序章 エネルギーと国民生活・経済活動

1.エネルギーと国民生活・経済活動

エネルギーは、国民生活や経済活動になくてはならないものです。第1部に入る前に、私たちのくらしとエネルギーの関係や我が国のエネルギー政策の変遷などを概観してみましょう。

(1)私たちのくらしを支えるエネルギー

〔1〕私たちのくらしとエネルギー

現在の私たちのくらしや社会は、エネルギーの大量消費によって成り立っています。日常生活に欠かすことのできない電気、ガス、水道はもちろん、現代社会の基礎となっている交通、運輸、通信なども全てエネルギーを利用しています(図1)。また、私たちの目に見えないところでも、多くのエネルギーが消費されており、農作物、食品、洋服など、あらゆる製品はその生産過程においてエネルギーを利用しており、エネルギーが私たちのくらしを支えています(図2)。このうち、私たちのくらしや生産の現場で電気、ガス、ガソリン、灯油など直接的に消費されているエネルギー(直接エネルギー)だけでなく、私たちが購入する食料、洋服やさまざまな製品の製造工程に用いられる原材料生産や製造、加工、輸送などに間接的に消費されているエネルギー(間接エネルギー)もあります。

図1 エネルギーの供給過程と利用形態

図1 エネルギーの供給過程と利用形態

図2 生活用品の製造にかかる間接エネルギー

図2 生活用品の製造にかかる間接エネルギー

図2 生活用品の製造にかかる間接エネルギー(xls形式:22KB)

〔2〕エネルギー資源の分類

エネルギー資源は、大きく「化石エネルギー」と、「非化石エネルギー」に分けられます。「化石エネルギー」は、石炭、石油、天然ガス、LPガスなど、古代地質時代の動植物の死骸が化石化し、燃料となったものです。「非化石エネルギー」は、原子力エネルギーや水力発電、地熱発電、更には、新エネルギーなどがあります。原子力エネルギーは、ウランなどの核分裂によるエネルギーを利用したものです。新エネルギーは、太陽光発電、風力発電、廃棄物発電などの技術的に実用化段階に達しつつあるが、経済性の面での制約から普及が十分でないものであり、石油代替エネルギーの導入を図るために特に必要なものと定義されています。ただし、欧米においては、風力、水力、バイオマスなどエネルギー資源が次々と再生されてくるものを指す「再生可能エネルギー」という用語がよく用いられています。

〔3〕海外に頼る日本のエネルギー

我が国はエネルギー資源に乏しく、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。利用用途の広い石油・LPガスは中東地域を中心に、天然ガスは東南アジア等から、石炭は豪州等からほぼ全量を輸入しています。一方、日本国内で産出される「国産エネルギー」は、水力、地熱、風力や若干の天然ガス等(国際エネルギー機関(IEA)による)のみで、我が国が必要とするエネルギーの約4%にすぎません。原子力発電に必要なウランも海外から輸入されていますが、一度輸入すると数年間使えるため、「準国産エネルギー」と位置づけられています。原子力エネルギーを含めてもエネルギー自給率(エネルギー供給に占める国産エネルギーの割合)は、約20%にすぎません。

〔4〕国内のエネルギーの流れ

次に、このようなエネルギーがどのように供給され、どのように消費されているのかの大きな流れを見てみましょう。エネルギーは、生産されてから、実際に私たちエネルギー消費者に使用されるまでの間に様々な段階、経路を経ています。大まかに見ると原油、石炭、天然ガスなどの各種エネルギーが供給され、電気や石油製品などに形をかえる発電・転換部門(発電所、石油精製工場など)を経て、私たちに最終的に消費されるという流れになっています。この際、発電・転換部門で生じるロスまでを含めた我が国が必要とするすべてのエネルギーの量という意味で「一次エネルギー供給」の概念が用いられ、最終的に消費者に使用されるエネルギー量という意味で「最終エネルギー消費」の概念が用いられています。国内に供給されたエネルギーが最終消費者に供給されるまでには、発電ロス、輸送中のロス並びに自家消費が発生し、最終消費者に供給されるエネルギー量は、その分だけ減少することになります。量的には、日本の一次エネルギー供給を100とすれば、最終エネルギー消費は71程度(総合エネルギー統計による)になっています。

具体的には、一次エネルギー供給は、石油、天然ガス、LPガス、石炭、水力、原子力等といったエネルギーの元々の形態であるのに対し、最終エネルギー消費では、我々が最終的に使用する石油製品(ガソリン、灯油、重油等)、都市ガス、電力、熱といった形態のエネルギーになっています。一次エネルギーの種類別にその流れを見ると、原子力、水力、地熱、新エネルギー等は、そのすべてないしほとんどが電力に転換され、消費されています。一方、天然ガスについては、電力への転換のみならず熱量を調整したうえで都市ガスへの転換も大きな割合を占めます。石油については、電力への転換の割合は全体的には小さく、そのほとんどが石油精製の過程を経て、ガソリン、軽油などの輸送用燃料、灯油や重油などの石油製品、石油化学原料用のナフサなどとして消費されています。石炭については、電力への転換及び製鉄に必要なコークス用原料炭への使用が大きな割合を占めています。LPガスについては、そのまま一般家庭等での消費が大きな割合を占めています(図3)。

図3 我が国のエネルギー・フロー(2001年度)

図3 我が国のエネルギー・フロー(2001年度)

COLUMN

文明とエネルギー

私たちのくらしや社会に不可欠なエネルギーと人類や文明との関わりの変遷を歴史を遡って、見てみましょう。

〔1〕「火」の発見

人類が初めてエネルギーを利用するようになったのは約50万年前の「火」の発見からです。最初はまきを燃やし暖房や料理に使い、やがて土器などの新しい道具づくりに利用するようになりました。火の利用は、人類が文明を発展させる出発点となっています。

〔2〕農業の始まりとエネルギー

今から約1万年前になると、人間は農耕や牧畜を始めるようになり、牛馬の力を耕作用動力源として利用するようになりました。さらに風力や水力など自然のエネルギーもさまざまな分野で活用する工夫が重ねられました。

〔3〕産業革命を支えた石炭

16世紀に入ると、それまでの木炭に代わり石炭が熱エネルギー源として利用されるようになりました。その後、ワットが1765年に蒸気機関を発明し、工場での動力源のほか、蒸気機関車、蒸気船などさまざまな分野に応用されるようになりました。この発明により、従来の畜力や自然エネルギーに比べて生産力は大幅に向上し、石炭の消費量も飛躍的に増大することとなりました。また、石炭が豊富だったイギリスを中心に産業革命が起こり、人類の文明も一気に発展することとなりました。

〔4〕石油による流体革命(エネルギー革命)

1859年にアメリカで新しい石油採掘方式が開発され、石油の大量生産が可能になると、その利用方法も急速に発展しました。さらには1950年代に中東やアフリカに相次いで大油田が発見され、エネルギーの主役は石炭から石油へと移行しました。これを流体革命(エネルギー革命)と呼んでいます。大量に安く供給された石油は、さまざまな交通機関、暖房用、火力発電などの燃料として、また石油化学製品の原料として、その消費量は飛躍的に増えました。

〔5〕石油に代わるエネルギーの出現

しかし、1970年代の2度の石油危機は、世界各国でエネルギーが不足するのではないかと懸念されるほど深刻な事態を引き起こし、当時7割を超える石油依存度となっていた日本も石油という単一のエネルギーに頼りすぎることの危険性を思い知らされました。その経験から原子力や天然ガスなど石油の代替エネルギーの導入が進みました(図4)。

図4 人類とエネルギーの関わり

図4 人類とエネルギーの関わり

(2)これからのエネルギー問題

〔1〕増え続ける世界のエネルギー消費

今日の社会や人々の生活は、昔の人からは想像もつかないほど、変革を遂げています。同時に世界のエネルギー消費量は、産業革命以降、工業化に伴うエネルギーの大量消費に応じて急速に増加し続けています。また、18世紀頃までは非常に緩やかなカーブをたどっていた世界人口は、産業革命を契機に増加のテンポが速まりました。中でも20世紀に入ってからの増加は著しく、1830年には10億人だった世界の人口は、1930年に20億人、1980年に44億人、2001年には約60億人と急増しています。これまでの人口増加は確実にエネルギー消費の増加に結びついています。今後も人類全体としてのエネルギー消費量は、人口増加と、文明の進歩に伴う1人当たりのエネルギー消費量の増加の相乗効果によって増大することが見込まれます。特にアジアでの人口の急速な増加が予測されており、21世紀半ばには世界全体で90億人以上に達するといわれています(図5)。また、現在のところ、発展途上国における1人当たりのエネルギー消費量は先進国に比べ少ないものの、今後、中国をはじめとしたアジア地域などは、その経済成長に伴い、1人当たりのエネルギー消費量が増加していくものと予測されます。

図5 世界人口の地域別推移と見通し

図5 世界人口の地域別推移と見通し

図5 世界人口の地域別推移と見通し(xls形式:20KB)

〔2〕私たちの直面しているエネルギー問題

これからのエネルギー問題を考える上で忘れてはならない点が3つあります。先ず、現在、世界全体で使っているエネルギーのうち、約9割は石油や石炭、天然ガス、LPガスといった化石エネルギーですが、その埋蔵量には限りがあることなどから、常にその安定供給に留意する必要があります。次に、化石エネルギーの燃焼時には地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)やそのほかの酸化ガスが排出され、地球環境への影響が指摘されていることなどから、環境問題に配慮したエネルギーの利用が求められています。最後に、エネルギーは、私たちのくらしや社会に必要不可欠なものであることから、そのコストは、経済の活力や我が国の国際競争力とかかわりがあります。私たちは、このような利用を頭において、貴重なエネルギー資源をできるだけ効率的に用いていくことが必要です。