第1節 安定供給の確保を巡る課題への対応の基本的考え方

私たちの国民生活や経済活動にとって非常に大切なエネルギーの安定供給ですが、第1章で石油ショック等エネルギーの安定供給を脅かす問題が発生してきたことを見てきました。また、最近ではエネルギーの安定供給に対する新たなリスク要因も注目されるようになっています。

エネルギーの安定供給に対しては、多様なリスクの存在が考えられますが、それらをその性質から大別すると、短期的・偶発的なリスクと、長期的・構造的なリスクに分類することができます。前者は、戦争・軍事紛争、テロ、革命、突発的な事故等が引き起こす安定供給に対するリスクです。後者は特定の供給源(供給者)に過度に依存することから生ずる脆弱性や買い手としての交渉力の弱さ、投資不足等から生ずる需給アンバランス等長期にわたって持続する問題です。

別の角度から整理すると、海外からのエネルギー輸入の安定確保に関するリスクと、国内でのエネルギー供給システムに関するリスクに大別できます(第121-1)。

【第121-1】エネルギーの安定供給に対するリスクの分類

【第121-1】エネルギーの安定供給に対するリスクの分類

【第121-1】エネルギーの安定供給に対するリスクの分類(xls形式:19KB)

我が国がエネルギー安定供給を確保していくためには、こうした様々なリスクの存在を認識しつつ、それらに対応しうる強靭でしなやかなエネルギー・システムの構築を目指した対応策の展開が必要となります。以下では、このようなリスクの分類に応じて、現在とられている対応策の考え方を整理しました(第121-2)。

【第121-2】エネルギーの安定供給を巡る課題への対応の基本的考え方

【第121-2】エネルギーの安定供給を巡る課題への対応の基本的考え方

1.海外からのエネルギー輸入に関するリスクに対して

海外からのエネルギー輸入に関するリスクの原因を、我が国が自ら直接的に制御することは難しい面もあります。このため、供給量の不足を想定した緊急時対応を整備し、もしもに備えておかなければなりません。また、リスクを低減するために、エネルギーの自給率を引き上げることが望ましいのですが、資源に恵まれない我が国はエネルギー需要を国内のエネルギーでまかなうことは難しく、輸入エネルギーに依存せざるを得ません。このため、海外からエネルギー供給を受けるにあたっては、エネルギー源の多様化・エネルギー供給源の多角化によりリスクを分散し、産油国等との関係強化を図ることが必要です。

(1)緊急事態(短期・偶発的なリスク)への対応

海外からのエネルギー輸入の安定供給確保に関しては、国際情勢の変化による供給途絶やエネルギー供給不足等の緊急事態に対応する(もしもに備える)ための対応策が重要です。

〔1〕エネルギーの備蓄

海外からのエネルギー供給が不足したとしても、国内にエネルギーの備蓄があれば、安心して生活や経済活動を続けることができます。その中でも中東からの輸入依存度が高い石油とLPガスについては、国内において適正な備蓄水準を確保しておく必要があり、民間の石油精製業者等に石油備蓄義務を課すとともに、国も石油を備蓄しています。

最近、国際石油市場が発達していることを背景に、緊急時の初期における迅速な備蓄の放出等対応による市場安定化の重要性が国際的にも認識されていますが緊急事態が発生した場合、我が国だけが必要に応じて備蓄を放出しても、国際エネルギー市場の安定化への効果が限られるため、緊急時には、先進主要消費国であるIEA加盟国と協調して備蓄を放出する体制を整えています。また、経済発展によりエネルギーの輸入依存度が高まっているアジア諸国との連携強化を進めているところです。

〔2〕産油国や産ガス国との対話

石油の生産国(産油国)と消費国は、1970年代の石油ショックに象徴されるように時として対立的とも言える関係にありましたが、石油ショックによる国際経済への影響と石油ショック後の原油価格の大幅下落等の経験を経て、適正な水準での原油価格の安定が産油国と消費国の共通利益であることが認識されるようになり、近年は対話と協調の重要性がお互いに認識されています。我が国も国際エネルギー市場安定化のため、常日頃から産油国、産ガス国との信頼関係の構築に努めています。

〔3〕的確な情報提供、需要抑制

第一次石油ショックは、我が国にとっても、世界的にも未曾有の出来事でした。我が国では、実際には石油の供給不足が起こらなかったにもかかわらず、一部では石油と関係のない商品でも不足が懸念されパニック的な騒ぎさえ起こりました。このような事態を起こさないために、石油備蓄の水準、石油製品価格等の情報提供をしています。

また、エネルギーの量的不足が懸念される場合には、エネルギー需要を抑制するよう国民に協力を求めることが必要になる場合もあり、広報体制及び流通状況の把握や使用節減に必要な法制度が整備されています。

(2)長期・構造的なリスクへの対応

海外からのエネルギー輸入の安定供給確保に関する長期的・構造的リスクについても、可能な限りそのリスクを制御・低減するための対応策が重要です。

〔1〕エネルギーの輸入依存度を減らすための対応

海外からの輸入に大きく依存している我が国のエネルギー供給の現状を踏まえれば、まず省エネルギーにより必要とするエネルギーの量をできるだけ少なくするとともに、国産エネルギーを開発し、エネルギー自給率をできるだけ向上させる必要があります。

(ア)省エネルギー

我が国は、既に世界でトップレベルのエネルギー利用効率を達成しています。今後とも、民生、運輸、産業すべての分野における新技術の導入や省エネルギー努力を促進するための環境整備を通じ、できる限り効用を変えない範囲でエネルギー消費量の最大限の抑制を図り、世界最先端の省エネルギー社会の構築を目指しています。このため、エネルギー使用量が多い工場等にエネルギー利用効率の向上のための計画を義務付けたり、自動車、家電製品等機器のエネルギー効率についての目標を設定する等の対応を行っています。

(イ)自給率向上のための国産エネルギー

エネルギー自給率を向上させるためには、準国産エネルギーである原子力や、その多くが国産エネルギーである新エネルギー等の開発、導入及び利用を着実に推進しています。

〔2〕リスクを分散させるための対応

次にエネルギーの安定供給には、リスクを分散するため、エネルギー源の多様化とエネルギー供給源の多角化が必要です。

(ア)エネルギー源の多様化

石油ショックの教訓は、1つのエネルギー源に過度に依存してはならないということです。こうした観点からは、エネルギー源の多様化を図る必要があります。この観点からも、準国産エネルギーである原子力発電を基幹電源として推進するとともに、その多くが国産エネルギーである新エネルギー等の開発、導入及び利用を推進しています。ただし、特定のエネルギー源で我が国の全てのエネルギーを賄うことは現実的ではありません。資源小国である我が国としては、できるだけ多くの選択肢を持つことが重要です。原子力、新エネルギー、石油、天然ガス、LPガス、石炭等の各エネルギーの特徴を生かしてバランスよくリスクの分散を図る供給構造を追求しています。

(イ)エネルギー供給源の多角化

エネルギー源を多様化した上で、さらに各々のエネルギーの供給源を多角化することで、より一層、リスクを分散・低減させることができます。特に、石油については、現在も、我が国の一次エネルギー供給の約5割を占めており、また、経済性・利便性の観点から、今後も重要なエネルギーですが、中東への依存度が9割近いことから、その是正のための供給源の分散化への取組を行うとともに、中東域内での調達先の多角化に努力しています。

〔3〕エネルギー開発への関与

最後に、海外のエネルギー資源であっても、わが国の企業が開発に参画(自主開発)することや、常に産油国、産ガス国との対話を継続し関係強化を図ることが、海外からのエネルギー輸入に伴うリスクの低減に寄与します。

(ア)自主開発

我が国の企業が開発に参画(自主開発)すれば、その開発プロジェクトについて一定の権益を確保することとなり、我が国へ石油・天然ガスを輸入できる確実性が増すことが考えられます。

このため我が国企業の自主開発への支援を行っています。

(イ)産油国、産ガス国との対話

産油国が二度の石油ショックから学んだことは、高い原油価格が持続しても、それが消費国の石油消費減退と石油代替エネルギーの利用の促進を加速し、決して産油国側にとってメリットを生むばかりではないということでした。また、原油価格の低下は一般には経済活動に好影響を与えますが、極端に低い状態が続けば、将来の開発投資の減退や、石油収入に依存する産油国の国家財政にも悪影響を与え長期的には供給の不安要因になる等消費国にとっても望ましいことではありません。産油国や産ガス国と消費国は、エネルギー資源の貿易を通じて相互に深く影響し、依存しています。このように産油国や産ガス国と消費国には共通の利益があることから、世界のエネルギー情勢や将来的な見通し、直面する課題について議論を深め、対話を進めています。

2.国内でのエネルギー供給システムに関するリスクに対して

昨年、欧米で発生した大規模な停電や我が国関東圏における電力需給の逼迫等により国内のエネルギー供給システムの信頼性確保の必要性についての認識が高まっています。こうした国内でのエネルギー供給システムに関するリスクについては、国による適切な対応の整備や事業者の適切な対応で最小化・排除することが可能です。また、安全の確保がその大前提となるものであることは、原子力発電の自主点検検査記録の不正問題だけでなく、製油所や廃棄物発電の事故等を通じて強く認識されています。

十分な安全確保を前提に、需要に見合った信頼性の高い安定したエネルギー供給システムを着実に構築しなければなりません。とりわけ、電気のように他のエネルギーによって直ちに代替したり貯蔵することが困難なエネルギーについては、事故その他の原因によってその安定供給が阻害されるリスクを最小限にとどめるため、日常から設備の保守や運転管理等様々な面において適切な対応が必要です。

また、国内のエネルギー供給システムを着実に機能させるには、エネルギー産業が適切な競争環境の下で国内に立地し、操業を行うことが必要不可欠です。

このため、国内エネルギー産業の体質強化が期待されます。

〔1〕エネルギーの安定供給と安全の確保、国民からの信頼の確保

エネルギーの供給に当たっては、安全の確保が優先されなければなりません。安全の確保は、科学的合理性に基づき効果的に行わなければなりません。また、透明性をもって行わなければなりません。

国及び事業者ともこのような考え方を基本として、それぞれが責任を持って安全を確保していくことが、エネルギーを安定的に供給していくための前提でもあります。例えば、エネルギー供給システムの安全確保が適切に行われなかった場合、仮に、事故等により危険が顕在化しなくても、供給システムは信頼性を喪失し、安定供給を達成することはできません。このことは、原子力分野における度重なるトラブルや自主点検検査記録の不正が明らかになったことにより、電力の安定供給に支障を生じかねない事態に立ち至ったことからも明らかです。こうした点を踏まえ、国及び事業者は、エネルギー供給に伴う災害や供給支障等を発生させないために、エネルギーの性質に応じた徹底した安全確保が行われることの重要性について、十分な認識を持ち、責任を持って取り組んでいく必要があります。

このため、国においては、エネルギーに関する個々の安全規制法令に基づく適切な安全規制を確実に行うとともに、その実効性を確保するため、安全に係る知見の集積・向上や専門的人材の育成等を通じて、安全規制の質の向上に不断に努めているところです。また、安全確保に第一義的な責任を持つ事業者においては、安全規制法令の遵守にとどまらず、安全という事業活動の品質の保証を図るための実効的な経営管理体制の確立に向けて自ら努力していくよう求められているところです。

国及び事業者における安全確保に向けた取組については、その透明性を確保するとともに、国民への説明を十分に行うことにより、安全に対する国民の信頼の確保に努めています。

〔2〕防災対策

また、原子力施設等については、万一の事故が発生した場合に備えた防災対策への取組を確実に行うことにより、施設周辺住民を始めとした国民の保護を図るための体制整備等の施策を推進しています。さらに、国際情勢が不安定な要素を抱える中で、国及び事業者においては、テロ行為等への対応機能の強化についても取り組んでいます。