原子力分野の人材育成を進めるために

技術者に講習を行う様子の写真と、オープン教材を使った授業の写真です。

左:技術者への講習(提供:荏原バイロン・ジャクソン株式会社) 右:オープン教材の活用(提供:北海道大学)

技術者にとってもっとも重要なことは、先輩たちの技術を受け継いでいくこと、また常に技術を磨く努力を継続していくことです。それは、原子力分野においても同様です。原子力の安全性向上のためにも、また東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)や古い原子力発電所(原発)の廃炉作業を安全かつ円滑に進めるためにも、原子力分野の技術を継承していく人材の育成は重要となります。しかし、近年、“原子力人材”の育成は、さまざまな課題を抱えています。今回は、“原子力人材”育成の現在と、課題を解決するため進められている施策をご紹介します。

日本のエネルギー安定供給のため、まだまだ必要な原発

原発は、発電コストが安い、安定的に発電できる、発電時にCO2を排出しないなどのメリットを持つ電源(電気をつくる方法)です。このような電源は、エネルギー供給に求められる、「安定的に」「経済的に」「環境に負荷をかけず」「安全に」エネルギーを供給するという「3E+S」を追求する上では、非常に役立つものです(「資源エネルギー庁がお答えします!~原発についてよくある3つの質問」参照)。

日本はエネルギー自給率がきわめて低い国であり、そうした日本で生活や産業に欠かせないエネルギーを安定的に供給するためには、原発からの電力供給もまた選択肢のひとつとなります。

先日発表された「第5次エネルギー基本計画」では、2030年までに原発の電源構成比(20~22%)を実現することを目指し、必要な対応を着実に進めることが記載されました(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)。しかし、低減方向にあるとはいえ20~22%程度が利用され続ける以上は、その安全性を追求する努力は継続されるべきであり、そのための技術継承と技術向上、人材育成も続けられるべきだといえるでしょう。

原子力人材の育成をめぐる危機的状況

しかし、こうした原子力分野の技術継承と人材育成の重要性にも関わらず、近年、原子力分野を目指す人材は減少しています。これには、東日本大震災に伴って起こった福島第一原発の事故が世の中に与えた影響の大きさが原因として考えられます。

大学では、原子力関連学科・専攻における入学者数は、2011年(平成23年)以来減少しています。2015年度(平成27年度)には298名まで回復はしたものの、2017年度のデータでも震災前の数字である300名には到達していません。

原子力関連学科などにおける入学者数の推移
原子力関連学科などにおける入学者数の推移について示した折れ線グラフです。

(出典)文部科学省「学校基本統計」を基に作成

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大学は、原子力分野に貢献する人材を育てる重要な場ですが、原子力分野を専門とする大学教員の数も減少しています。

原子力関連の年齢別教員数推移
平成16年度・19年度・22年度・25年度の、原子力関連の年齢別教員数の推移を示したグラフです。

(出典)文部科学省「学校教員統計」

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加えて、大学や原子力関連施設内に設けられている「研究炉」も、福島第一原発の事故後に設けられた厳しい基準「新規制基準」の遵守を求められていることから、その対応ができるまで稼動停止を余儀なくされています。研究炉は、原子力分野の実際的な学習をおこなうためには必要なものですが、全国にある研究炉のうち、新規制基準に対応して稼動を許可されたのは2018年9月現在で4カ所です。こうした、人材育成をおこなうリソースそのものが減少し、困難を抱えているということは大きな問題です。

原子力関連企業は合同企業説明会を東京と大阪の二カ所で開催していますが、参加企業や参加学生数は原発事故後に減少し、参加学生数は今も回復にいたっていません。事故前の2010年度までは、原発は低炭素エネルギー(CO2の排出量が少ないエネルギー)の1つとして注目を受けていたため、その落差は一目瞭然です。

専攻別で見てみると、原子力・エネルギー系の落ち込みは低いものの、電気・電子系、機械系の落ち込みが激しいことがわかります。説明会の時点ですら、原子力分野が就職先として選択肢にあがらないことが考えられます。

原子力関係企業の合同就職説明会における参加学生数および参加企業・機関数の推移
原子力関係企業の合同就職説明会における参加学生数および参加企業・機関数の推移を示した棒グラフです。

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参加学生の専攻別人数の経年変化(原産セミナー来場学生の専攻の推移 2007年~2017年度) 
原子力関係企業の合同就職説明会における参加学生数の推移を専攻別に示した折れ線グラフです。

(出典)一般社団法人 日本原子力産業協会調べ

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人材育成に向けた連携をサポートする

このような課題を解決すべく、資源エネルギー庁と文部科学省はさまざまな施策を展開しています。

文部科学省は、「原子力科学技術委員会 原子力人材育成作業部会」において議論した今後の政策のあり方について、「中間取りまとめ」として2016年8月に公表し、関連する施策を進めています。

特に、関係機関の連携や分野横断的な取り組みを支援しており、「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」では、原子力分野の専門人材や施設など研究教育の限られたリソースを効率的・効果的に活用できるよう、産学の連携を促しています。中でも、以下2つの種類の取り組みを支援しています。

① 大学や高等専門学校(高専)の理工系学科・専攻でおこなわれる、原子力関連教育のカリキュラムや講座の高度化・国際化

② 原子力施設や大型実験装置などを持つ機関(企業など)において、施設を有効活用し、学生に高度な原子力教育を実施する

取り組み例
リストアイコン 日韓の教育用原子炉を活用した国際原子力実習の開催
リストアイコン 高専生に向けた原子力教育カリキュラムの作成
リストアイコン 高専でおこなった授業を遠隔地の高専でもWebを経由して見ることができるオープン教材の開発

技術者の高度知識や技術継承をサポートする

資源エネルギー庁では、主に原子力分野で働く技術者のスキルアップのための人材育成事業に取り組んでいます。原発事故後、全国の原発の多くは長い間稼動していない状況が続いており、現場の技術者たちが技術を継承する機会が失われています。そこで、2013年からの継続的な施策として、「原子力の安全性向上を担う人材の育成事業」を進め、人材の技能向上や専門性の高度化を目指しています。

この事業では、2015年6月に策定され2017年3月に改訂された「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」において重要度が高いとされている課題、たとえばシステム・構造・機器の信頼性向上と高度化などの課題を解決できる人材の育成を支援しています。

また、2015年5月に策定された「原子力の自主的安全性向上の取組の改善に向けた提言」において指摘されたニーズ、たとえばリスク管理などを実施する能力などに合致する人材の育成も促しています。

取り組み例
リストアイコン 原発に設置されているポンプのメンテナンスについて、現場で蓄積された情報や技術を提供する講習の実施
リストアイコン 電気事業者、メーカー技術者、自治体関係者などを対象に、発電所におけるリスク管理やリスクコミュニケーションの講義を実施
リストアイコン 技術者などを対象に、防災・減災や燃料の信頼性向上・高度化などにつながる高度な専門知識を継承する講座を実施

原子力分野での技術継承が途切れることのないよう、各省庁が協働して、原子力人材の育成をサポートしていきます。

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電力・ガス事業部 原子力政策課

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