第3節 電気料金制度の見直し

1.現行の電気料金制度の問題点と見直しに至る経緯

2011年3月の東日本大震災発生以降、電力需給のひっ迫や原子力損害賠償、燃料コスト増による電力コスト上昇懸念等、電気事業をとりまく状況は大きく変化しました。こうした中、東京電力による原子力損害賠償の支援スキームの策定に際し、国民負担の最小化と電力の安定供給確保のため設置された「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の報告書(2011年10月公表)においても、現行の電気料金制度とその運用について問題点が指摘されました。
 現行の制度は、競争による経営効率化の効果を規制分野の需要家に機動的に還元するという観点から、「値下げ届出制」を採用しています。
 これは、①事業者間のサービス向上競争の促進、②経営効率化分の自主的な内部留保による財務体質の強化を目的に、③経営効率化分の配分に対する説明責任を前提として導入されていたものですが、他方で、値下げの届出改定では、行政は事前に原価査定を行わないため、値下げ幅について、事業者による効率化によるものか、過去の届出原価の見積もりが過大であったこと等によるものなのかが明らかではないという問題がありました。
 このため、原価の適正性が確保されていないのではないか、また、原価の中に電気の安定供給に必要なもの以外の費用が含まれているのではないか、といった指摘が当該報告書においてなされることとなりました。

2.電気料金制度見直しの内容

こうした現行制度とその運用への指摘を踏まえ、2011年には「電気料金制度・運用の見直しに関する有識者会議」が開催され、規制料金として行政による原価の適正性確保と事業者の経営効率化インセンティブをどのようにバランスさせるか、その際に、どのような費用について、どのような水準までを適正な原価と考えるか、対外的な説明責任をどのように確保するのか、といった観点から、現行の総括原価方式に基づく電気料金制度下において実施すべきものを中心に検討が行われました。公開で行われた計6回の議論とパブリックコメントを経て2012年3月に報告書がとりまとめられました。報告書で示された基本的な考え方は以下の通りです。
 (1)値上げ認可時の査定においては原価の厳格な査定を行う一方、値下げ届出時や事業評価においては事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底。
 (2)事業に要する費用全ての回収を認めるのではなく、あるべき適正な費用のみの回収を認めることを徹底。  (3)一般電気事業者が自らの供給力のみに依存する安定供給確保から、他社供給力や需要側の取組も活用した安定供給確保に転換することを促す。

<報告書の概要>
(1)原価の適正性の確保
 値上げ認可時には、広告宣伝費、寄付金、団体費については原価算入を認めない。また、人件費、修繕費等についてはメルクマール等により査定。
 ※人件費の例:一般企業の平均値を基本に、他の公益企業の平均値とも比較
(2)新しい火力入札
 火力電源を自社で新設・増設・リプレースする場合は、原則全て入札。
(3)公正かつ適正な事業報酬
 正当な理由なく著しく低い稼働率となっている設備はレートベース対象資産(事業報酬の算定の基礎となる資産)の対象外。
(4)原価算定期間及び電源構成変動への対応
 経営効率化を織り込む等の観点から認可時は3年を原則。また、原価算定期間内に電源構成が大きく変動した場合には、変動分のみを料金に反映。
(5)託送料金(※送配電線の利用料)の適正化
 託送料金について第三者が適切性・妥当性を確認。
(6)デマンド・レスポンス料金とスマートメーターの導入
 時間帯別料金の多様化や三段階料金の見直し、季節別料金の導入等の検討、スマートメーターの導入に当たっては入札を原則。
(7)事後評価
 原価算定期間終了後には、原価と実績値、算定期間終了後の収支見通し、利益の使途等について評価。

 以上の報告書の内容を踏まえ、一般電気事業供給約款料金算定規則、一般電気事業供給約款料金審査要領、電気料金情報公開ガイドライン等を2012年3月に改正しました。

3.東京電力の電気料金値上げに係る認可申請について

2012年5月11日に東京電力から経済産業大臣に対し電気事業法第19条第1項の規定に基づき、電気料金を平均10.28%引き上げる(値上げ)等の供給約款変更認可申請(以下「料金認可申請」という)が提出されました。
 東京電力は料金原価について合理化の実施により年平均2,785億円の削減を行ったものの、燃料費を中心として大幅な増加が避けられず、収支不足額が年平均6,763億円となり、赤字構造の早急な改善に向け値上げ認可申請がなされました。
 経済産業省においては、電気料金認可プロセスに外部専門家の知見を取り入れ、専門的かつ中立的・客観的な観点から料金査定方針等の検討を行う観点から、「総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会」(以下「委員会」という)を設置しました(委員長:安念潤司 中央大学法科大学院教授、委員長代理:山内弘隆 一橋大学大学院商学研究科 教授)。
 2012年5月15日の第1回委員会以降、委員会は、東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請について、個別の原価にも踏み込んだ検討を含め、計10回の審議を行いました。開催に当たっては、審議の透明性を高めるため、委員会の審議は、議事内容、配布資料を含め、全て公開形式で開催されました。
 また、料金認可申請が東京電力管内を中心に広く社会経済に影響を及ぼす事案であることに鑑み、広く一般の意見を聴取するため、第1回委員会においては、自治体、消費者団体、中小企業団体関係者を招き、意見を聴取しました。また、2012年6月7日に東京、6月9日にさいたま市で、電気事業法第108条に基づく公聴会を実施し、国民から広く意見の聴取を行いました。更に、公聴会において、委員会の委員も消費者からの生の声を聞くべきとの意見があったことを受けて、第8回委員会において、消費者団体を公募の上、意見を聴取しました。更に、インターネットを通じた意見募集である「国民の声」や、公聴会に寄せられた意見が経済産業省から報告され、随時の論議に反映されました。加えて、第1回から第10回の全てにおいて、消費者団体、消費者庁からオブザーバーとしての参加を得て、活発に議論が行われました。
 2012年6月12日の第5回委員会以降、委員が2人1組となり、担当分野につき査定方針を検討しました。その結果が第9回委員会において各担当委員から報告され、2012年7月5日の第10回委員会において、委員会としての査定方針案が取りまとめられ、同日、経済産業大臣に提出されました。
 なお、委員会は、経済産業大臣から付託されたミッションに基づき、電気事業法及び同法に基づく規則、一般電気事業供給約款審査要領(以下「審査要領」という)、「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って、査定方針案を中立的・客観的かつ専門的な見地から検討しました。
 委員会でとりまとめられた査定方針案をもって経済産業省は消費者庁と協議を行い、2012年7月12日には、経済産業大臣と消費者担当大臣との間で、電気の安定供給や、原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施の確保に支障を来さないことを前提に、消費者の目線や他の公的資金投入企業の事例を踏まえ、徹底的な経営合理化を図るものとするとの認識で一致し、7月19日に協議が整いました。これを受け、経済産業省としての査定方針を策定し、7月20日に物価問題に関する関係閣僚会議の了承を得ました。なお、具体的な査定方針の主な内容としては、以下の通りです。
(1)人件費について、料金原価算定期間各年における管理職職員の年収を震災前と比べて3割超引き下げ、3年間の全社員の平均年収で見ても、近年の公的資金投入企業(最大23.62%)のいずれをも上回る削減率(23.68%)とすることにより、約90億円の減額。
(2)調達等について、総合特別事業計画に基づき、修繕費・委託費について既に10%削減した上で料金認可申請がなされているが、それ以外の費用項目も含む随意契約について、原則10%削減を求め、未達成分を減額するとともに、子会社・関連会社との随意契約取引について更なる深掘りを行うことにより約100億の原価の削減。
(3)燃料費について、各火力発電所の燃料使用量を、発電所の発電効率等を踏まえてより一層の効率化配分を徹底することにより、相対的に燃料費の高い石油系火力発電所の燃料使用量を抑制していることを確認するとともに、原価算定期間中に価格の更新時期を迎えるLNG のプロジェクトのうち、近時の値上がり傾向の市況を踏まえ値上げを織り込んでいるものについて、東京電力の交渉努力を先取りする形で直近実績レベルまで原価を減額する等により、約120億円の原価の削減。
(4)福島第一原子力発電所5、6号機に係る安定化維持費用及び賠償関連費用について、事故直後に特別損失として認識し処理した費用(約9,000億円)は、2011年度末までに特別損失で計上されており、これ以外に新たに必要となる経費のうち、資本的支出(設備投資)が生じた場合、当該設備は将来の収益を生むものではなく、資産性が認められないため、会計上、資産価値が特別損失処理され減価償却費が発生しないことから、申請原価に含まれていない。
 他方で、資本的支出以外の経常的に発生する費用である費用及び、賠償に関する受付や業務フロー作成等の委託費をはじめとする賠償対応費用について、こうした費用が原価算入されない場合、東京電力としての原子炉廃止措置、賠償といった責務が果たせなくなるとともに、国民全体の負担に依らざるを得なくなるため、東京電力が採用するADR 弁護士費用は控除する等、厳に必要な費用に限った上で、原価へ算入。
 また、事故に伴い発生した賠償支払額そのものは、原子力損害賠償支援機構法の枠組に基づき、原子力損害賠償支援機構から東京電力に対し、国の交付国債を原資とする資金援助が行われていることから、料金原価に含まれない。
(5)事業報酬の算定に当たっては、震災後の経営リスクを踏まえ、2011年3月11日から申請日前日の2012年5月10日までの期間の9電力会社平均の経営リスクに係る指標に基づいて算定を行い、約93億円の原価の削減。
 2012年7月25日に東京電力より提出された申請内容の修正が、査定方針通りであることが確認できたため、電気事業法第19条に基づき経済産業大臣が認可を行い、最終的な値上げ幅は、平均8.46%となりました。
 なお、消費者への十分な周知を図るために、東京電力の値上げの実施時期を2012年9月1日としました。