第1節 原油価格騰落の要因分析

1.原油価格騰落の要因と経緯

原油価格はなぜこれほど大きく変動したのでしょうか。その理由を探るためには、まず今日の価格指標となっている原油先物価格がどのような要因によって決定されるのか考える必要があります。

市場において価格が決まるのは、様々な認識をもった市場参加者が1つの市場に集まり、売り買いの意思表示をすることで、適正な価格に収斂する仕組みによります。このため、認識に影響を与える要因が刻々と変化すれば市場参加者の認識は変化し、売り買いの均衡点が移動して価格が変化します。こうした市場参加者の認識は、どの要因を重視し、どの情報を入手できるかによって変わるため、市場参加者の構成が変化すれば価格に影響を与えます。

原油先物市場では、市場参加者は原油や石油製品の需給動向といった「需給ファンダメンタルズ要因」、将来の需給に対する懸念、金融の動向、地政学的リスクといった「プレミアム要因」を考慮し、原油価格に対する「認識」を持ったうえで売り買いを行うと考えられます。

【第111-1-1】 原油価格に影響を及ぼす要因

【第111-1-1】 原油価格に影響を及ぼす要因

以上の点を踏まえて、2004年以降の原油価格騰落の要因を見てみましょう。以下では、原油価格の動きの特徴とそれに影響を及ぼしたと考えられる経済・金融情勢の変化に即して、

  • (1)2004年から2007年のサブプライムローン問題顕在化前まで
  • (2)サブプライムローン問題顕在化後から原油最高値の時期(2008年7月)まで
  • (3)下落局面の開始から金融危機発生(2008年9月)まで
  • (4)2008年9月の金融危機発生後

の4つの時期に分けて原油価格騰落の要因を整理した上で、それぞれの要因がいつ発生し、価格にどの様な影響を与えたのかについてみていきます。

【第111-1-2】 ニューヨーク原油先物市場の推移(WTI原油価格)

【第111-1-2】 ニューヨーク原油先物市場の推移(WTI原油価格)

【第111-1-2】 ニューヨーク原油先物市場の推移(WTI原油価格)(xls/xlsx形式:57KB)

(出所)
米国エネルギー情報局(EIA)より作成

(1)2004年から2007年のサブプライムローン問題顕在化前まで

①原油価格の動き

この時期、原油価格は2006年後半の一時的な下落を除き、基本的に上昇傾向が続き、2004年の30ドル台前半から、2007年7月には70ドル台に達しました。

②需給ファンダメンタルズ要因の影響

石油需要は2004年に中国等で大幅増となった後、2005年以降は伸びが鈍化したものの増加が続きました。一方、非OPECの石油生産は、2005年のハリケーン・カトリーナの被害による減産に続き、2006年以降も北海やメキシコの減産のため、低迷を続けました。その結果として、OPEC原油への需要が高まり、OPECは増産に向かいました。

③プレミアム要因の影響

この増産によりOPECの余剰生産能力は著しく低下し、地政学的リスクに対する原油価格の変動性が高まりました。また、原油価格が60ドル台であった2006年10月の総会でOPECが減産を決定したことで、OPECは高値で価格を支えようとしているという認識が市場関係者に広まりました。OPECの余剰生産能力が低く、OECDの石油在庫も低水準で推移する傾向が見られる中で、イラク等における地政学リスクが供給面での不安感を煽ったことも価格上昇に影響したものと考えられます。

金融の面では、2000年にITバブルが崩壊すると、主要国では経済の悪化とデフレを防ぐため、政策金利が引き下げられました。その後も世界経済が安定した成長を続ける中で長期金利が低水準で推移したことにより、投資家や金融機関にとっては資金調達が容易になり、よりハイリターンが得られる投資先を求め、投資行動を積極化させていきました。

同時に、サブプライムローンの普及が低所得層による住宅を担保とした借り入れを容易にしたことで消費が拡大していく中、輸入の増加がアメリカの経常赤字を拡大させ、これに対応してオイルマネーや外貨準備・貯蓄超過を背景としたマネーがアメリカの金融市場に流入しました。

こうした中、長期にわたる好景気により物価が上昇し、インフレに強い原油等の商品が注目されました。また、他の金融商品の値動きとの連動性が低く、過去の実績からハイリターンが期待できる点も注目され、株式や債券の代替投資先として投資家のポートフォリオに組み込まれていきました。特に、年金基金やソブリン・ウェルス・ファンド等の長期運用型の資金が商品インデックスファンド3等を通じて原油先物市場に流れ込み、市場における取引は着実に増加を続けました。

(2)サブプライムローン問題顕在化後から原油最高値の時期(2008年7月)まで

①原油価格の動き

この時期、原油価格は、2007年9月に80ドルを突破、2008年1月に100ドル突破、5月130ドル突破、6月140ドル突破、と次々に高値水準の記録を更新し、7月11日の取引時間中に147.27ドルの史上最高値に達しました。まさに、過去類例を見ないほどの価格急騰期と位置付けられます。

②需給ファンダメンタルズ要因の影響

石油需要については、2008年に入ると、アメリカでは景気減速と原油価格高騰により足下の需要が減退し、在庫も増加していきました。他方で非OECDの需要の増加は持続しました。供給面では非OPECの生産が伸び悩むなかで、OPECの増産に依存する状況が続きました。

③プレミアム要因の影響

非OPECの生産が伸び悩み、OPECの増産に依存する供給構造となる中で、OPECの高価格志向が一層強まる傾向が見られました。例えば、OPECは初めて80ドルを突破した2007年9月の総会では50万バレル/日の増産を決定しましたが、それ以降、原油価格が100ドルを突破しても増産決定を見送り続けました。

金融面では、アメリカの住宅価格は2006年後半をピークに下落し始め、サブプライムローンの延滞率が高まっていきました。モーゲージ証券4に対する不安が広がり、金融機関等が保有する関連証券の損失がどこまで拡大するか不透明感が増大し、いわゆるサブプライムローン問題が取りざたされるようになりました。

更に、2007年8月には欧州大手金融機関傘下の投資ファンドが償還凍結を発表したことにより欧米の金融市場は混乱の度合いを強めました(いわゆるパリバ・ショック5)。サブプライムローン問題の顕在化により、低迷する証券化商品市場や株式市場から資金が流出し、また、アメリカが金融不安から政策金利を引き下げたことで流動性が高まるとともに、ドル安が進み原油等の商品の実質価格が低下したこともあって、商品市場へのマネーの流入が加速しました。

この時期は、原油高だけでなく資源価格一般が大幅に上昇した時期であり、インフレ懸念の高まりに対応して、インフレヘッジとして投資家が原油先物への買いを強めたと見られます。原油先物への投資が相対的に魅力度を増している中で、商品インデックスファンドを通じた取引やヘッジファンドによる取引も増加傾向を持続しました。

しかし、原油価格上昇が顕著になった2008年春以降は、価格の行き過ぎやバブル的な側面への警戒感も芽生え、投機筋の取引動向等に変化が見られるようになりました。需給の見通しについても、非OECDの石油需要は増加を続けるとの見方が支配的である一方で、国際エネルギー機関(IEA)6による2008年の需要見通しはOECD需要を中心に下方修正が繰り返され、徐々に短期的には需給が緩和するとの見方が大勢を占めるようになっていきました。

また、原油価格が130ドルを突破した頃から、世界最大の産油国であるサウジアラビアを中心に、原油価格のあまりに急激な上昇による石油需要への悪影響等への警戒感が生まれ、2008年6月のジッダでの産油国・消費国会議の開催につながりました。

地政学リスク要因としては、2008年7月にイランによるミサイル発射等があり、価格上昇に影響を及ぼしたと見られています。

(3)下落局面の開始から金融危機発生(2008年9月)まで

①原油価格の動き

需給が緩和する環境下で、一気に異常な勢いで最高値まで高騰した原油価格は、それ以上の価格高騰をもたらすような材料が無くなった状況で、調整局面に入ったと考えられます。この時期の原油価格は、7月の最高値147.27ドルから下落を開始し、8月110ドル台、9月100ドル台と下落を続け、リーマン・ブラザーズの経営破綻が発表された9月15日に100ドル割れとなる推移をたどりました。

②需給ファンダメンタルズ要因の影響

石油需要はOECDの減少が続きました。また、OECDの石油在庫を見ると、7月以降には原油・製品共に過去5年平均を上回るような水準に達しましたが、OPECは原油価格が低落傾向に入ってから金融危機発生までの間、減産を行いませんでした。


③プレミアム要因の影響

IEAは2008年の石油需要見通しの下方修正を繰り返し、2008年9月には対前年比約70万バレル/日減まで見通しが切り下げられていきました。
原油価格が下落傾向を辿ったことによって、原油先物の買い要因となってきたインフレ懸念は一服しました。また、長期にわたるドル安進行は2008年3月頃には下げ止まり、おおむね横ばいで推移していましたが、原油価格が下落しはじめたのとほぼ同じタイミングでドル高に進み、原油価格の下落を後押ししました。

(4)2008年9月の金融危機発生後

①原油価格の動き

この時期の原油価格は、リーマン・ブラザーズの破綻当日に100ドルを割り込んだ後、10月60ドル台、11月50ドル台、12月30ドル台と急落しました。その後、現在に至るまで原油価格は40~50ドル程度の水準が続いています(2009年4月末時点。

②需給ファンダメンタルズ要因の影響

金融危機の深刻化から世界同時不況となり、実体経済が急速に悪化したことから、アメリカをはじめとするOECDの需要が大幅に減少したことに加え、非OECDの需要の伸びも急速に鈍化しました。その結果、2008年の世界の石油需要は1983年以来の対前年比減少を記録しました。需要の減退と原油価格の下落に直面したOPECは、2008年12月の総会で9月生産水準から420万バレル/日の減産を発表し、1月から実施を始めました。しかし、OPECの減産実施後も石油在庫が高止まりしています。


③プレミアム要因の影響

2008年9月15日にアメリカ第4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが破産を申請したことで金融機関の破綻リスクが強く認識され、世界的な金融危機となりました。その後の米国大手保険会社AIGの経営危機、アメリカにおける金融安定化法の否決等により信用収縮が深刻化しました。

この時期において、原油先物市場に影響する最も重要な要因となったのは、金融危機やアメリカ・世界経済の動向と先行きです。「100年に一度」と言われるような未曾有の深刻な金融・経済危機の影響が、原油先物市場も含め全ての市場に甚大な影響を及ぼすようになったからです。原油先物市場では株式市場等他の市場と同様に、リスク回避のため資金が引揚げられていきました。

次に需給ファンダメンタルズ要因とプレミアム要因を、より詳しく見ていきます。

2.世界の石油需給の動向

(1)世界の石油需要の動向

①世界の石油需要

世界の石油需要は経済成長を背景として毎年増加を続け、1993年から2008年まで年率1.6%増加していますが、2004年には後述するように中国の需要増等により前年比3.7%の大幅な増加を示しました。

OECD諸国の石油需要は1990年台以降緩やかに増加した後、2005年以降は減少傾向にあるのに対して、非OECD諸国の石油需要は拡大を続けています(第111-2-1)。特に顕著な伸びを示しているのがアジア太平洋地域で、なかでも中国やインドは高成長を背景に石油需要の顕著な増加がみられれます7

2008年9月の金融危機以降は、実体経済が急速に悪化したことからアメリカをはじめとするOECDの需要が大幅に減少したことに加え、非OECDの需要の伸びも急速に鈍化8した結果、2008年の世界の石油需要は、1983年以来の対前年比減少を記録しました(第111-2-2)。

【第111-2-1】 OECDと非OECDの石油需要及び対前年増減の推移

【第111-2-1】 OECDと非OECDの石油需要及び対前年増減の推移

【第111-2-1】 OECDと非OECDの石油需要及び対前年増減の推移 (xls/xlsx形式:174KB)

(出所)
IEA" Oil market Report"より作成

【第111-2-2】 OECDと非OECDの石油需要及び対前年同期比の推移

【第111-2-2】 OECDと非OECDの石油需要及び対前年同期比の推移

【第111-2-2】 OECDと非OECDの石油需要及び対前年同期比の推移 (xls/xlsx形式:171KB)

(出所)
IEA " Oil market Report"より作成

②中国の石油需要

需要の拡大が著しい中国の石油需要の動向をみていきます。中国では2004年に前年比87万バレル/日(伸び率15.6%)も石油需要が増大し、世界全体の需要増を牽引しました。2004年に中国の需要が急増した1つの要因として電力用需要の拡大があげられます。沿海地域を中心とする急速な経済発展に伴い電力需要が急拡大し、頻発する停電に対応するため工場等における発電機用としての需要が増大しました9。なお、2004年には中国を除く発展途上のアジア地域でも対前年比50万バレル/日、その他の途上国全体で77万バレル/日の需要増加があり、途上国全体で対前年比214万バレル/日の大幅な増加となりました。その結果、2004年は世界全体で石油需要が対前年比290万バレル/日(伸び率3.7%)の大幅増加となりました。

中国では、特に軽油が高い伸びを記録していますが、これはトラック輸送向けの需要が物流網の拡大と荷動きの活発化を背景として増加したためです(第111-2-3)。自動車用のガソリンについても5年間に約50万バレル/日の伸びを示しており、これは国民所得の向上を背景とした自動車保有台数の増加が影響しています。

2008年には7月まで需要が拡大した後、減少に転じています。この要因として、輸送用燃料をはじめとする石油需要がオリンピック特需により拡大した後、その反動で低下したと考えられます(第111-2-4)。

【第111-2-3】 中国の石油需要の年度別・製品別の需要の伸び

【第111-2-3】 中国の石油需要の年度別・製品別の需要の伸び

【第111-2-3】 中国の石油需要の年度別・製品別の需要の伸び (xls/xlsx形式:169KB)

(出所)
IEA "Oil Market Report"2006-2008より作成

【第111-2-4】 中国の石油製品需要量の推移

【第111-2-4】 中国の石油製品需要量の推移

【第111-2-4】 中国の石油製品需要量の推移 (xls/xlsx形式:173KB)

(注)
1.石油製品需要量は、製油所の産出量にネット製品輸入量(重油調整後)を加え、発電所において原油を直接燃料として燃焼させる「生焚原油」、在庫変動を調整。
(出所)
IEA "Oil Market Report" 2009年2月号より

こうした中国やアジア諸国を始めとする非OECD諸国の需要の伸びの鈍化も原油価格下落の一因になったと考えられます。

③アメリカの石油需要

次に、世界の石油需要の約4分の1を占め、WTI価格の動向に大きな影響力をもつアメリカの石油需要をみていきます。アメリカでは、2004年以降の原油価格高騰にもかかわらず、2008年に入るまで顕著な需要の低下は見られませんでした。しかし、2008年に入ってから原油価格が100ドルを超え、更に急激に上昇する中で、石油製品の消費量の低下が顕著となりました10(第111-2-5)。

【第111-2-5】 2006年1月以降のアメリカの石油製品供給の変動の推移(月次、対前年比)

【第111-2-5】 2006年1月以降のアメリカの石油製品供給の変動の推移(月次、対前年比)

【第111-2-5】 2006年1月以降のアメリカの石油製品供給の変動の推移(月次、対前年比) (xls/xlsx形式:120KB)

(出所)
米国エネルギー情報局(EIA)より作成

(2)世界の石油供給の動向

①世界の石油供給

世界の石油生産量は石油埋蔵量の約3分の2が集中する中東地域、更にはカスピ海やアフリカ等の新興産油国を中心に拡大してきました。

非OPEC11の原油生産量は旧ソ連を中心に2003年頃まで増加してきましたが、2003年10月にロシアで起きたユコスの脱税問題12等の混乱から生産量が低迷しました。また、北海油田等の生産がピークを過ぎ、減産幅が拡大してきたため非OPEC全体での生産量の伸びは徐々に鈍化してきました。特に2005年8月にアメリカのメキシコ湾を襲ったハリケーン・カトリーナの影響で、アメリカの生産が大幅減少になったため、2005年は非OPEC全体で前年比の伸びが急速に鈍化し、2006年以降も生産の伸びが低迷しました(第111-2-6)。

非OPECの生産が伸び悩む中で、世界の石油需要が増加を続けたため、需給安定化のためにOPECの役割に対する期待が高まるようになりました。

【第111-2-6】 OPECと非OPECの石油生産量と対前年増減の推移

【第111-2-6】 OPECと非OPECの石油生産量と対前年増減の推移

(出所)
IEA"Oil market Report"より作成

②OPECの生産方針

OPECの生産動向とOECD諸国の石油在庫日数の関係を見ると、2006年第3四半期まではOPEC生産量が対OPEC需要13を上回り、その結果、在庫日数は増大しました。しかし、2006年第4四半期以降、OPECが減産を開始し、OPEC生産量が対OPEC需要を下回るようになると、在庫日数も低下しその傾向は2007年第4四半期まで続きました(第111-2-7)。

【第111-2-7】 OECD諸国の石油在庫日数とOPEC生産動向の推移

【第111-2-7】 OECD諸国の石油在庫日数とOPEC生産動向の推移

【第111-2-7】 OECD諸国の石油在庫日数とOPEC生産動向の推移 (xls/xlsx形式:169KB)

(出所)
IEA"Oil Market Report"年各号より作成

更に詳しくOPECの生産動向を見ていきます。OPECは2006年10月の総会において、OECD在庫の上昇が需給の不均衡化を生むという懸念から120万バレル/日の実質減産を行うことを決定しました(第111-2-8)。更に2006年12月の総会では、OPECは世界経済が減速する懸念があること、非OPECの供給増が需要の増加を打ち消すとの見通しから50万バレル/日の追加減産を行いました。こうした中で、原油価格は2007年初の50ドル台を底に上昇を始め、2007年9月には80ドルを超えました。このときOPECは50万バレル/日の増産決定を行いましたが、その後更に原油価格が上昇し、100ドルを突破しても追加の増産決定を行いませんでした。

2008年7月以降の下落局面では、10月の緊急会議において150万バレル/日の大幅な減産を決定し、需給調整に向けて動きました。更に、2008年12月の総会では、2008年9月の生産水準から420万バレル/日の大幅減産を決定し、2009年1月から実施しています。

【第111-2-8】 OPECの原油生産枠(実際の生産枠)と生産量の推移

【第111-2-8】 OPECの原油生産枠(実際の生産枠)と生産量の推移

【第111-2-8】 OPECの原油生産枠(実際の生産枠)と生産量の推移 (xls/xlsx形式:00KB)

(注)
図はIEAの資料を基に生産枠の対象国であるOPEC10(イラクは含まず)を対象に作成。ただし、2008年9月からは新規加盟のアンゴラとエクアドルが対象に含まれ、脱会したインドネシアが対象外。
図中の2006年11月から2007年10月にかけての直線は、生産枠は据え置きであったものの実際の生産目標とされた2,630万バレル/日の水準を示す。
(出所)
IEA "Oil Market Report"より作成

3.需給ファンダメンタルズに基づく価格の推計

ここまで、石油需給と原油価格の関係について述べてきましたが、需給要因だけでは急激な原油価格高騰の要因を説明することは出来ません。このため、以下では、モデルを使って需給バランスで決まる原油価格(以下、「ファンダメンタルな価格」)を求め、実際の原油価格との違いから、プレミアム要因(将来の需給に対する懸念、金融の動向、地政学的リスクといった要因)の影響を分析します。定量分析に当たっては、四半期の平均値を用い、1995年第1四半期から2009年第1四半期までの石油需要、供給、原油価格が互いに連関しながら決定される過程を構造型ベクトル値自己回帰モデルで表現します 14

分析の結果、ファンダメンタルな価格は需要が急増した2004年から2005年の第2四半期にかけて、また、供給が十分に行われず在庫が減少した2006年後半以降から2008年第1四半期にかけて上昇していますが、ピーク時で60ドル程度であり、実際の価格とは大きくかけ離れています。ファンダメンタルな価格は需給が緩み始めた2008年第1四半期をピークに下落を始めましたが、実際の原油価格が最も高くなったのは2008年第2四半期で、プレミアムは60ドル以上となりました。2008年第3四半期に実際の原油価格が下落してからもファンダメンタルな価格は下落し続けていますが、実際の原油価格下落はそれ以上の下げ幅となったためプレミアムは急激に縮小しています(第111-3-1、第111-3-2)。

こうした分析結果から、2004年以降の高騰局面では、ファンダメンタルな価格は上昇傾向にありましたが、それを上回る価格については将来の需給に対する懸念、金融、地政学的リスク等が増幅の要因であると考えられます。

【第111-3-1】 ファンダメンタルな価格とプレミアム

【第111-3-1】 ファンダメンタルな価格とプレミアム

【第111-3-1】 ファンダメンタルな価格とプレミアム (xls/xlsx形式:174KB)

(出所)
(財)日本エネルギー経済研究所

【第111-3-1】 ファンダメンタルな価格とプレミアム

【第111-3-1】 ファンダメンタルな価格とプレミアム

【第111-3-1】 ファンダメンタルな価格とプレミアム (xls/xlsx形式:174KB)

(出所)
(財)日本エネルギー経済研究所
(注)
趨勢要因:趨勢的な需給バランスの下での価格(需要、供給、価格の全ショックがなかったケースの価格)
趨勢外需要要因:2004年の中国の需要急増等、趨勢外の需要増減による寄与
趨勢外供給要因:ハリケーン、想定外の増減産等、趨勢外の供給増減による寄与
(出所)
(財)日本エネルギー経済研究所

4.将来の需給に対する懸念

(1)需要に関する懸念

①中・長期の需要に対する強気の見通し

IEA は、長期エネルギー見通しにおいて、石油需要が新興国を中心に力強く伸びていくと予想しています。見通しによれば、世界の原油需要は2007年から2030年までOECD諸国では年率マイナス0.2%で減少していくのに対し、中国、インド、中東諸国等がOECD諸国の減少を大きく上回って増加することで、全世界では年率1.0%の伸びで増加し、2030年には1億640万バレル/日に達します15 (第111-4-1)。

こうした強気の見通しの背景には、上流投資を促そうとするIEAの意図が見えますが、一方で市場関係者に将来の需給逼迫を想起させ、原油価格高騰の一因になったと考えられます。

【第111-4-1】 2030年までの地域別石油需要の予測(IEA)

【第111-4-1】 2030年までの地域別石油需要の予測(IEA)

【第111-4-1】 2030年までの地域別石油需要の予測(IEA)

【第111-4-1】 2030年までの地域別石油需要の予測(IEA) (xls/xlsx形式:395KB)

(出所)
IEA"World Energy Outlook 2008

②短期の需要見通しの下方修正

IEAが毎月発表するその年の石油需要見通しでは、2008年の世界の石油需要は毎月のように下方修正されました。非OECDの見通しが約3,800万バレル/日とほぼ一定であったのに対して、OECDの見通しは2007年7月時点の5,030万バレル/日から2008年6月時点では4,860万バレル/日へと170万バレル/日 16 下方修正されています(第111-4-2)。

IEAが当初の需要見通しを繰り返し下方修正していったことが弱気の観測を招き、2008年7月のピーク価格に近づく局面において市場関係者の取引動向に影響を与えたと考えられます。

【第111-4-2】 各月に発表された2008年の石油需要見通しの下方修正の推移

【第111-4-2】 各月に発表された2008年の石油需要見通しの下方修正の推移

【第111-4-2】 各月に発表された2008年の石油需要見通しの下方修正の推移 (xls/xlsx形式:174KB)

(出所)
IEA "Oil Market Report"2007年7月-2008年12月各号より作成

(2)供給に関する懸念

①供給余力の縮小

OPECは、2004年の需要急増に伴い原油の生産量を拡大したため余剰生産能力が大幅に縮小しました。こうした供給余力の縮小によって、OPECの原油生産・輸出に何らかの問題が生じた場合、国際石油市場が極めて大きな影響を被る構造となっていることが市場関係者に認識され、地政学的リスクに対する原油価格の変動性を高めたことが原油価格高騰の一因となりました。2005年以降OPECの生産量の伸びが鈍化したため、余剰生産能力は回復しており、原油価格高騰を正当化するほど低い状況にあったとは言えませんが、しばらくの間、余剰生産能力が不足しているとの認識が続きました 17(第111-4-3)。

【第111-4-3】 OPECの原油余剰生産能力の推移

【第111-4-3】 OPECの原油余剰生産能力の推移

【第111-4-3】 OPECの原油余剰生産能力の推移 (xls/xlsx形式:176KB)

(出所)
IEA "Oil Market Report"より作成

②資源ナショナリズムの高揚と上流コストの上昇

原油価格の高騰が進行する中で産油国における「資源ナショナリズム」の問題 18に注目が集まるようになりました。世界の石油資源の分布を見ると、地域的には中東、旧ソ連、中南米等の地域のシェアが約8割を占めていますが 19 、資源を豊富に持つ産油国において、石油産業の国家管理が強化され、外国企業にとっての投資条件が厳しくなったり、投資そのものが困難になったり、投資の権益を国有化される、等の動きが見られます(第111-4-4)。このような資源ナショナリズムの高まりの背景には、資源価格の高騰や需給の逼迫化があり、石油収入の増加等を通して、産油国側の経済力や政治力が増大していることが影響していると考えられます。こうした資源ナショナリズムの高まりによって、石油開発に遅れが出るのではないか、将来の供給力確保に問題が出るのではないか、という懸念が生まれるようになりました。

また、2005年頃から新規の油田開発コストが上昇していったことが、多くのプロジェクトの遅延と延期の大きな要因となり 20これが将来の原油供給に対する懸念につながりました。

金融危機以後は、上流部門の投資コストの動向も変化しつつあります。今後は投資コストの低下が予想されており、投資決定を遅らせてコスト低下を待つ、といった動きも見られるようになっています。

【第111-4-4】 石油ガス資源の国家管理が進む主な国々

【第111-4-4】 石油ガス資源の国家管理が進む主な国々

(注)
1:アルジェリアの超過利潤税においては、ブレント原油の価格が30ドルを超えた場合、外国石油企業に対して5%から50%の超過利潤税をかけることとされている。
(出所)
各種報道資料を基に作成

5.地政学的リスク要因の動向

次に地政学的リスク要因 について見ていきます。

2000年以降、ベネズエラでのストライキ(2002年12月)、対イラク武力行使の開始(2003年3月)等、様々な地政学的リスクがありましたが、2004年以降の主要な地政学的リスクとしては、対イラク武力行使後のイラク情勢の不安定化と治安の悪化に伴う石油輸出への影響(2004年4月以降)、ナイジェリアでの油田地帯での治安の悪化(2006年2月、2008年6月等)、サウジアラビアでのテロの発生(2004年5月、2006年2月)、そして、イランの核開発問題を巡る国際的な緊張の高まり等があげられます(第111-5-1)。

特に、前述の通り、OPECの原油余剰生産能力の低下によって供給余力の脆弱性が認識され続けていたことが地政学的リスク要因に起因する原油価格の変動性を高めたと考えられます。

【第111-5-1】 原油価格動向と主要な地政学リスク要因(2000年以降)

【第111-5-1】 原油価格動向と主要な地政学リスク要因(2000年以降)

【第111-5-1】 原油価格動向と主要な地政学リスク要因(2000年以降) (xls/xlsx形式:223KB)

(出所)
米国エネルギー情報局(EIA)等より作成

6.金融要因

これまで、需給ファンダメンタルズ要因に続き、プレミアム要因のうち将来の需給に対する懸念と地政学的リスク21要因について見てきましたが、以下では金融要因について見ていきます。

(1)原油先物市場の動向

原油価格高騰の過程では、前述の需給に対する懸念等を背景として年金基金、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)(コラム「年金基金とソブリン・ウェルス・ファンド」参照)等の長期的なリターンを求める投資資金が商品インデックスファンド等を通じて原油先物市場に流入するとともに、ヘッジファンド22 等による短期的なリターンを求める投機が活発化しました。

原油先物市場での取引規模の拡大は、ニューヨーク商品取引所(NYMEX)の出来高の増加に見ることが出来ます(第111-6-1)。

【第111-6-1】 ニューヨーク原油先物市場での出来高(年間)の推移

【第111-6-1】 ニューヨーク原油先物市場での出来高(年間)の推移

【第111-6-1】 ニューヨーク原油先物市場での出来高(年間)の推移 (xls/xlsx形式:169KB)

(出所)
ニューヨーク商品取引所(NYMEX)ホームページより作成

NYMEXの原油先物取引の建玉23 を先物取引とオプション取引 24の合計で見ると、2004年以降、非常に堅調な増加が2008年中ごろまで持続しました25 (第111-6-2)。

先物取引のみの建玉を見ると、2007年の夏をピークに緩やかな減少傾向を示しています 。一般的にトレーダーはリスク管理の方針により取引可能な許容額が決められているため、原油価格高騰により取引可能な契約数が減少したことも一因と考えられます。

2007年半ば以降、先物取引が緩やかに減少する中で、オプション取引は拡大を続けました。このオプション取引の増加には、原油価格の変動性(ボラティリティ)の拡大がその要因の1つとして考えられます。オプション取引は買う(あるいは売る)権利を売買しますので、特に大きな価格変動が予想される場合には、保険としても活用されることが多くなります。2005年から2008年までのWTI価格の前日からの変動を比較すると、徐々に変動幅が大きくなっています(第111-6-3)。このため、価格変動のリスクヘッジの重要性が一段と高まり、トレーダーのオプションの選好が強まったと考えられます。また、原油価格が急騰したことから、価格の反転・急落が意識されたことも、オプションの選好が強まった理由と考えられます。

こうした様々な要因を背景として、近年オプション取引の活用が拡大しましたが、この傾向にも徐々に変化が生じ、2008年後半以降は拡大の勢いが失われ、ほぼ横ばい状況になっています。

【第111-6-2】 ニューヨーク原油先物市場における先物とオプションの建玉の推移

【第111-6-2】 ニューヨーク原油先物市場における先物とオプションの建玉の推移

【第111-6-2】 ニューヨーク原油先物市場における先物とオプションの建玉の推移 (xls/xlsx形式:215KB)

(出所)
米国商品先物取引委員会(CFTC)資料より作成

【第111-6-3】 WTI価格とその前日差の推移

【第111-6-3】 WTI価格とその前日差の推移

【第111-6-3】 WTI価格とその前日差の推移 (xls/xlsx形式:247KB)

(出所)
米国エネルギー情報局(EIA)より作成

(2)市場参加者の構成の変化

原油先物取引の参加者は、石油生産企業、精製企業等の石油に直接関係する者だけでなく、これら事業者の取引を仲介する業者、スワップディーラーと呼ばれる金融機関(投資銀行等)、ヘッジファンド等の投機家と様々な参加者が見られます 27

原油価格の高騰局面では、インデックス投資の増加、ヘッジファンドによる投機の増加等によって市場規模が拡大するとともに、市場参加者の構成も変化していきました。近年の市場参加者による取引動向から、スワップディーラーとヘッジファンドの残高が大幅に拡大していることがわかります(第111-6-4)。

スワップディーラーは店頭取引 28を通じて商品インデックスファンド、機関投資家、SWF等と相対で取引を行い、その結果として負うリスクを低減するために先物市場において取引を行っていますが、スワップディーラーの残高拡大の背景には、こうした取引先との店頭取引の拡大があると考えられます(第111-6-5)。

次に、原油先物市場で大きな影響力を持つようになったと言われる商品インデックスファンドとヘッジファンドの動きを見ていきます。

【第111-6-4】 ニューヨーク原油先物市場の市場参加者の構成(建玉ベース)の推移

【第111-6-4】 ニューヨーク原油先物市場の市場参加者の構成(建玉ベース)の推移

(出所)
CFTC "Interagency Task Force Interim Report on Crude Oil"(2008年7月)

【第111-6-5】 商品先物市場においてインデックス投資を行う主体の内訳

【第111-6-5】 商品先物市場においてインデックス投資を行う主体の内訳

(出所)
CFTC "Staff Report on Commodity Swap Dealers & Index Traders with Commission Recommendations"(2008年9月)より作成

①商品インデックスファンドの動向

長期間にわたる低金利によって、他の金融商品の値動きとの連動性が低く(コラム「商品と株式の値動きの相関性」を参照)、過去の実績からハイリターンが期待できる原油等の商品が注目され 29 、長期的な資金(主に年金基金やSWFの資金)が国債等の安全資産から商品先物市場に流れ込みました。そうした運用の受け皿となったのが商品インデックスファンドで、原油等のエネルギー商品に他の資源・農産物等の商品全体を組み合わせて組成された投資商品でした。

世界全体で17兆ドル ともいわれる年金基金、なかでも最大手であるCalPERS(コラム「年金基金とソブリン・ウェルス・ファンド」参照)も商品インデックスファンドへ投資するようになったこと等が、商品インデックスファンドの残高が急拡大した1つの要因であると考えられます。

原油価格の高騰と商品インデックスファンドの関係について、2008年6月に行われたアメリカ議会でのマスターズ氏の証言 31 では、商品インデックスファンドを通じた投資が大幅に増加し、原油価格高騰をもたらしているとの見解が示されました。

他方で、アメリカ商品先物取引委員会(CFTC32)もこの問題について調査を行っています 。これによると商品インデックスファンドを通じた投資の残高は2007年末以降に拡大しているものの、それは原油価格の上昇による既存の投資価値の評価増によるとみられ、原油価格上昇は商品インデックスファンドからの資金流入の結果とはいえないと結論づけています。このように市場参加者の取引動向に関する詳しい情報が開示されていないことから、どの参加者が価格高騰に影響を与えたかについては諸説があります。このためCFTCの報告書では、現在の先物取引実態に関する情報は取引業者の区分が粗すぎるため実態解明にとって十分でないこと、市場の透明性を確保し、実態のより正確な捕捉のため、情報収集制度の改善が必要であること、等が提言されています。

2008年第2四半期以降、商品インデックスファンドの残高は大幅に減少しています。商品インデックスファンドの運用資産総額は、2007年第1四半期の約1,500億ドルから2008年第2四半期には約3,000億ドルまで増加しましたが、その後1,000億ドル程度まで減少しています(第111-6-6)。残高減少の要因としては、資金の引出しのほかに、商品の価格の下落も影響していると考えられます。

【第111-6-6】 商品インデックスファンドの残高(2007年以降)

【第111-6-6】 商品インデックスファンドの残高(2007年以降)

(出所)
OPEC" Monthly Oil Market Report", 2009年3月

COLUMN

年金基金とソブリン・ウェルス・ファンド

【年金基金】

世界の石油確認埋蔵量は毎年増加傾向を示していますが、需要の増加にともなって生産量も年々増加していることから、1989年以降、将来の生産可能な年数を示すR/Pレシオ(確認埋蔵量/生産量)は40年前後で推移しています(第113-1-4)。

年金基金とは、政府組織や企業が従業員の退職後の年金を支払う財源を確保するために資金を拠出して運用を行うための基金です。アメリカのカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)が代表的なもので、その運用資金は約1,800億ドルと巨大投資ファンドです。

年金基金は、その運用目的上、厳格なルールを定めており、非常に慎重な投資姿勢を有していることで知られています。実際に、CalPERSによる商品インデックスファンドへの投資は、5年以上の期間をかけ十分検討した上で投資の決定がなされており、行過ぎた投資を行わないよう全体の資産構成に占める比率も上限(商品については3%以下、商品含むインフレ対策資産全体で5%以下)を定めています33 。原油をはじめとする商品市場への影響については、年金基金による投資は、いわゆる「買い持ち」を続けるパターンが多く、長期に資金が市場に残る可能性が大きいため、相場を底上げする効果を持つという見方もあります。

CalPERSによる2006年11月の投資決定後には、イリノイ州教職員退職年金基金やオクラホマ州消防士年金が2008年から商品投資を始める等、他の年金基金による商品投資への参入が見られるようになりました。

【ソブリン・ウェルス・ファンド】

ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)は、各国政府が直接または間接に運営する投資ファンドであり、代表的なものとしては、クウェート投資庁やアブダビ投資庁、シンガポールのテマセクホールディングや2007年9月に設立された中国の国家外貨投資公司等があります。アブダビ投資庁は約6,000億ドルの運用資金 34 を有し、SWF全体の運用資金は1.5~2兆ドルに上ると見られており、近年国際金融市場において急速に存在感を高めています。

その投資姿勢については、不動産や商品市場等相対的にリスクの高い分野にも投資を行うものもあれば、アブダビ投資庁のように自国の長期的な経済発展・多様化戦略に資するための戦略的な投資を実施しているSWFもあります。

SWFによる投資に関しては、投資対象や投資金額、更には投資に当たっての基本的な考え方・戦略等に関する情報が十分に開示されておらず、その存在感が高まる一方で、実態に関する不透明感も指摘されています。また、ハイリターンの追求だけでなく、政治的な思惑で投資がなされることも想定され、その場合、市場の方向性と異なった動きをすることや、市場へのアナウンスメント効果を含め、大きい影響力をもつことに対する懸念も存在します。更に、政府を後ろ盾とする資金の動きが民間企業買収に向かったような場合、保護主義が強まる傾向も指摘されています。こうしたことから、SWFによるさらなる情報開示は今後の大きな課題として認識されています。

②ヘッジファンド等の動向

ヘッジファンドは投資家等から資金を得て株式や債券、商品先物等の売買を行っており、その資産規模は2007年まで急速に拡大してきました。また、ヘッジファンドは、投資家から調達した資金の運用に銀行借り入れやデリバティブ取引等を活用することにより、自己資金以上に投資を行いレバレッジを高めてきました(第111-6-7)。

【第111-6-7】 ヘッジファンドの資産残高とレバレッジ

【第111-6-7】 ヘッジファンドの資産残高とレバレッジ

【第111-6-7】 ヘッジファンドの資産残高とレバレッジ (xls/xlsx形式:160KB)

(注)
資産規模はヘッジファンドの預かり資産規模を示す。2007年の資産内訳は、個人投資家31%、ファンド・オブ・ファンズ35 31%、年金基金14%、企業等12%、財団・基金12%。
(出所)
IFSL(International Financial Services, London)より作成

原油先物市場における非当業者 36 による原油先物の買い越し(ネットポジション)の変化とWTI原油価格の変化との間には多くの期間で一定程度の相関が見られ、買いのポジションに向かっている期間に価格が上昇し、その逆に売りのポジションに向かっている期間は下落する傾向があります。ただし、その因果関係(どちらが原因で、どちらが結果か)については、様々な意見があり、必ずしも、非当業者の買い越しの変化が原油価格を変動させていているとはいえません 37

2008年に入り、価格上昇が顕著になった頃から、価格の行き過ぎやバブル的な側面への警戒感も芽生えてきていた可能性があります。非当業者の取引のポジションの推移を見ると、買いポジションは2008年5月ごろがピークでその後は2008年末にかけて低下しています。一方、非当業者の売りポジションは、2008年初から7月半ばにかけて増大する動きを示し、ネットの買い越し(「買い」から「売り」を引いた差)は9.7万枚から2.2万枚へ7.5万枚減少しています。一方、この期間において当業者のネットの買い越しは8.6万枚増加しており 38 、非当業者の「売り」を当業者の「買い」が相殺する形となっています(第111-6-8)。

【第111-6-8】 非当業者の買い越しポジションと原油価格

【第111-6-8】 非当業者の買い越しポジションと原油価格

【第111-6-8】 非当業者の買い越しポジションと原油価格 (xls/xlsx形式:221KB)

(出所)
NYMEX資料及びCFTC資料より作成

ヘッジファンドの運用資産総額は、2008年8月以降減少に転じています(第111-6-9)。これは金融危機の影響や株価の下落等を受けて、投資家の解約が急速に進んでいることを示しています。また、株式価格やコモディティ価格の下落による評価価格の低下もヘッジファンドの資産総額の減少を加速させる要因となりました。

【第111-6-9】ヘッジファンド運用資産残高の推移

【第111-6-9】ヘッジファンド運用資産残高の推移

(注)
Performance-based Growth : 運用による資産増減(右軸)
Net Asset Flows : 資金流出入額(=新規投資額-解約額)(右軸)
Total Assets : 総資産額(左軸)
(出所)
ユーリカヘッジ 2009年4月レポート 39

(3)原油先物市場に資金が流入した背景

原油先物市場に資金が流入した背景として、アメリカの過剰流動性、インフレ懸念、ドル安、株価の低迷等があげられます。以下では、2004年以降のそれぞれの動きを示します。

①アメリカの過剰流動性

2000年のITバブル崩壊以降、主要国では実体経済の後退とデフレを防ぐため、政策金利が引き下げられました。その後、2004年頃から経済が拡大する局面においても引き続き低い水準が維持されました(第111-6-10)。アメリカの長期実質金利は2005年まで低下し、政策金利が引き上げられた2006から2007年においても長期金利はほとんど上昇せず低金利が続いています。その間、世界経済は比較的安定した成長を続け、アメリカの経済も拡大していきました。

【第111-6-10】 アメリカFFレート(実質)と長期金利(実質)及びアメリカGDP伸び率の推移

【第111-6-10】 アメリカFFレート(実質)と長期金利(実質)及びアメリカGDP伸び率の推移

【第111-6-10】 アメリカFFレート(実質)と長期金利(実質)及びアメリカGDP伸び率の推移 (xls/xlsx形式:331KB)

(注)
実質FFレート(実質)及び長期金利(実質)は、名目値(長期金利は10年国債利回り)から消費者物価指数(食料品、エネルギーを除くコア消費者物価指数対前年同月比)を差し引いて算出。
(出所)
米連邦準備理事会(FRB)資料等より作成

世界経済が安定した経済成長を続ける中で、長期金利が低水準で推移したことにより、投資家や金融機関は投資行動を積極化させていきました。同時に、新たな金融技術によってリスク分散やヘッジを容易にする金融商品が普及したことが、金融市場の拡大をサポートしました。その背景としてアメリカの金融市場全体の規模が拡大していたこともあります。例えば、アメリカのマネーサプライ(M2 40 )は2000年以降一貫して増加基調にあり、2000年1月の4.7兆ドルから、2009年1月には約2倍の8.2兆ドルに拡大し、経済規模(GDP)の拡大傾向より大きく増加しました 41

アメリカの好景気が継続し、また、サブプライムローンの普及が低所得層による住宅を担保とした借り入れを容易にしたことで消費が拡大し、アメリカの経常赤字は拡大していきました(第111-6-11)。こうした経常赤字拡大に対応して、産油国のオイルマネーや新興国等の外貨準備・貯蓄超過を背景としたマネーがアメリカの金融市場に流入しました。

特に、2007年8月のパリバ・ショック以降は、金融不安から政策金利が引き下げられ、これにより流動性が高まったことで金融市場へのマネーの流入が一層加速しました。

【第111-6-11】 主要国(アメリカ・中国・EU・日本・中東・ロシア)の経常収支

【第111-6-11】 主要国(アメリカ・中国・EU・日本・中東・ロシア)の経常収支

【第111-6-11】 主要国(アメリカ・中国・EU・日本・中東・ロシア)の経常収支 (xls/xlsx形式:189KB)

(出所)
IMF "World Economic Outlook" 2008 October

COLUMN

オイルマネーの行方

原油価格の上昇局面では、産油国に多額の石油収入がもたらされました。この石油収入は、輸入品の消費や石油関連投資、その他公共投資、国内の証券・不動産投資に充てられ、更に余剰となった資金が域外へ投資されていました。調査機関の推定では、第111-56-12のようにアメリカへの投資が大きい様子がわかります。このようにオイルマネーがアメリカに投資され、経済や金融を活性化し、それにより消費者の需要を喚起することで、輸出国はアメリカ向けの輸出を増加させ、世界経済の成長の原動力となってきたと考えられます。このような経済成長の下では、消費国における原油高騰の影響は限定的になっていたと予想されます。

しかし、金融危機の影響により経済が失速し、原油価格も下落することでオイルマネーの還流が縮小し、これまでの成長モデルが機能しなくなってきている状況にあります。

【第111-6-12】 湾岸産油国のオイルマネーの域外の投資状況(2002-2006年)

【第111-6-12】 湾岸産油国のオイルマネーの域外の投資状況(2002-2006年)

(出所)
Institute of International Finance, 「Economic Report: Gulf Cooperation Council Countries」 (2008年1月)

②インフレ懸念

長期にわたる好景気の中で、アメリカの消費者物価指数は上昇していきました。特に2007年後半から総合消費者物価指数が急激に上昇し、一時的に5%を超えました(第111-6-13)。また、今後5年間の期待インフレ率 42 を見ても、2004年以降2008年7月までは2%から3%と比較的高い水準が維持されたことから(第111-5-15)、インフレに強い原油等の商品が投資家のポートフォリオに組み込まれていきました 43

また、2007年8月のサブプライムローン問題顕在化後は、原油だけでなく他の多くの商品も高騰したことにより、市場関係者のインフレ懸念が一層強固なものとなりました。

なお、2008年7月を境に消費者物価指数、期待インフレ率ともに下落しています。

【第111-6-13】 アメリカの消費者物価指数の推移(前年同月比)

【第111-6-13】 アメリカの消費者物価指数の推移(前年同月比)

【第111-6-13】 アメリカの消費者物価指数の推移(前年同月比) (xls/xlsx形式:172KB)

(出所)
米国労働省

【第111-6-14】 5年間の期待インフレ率(BEI)の推移

【第111-6-14】 5年間の期待インフレ率(BEI)の推移

【第111-6-14】 5年間の期待インフレ率(BEI)の推移 (xls/xlsx形式:207KB)

(出所)
FRBホームページより作成

③株式等他の金融商品からの流入

原油は他の金融商品の値動きとの連動性が低く、過去の実績からハイリターンが期待できる点が注目され、株式や債券の代替投資先として投資家のポートフォリオに組み込まれていきました。

こうした動きが一層強まったのが2007年8月のサブプライムローン問題の顕在化以降です。アメリカの住宅価格は2006年後半をピークに下落し始め、サブプライムローンの延滞率が高まっていきましたが、これに伴いモーゲージ証券に対する不安が広がり、金融機関等が保有する関連商品の損失がどこまで拡大するか不透明感が増大し、いわゆるサブプライムローン問題が取りざたされるようになりました。

2007年8月のパリバ・ショック以降、株価は低迷し(第111-6-15)、モーゲージ証券と株式から資金が流出し、より安全な国債や、直接的にサブプライムローン問題の影響を受けない商品市場にマネーが移動しました。また、国債へマネーが集中したことで一層の低金利となったために、国債の代替としても商品投資が加速しました。

こうした資金流入の動きも金融危機以降は逆回転しています。2008年9月15日にアメリカ第4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが破産を申請したことで金融機関の破綻リスクが強く認識され、その後のアメリカ大手保険会社AIGの経営危機、アメリカにおける金融安定化法の否決等により信用収縮は一層深刻化しました。こうした中で、金融市場から資金が引き揚げられ、原油価格の下落が一層進みました。

【第111-6-15】 WTIと株価の推移

【第111-6-15】 WTIと株価の推移

【第111-6-15】 WTIと株価の推移 (xls/xlsx形式:409KB)

(出所)
EIA、Yahoo Financeより作成

COLUMN

商品と株式の値動きの相関性

原油を含む商品(コモディティ)と株式の間には、その値動きに相関性がない、との見方があります。一般的に商品(原油、資源、農産物等)の価格はそれぞれの市場における需要と供給を反映して決定されているため、全く別の要因で決定される株式市場、債券市場の値動きとは、基本的に関係性が薄い、あるいは、値動きに相関性がある必然性はない、ということです。

例えば、過去の商品市況と株価の相関係数を分析してみると、第111-6-16に示すとおり、正の相関と負の相関の期間が同じ程度現れており、相関関係に偏りが見られません。つまり、一方が値上がりしているとき、他方が同時に値上がりしたり、逆に値下がりしたりする傾向が定まっているわけではないため、商品と株式の双方を保有することでリスクが分散されることになります。

【第111-6-16】 商品市況と株価の相関係数の推移

【第111-6-16】 商品市況と株価の相関係数の推移

【第111-6-16】 商品市況と株価の相関係数の推移(xls/xlsx形式:537KB)

(出所)
EIA、Yahoo Financeより作成

④ドル安と原油価格の関係

ドル以外の通貨国の投資家にとって、ドル建ての原油はドル安局面において割安となります。サブプライムローン問題顕在化以降、アメリカでは金融不安による流動性の低下と景気減速懸念から政策金利が引き下げられたこと等により、ドル安が一層進みました(第111-6-17)。こうした原油等の商品の実質価格の低下が、商品市場にマネーが流入した一因と考えられています。ただし、2007年7月からの1年間を見ると、ドルが対ユーロで約3割減価したのに対し原油価格は2倍近く上昇していることから、為替以上に原油価格が変動しています。

その後、2008年7月の原油価格の下落とほぼ同時にドル高に転じたため、為替が原油価格下落を後押しする結果となりました。2008年11月からはアメリカのゼロ金利政策の影響で再びドル安に転じましたが、原油価格は下がり続け、金融危機と需給緩和を打ち消すほど強い影響は与えていません。

【第111-6-17】 WTI価格と為替(ドル/ユーロ)の推移

【第111-6-17】 WTI価格と為替(ドル/ユーロ)の推移

【第111-6-17】 WTI価格と為替(ドル/ユーロ)の推移 (xls/xlsx形式:377KB)

(出所)
国際決済銀行(BIS)とFRB資料より作成

COLUMN

原油先物の価格構造と資金流入

原油先物市場では、価格が先安構造の場合には、期先の安い先物を買い、期近で高く売る、ことで利益を得ることができます。サブプライムローン問題顕在化後の投資拡大の背景には、原油価格そのものの上昇傾向もありますが、2008年5月頃まで続いた先物価格の先安構造から得られる高リターンも要因としてあげられます(第111-6-18)。

【第111-6-18】 原油先物の価格構造(先安・先高)の推移

【第111-6-18】 原油先物の価格構造(先安・先高)の推移

【第111-6-18】 原油先物の価格構造(先安・先高)の推移(xls/xlsx形式:186KB)

(出所)
NYMEX資料より作成

7.原油市場安定化に向けた対応

2006年10月のOPEC総会における120万バレル/日の実質減産は、原油価格が若干低下傾向を示していたとはいえ、60ドル台であった時に減産を決定したことから、OPECが高値で価格を支えようとしているとの認識を市場関係者に与えました。また、2008年に入り100ドルを突破しても追加の増産決定を行いませんでした。

こうした動きはOPECの市場の見方を反映していると考えられます。OPECは以前より、市場には十分な原油の供給がなされており、原油価格高騰は投機筋による影響と主張していました。2008年3月の総会では、「現在の価格水準はファンダメンタルズを反映せず」、「ドル安、インフレが商品市場への資金流入を誘引した」といった点が生産枠の据置の決定理由にあげられています。原油価格が高騰する中で、OPECが増産に消極的な姿勢を示したことは、OPECが高い原油価格を好む姿勢を強めているのではないか、との見方につながるようになりました。

2008年は原油市場の安定化に向けて、消費国と産油国による様々な取組が強化された年であったといえます。2007年の段階では、各国の危機感は比較的薄い状況にありましたが、原油価格が一段と騰勢を強め上昇していく中で産油国の中にも需要減少を懸念する声が強まりました。

2008年には、1月のダボス消費国会合、3月のIEA専門家会合、4月の国際エネルギーフォーラム(IEF)、6月の青森G8エネルギー大臣会合、大阪でのG8財務大臣会合、サウジアラビアでの石油産消国閣僚会合、7月のG8北海道洞爺湖サミット等を通じて、産油国・消費国ともに意識の共有が深まりました(第111-7-1)。

特に6月の石油産消国閣僚会合の際には、甘利経済産業大臣(当時)がサウジアラビアをはじめとする中東産油国や中央アジア諸国等を訪問し、積極的に増産を働きかけました。

【第111-7-1】2008年の主な原油市場安定化に向けた取組

【第111-7-1】2008年の主な原油市場安定化に向けた取組

(出所)
各種資料より作成

COLUMN

アジア・エネルギー産消国閣僚会合

アジア・エネルギー産消国閣僚会合は、アジアの主要な資源国と消費国が一堂に会し、国際的なエネルギー問題、アジア地域のエネルギー安全保障の課題等に焦点を当て率直な議論を行い、信頼関係構築を図ることを目的として、2005年以降、隔年で開催されています。

2009年4月には、二階経済産業大臣とカタールのアッティーヤ副首相との共同議長により日本において第3回会合が開催され、アジアの主要産油国であるサウジアラビア、イラン、イラクや主要消費国である中国、日本、インド等のアジア諸国(21カ国)とIEA(国際エネルギー機関)、IEF(国際エネルギーフォーラム)といった国際機関(2機関)が参加しました。第3回会合においては、①石油市場の安定化と投資の確保、②化石エネルギーの効率的な利用とクリーンな利用、非化石エネルギーの利用拡大、③産油国・消費国間協力の促進に関して、率直な意見交換が行われました。

会合の成果としては、石油市場の安定化に向けて、商品先物市場の監視の強化や透明性の向上に関し、規制当局に更なる協調した行動をとることを要請することとしたほか、①アジアの需給見通しの策定、②省エネルギー・新エネルギーに関する先進プロジェクト事例の共有、③相互の研修機会の提供(我が国からは3年間で2,000人の研修生受け入れを表明。)等、具体的なプロジェクトを今後進めることで一致しました。


同会合の議長総括(骨子)は以下のとおりです。

【投資の確保と石油・天然ガス市場の安定化】

  • 将来需給の予見性の向上が、適切かつ継続的な投資にとって不可欠。したがって、産油国・消費国が共同で参加する形でアジア地域の需給見通しを策定するプロジェクトを立ち上げることを日本が提案し、各国はこれを歓迎。
  • 商品市場の監視の強化や透明性の向上に関して、商品市場規制当局のこれまでの努力を評価するとともに、過度な価格変動の抑制に向け、関係当局に対し、建玉制限の導入や店頭市場への監視の強化等、更なる協調した行動をとることを要請。
  • 天然ガスはエネルギー安全保障及び地球環境問題の観点から今後一層重要なエネルギー源であることを確認。
  • 天然ガスはエネルギー安全保障及び地球環境問題の観点から今後一層重要なエネルギー源であることを確認。

【持続可能な化石燃料の利用及び新たなエネルギー資源の利用拡大】

  • 化石エネルギーは、当面、主要なエネルギー源であり続けることから、化石エネルギーのクリーンな利用を進めていくことが必要。CDMによるファイナンスを含めCCSの推進を確認。
  • 省エネ・再生可能エネルギーについては、ビジネスベースでの導入促進を図ることが重要であることを確認。省エネルギー・再生可能エネルギーに関する先進的な協力事例を産油国・消費国間で共有することで一致。
  • 原子力の重要性を確認。投資を促進するため、原子力をCDMによるファイナンスの対象とすることの重要性を確認。

【今後に向けて-産消国間協力の促進】

  • 各国がそれぞれの得意分野を共有することの重要性を確認。我が国は、エネルギー統計、省エネルギー、再生可能エネルギー等エネルギー分野でのキャパシティビルディングをコミット。(3年間で2,000人)
  • 国営石油会社、国際石油会社双方がエネルギー供給網全体に亘る相互の投資をすることは共通の利益となり、石油・ガスの長期に亘る需給とエネルギー安全保障に資するもの。

【今後に向けて-産消国間協力の促進】

【今後に向けて-産消国間協力の促進】

以下では、市場安定化に向けて必要となる対応を概観します。

(1)需給を改善するための取組

原油価格の安定化のためには、需給を改善することが必要です。供給面の取組としては、将来において石油の供給を確実なものとするため、産油国及び石油開発企業が上流事業に投資を行い、着実に生産体制を強化していくことが必要となります。また、OPEC等産油国が需要にあわせて機動的に生産調整を行うため、産油国と消費国が需給に関する共通の認識を持つための対話を促進する必要があります。

また、需要面の取組としては、長期的な視点から石油消費を抑制するため、省エネルギー、新エネルギー及び原子力の適切な導入を世界的に促進する必要があります。

(2)原油先物市場における価格変動対策

①原油先物市場をより透明で厚みのあるものとすることにより価格操縦や不正取引が行いにくく、需給から乖離した価格変動が起きにくい市場とするための措置

(ア)国際的ハーモナイズの下、取引の透明性を高めるための制度整備

2008年6月に、これまで必ずしも十分な取引情報に関するデータが開示されてこなかったロンドンのIntercontinental Exchange(ICE)が、米国商品先物取引委員会(CFTC)に対し、日次ベースでの取引データを提出することとなりました。

また、9月には、CFTCが商品先物取引の監視体制の強化や取引内容の開示報告書の改善等、先物市場の透明性の向上と取引の適正化に向けた対応策を発表しました。今後CFTCによる制度の具体化の動きが注目されます。

(イ)NYMEX以外の市場の活性化(市場の多極化)

これまで、NYMEXのWTI原油、ICE Futures Europeのブレント原油、ドバイ原油等が世界の指標原油となっていました。2007年6月からはアラブ首長国連邦のドバイ首長国にあるドバイ商品取引所(Dubai Mercantile Exchange: DME)においてオマーン原油先物の取引が始まっています。同取引所における先物取引が活発化すれば、これまではアメリカやヨーロッパにおける原油相場に強い影響を受けがちであったアジアの原油相場においても、アジアにおける需給バランスをより強く反映した相場決定がなされることで、市況の適正化につながることが期待されます。

②原油先物市場における過度な価格変動を抑制するための措置

(ア)不公正な取引の監視、罰則の強化

証券監督者国際機構(IOSCO)は、2009年3月にタスクフォース報告書を公表し、商品先物市場における価格形成について検証しています。その上で、各国規制当局が商品先物市場をより適切に監督し、また、当局間の市場監督に関する国際協力を深化させるためには、①各国規制当局が商品の現物市場や店頭先物市場についての情報をより適切に把握できること、②一国又は複数国の現物市場や店頭市場を利用する等複雑な手法による相場操縦行為への対応を行いうる法制や体制を整備すること、③規制当局間の協力を推進すること、が重要であるとする等の勧告を行っています。

(イ)石油統計の整備

石油需給の動向についての正確かつタイムリーな情報が市場に提供されることによって、根拠のない投機行為やパニック行動等を抑制できると考えられます。このため、需給ファンダメンタルズに関する情報整備を進めることが重要となります。

統計整備については、既にIEF(国際エネルギーフォーラム)やUNSD(国連統計局)、APEC(アジア太平洋経済協力)、IEA、OPEC等が参画した共同石油データ・イニシアディブ(JODI)という活動が進められています。JODIのデータは年々改善されており、一層のデータ整備拡充に向けて関係機の関間で議論が続いています。

(ウ)将来需要見通し等の適切な発信

市場関係者が参照する将来の石油需要の見通しは、IEAとOPECがそれぞれ公表するものが代表的です。IEAの設立目的はエネルギーの安定供給を確保することにあり、産油国に対して石油の供給を促す立場から将来の需要を高めに見通した内容となっていると考えられます。またOPECの見通しも産油国の思惑を反映していると考えられます。したがって市場関係者は、需要見通しを発信する側の意図を理解して多角的に判断する必要があります。

そのためには、多様な機関が目的や前提を明確にした上で需要見通しを発信することが必要です。また、長期の石油需要は地球温暖化対策の進展等によって大きく変化しうるものであることから、技術の開発や導入の状況等、対策の進展を適切に反映したものであることが求められます。 加えて、原油開発や代替エネルギー開発等に必要となるコストに関する情報を適切に発信することによって原油価格の上限に関する認識を形成することも重要です。

COLUMN

原油価格形成の理論的考察

経済産業省の委託調査の一環として開催された原油価格研究会 44 では下記の様な理論的分析が行われました。

原油は、消費される「モノ」(=フロー財)としての性質と、投資・投機の対象となる「資産」(=ストック財)としての性質を併せ持っています。

原油をフロー財として捉えるだけでは、価格は現在の需給のみで決定されることになるため、昨年の様な、需給が逼迫していない中での価格上昇を説明できません。他方、ストック財としての性質にも着目すると、予想される将来の価格が現在の価格に影響を及ぼし、需給の逼迫がなくても価格が上昇する(=プレミアムが生じる)ことが説明できます。

また、株式や不動産等の資産(ストック財)の市場では、資産バブルが生じる可能性があることが知られていますが、前述のプレミアムが大きく一方向に継続して生じた場合、バブル的な状況が発生していた可能性があると考えることができます。資産バブルに関しては、近年、研究が蓄積されつつありますが、経済学的には、市場に合理的な投資家と非合理的な投資家が混在する場合にバブルが発生しやすいこと、市場参加者の間で情報の非対称性がある場合にHerding(群衆行動、追随行動)が発生してバブルとなる可能性があること等が知られています。昨年の原油価格高騰局面において、実際の石油市場では、本節6. に記載しているとおり、市場参加者の構成が変化していく中で、新たな市場参加者を中心にHerding等が生じた結果、将来の需給逼迫の懸念が単純に増長され、先高観が市場を支配してしまった可能性があると考えられます。

したがって、原油価格の安定化のためには、ファンダメンタルズ対策に加えて、先物市場における対策も行うことが重要となります。

なお、市場対策は不要とする見解もあり、「投資・投機により価格が上昇すれば(需要減・供給増が生じ)在庫が増加するはずだが、2007年から2008年半ばの間で在庫の増加は観測されていない」ことを論拠としています。しかし、この指摘については、原油の短期の価格弾力性が極めて低い 45 ため、価格が大きく上昇しても在庫は殆ど増加しないことや世界全体の在庫を表すような統計が整備されていないこと等から、もともと在庫の増加が観測されにくいという点を考慮する必要があります。

3
商品インデックスファンドとは、エネルギー、金属、農産物等商品先物を投資対象とするファンドで、S&P GSCI、DJ-AIG等の代表的な商品インデックスに連動した分配が得られます。例えば、S&P GSCIはWTI原油、ブレント原油、ガソリン、天然ガス、小麦、トウモロコシ、大豆、綿、砂糖、金、アルミ、銅等の24の商品先物で構成され、世界生産金額により加重平均されています。
4
一般に、不動産担保融資の債権を裏付けとして発行された証券のことを指します。住宅ローンの貸し手が、住宅ローンを貸し出し、この住宅ローン債権を証券発行体に売却します。証券発行体は、これをもとにしてモーゲージ証券を発行します。発行された証券は、元利均等支払が保証される等、信用力や格付けが高められた上で、投資家に販売されることになります。
5
フランスの大手銀行であるBNPパリバが、相場の混乱で資産価値を適正に評価できなくなったとして、傘下の3つのファンドを凍結しました。この発表によりフランスの株式市場が大幅に下落し、欧米の市場へ影響を与えました。
6
一第1次石油ショックを受け、1974年にOECDの枠内における機関として設立。中長期的に安定的で持続可能なエネルギー需給構造を確立することを目的として、石油供給途絶等緊急時の対応策の整備や、石油市場情報の収集・分析、石油輸入依存低減のための省エネルギー、代替エネルギーの開発・利用促進、非参加国との協力等に取り組んでいます。現在28カ国が加盟(OECD加盟国でIEAに未参加の国はアイスランド、メキシコの2カ国)。
7
中国は2000年の479万バレル/日(世界シェア6.3%)から08年の786万バレル/日(同シェア9.2%)へ年率6.3%の増、インドは同205万バレル/日(世界シェア2.7%)から308万バレル/日(同シェア3.6%)へ年率5.3%の高い伸びを示しました。(IEA,「Oil Market Report」)
8
非OECDの石油需要は、対前年同期比で2008年第1四半期4.1%増、同年第2四半期4.3%増、同年第3四半期4.6%増、と堅調に伸びてきましたが、同年第4四半期は0.8%増と伸びが鈍化しました。
9
新日本石油編著「石油便覧」第2章世界の石油需給動向より
10
各需要家による最終石油製品消費の統計が存在しないため、最終消費に近い石油製品供給の統計を使用しています。
11
現OPEC加盟国は、サウジアラビア、イラン、イラク、クウェート、ベネズエラ、カタール、リビア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、ナイジェリア、アンゴラ(2007年加盟)、エクアドル(2007年再加盟)。非OPECの主要産油国は、ロシア、アメリカ、カナダ、メキシコ、ノルウェー、英国、カザフスタン等。
12
ユコスは当時ロシア最大の石油生産企業でした。2003年10月に同社CEOであるホドルコフスキーは所得税、法人税等の脱税容疑により、ロシア政府に逮捕されました。2006年7月にユコスの債権者は、会社は清算されるべきであるとの破産管財人の指摘に従い、破産の申請を行ないました。
13
世界の石油需要から非OPEC生産を差し引いた残余として定義され、世界の需給バランスが均衡するためにOPECに求められる生産量を意味します。
14
原油のファンダメンタル価格の推計は、原油需要、原油供給、原油価格からなる構造型ベクトル値自己回帰モデルにより行っています。モデルの内生変数としては、世界の石油需要の対前年同期伸び率、世界の石油供給の対前年同期伸び率、実質原油価格の対数を用いています。モデルは分析内容及びデータ制約を考慮して四半期ベースとしました。推計期間は、1995年第1四半期から直近の2009年第1四半期間まで、ラグは1期としました。ファンダメンタル価格は、推計されたパラメータを用いて、原油価格に関するショックを除去することで推計しました(分析手法に関する詳細は、柳澤明「原油のファンダメンタル価格・プレミアムの推計と要因分解」(2008年2月)、(財)日本エネルギー経済研究所ホームページ(http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1626.pdf)を参照)。
15
2008年11月公表。世界の人口増加率:年率平均1.0%(2006年~2030年)、世界の実質経済成長率:年率平均3.3%(同)を前提としています。
16
170万バレル/日は日本が消費する石油の約4割強に相当する量です。
17
第10回国際エネルギーフォーラム(2006年4月)において、消費国側は原油価格高騰の原因を主に生産国における余剰生産能力の不足であると指摘しています。
18
資源ナショナリズムについては、様々な定義が可能ですが、ここでは「産油ガス国政府による国内の石油天然ガス資源に対する国家管理を強化し、自国の主導権の下で開発・生産を行なおうとする動き、及び国内の資源部門で操業する外資企業からの税収を増大させようとする動き」と定義します。
19
BP統計2008
20
『エネルギー白書2008年版』10~11頁より
21
地政学的リスクという言葉は、様々な文脈で用いられますが、一般的には「戦争や内乱、油田国有化のように政治的な事象によって引き起こされるものであり、かつ比較的短期に石油供給を減少させる可能性が懸念されるリスク」を指します。
22
投資家等から資金を得て株式や債券、商品先物の売買、金融派生商品等の活用等様々な手法で資産運用を行っているファンド。ヘッジファンドは私募による投資信託であるため、規制が緩やかで自由な運用が可能であることから、一般的にハイリターンを追求した積極的な運用が行なわれます。投資手法の一例として「ロング・ショート」という手法は、株式等の有価証券についてロング(買い持ち)とショート(売り持ち)の双方のポジションを同時に取るもので、前者はファンドマネージャー等の分析に基づいて割安な株式を買い持ちし、後者は割高な株式を売り持ちすることをいいます。
23
建玉(たてぎょく)とは、先物取引、オプション取引等取引所において売買取引された売買約定によるもので、まだ決済されていない契約数を指します。
24
オプション取引とは、例えば原油に関して、あらかじめ定められた期日又は期間内にあらかじめ定められた価格(権利行使価格)で取引する権利を売買する取引です。原油を買う権利を「コール・オプション」、売る権利を「プット・オプション」といい、それぞれの権利の売買が行われます。買い手は原油が上昇していけば、利益はどこまでも大きくなるのに対して、価格が下落してもその損失はオプションの権利を放棄することによって、オプション料に限定することが出来ます。
25
先物市場において、ある人が先物を1枚売買すれば、その時、建玉は1枚、出来高も1枚となります。仮にその人が反対売買をすると、先物売買は決済され、未決済残高を示す建玉は1枚から0枚へ減少しますが、売買成約を示す出来高は1枚から2枚へ増加します。出来高は取引成約の量を示し、売買を繰り返すことで増加します。
26
ただし、先物の建玉にWTI価格を乗じて算出した先物の未決済残額は、原油価格の高騰を受けて2008年7月まで増加を続け1,800億ドル台に達しました。2008年7月以降は原油価格の下落とともに残額も減少し、400億ドル程度まで急速に減少しています。
27
アメリカ商品先物取引委員会(CFTC)は、原油生産企業や精製企業等直接石油に関係し先物市場に参加する者を当業者(Commercial)、ヘッジファンド等の実物の石油を扱わない事業者を非当業者(Non-Commercial)に区分しています。当業者は建玉制限を受けませんが、スワップディーラーと呼ばれる金融機関等(投資銀行等)には油槽所や備蓄設備を有しているところもあり、これらが当業者として扱われていることから、アメリカ商品先物取引委員会では区分を見直すことも検討しています。
28
店頭取引(OTC; Over the Counter)とは、投資家からの売買注文を金融機関等(スワップディーラー)が売買の相手方となって売買を成立させることをいいます。商品取引所を通じて売買注文を1カ所に集めて成立させる取引所取引ではなく、個別に取引を成立させていきます。
29
S&P GSCIの価格は2002年前半から2006年までの間に約3倍に上昇し、高いリターンを実現したことから、投資家の注目を集めることになりました。2008年には1月の7,460から、7月には一時10,898の年初来の高値に達する等、活況を呈しました。しかしその後、金融危機の影響で下落し、12月19日には3,819まで低下しています。
30
日本経済新聞、2007年11月22日付
31
2008年6月23日に、アメリカ下院エネルギー・商業委員会において、Masters Capital Management LLC社のMichael Masters氏が行った報告のこと。詳細は、(http://energycommerce.house.gov/cmte_mtgs/110-oi-hrg.062308.Masters-testimony.pdf#search='Michael Masters')で参照可能。
32
CFTC, Staff Report on Commodity Swap Dealers & Index Traders with Commission Recommendations SEPTEMBER 2008
33
CalPERSのStatement of Investment Policy(2008年2月19日)による。(http://www.calpers.ca.gov/eip-docs/investments/policies/inv-asset-classes/ilac-policies/ilac.pdf)
34
Sovereign Wealth Fund Institute調べ(http://www.swfinstitute.org/fund/adia.php
35
投資ファンドを投資対象とするファンド
36
非当業者(Non-Commercial)は、原油生産者や精製業者等ヘッジを目的として先物市場に参加する当業者以外を指し、一般的にはヘッジファンド等がその代表例です。なお、スワップディーラーと呼ばれる金融機関(投資銀行等)の一部は、投機的取引を行っていると考えられますが、現物の石油も取り扱うため、当業者に分類されています。
37
例えば、IMFのHossein Samiei氏は、2006年12月のOPEC-EU共同セミナーにおいて、非当業者はむしろ原油価格の後を追ってポジションを変えている、との見方を示しています。
38
CFTC「Commitment of Trader」報告書データによる。
39
出所のレポート には次の留意点が記載されています。「Eurekahedgeのデータは、各運用機関及び外部の情報を元に作成しております。Eurekahedge及びその関係者は情報の正確性、完全性、市場性、仮定、計算等について保証を行っておりません。情報の閲覧・利用者は、データの使用に際して、情報における全てのリスクを認識し、負う必要があります。Eurekahedgeではデータ及び情報に基づくいかなる理由の損害に関しても責任を負いかねます。データは、特定のファンド、有価証券、または金融商品、企業への投資に関する勧誘或いは販売勧誘を構成するものではなく、また、独立した金融機関、あるいは専門家としての助言として解釈されるべきではありません。Copyright 2009 Eurekahedge Pte Ltd」
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通貨、トラベラーズチェック、預金、CD(Checkable Deposit)、MMF等を含む。
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M2は中央銀行による国債の購入等の金融政策により拡大。マーシャルのK(M2/名目GDP)は2000年の0.59から2008年には0.65に上昇しました。
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期待インフレ率は市場が予想する将来の物価上昇率と定義されますが、一般的に名目金利と実質金利を表す米国政府財務省証券と物価連動債(TIPS:Treasury Inflation Protected Securities)の利回りの差であるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI:Break-Even Inflation Rate)によって示されます。物価連動債は物価上昇率に応じて元本が調整される債券であり、物価が上昇しても実質的な価値が低下しません。このため市場関係者はこのBEIを商品投資へのインセンティブの1つとして、その動向を重視しています。ここでは国債とTIPSの5年ものを使用し、今後5年間の期待インフレ率を試算しています。
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所有する商品自体の価格も物価と連動して上昇する傾向があるため、インフレになっても価値が目減りすることが少ないとされています。
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座長は松井彰彦教授(東京大学大学院経済学研究科)。同委託調査の報告書はホームページ参照。(http://www.enecho.meti.go.jp/notice/topics/012/
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原油の短期の需要価格弾力性値は0.03と試算されています。これは、短期的には価格が倍になっても 需要は3%しか減らない、つまり、価格が大きく変動しても、在庫の変動は極めて小さくなるということを意味しています。(経済産業省平成20年度委託調査より)