))

ガス体エネルギーに関する技術のうち、GTL については、その製造・利用等を促進するため、2011年度には以下の施策を実施しました。

石油・天然ガス開発・利用促進型大型・特別研究

(後掲 第7章3.(6)① 参照)

天然ガスの液体燃料化(GTL)技術実証研究

(後掲 第7章3.(6)② 参照)