第2節 安全の確保

1.原子力の安全の確保と安心の醸成

(1)原子力の安全確保の考え方

〔1〕安全確保の体制整備

災害防止等の観点から行われる原子力施設の安全規制は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)等の法令に基づき行われています。

具体的には、経済産業省や文部科学省等安全規制を行う国の行政庁においては、事業の許可や原子炉設置の許可にあたり、原子力施設の構造等が核燃料物質、原子炉等による災害の防止上支障のないものであること等について審査を行うとともに、その後の建設及び運転の段階においても、各種の認可、検査等の規制を行います。

また、事業許可や設置(変更)許可を行うにあたり、行政庁は、内閣府に設置されている原子力委員会(原子力長期計画の策定をはじめ、我が国の原子力政策の基本方針などを企画、審議、決定する機関)及び原子力安全委員会(安全審査に用いられる指針類の策定等、原子力研究開発利用に関する政策の安全確保に関する政策を企画、審議、決定する機関)に諮問し、その諮問を受けた原子力委員会及び原子力安全委員会は、行政庁の行った審査内容を審議します(いわゆるダブルチェック)。

実用原子力発電施設については、原子炉等規制法と電気事業法による規制が行われています。具体的には、設置(変更)許可、保安規定の認可等については、原子炉等規制法により、工事計画の認可、使用前検査、定期検査等については電気事業法により規制が行われています。

実用原子力発電施設を解体しようとするときは、解体届を提出することが、原子炉等規制法により要求されます。また、廃止措置中は保安規定の認可、保安規定の遵守状況検査、施設定期検査等について、同法による規制が行われます。

実用原子力発電施設を解体しようとするときは、解体届を提出することが、原子炉等規制法により要求されます。また、廃止措置中は保安規定の認可、保安規定の遵守状況検査、施設定期検査等について、同法による規制が行われます。

なお、2001年1月6日の省庁再編に伴い、それまでは科学技術庁(当時)が実施していた原子力安全行政の一部と通商産業省(当時)が実施していた原子力安全行政が一元化されました(第132-1-1)。さらに、経済産業省に原子力安全・保安院が設置され、エネルギーとしての利用に関する原子力の安全規制行政及び産業保安行政を一元的に実施することとなりました。また、(株)ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故(後述)を教訓に万が一事故が発生した場合に、政府全体として、迅速かつ適切な対応ができるよう防災体制を整えています。

【第132-1-1】原子力安全・産業保安行政体制

【第132-1-1】原子力安全・産業保安行政体制

〔2〕原子力発電所の安全確保に対する基本的考え方

原子力発電所等の原子力施設は放射線や放射性物質を取り扱う施設であり、潜在的なリスクを持っているといえます。このため、放射性物質等による外部への影響等の潜在的なリスクを低く抑えることが不可欠です。

このため、原子力施設では、「多重防護」の考え方を採用しています。これは、まず「異常の発生を防止する」、次に「異常が発生した場合には早期に検知し、事故に至らないよう異常の拡大を防止する」、そして「事故が発生した場合にも、その拡大を防止し影響を低減する」という3つのレベルでの対策を講ずるというものです。

また、原子力施設は、地震、津波等に対しても、その施設に応じて十分な対策がなされています。例えば、原子力発電所の耐震設計に当たっては、過去に起こった地震や建設予定地周辺での活断層の存在を詳細に調査して、最も大きな影響を与える恐れのある地震を想定し、その地震が発生した時における安全上重要な建物や機器等の揺れを解析することにより耐震安全性を確認しています。また、原子炉建屋内に設置された地震感知装置が大きな揺れを感知すると、原子炉を安全に自動停止する仕組みが備えられています。国の安全規制においては、原子力施設がこうした安全への要求を満たすものであることを確認しています(第132-1-2)。

【第132-1-2】原子力発電所の安全確保に対する考え方

【第132-1-2】原子力発電所の安全確保に対する考え方

(2)原子力行政にかかる過去の事故事例とその教訓

過去、国内外で安全確保上重要な事故やトラブルが、これまでいくつか発生しています。以下、その概要を紹介します。

〔1〕スリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所事故

1979年3月28日、アメリカのスリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所2号機において、機器の故障や誤操作、誤判断が重なったために炉内構造物の一部溶融に至る事故が発生しました。この事故によって、発電所から80km以内の住民が延べ20人・シーベルト※8、1人当たり0.01ミリシーベルトの放射線を受けました。

※8:シーベルトは、人の受ける放射線当量を示す単位。人は、自然環境の中で放射能を受けており、その水準は、年間約1ミリシーベルトに達する。また、原子力施設で検査等にあたる職業人の該当当量は、年間50ミリシーベルトに制限されている。

我が国では、この事故の教訓として、安全基準、安全審査、安全設計、運転管理、防災及び安全研究という広い範囲にわたる52項目の反映事項を抽出し、原子力発電所のより一層の安全確保を図ることとしました。

〔2〕チェルノブイリ原子力発電所事故

1986年4月、旧ソ連ウクライナ共和国チェルノブイリ原子力発電所4号機において、運転員の数々の規則違反と安全設計上の問題から、出力が急上昇し原子炉と建屋の構造物の一部が破壊に至る事故が起きました。この事故により、消火に当たった消防士を含む31名が数ヵ月以内に死亡、また、放出された放射性物質は国境を越えて、隣接するヨーロッパ諸国を中心に広範囲に拡散される結果を招きました。

わが国では、原子力安全委員会が1986年5月に「ソ連原子力発電所事故調査特別委員会」を設置して調査審議を行い、1987年5月に報告書を取りまとめ、その中で、我が国の原子力発電所は、チェルノブイリ原子力発電所とは設計、構造が大きく異なることから同じ様な事故が起こることは極めて考えにくく、現行の安全規制について早急に改めるべきものはないとしました。しかしながら、より一層の安全確保の観点から、原子力防災対策の充実、安全意識の醸成、安全性に関する国際協力の推進等の7項目が事故の教訓として指摘されました。

COLUMN

チェルノブイリと我が国の原子力発電所の違い

我が国の原子力安全委員会は、「ソ連原子力発電所事故調査報告書」において、事故原因について、設計の脆弱性と運転員の規則違反の2つの観点から言及しています。その中では、運転員の数々の規則違反によるもののほか、事故時の出力上昇に対してブレーキ(自己制御性と緊急停止)が効かない設計等事故炉の設計上の問題点も事故拡大につながったとされています。

我が国の原子力発電所については、このような急激な出力上昇を伴う事故に対する適切な設計上の安全確保対策がなされていること、運転管理体制が適切なものであること等から、チェルノブイリ事故と同様な事態になることは、極めて考えにくいとしています。

また、我が国の原子炉には、もし万一放射性物質が原子炉から外に漏れても、これを放出させないための原子炉格納容器があります。この点でも旧ソ連と我が国の設計思想は大きく異なっています(第132-1-3)。

【第132-1-3】チェルノブイリ型と日本の原子炉

【第132-1-3】チェルノブイリ型と日本の原子炉

〔3〕美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱管損傷事象

1991年2月、関西電力(株)美浜発電所2号機(定格出力にて運転中)において、蒸気発生器の伝熱管1本が破断し、原子炉が自動停止するとともに非常用炉心冷却装置(ECCS)が作動しました。伝熱管が破断した原因は、蒸気発生器伝熱管の振れ止め金具の施工不良(大幅な挿入不足)により異常な振動が発生し、材料の疲労によって破断に至ったと判断されています。この事象では、放射性物質が外部へ放出されましたが、その量は極めてわずかであり、周辺環境への影響は認められませんでした。

この事象を踏まえ、各電気事業者は、品質保証活動の強化、蒸気発生器伝熱管の健全性の向上、保守管理方法の改善といった自主保安活動の強化を図ることとし、また、通商産業省(当時:現経済産業省)も、原因となった振れ止め金具の工事計画の審査及び検査対象への追加や、定期検査・安全評価の充実、品質保証活動に対する指導・監督の強化といった安全確保対策の一層の充実を図ることとしました。なお、美浜発電所2号機は、蒸気発生器を新しいものに取り換える等の再発防止対策を取った上で、1994年10月に運転を再開しています。

〔4〕高速増殖原型炉「もんじゅ」2次系ナトリウム漏えい事故

1995年12月、福井県敦賀市にある動力炉・核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発機構)の高速増殖原型炉「もんじゅ」において、性能試験の出力上昇中、二次冷却系※9からナトリウムが漏えいしました。ナトリウムが漏えいした原因は、二次冷却系の配管に取り付けられた温度計のさや管の設計が不適切であったためで、さや管がナトリウムの流れによって振動し、破損してナトリウムが漏えいしたものと判断されました。この事故では、放射性物質による従事者や環境への影響はなかったものの、ナトリウムの漏えいが発生したこと、さらに事故後の情報公開をめぐる不適切な対応から、社会に不信感と不安感をもたらすこととなりました。

※9:原子炉の炉心部を冷却する系統を一次冷却系といい、一次冷却系と熱変換を行い、一次冷却系を冷却する系統を二次冷却系という。二次冷却系の冷却材にはナトリウムが用いられるが、炉心部とは、直接触れておらず、放射性物質は含まない。

〔5〕ウラン加工工場臨界事故

1999年9月30日、株式会社ジェー・シー・オー(JCO)のウラン加工工場の転換試験棟において臨界事故が発生しました。この事故は、我が国で初めての臨界事故で、臨界に伴って発生した放射線により、現場にいた作業員3名が重度の被ばくをし、そのうち2名が死亡しました。また、健康に影響が出るレベルではありませんでしたが、従業員、防災業務関係者、周辺住民等多くの人々が被ばくしました。さらに、事故の際、事故現場から半径350メートル圏内の住民への避難勧告や半径10キロメートル圏内の住民への屋内退避勧告が行われる等、我が国では前例のない事故となりました。

この事故を教訓として、万が一、重大な事故が生じた場合、内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部を設置すること等、原子力の安全・防災対策の強化・充実を図ることを目的に原子炉等規制法の一部改正及び原子力災害対策特別措置法が1999年12月に制定されました。

また、原子力保安検査官の原子力施設への配置、事業者の保安規定遵守状況の検査制度の創設等を内容とする原子炉等規制法の改正も同時に行われました。

(3)最近の取組

〔1〕原子力安全規制の改革

2002年に明らかとなった原子力発電所に関する一連の不正問題の再発防止のため、また、国際的水準の原子力安全規制を実現するため、2002年12月、電気事業法及び原子炉等規制法が改正されました。また、再発防止策の一環として検査などの体制を整備するため、独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が設立されました。これらの新たな安全規制体制は、2003年10月1日より実施に移されています。このような新たな安全規制体制の主な内容は以下のとおりです。

(ア)定期事業者検査

これまで事業者に委ねられていた自主点検において不正が行われていたことが発覚したため、これを「定期事業者検査」として法律に基づき事業者に義務付けました。これにより、事業者は定期的に検査を行うとともに、その結果を記録・保存することとなりました。また、定期事業者検査の実施体制が適切なものであるか否かについても、JNESが審査し、さらに、国がその審査結果に基づき総合的に評定を行うこととなりました(定期安全管理審査)。

(イ)事業者の品質保証体制・保守管理活動の確立

事業者は、保安規定上に品質保証活動(事業者が、保安活動を通じて原子力の安全を達成するため、原子力の安全に影響を与える活動を体系的に実施するための管理を行うこと)に係る規定を置くことを義務付けられ、国は、保安検査において事業者の品質保証活動を確認することとなりました。また、事業者は、保守管理活動の実施についても保安規定上に記載することが義務付けられ、原子力発電施設が保有すべき性能や機能、安全水準等を維持するための活動を確実に実施し、国がその実施状況を確認することとなりました。

(ウ)定期安全レビューの義務化

従来任意で行われてきた定期安全レビュー(原子力発電所の運転経験や最新の技術的知見の反映状況等を評価すること)が、原子力施設の安全確保活動の一環として法律上義務付けられました。これにより、事業者はこのための仕組みを自らの保安規定上に定めるとともに、レビューを10年を超えない間隔で定期的に実施することとなりました。

(エ)健全性評価制度の導入

これまで、使用に伴って変化した設備の健全性評価に関する基準(いわゆる「維持基準」)がなく、ひび割れがあった場合に引き続き使用できるか、補修が必要かの判断基準が不明確であり、2002年の一連の不正問題の一因ともなったことを踏まえ、設備の健全性評価制度を導入し、設備が有すべき構造健全性を評価するためのルールを整備しました。事業者は、定期事業者検査で発見されたひび割れにつき、その進展を予測し、設備の健全性評価を行うとともに、その結果を記録・保存することが義務付けられました。

(オ)独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の設立

2003年10月1日に設立されたJNESは、原子力発電所等の原子力施設に関する検査、安全性評価、防災業務、調査研究等を行うことをその業務としています。これらの業務の実施にあたっては、国とJNESとの間で十分な連携を図りつつ適切な役割分担を行い、規制業務の一層の実効的かつ効率的な遂行を目指していきます。

(カ)中立的立場の原子力安全委員会によるダブルチェック機能の強化

経済産業省などによる第一次的な安全規制の実施について、原子力安全委員会が厳正・中立の立場からチェックを行う「ダブルチェック機能」が強化されました。具体的には、経済産業省原子力安全・保安院などの規制を実施する機関は、認可や検査などの実施状況について、内閣府に置かれた原子力安全委員会に四半期毎などに報告することが義務付けられました。また、原子炉設置者等の事業者および原子炉施設者等の保守点検を行う事業者は、原子力安全委員会がこれら報告に対して行う調査に協力することが義務付けられました。

(キ)申告制度の改善

さらに、2002年の不正問題が発覚する発端となった内部告発案件の処理に際し、プライバシーの保護が十分に考慮されていなかったこと、事案の処理に長い時間を要したこと等を踏まえ、申告制度の改善が行われました。すなわち、経済産業省(原子力安全・保安院)では申告に関する調査等を監督・指導するため、外部有識者による「原子力施設安全情報申告調査委員会」を原子力安全・保安院において開催するとともに、申告者の保護に関する留意事項や6カ月の標準処理期間を申告調査に関する運用要領に明記するなどの運用改善を行いました。また、規制行政庁に対してだけでなく、原子力安全委員会に対しても申告を行えることとなりました。

〔2〕原子力防災対策等について

(ア)原子力災害対策特別措置法

1999年9月のJCOウラン加工施設における臨界事故への対応において、初動段階で事故の状況の迅速かつ正確な把握ができなかったこと等の問題が明らかになりました。このため、1999年12月に〔1〕迅速な初期動作の確保、〔2〕国と地方公共団体との有機的な連携の確保、〔3〕国の緊急時対応体制の強化、〔4〕原子力事業者の責務の明確化等を規定した「原子力災害対策特別措置法」が成立し、原子力防災対策の抜本的な強化を図ることとなりました。

原子力災害対策特別措置法は、災害対策基本法の特別法として、原子力災害予防に関する原子力事業者の義務、原子力災害対策本部の設置等について特別の措置を講ずることにより、原子力災害対策の強化を図り、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的としています。

この法律に基づき、国は、地方公共団体及び事業者との連携を図りつつ、緊急時における防災拠点である「オフサイトセンター」を各原子力施設の所在地に合計21ケ所整備しました。また、防災訓練の実施、防災資機材の整備、避難体制の整備等、万が一の原子力災害に備えた対応機能の更なる強化を進めています(第132-1-4、第132-1-5)。

【第132-1-4】原子力災害対策特別措置法の概要

【第132-1-4】原子力災害対策特別措置法の概要

【第132-1-4】原子力災害対策特別措置法の概要(xls形式:24KB)

【第132-1-5】原子力緊急事態が発生した場合の緊急対応体制

【第132-1-5】原子力緊急事態が発生した場合の緊急対応体制

(イ)原子力施設に対する防護体制について

核物質の盗取、原子力施設への妨害破壊行為からの防護対策については、核物質輸送時の防護対策や核物質を使用した犯罪に対する処罰等を規定する核物質防護条約の締約国として、原子力事業者の防護区域の設定、監視装置の設置、治安機関との連絡体制の整備等の核物質防護に関する規制を行う原子炉等規制法等によって対応しています。より厳しさを増しているテロ脅威に的確に対応し、我が国の原子力発電所等の防護水準を国際的に遜色のないレベルにまで引き上げるため、核物質防護の規定の遵守状況に関する国の検査制度の新設等を内容とする「核物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出しました。

また、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件直後及びアメリカ等によるイラク攻撃の開始後、経済産業大臣から国家公安委員長、国土交通大臣に対し原子力発電所等の安全確保に対する協力を依頼し、このような中で警察及び海上保安庁による24時間体制での原子力発電所警備が実施されている等、原子力施設等の防護強化が実施されています。

〔3〕核不拡散対策

原子力の平和利用を円滑に実施していくため、核不拡散体制の維持は安全確保とともに極めて重要であり、核兵器不拡散条約(NPT)や、それに基づく国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置、包括的核実験禁止条約(CTBT)等、種々の国際的枠組みが創設されてきました。これらの枠組みに加え、我が国の持つ原子力平和利用技術と人材能力をもって、今後とも核不拡散体制の強化を目指して主体的に取り組んでいきます。

我が国では、原子力基本法にのっとり、厳に平和の目的に限り原子力開発利用を推進しているところであり、従来から、IAEAと締結した保障措置協定、アメリカをはじめとする各国との2国間原子力協力協定等に基づき、核物質について平和利用を担保するための「保障措置」を実施しているほか、これに必要な技術開発を進めてきています。1999年12月には、IAEA保障措置の強化のための追加議定書を締結し、拡大申告の提出や補完的アクセスの実施等、その着実な実施を図り、2004年には、IAEAより我が国について、保障措置下におかれた核物質の転用を示す兆候も未申告の核物質及び原子力活動を示す兆候もないとの「結論」が得られ、これにより、「統合保障措置」の実施が開始されました。また、六ヶ所再処理施設の運転開始に向けて、六ヶ所保障措置分析所、六ヶ所保障措置センターの整備を進めるとともに、将来の査察量の増大に対応するため、2000年1月より民間による保障措置検査の代行を開始しました。

COLUMN

核燃料サイクルへのマルチラテラル・アプローチ(MNA)

2003年に現在の核不拡散体制を強化する観点から、IAEAのエルバラダイ事務局長により、ウラン濃縮や使用済燃料再処理などの活動を多国間管理の下で行うとともに使用済燃料/放射性廃棄物の管理・処分も国際的に行うなどの構想が提唱されました。これを受け、2004年6月には、核燃料サイクルへのマルチラテラル・アプローチ(MNA)を検討するために、各国の核不拡散分野の専門家からなる国際専門家グループが設置され、2005年2月に報告書がとりまとめられました。報告書では、核燃料サイクル及び技術移転に対する全般的な管理を強化するため、マルチラテラル・アプローチを徐々に導入する内容の次の5つのアプローチが提案されました。

  • 〔1〕既存の商業的市場メカニズムの強化
  • 〔2〕IAEAの参加による国際的な燃料の供給保証の発展及び実施
  • 〔3〕既存の施設のMNAへの任意の転換の促進
  • 〔4〕新規施設のへの多国間及び地域的なMNAの創設
  • 〔5〕より強力な多国間取り決めとIAEA及び国際社会を関与させるより幅広い協力を伴った核燃料サイクルの開発

これに対し、我が国としては、従来から核不拡散体制強化の重要性に鑑み、原子力の平和利用のフロントランナーとして、他に類を見ない厳格な保障措置、輸出管理規制、核物質防護等を講じることにより、引き続き他の非核兵器国の範を示していくこととしています。また今後、国際的な核不拡散体制の強化と各国の原子力の平和利用とのバランスをいかに確保すべきかについて、引き続き十分議論を行う必要があります。

2.各エネルギー(原子力以外)の安全の確保と安心の醸成

(1)各種エネルギーの安全の確保

〔1〕電気事業(原子力発電所以外)の安全の確保

原子力発電所以外の発電所や送変電設備等については、電気事業法による規制が行われています。具体的には、設置者の自主保安を原則とし、設置者自らが電気工作物の技術基準への適合性確認、保安規程の作成、主任技術者の選任を行うことを義務付けています。また、一定規模以上の発電所等については、工事計画を届け出させ、設置者による自主検査の実施に係る体制を国が審査し、その評定結果に応じて審査頻度を軽減するインセンティブを与える安全管理審査制度を導入しています。

〔2〕都市ガスの安全の確保

都市ガスに供されるガス工作物については、ガス事業法による規制が行われています。具体的には、ガス事業者の自主保安を原則としており、技術基準への適合性確認、保安規程の作成、主任技術者の選任を行うことを義務付けています。これら事業者の確認結果や自主検査の検査記録等は立入検査を実施することにより、国が事後的に確認を行っています。

〔3〕鉱山の保安の確保

鉱山における保安については、鉱山保安法による規制が行われていますが、平成17年4月より抜本的な法改正が行われた改正鉱山保安法が施行されます。この改正は、坑内掘り石炭鉱山の大幅な減少や保安水準の向上など鉱山保安を巡る状況変化を踏まえ、国の関与の在り方を見直し民間の自主性を活かした保安確保への取り組みを可能とするためのものです。具体的には、鉱業権者による保安上の危険の把握とこれに対する対策の実施・見直し(リスク・マネジメント)の実施を前提とした、より現場の実態にあった合理的な規制とするとともに、鉱山施設に係る認可制を届出制に変更するなど一律・事前の詳細な規制について大幅な整理・合理化をするものです。

(2)高濃度アルコール含有燃料の販売規制

2001年に入り、いわゆる「高濃度アルコール含有燃料」(ガソリンとアルコール等を混合させた燃料で、ガソリン以外の成分が全体の過半を占めるもの)をガソリン自動車用燃料として使用したことに基づくと思われる自動車の車両火災事故・不具合の発生が確認されました。

これを受け、2001年9月以降、経済産業省と国土交通省は協力して、大学、研究機関、関係産業界の有識者からなる「高濃度アルコール含有燃料に関する安全性等調査委員会」を発足させ、高濃度アルコール含有燃料のガソリン自動車への使用に係る安全上の問題点について、調査、検証を行いました。その結果、2002年10月に、「アルコールの使用が想定されていないガソリン用自動車に高濃度アルコール含有燃料を使用することは、自動車の燃料系統部品を腐食・劣化させる危険性が存在し、安全上問題であると結論づけられる。」旨の最終評価が報告されました。

このような最終評価を受けて、総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会燃料政策小委員会(以下燃料政策小委員会)において審議が行われました。その結果、燃料政策小委員会においても、2003年2月に取りまとめた中間報告にて、緊急・短期的課題(一年以内)として、「高濃度アルコール含有燃料のガソリン自動車への販売・使用が、ガソリンを前提として設計されたガソリン自動車の安全面、環境性能面で問題があることが検証されている。消費者保護の観点から、高濃度アルコール含有燃料については、品質・販売規制の対象とするとともに、既販車の安全性を前提としたアルコール添加の許容値を設定することが必要である」とされました。

これを受け、消費者の安全確保を図り、必要な安全面及び環境面での規制を実施する観点から「揮発油等の品質の確保等に関する法律の一部を改正する法律」(以下「品確法」という。)が2003年5月に成立しました。

これにより、いわゆる高濃度アルコール含有燃料についても、同法の安全・品質規制の対象とされました。

さらに、品確法におけるガソリンの強制規格に、我が国における既存の自動車の安全性を前提とした、アルコール混合許容値(エタノールで3%、含酸素化合物(アルコール類、エーテル類等)全体で含酸素率1.3%まで)が設けられ、高濃度アルコール含有燃料のような自動車の安全上及び環境面で問題がある燃料の販売は、改正法施行(2003年8月28日)により禁止されました。このため、高濃度アルコール含有燃料販売業者は一挙に減少しました。引き続き販売を継続する一部の高濃度アルコール含有燃料販売事業者に対しては品確法を厳格に適用することにより、適正な石油製品の流通に努めています。

(3)最近の産業事故とその対策

〔1〕出光興産(株)北海道製油所火災事故のその後の政府の対応状況

2003年9月26日、北海道十勝沖地震により苫小牧市内の石油精製事業所で多数の屋外貯蔵タンクが破損し油漏れ等の被害が発生、9月28日には出光興産(株)北海道製油所においてナフサタンクの破損した浮き屋根が油中に沈んだことにより、我が国では約40年ぶりの全面火災が発生し、この消火に約44時間を要する大きな災害となりました。

このような事態を踏まえ、消防審議会における審議の結果、下記のとおり石油コンビナート等特別防災区域における防災対策の充実強化を図ることとなりました。

1 石油コンビナート等災害防止法の一部改正(2004年6月2日公布法律第65号)を行い、石油コンビナート等特別防災区域における防災対策の充実強化策として、大容量泡放射システムを配備することによる消防力の充実強化、防災業務の実施状況に関する市町村長等への定期報告制度の導入、市町村長等による特定事業者に対する防災規程の変更命令制度の導入等を行うこととしました。

2 大容量泡放射システムの配備に伴い、タンク全面火災に対応できる量の有効な泡消火薬剤を確保することとされましたが、二次災害防止のための泡シール用の泡消火薬剤の配備方策について、今後、検討される予定です。

3 旧基準の屋外タンク貯蔵所の新基準適合期限を繰り上げる危険物の規制に関する政令等の一部改正が2004年7月2日公布、2004年10月1日施行されました。

また、浮き屋根の耐震機能確保については、やや長い周期地震動の影響による浮き屋根の耐震強度基準の検討結果を踏まえ、2005年1月に危険物の規制に関する規則及び危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示が改正されました。

このように、出光興産(株)北海道製油所火災事故等を踏まえ、政府として、石油コンビナート等特別防災区域における防災対策の充実強化に引き続き取り組んでいくこととしています。

〔2〕産業事故への対応について

最近、我が国を代表する企業の主要事業場をはじめとして多発している重大災害の再発防止を図るため、各企業においては、発生後早急に発生原因の究明を実施するとともに、社内に保安に係る検討会議を新たに設置する等、保安管理体制を強化し、再発防止のための取組を厳重に進めています。

経済産業省においては、省内に「産業事故対応会議」を設置するとともに、近年発生していた事故を対象に個別企業への調査を実施し、今後講じることが必要な対応として、〔1〕経営トップの役割、〔2〕人的要因に対する安全対策、〔3〕設備・部品のリスク管理、〔4〕事故情報の共有、を指摘した「産業事故調査結果の中間とりまとめ」を2003年12月に公表しました。

同時に、各業界で蓄積されている経験や情報を広く共有していくための場として、各業界の経営トップ等をメンバーとした産業事故連絡会を設置して、2004年1月の第1回会合に続き、2004年8月には2回目の連絡会を開催し、最近の事故事例とともに、「産業事故調査結果の中間とりまとめ」の内容等を踏まえて実施した産業事故要因分析に関するアンケート調査の結果について報告を行いました。

〔3〕産業保安監督部

近年、産業事故に対する社会的関心が高まっています。特に、2003年には、14名が死傷した花火製造所における煙火爆発事故(4月)をはじめとして、8月のごみ固形燃料発電所でのRDF貯蔵槽爆発事故及び石油油槽所における火災事故、9月の製鉄所における爆発事故や製油所のタンク火災等、大規模な産業事故が続発し、情報収集や原因調査、再発防止等に関し、一層迅速、かつ、明確な責任・監督体制の下での対応が求められていました。このような情勢を踏まえ、2004年6月に公布された「鉱山保安法及び経済産業省設置法の一部を改正する法律」によって、2005年4月1日より、経済産業省原子力安全・保安院の地方組織である「鉱山保安監督部」を改組し、「産業保安監督部」が発足することとなりました。

鉱山保安法に基づく鉱山の保安規制は、現在、原子力安全・保安院本院においては鉱山保安課が、地方においては5つの鉱山保安監督部、3つの支部、1つの事務所が、それぞれ実施しています。

他方、鉱山保安以外の電気工作物(原子力を除く)等の保安、煙火等火薬類に関する保安、各種高圧ガス設備に関する保安、都市ガス・LPガスの保安、コンビナート防災等の一般産業保安事務については、経済産業局(内閣府沖縄総合事務局経済産業部を含む)が所管しています。

その結果、鉱山保安規制業務については、主として、中央では原子力安全・保安院本院の鉱山保安課において企画・立案や調整を担当し、地方においても同じく原子力安全・保安院の地方組織である鉱山保安監督部が規制業務の実施に当たるという体制になっています。他方、産業保安規制業務については、主に、中央では原子力安全・保安院の電力安全課、保安課等の産業保安担当各課が企画・立案等を担当していますが、地方においては、原子力安全・保安院とは別の組織である経済産業局の電力安全課及び保安課(北陸支局の電力・ガス安全課、内閣府総合事務局経済産業部の電力・ガス事業課を含む)において規制業務が実施されています。その結果、産業保安規制に関しては、異なる指揮監督系統が並存しています。

冒頭にも述べたように、昨今の相次ぐ産業事故などを背景とする産業保安体制に対する社会的関心が高まっている中で、規制当局に対しては、責任の明確化と災害発生時における迅速な対応が求められており、こうした要請を踏まえれば、現在、経済産業局が所掌している産業保安規制事務についても、原子力安全・保安院長の指揮監督下に置き、その責任の一元化・明確化を図る必要があります。

以上を踏まえ、経済産業局の産業保安部門である電力安全課及び保安課等を、原子力安全・保安院の地方組織である鉱山保安監督部・支部・事務所に統合させることにより、新たに「産業保安監督部・支部・事務所」へと改組することとしました。これにより、鉱山保安規制、産業保安規制ともに、主に、中央において企画・立案及び調整を担当し、地方においてこれらの規制業務を実施し、かつ、これらが原子力安全・保安院長の一元的な指揮・監督の下で遂行される体制となります。そして、今回の組織改編により、一元化された指揮監督の下、より一層迅速かつ機動的に産業保安業務を行うことが可能となります。

また、今般の鉱山保安法の改正により、従来、規制の実施機関である鉱山保安監督部等により実施されていた鉱山施設、機械器具等の検査・認可など細部にわたる事前規制は大幅に合理化され、規制体系として他の産業保安規制に近い事後規制主体の体系となります。この結果、鉱山保安とその他の一般産業保安を行政分野として一体のものとすることが可能となり、長期的には、両分野の人材の専門性を有効に活用し、一層的確ないし効率的な規制の実施が可能となります。

(4)自然災害への対応

2004年度においては、10月23日に発生した新潟県中越地震をはじめ、数次の台風や豪雨などの大きな災害が各地で発生し、電気、ガスといったエネルギーの供給にも影響を及ぼしました。経済産業省としてこれらの災害に対して、電気事業者、ガス事業者の要請を受けて、災害救助法が適用された地域等に対して、被災地で使用された電気、ガス料金の支払い期限の延長等を含む特別措置を講じました。

とりわけ、新潟県中越地震は甚大な被害をもたらしましたが、経済産業省は地震発生後直ちに、被害地域を担当する電気事業者、ガス事業者、石油元売各社、石油製品販売業者、LPガス事業者に対し、復旧に全力を尽くすよう指示するとともに、関係事業者及び事業者団体に復旧対策に最大限の支援を行うよう要請しました。例えば、ガソリン不足が懸念されたため、経済産業省は新潟県警察本部に連絡しタンクローリーが被災地に速やかに到達できるよう手配するとともに、被害の比較的小さかったサービスステーション(以下「SS」という)においては製品のある限り営業時間を延長するよう要請しました。また、阪神・淡路大震災時にならい、現地に対策支援室を設置し、被害状況及び復旧状況の的確な把握、現地自治体等との連絡調整、救援物資の調達・供給に関する支援等を行いました。さらに、地震活動の継続、避難の長期化を受け、特別措置の拡充をはかり、被災地だけでなく避難先で使用された電気、ガス料金の支払期限も延長することとしました。

本地震に際しては、現地事業者、電気事業連合会、日本ガス協会、石油連盟、全国石油商業組合連合会、日本LPガス団体協議会及び近隣の事業者が互いに協力し、例えば、電気については最大時には作業員約2,300名、発電機車90台が、ガスについては作業員約1,600名が動員・投入され、代替的供給手段の確保も含めた復旧及び復興に貢献しました。なお、阪神・淡路大震災の教訓から、電気については復電時における各戸ごとの送電の安全性確認を行い、漏電に伴う火災の発生を未然に防止することができました。ガスについてもマイコンメーターの普及が約100%まで進み、またポリエチレン管の普及を進めた結果、ガス漏洩による火災等の発生を未然に防止することができました。

石油製品については、経済産業省より石油元売各社に対してもガソリン等の供給を遺漏なく行うように指示しました。石油元売各社、石油連盟、全国石油商業組合連合会や石油製品販売業者等は、他地域からのガソリン等の被害地域への輸送・営業時間の延長等被害地域への石油製品の迅速且つ円滑な供給に大きく貢献しました。また、石油元売各社等は自主的に灯油、水、食料品及び防寒用品等を被災地へ供給しました。

その他、LPガス及び都市ガスについては、業界団体・事業者が代替熱源としてのカセットコンロ数万台の無償提供、避難所での炊き出し、仮設風呂・仮設住宅への熱源供給等を行いました。

さらに、台風23号等の台風及び豪雨においても、電気、ガスの供給支障が発生しましたが、各事業者は早期復旧に全力を尽くしました(第132-2-1、132-2-2)。

【第132-2-1】2004年度に発生した主な自然災害

【第132-2-1】2004年度に発生した主な自然災害

【第132-2-1】2004年度に発生した主な自然災害(xls形式:29KB)

【第132-2-2】小千谷市における電柱復旧作業

【第132-2-2】小千谷市における電柱復旧作業