第6節 石油産業

1.石油業法、緊急時二法等の制定

太平洋戦争の終了後、1951年から民間企業による石油輸入が再開されたものの、当時の我が国の外貨資金は極めて限られていたため、原油及び石油製品の輸入も他の物資の輸入と同様に「外貨割当制度」の下に行われていました。その後、日本経済の急速な発展に伴い、自由貿易を基調とする国際経済社会において応分の責任を果たすことが求められ、我が国においても世界の大勢である貿易自由化の体制を早急に確立することが緊急の課題になりました。日本政府は、1960年6月に「貿易・為替自由化計画大綱」を決定し、これに伴い1962年10月には石油輸入の大部分を占める原油の輸入自由化を行いました。石油輸入の自由化は、外貨の割り当てを通じて原油及び石油製品の輸入の調整ができなくなることを意味するため、日本経済における石油の重要性にかんがみ、1962年に石油業法(原油輸入の自由化に対応した石油産業の基本法)を制定しました。石油業法は、石油精製業等の事業活動を調整することによって石油の安定的かつ低廉な供給の確保を図ることを目的とするもので、石油供給計画の策定や石油精製業の許可、届出等について定めました。

その後、1970年代における2度の石油ショックは我が国の社会経済や国民生活に大きな打撃を与えた出来事であり、1973年12月に、このような危機を未然に防止し、また危機的な状況に対処するための緊急時二法(石油等の重要な物資の価格及び需給の調整等に関する緊急措置を定めた「国民生活安定緊急措置法」と、石油の大幅な供給不足が生じた際の石油の適正な供給確保と石油使用の節減のための措置について定めた「石油需給適正化法」)を制定しました。また、前述のとおり、石油の備蓄を確保することにより、石油の供給が不足する事態が生じた場合でも石油の安定供給を確保するため、1975年12月に「石油備蓄法(現:「石油の備蓄の確保等に関する法律」)」を公布し、石油の備蓄目標を定めるとともに、石油業者に石油の備蓄を義務付けました。

これらに続き、ガソリン等の安定供給と品質管理の徹底等を目的としてサービスステーション(SS)の登録や品質管理義務等について定めた「揮発油販売業法」(1976年11月公布)、一定の秩序の下でガソリン・灯油・軽油の輸入を促進することを目的にガソリン、灯油、軽油の三油種の輸入を精製業者に限定した「特定石油製品輸入暫定措置法(以下特石法)」(1985年12月公布)が定められました。

2.規制緩和の推進

1987年以降、石油産業の国際競争力の確保、経営や流通の自由度の確保に基づく経済の活性化を図るための石油産業に対する規制緩和措置を進めており、その施策は1993年以前の第一次規制緩和と1996年以降の第二次規制緩和に整理されます。

(1)第一次規制緩和(1987年~1993年)

第二次石油ショック以降、市場メカニズムを通じて民間の活力を極力尊重し、経済の活性化を図ることを目的に、石油産業の生産・販売活動に対する規制の緩和を進めました。1986年11月、石油審議会石油部会に「石油産業基本問題検討委員会」を設置し、1987年6月に「1990年代に向けての石油産業、石油政策のあり方について」と題する報告書を取りまとめました。

この報告書の提言を受け、

○1987年7月 二次精製設備許可の弾力化

○1989年3月 ガソリン生産枠指導(PQ)の廃止

○1989年9月 灯油の在庫指導の廃止

○1990年2月 SS建設指導と転籍ルールの廃止

○1991年9月 一次精製設備許可の弾力化

○1992年3月 原油処理枠指導の廃止

○1993年3月 重油関税割当(TQ)制度の廃止

等の規制緩和措置を順次講じていったのが第一次規制緩和です。

この第一次規制緩和のプロセスにおいては、石油業法、揮発油販売業法の運用上、平常時において石油産業の生産・販売活動を競争制限的に規制していた点を見直し、国内石油市場を一定の枠組みの中で競争的市場に再構築することを念頭に置いたものでした。

(2)第二次規制緩和(1996年~2002年)

第一次規制緩和の段階では、生産、販売の一部に競争がもたらされましたが、輸入に関する規制は依然として残っていました。特に、ガソリン、灯油及び軽油の輸入は、特石法によって、事実上、精製業者以外の事業者が行うことは認められませんでした。生産、販売に限らず、輸入分野にまで規制が緩和されたのが第二次規制緩和に当たります。

バブル経済の崩壊、円高の進行等の経済情勢の変化に伴い、第一次規制緩和から一歩踏み込んで、公正な競争原理を確保しつつ、安定供給と効率的供給のバランスのとれた石油製品の供給を実現するために、国際的な競争も視野に入れ、国内市場の新たな枠組み作りを目指し、第二次規制緩和を実施しました。

規制緩和の基本的な考え方を検討してきた経済改革研究会は、1993年12月、「石油にかかわる規制は必要最小限のものとし、可能な場合は『平常時自由、緊急時制限』方式を導入する」との考えに立って、石油政策を見直すことを求める報告書を取りまとめました。また、同年12月に取りまとめられた石油審議会基本政策小委員会の中間報告では、「安定供給と効率的供給の要請との適切なバランスをとった今後の石油製品供給体制のあり方を検討することが必要である」との指摘がなされました。

これらを受け、1994年12月に石油審議会において「今後の石油製品供給のあり方について」の報告書が取りまとめられ、その結果を受け、1995年4月、特石法の廃止を含む「石油製品の安定的かつ効率的な供給の確保のための関係法律の整備に関する法律」(石油関連整備法)を公布、揮発油販売業法を「揮発油等の品質の確保等に関する法律」(以下「品確法」という。)として改正するに至りました。この改正は石油製品の輸入の自由化に伴う国内市場の石油製品の品質多様化に対応し、ガソリンのみならず、灯油、軽油についても、品質の確保を図ることを目的とするもので、揮発油販売業者の登録制度、規格に適合しない燃料油の販売規制について定めています。

さらに、1997年6月に、石油審議会において、石油流通の一層の効率化、透明化、公正化に向けた報告書が取りまとめられ、その指針を受け、制度的な措置として、

○1997年7月 石油製品輸出承認制度見直し

(包括承認制の導入・輸出の自由化)

○1997年12月 SSの供給元証明制度の廃止を実施しました。

また、セルフ給油方式の導入について、総務省消防庁の「給油取扱所の安全性等に関する調査検討委員会」において、安全・保安面からの検討した結果、1998年4月から、監視員が常駐する有人給油方式のセルフ給油を解禁としました(第136-2-1)。

【第136-2-1】石油関連規制と規制緩和の推移

【第136-2-1】石油関連規制と規制緩和の推移

(3)現在の石油政策の基本的考え方について

これを踏まえ、1998年6月の石油審議会石油部会基本政策小委員会報告書(答申)においては、昨今の環境変化を踏まえた今後の石油政策の基本的な考え方として、危機の予防・回避のため、国際石油市場の機能を評価しつつも、一方で、市場が機能しない場合に備えた政策展開の重要性が指摘されました。また、石油精製業をめぐる制度に関しては、平時における需給調整規制の廃止等が提言されました。これを踏まえ、2002年に石油業法が廃止され、石油産業での自由化が完成しました。

(4)規制緩和の効果

最近の規制緩和により、石油製品の輸入への新規参入の促進、ガソリン価格を中心とする石油製品価格の大幅な低下等の効果がもたらされました。一方で、我が国の石油産業はかつてない厳しい経営環境下に置かれており、各社による大幅なコスト削減や合理化、業務提携や再編・集約化が積極的に進められています。

〔1〕新規参入等

特石法の廃止による輸入自由化等の規制緩和措置を受け、従来の精製・元売会社に加え、総合商社等が新たに石油製品の輸入を開始しました。さらに、大手流通業者等異業種、外資系企業もSSに参入しています。また、セルフSSも増加しています(第136-2-2)。

【第136-2-2】セルフSS数の推移

【第136-2-2】セルフSS数の推移

【第136-2-2】セルフSS数の推移(xls形式:29KB)

一方、1994年の特石法廃止の検討開始を契機とした価格競争の激化の結果、SS数及び事業者は1994年をピークに減少傾向にあります(第136-2-3)。さらに、特石法廃止による輸入自由化等の規制緩和措置を受け、従来の精製・元売会社に加え、総合商社、大手流通業者、外資系企業が新たにSSに参入しています。

【第136-2-3】SS数及びSS事業者の推移

【第136-2-3】SS数及びSS事業者の推移

【第136-2-3】SS数及びSS事業者の推移(xls形式:29KB)

〔2〕ガソリン価格等の低下

特石法廃止の検討が開始された1994年初頭以来、自由化を先取りした競争の激化等の影響により、ガソリンを中心に石油製品価格が大幅に低下しました(第136-2-4)。こうした中で、例えば、2000年1月に公表された経済企画庁(現:現内閣府)の試算によれば、規制緩和によるガソリン価格低下により、約1兆4,000億円もの利用者へのメリットが発生しているとされています。

【第136-2-4】最近の我が国の石油製品価格の推移(消費税・ガソリン税・軽油引取税を除く)

【第136-2-4】最近の我が国の石油製品価格の推移(消費税・ガソリン税・軽油引取税を除く)

【第136-2-4】最近の我が国の石油製品価格の推移(消費税・ガソリン税・軽油引取税を除く)(xls形式:71KB)

3.経営基盤の強化に向けた取組

競争の激化に伴い、我が国の石油産業は従来にない厳しい経営環境の下に置かれており、石油精製・元売の1998年度決算(29社)の合計は、第2次石油ショック直後の1981年度決算以降17年振りに180億円の経常赤字となりました。2002年度決算(23社)は、原油価格上昇分を製品価格に転嫁出来なかったためマージンの悪化等により、前年度に比べ営業利益、経常利益、当期利益が減少しましたが、4年連続で経常黒字となりました(第136-3-1)。

【第136-3-1】石油精製元売各社の決算状況

【第136-3-1】石油精製元売各社の決算状況

【第136-3-1】石油精製元売各社の決算状況(xls形式:19KB)

近時の原油価格の高騰に伴う原料コストの上昇について、ガソリンは小売価格への転嫁が一定程度進んでいるものの、軽油、灯油については価格転嫁が必ずしも十分進んでいないのが実情です。さらに、国内の石油精製能力と実需を比べると、供給能力に余剰が生じています。2003年度末には、精製能力477万B/D(1日当たり・バレル)に対し、原油処理量は406万B/Dにとどまっています。国内における石油の安定供給の確保のためにも、石油業界の経営基盤の強化が重要な課題となっています(第136-3-2、第136-3-3)。

【第136-3-2】我が国の常圧蒸留能力、原油処理量及び稼働率の推移

【第136-3-2】我が国の常圧蒸留能力、原油処理量及び稼働率の推移

【第136-3-2】我が国の常圧蒸留能力、原油処理量及び稼働率の推移(xls形式:97KB)

【第136-3-3】我が国石油精製業の現状

【第136-3-3】我が国石油精製業の現状

【第136-3-3】我が国石油精製業の現状(xls形式:32KB)

上記のような厳しい環境変化の中で、石油業界においては、物流提携、人員削減等の大幅なコスト削減、合理化に鋭意努力を継続しています。また、精製・流通の設備過剰の解消も課題とされる中、各社ベースの合理化努力には限界があることから、日本石油と三菱石油が合併して日石三菱が誕生(その後、新日本石油に社名変更)、新日本石油・コスモ石油の業務提携、昭和シェル石油・ジャパンエナジーの業務提携、新日本石油・出光興産の精製提携等、既存グループの枠組みを超えた再編・集約化が進んでいます。さらに、新日本石油と帝国石油の資本・業務提携のように、既存の精製・元売業の枠組みにとどまらず、上流部門を含めた再編の動きも見られます(第136-3-4)。

【第136-3-4】日本の石油元売会社の再編の流れ(2004年12月現在)

【第136-3-4】日本の石油元売会社の再編の流れ(2004年12月現在)

このように、石油産業は、国際競争の進展や品質規制強化の要請等が高まる中で、懸命に経営合理化の努力を行ってきているところです。こうした取組は、強靭な石油産業の形成を通じた我が国の石油の安定的かつ効率的な供給に資するものとの認識に基づき、政府としても以下のような予算等による支援を実施しています。

○石油精製関連技術の一層の高度化、環境保全への対応を図るために、石油精製プロセス等に関する技術開発支援を実施。

○石油精製業の生産性・効率性を高めるため、石油精製業を中心としたコンビナートの一体的な運営のための技術開発支援を実施。

○石油精製業の生産体制の適正化を円滑化するために、余剰精製設備の廃棄に係る費用等を支援。

○石油製品販売業を取りまく事業環境の変化を踏まえ、SS事業者が事業環境の変化に対応するために行う経営革新や経営改善努力への支援を実施

○土壌汚染対策法が施行されたことにかんがみ、SS周辺地域の土壌保全の確保を図る観点から、SS事業者の土壌汚染の未然防止対策に対する支援を実施。

4.環境保全に向けた取組

(1)これまでの取組

第1章でも述べたように、1968年の大気汚染防止法制定以来、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)排出量の着実な削減が行われました。

その他、1960年代から1970年代、排煙脱硫装置の設置が着実に進展し、早期の硫黄酸化物環境基準の達成に貢献しました。1970年代から1980年代には、深刻化した光化学スモッグ対策として、ガソリン自動車に対する本格的排出ガス規制がはじまりました。排出ガスを処理する装置の触媒は、当時ガソリンにアンチノック剤として添加していた四アルキル鉛によって被毒し、性能が劣化すること及び四アルキル鉛そのものが人体に有害であるため、石油産業は技術開発に努め、1976年にガソリンの無鉛化を達成しました。

(2)最近の取組

〔1〕固定発生源対策

我が国においては、大気環境を保全するため、1968年に「大気汚染防止法」が制定されました。この法律は大気汚染に関して国民の健康を保護するとともに、生活環境を保全することを目的としています。同法では固定発生源(工場や事業場)から排出される大気汚染物質について、物質の種類ごと、排出施設の種類・規模ごとに排出基準等が定められています。

窒素酸化物については、低窒素酸化物燃焼技術の開発や排煙脱硝装置の設置が進みました。また、硫黄酸化物については、排煙脱硫装置の設置等が進み、K値規制(地域と煙突の高さに応じて排出が許容される量を定める規制)による施設単位の排出規制に加えて、国が指定する24地域において、総量削減計画に基づき工場単位の総量規制が行われています(第136-4-1、第136-4-2)。

【第136-4-1】年度別排煙脱硫装置設置状況(1970年度~2002年度)

【第136-4-1】年度別排煙脱硫装置設置状況(1970年度~2002年度)

【第136-4-1】年度別排煙脱硫装置設置状況(1970年度~2002年度)(xls形式:36KB)

【第136-4-2】年度別排煙脱硝装置設置状況(1972年度~2002年度)

【第136-4-2】年度別排煙脱硝装置設置状況(1972年度~2002年度)

【第136-4-2】年度別排煙脱硝装置設置状況(1972年度~2002年度)(xls形式:37KB)

〔2〕移動発生源対策

我が国においては、深刻化する大都市地域の大気汚染に対応するため、移動発生源からの窒素酸化物・粒子状物質(PM)の総量排出規制として、2001年6月に自動車NOx法の改正を行いました。2002年4月の閣議決定では、第136-4-3のような総量削減基本方針が示されています。これは事業者が自動車を利用する際の、大気汚染物質の排出の抑制、及び車種規制について判断基準を示したものです。

【第136-4-3】自動車NOx・PM法の概要

【第136-4-3】自動車NOx・PM法の概要

自動車用燃料の更なる低硫黄化の取組として、軽油については、石油審議会における検討の結果、2004年末までに硫黄分を50ppm以下とすることが適当とされましたが、石油業界はこの規制を先取りして、2003年4月からほぼ全国供給を実施する等、積極的な取組を展開しています。また、ガソリンについても同様に、2002年の総合資源エネルギー調査会において、2004年末までに50ppm以下とすることが適当とされました。

しかしながら、自動車排出ガスの更なる低減と燃費の更なる向上を図るためには、ガソリン・軽油中の硫黄分を10ppm以下まで低減した、いわゆる「サルファーフリー燃料」の早期導入・普及が必要です。

こうした状況を受けて、2003年8月に総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会は、軽油は2007年、ガソリンは2008年から、サルファーフリー(硫黄分10ppm以下)を強制規格化することが適当との答申を取りまとめました(第136-4-4)。石油業界は、強制規格化に先駆けて、2005年1月から自主的にサルファーフリー軽油・ガソリンの全国(離島、沖縄を除く。)供給を開始しました。一方、国は、この規制に先駆けてサルファーフリー燃料を供給する事業者に対し、新たに必要なコストの一部をその供給量に応じて補助する制度を2004年度から開始しました。

【第136-4-4】ガソリン及び軽油における硫黄分低減への取組

【第136-4-4】ガソリン及び軽油における硫黄分低減への取組