第6節 原子力被災者支援

東京電力福島第一原子力発電所事故では、政府による避難、屋内退避の指示等により、多数の居住者等が、避難その他の行動を余儀なくされ、あるいは、事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等、東京電力福島第一原子力発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました。
 2011年3月29日には、原子力被災者への生活支援を強化するため、原子力災害対策本部の下に原子力被災者生活支援チームが設置され、避難受入れ態勢の確保、除染体制の確保、被災地への物資等の輸送・補給、被ばくに係る医療の確保、環境モニタリングと正確・迅速な情報提供等を行ってきました。同年5月17日には、原子力災害対策本部は「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」を策定・公表し、これらに基づき、応急仮設住宅の確保、計画的避難の実施、住民の健康管理、がれき・汚泥の処理や、放射線量等分布マップの作成、農地土壌の除染技術開発に関する実証試験の実施等の取組を行ってきたところです。
 2012年2月10日には、福島の復興・再生に関する施策を総合的に策定し継続的、迅速に実施するための組織として、復興庁が設置され、生活再建策(賠償、長期避難者支援、自治体ごとの帰還支援)、産業振興及び雇用対策、放射線対策等(リスクコミュニケーション、モニタリング、除染、区域見直し)等につき、関係省庁と連携して被災者支援をより一層推進するための体制が整備されました。また、同年3月30日には「福島復興再生特別措置法」が成立し、同年4月5日には2012度予算として、復興経費3兆7754億円が計上される等、法制度及び予算の側面からも被災者支援を推進するための施策が講じられています。

【第136-1-1】これまでの規制体制と新しい規制体制

【第136-1-1】これまでの規制体制と新しい規制体制

1.避難指示区域等の設定経緯

2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により、東京電力の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所において、原子力緊急事態が発生しました。これを受けて、同日、政府は、原子力緊急事態宣言を発出するとともに、原子力災害対策本部を設置しました。
 事故の発生以降、事故の深刻化に伴い住民に避難を求める区域を順次拡大し、翌12日に、原子力災害対策本部長は、福島県知事及び関係市町村長に対し、東京電力福島第一原子力発電所から半径20km 圏内の住民等の避難を指示しました。また、同月15日には、東京電力福島第一原子力発電所から半径20km から30km 圏内の居住者等の屋内退避を指示しました。(第136-3-2)
 更に、同年4月21日には、引き続き東京電力福島第一原子力発電所が不安定な状態であることに鑑み、同発電所の半径20km 圏内について、住民等の避難を徹底し、生命または身体に対する危険を防止するため、原子力災害対策本部長は、福島県知事及び関係市町村長に対し、同区域を警戒区域に設定することを指示しました。翌22日の午前0時、警戒区域が設定され、緊急事態応急対策に従事する者以外の者は、市町村長の許可なく同区域に立ち入ることができなくなり、この立入制限を徹底するため、警戒区域境界に物理的な立入り制限の措置が講じられることとなりました。
 また、環境モニタリングにおいて、東京電力福島第一原子力発電所の半径20km 以遠において積算線量が高い地域が確認されたことから、同年4月22日、原子力災害対策本部長は、福島県知事及び関係市町村長に対し、事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSv に達するおそれのある区域を計画的避難区域に設定し、居住者等を計画的に避難させるよう指示しました。
 同時に、東京電力福島第一原子力発電所から半径20km から30km の区域については、屋内退避の指示を解除し、今後なお、緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない区域(概ね東京電力福島第一原子力発電所から半径20km から30km の区域に相当)について、原子力災害対策本部長は、福島県知事及び関係市町村長に対し、当該区域を緊急時避難準備区域に設定し、居住者等に避難または屋内退避の準備をさせるよう指示しました。

【第136-2-1】避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

【第136-2-1】避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

2.避難指示区域等の見直し

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い設定された避難指示区域及び警戒区域等は、原子力発電所の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下等を踏まえ、区域の見直しを実施することとなりました。
 2011年8月9日、原子力災害対策本部は、緊急時避難準備区域について、原子力発電所の安全性評価(水素爆発が生じたり、原子炉等の冷却ができなくなる可能性が低くなっていること、仮に注水が中断した場合でも、発電所から20km 以遠において受ける放射線影響が十分小さいこと等)、区域内における放射線量の詳細なモニタリングの結果(学校等をはじめとする主要ポイントの周辺を含む測定をしたほとんどの地点で空間線量が十分低いことが確認されたこと)及び公的サービス・インフラ等の復旧のめどが立ったことを踏まえ、同区域を解除することを決定しました。
 関係市町村は、当該方針に基づき、住民の円滑な移転支援、学校、医療施設等の公的サービスの再開、公的インフラの復旧、学校グラウンド・園庭等の除染を含む実情に応じた「復旧計画」を策定しました。これを受け、原子力災害対策本部は、同年9月30日に緊急時避難準備区域を一括して解除することを決定し、原子力災害対策本部長から、福島県知事及び関係市町村長に、その旨指示しました。
 2011年12月26日、原子力災害対策本部は、「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を受けて、東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ、警戒区域(原子力発電所から半径20km の区域)については、インフラ等の安全確認・応急復旧を行うとともに,防災・防犯対策等について関係者間で十分に調整を図った上で、解除することを決定しました。また、避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については,関係者と協議した上で、放射線量を基準として、以下の三つの区域に見直すことを決定しました。

① 避難指示解除準備区域
 年間積算線量が20mSv 以下となることが確実であることが確認された区域。同区域においては、引き続き避難指示は継続されることとなりますが、除染、インフラ復旧、雇用対策等の復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民の一日でも早い帰還を目指します。
② 居住制限区域
 年間積算線量が20mSv を超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域。同区域においては、将来的に住民が帰還し、コミュニティを再建することを目指し、除染やインフラ復旧等を計画的に実施します。
③ 帰還困難区域
 5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある、現時点で年間積算線量が50mSv 超の区域。同区域は将来にわたって居住を制限することを原則とし、同区域の設定は5年間固定します。
 当該方針に基づき、区域見直しに係る協議が整った市町村について区域見直しを実施しています(第136-2-1 2012年7月31日現在)。

3.警戒区域への一時立入り

2011年4月22日午前0時、東京電力福島第一原子力発電所から半径20km 圏内は警戒区域に設定され、当該区域への立入りが制限されることとなりました。他方で、着の身着のままで避難を余儀なくされた住民から、自宅への一時立入り等に係る強い要望が寄せられました。これを受け、立入りを行う住民の安全確保を大前提に同年5月10日から当該区域への一時立入りを実施することとなりました。これまで、四巡目までの一時立入りを実施し、延べ約73,370世帯、約162,002人(2012年7月末日現在)の住民が立入りを行っています。
 一巡目は、バスによる集団での立入り方式のみにより実施していましたが、持ち出せる荷物の量が少ない、待ち時間が長いといった要望が寄せられました。二巡目からは住民からのこうした要望等を踏まえ、バス方式と併せて、マイカーによる一時立入りを可能としました。
 更に、三巡目からは、立入りを行う住民の利便性を高めること等を目的として、住民が車から降りることなく受付を行うドライブスルー方式の導入の他、自宅以外の場所への一時立入り(墓参りのための立入り等)や引っ越し業者等の帯同を認める等の改善を行いました。
 加えて、四巡目からは、それまで市町村が行っていた立入り日の調整等を、新たに設置するコールセンターにおいて行うこととし、これまで以上にスムーズな受付が可能となりました。
 五巡目以降についても、住民の安全確保を大前提として、立入りを行う住民の負担の少ない方法で立入りが可能となる体制の構築を目指しています。

【第136-3-1】警戒区域への一時立ち入り

【第136-3-1】警戒区域への一時立ち入り

【第136-3-1】警戒区域への一時立ち入り

4.除染の実施

東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じており、これによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっています。こうした状況を踏まえ、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」)が可決・成立し、2011年8月30日に公布されました。
 同年11月11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」を閣議決定し、環境の汚染の状況についての監視・測定、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理、土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ、関係者の連携の下、事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるよう、また、復興の取組が加速されるよう、同方針に基づき取り組むこととしています。
 除染の実施に当たり、同年11月以降、警戒区域や計画的避難区域等において、除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のための除染モデル実証事業等を実施し、その成果を2012年6月に公表しました。また、2011年12月以降は、自衛隊等による除染活動の拠点となる施設(役場、公民館等)や、除染を行う地域にアクセスする道路及び除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に、先行的な除染を実施しています。
 放射性物質汚染対処特措法に基づき、国が除染を実施する除染特別地域においては、市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており、一時保管場所の確保や除染業務の発注に必要な情報が整った市町村について、特別地域内除染実施計画に基づき、本格除染の実施を開始しています。また、市町村が中心となって除染を実施する除染実施区域においては、市町村が除染実施計画を策定し、除染事業を進めることとされており、現在、各地で除染事業の取組が進められています。
 環境省においては、放射性物質汚染対処特措法が2012年1月に全面施行されたことに伴い、福島県等における除染を推進するために、福島環境再生事務所を開所し、体制の整備を行いました。更に、福島県及び環境省では、除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに、除染のボランティア活動等の関連情報の収集・発信を行うための拠点として、国、福島県、関係機関、関係団体等の連携を図る除染情報プラザを設置しました。

5.健康管理調査の支援等

(1)福島県民健康管理調査事業の支援

福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため、国では、平成23年度(2011年度)第二次補正予算により、福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出し全面的に県を支援しています。福島県では、この基金を活用して、全県民を対象に県民健康管理調査を実施し、被ばく線量の把握や健康状態を把握するための健康診査等を行うこととしています。特に、震災時点で18才以下であった全ての方を対象に甲状腺の超音波検査を実施しています。この他に、ホールボディカウンターによる検査や、中学生以下の子ども及び妊婦に対する個人線量計(ガラスバッジ等)の貸与などを実施しています。

(2)原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプランの推進

東京電力福島第一原発事故の被災者をはじめとする国民が抱える放射線による健康不安については、これまでも様々な取組を講じてきましたが、
 ①今般の被災者等の不安を十分に踏まえた情報発信としていたか(平易な用語の使用等)
 ②専門家等からの一方的な情報発信に偏り、不安を感じている被災者等との双方向のコミュニケーションが不足していなかったか
 ③不安解消のためのコミュニケーションを行う人や場(拠点を含む)が十分に確保されていたかといった問題により、依然として不安を十分に解消できていない状況です。

 関係省庁等がこうした問題意識を共有した上で、必要となる施策の全体像を明らかにし、政府一丸となって健康不安対策の確実な実施に取り組むべく、2012年4月20日に、環境大臣を議長とする原子力被災者等の健康不安対策調整会議を設置し、同年5月31日にアクションプランを策定しました。
 重点施策として、
 ①関係者の連携、共通理解の醸成
 ②放射線による健康影響等に係る人材育成、国民とのコミュニケーション
 ③放射線影響等に係る拠点等の整備、連携強化
 ④国際的な連携の強化
の4つを掲げており、本取組を確実かつ計画的に実行していくこととしています。