【インタビュー】「2050年にめざすべきは、エネルギー産業とモビリティ産業の融合」―竹内純子 氏(後編)

竹内 純子氏

エネルギー・環境政策に幅広く提言をおこなう竹内純子氏のインタビュー。前編「未来の社会変革を描いた『自動車新時代戦略会議』」に続き、後編では運輸部門の低炭素化についてグローバルな潮流を俯瞰するとともに、竹内氏が描くエネルギー産業とモビリティ産業が融合した2050年の世界観についてうかがいます。

CO2排出を抑制するカギは“技術”

―世界全体の化石燃料の燃焼にともなって排出されるCO2のうち、約1/4の量を運輸部門が占める、と言われています。運輸部門の低炭素化に向け、各国はどのように取り組んでいるのでしょうか?

竹内 運輸部門の低炭素化は、世界的な潮流になりつつあります。2017年7月にフランス政府とイギリス政府が相次いで、「2040年までに国内のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する」という方針を明らかにしました。中国も手厚い補助金などにより、電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の導入を進めています。

インドはフランスやイギリスに先んじて、2030年までに販売する車をすべてEVにすると打ち出していましたが、のちに撤回しています。撤回の背景には、数値目標に縛られて現実社会の進展にブレーキをかけるべきではないという判断があったようですが、しかし、いずれにせよインドも運輸の低炭素化を進めようとしていることには変わりありません。

国際エネルギー機関(IEA)の報告「World Energy Outlook 2017」によると、2040年のエネルギー需要は、2016年比で、インドが原油換算でおよそ10億トン、中国ではおよそ8億トン増えると見込まれています。日米欧が軒並みマイナス5000万~2億トンであるのとは対照的に、大きな需要増です。また電力需要でみるとインドは現在のEU全体に相当する量が増え、また中国ではアメリカの需要に匹敵する量が増えると見込まれています。要は、2040年までにEUとアメリカがもうひとつずつ生まれるということです。

インドや中国に省エネ型の発展をしてもらうことはとても重要ですが、彼らにも経済発展する権利、便利で豊かな生活をする権利はあるわけですから、エネルギー需要の増大そのものを過度に抑制しようとすべきではありません。重要なのは、エネルギー需要が増えてもCO2の排出をできるかぎり抑えることです。そして排出を抑制するのは、“気持ち”でも“約束”でもなく“技術”だということを強調しておきたいと思います。

温暖化対策をしよう、CO2排出を抑制しようという意見に正面切って反対されることはほとんどありません。未来のためにという総論には誰もが賛成するでしょう。でも実際に制約やコスト負担を負うとなると、反対が噴出するのが現実です。

竹内 純子氏

京都議定書を思い出してください。世界で初めて数値目標を掲げ、各国が「議定書」という形で“約束”したことには一定の意義がありました。 京都議定書は、目標の達成を法的に義務づけるしくみでしたが、一部の国だけが制約やコストを負うことへの反発から、参加を拒んだ米国や、途中で離脱したカナダなど、べき論による“約束”のもろさが露呈しました。国民やその国の産業に過度な負担を強いるような目標設定であれば、結局、現実の方が優先されてしまうのです。

そのような京都議定書の時代から温暖化対策を見てきた私の持論は、解決策は技術革新にあるということ。世の中に安価で便利な省エネ技術を提供する以外に、温暖化対策の道はないと考えています。

ですから、繰り返しになりますが、自動車新世代戦略会議が打ち出した「グローバルで供給する日本車のすべてを対象にxEV化をはかる」という目標は、利便性の高いxEVが安価で提供されるというのが大前提です。自動運転やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サ―ビス。あらゆる交通手段のリアルタイムデータをデータプラットフォーム上で共有し、そのデータを活用するアプリによって、最適な移動手段を提供するサービス)はもちろん、電源の低炭素化ともセットです。

石油や石炭など化石燃料の燃焼にともなうCO2排出量のうち、日本では18%、世界では約1/4を自動車など運輸部門からの排出が占めています。また、今後エネルギー需要が増大するインドやASEAN諸国における日本車のシェアは、実に5割にものぼります。運輸部門の低炭素化は世界的に非常に注目されていますので、日本がここに貢献することを期待しています。

竹内 純子氏

COP24でも多くの技術開発に関するサイドイベントが開催。単一の技術だけでなく、サービスも含めた社会変革が必要と主張する竹内氏

自動運転電動車の普及が、 新エネルギーシステムのカギになる

―竹内さんは、日本の2050年の姿について、どのような未来像を描かれているのでしょうか。

竹内 2050年のエネルギー産業は、いろいろなプレイヤーが共存する社会になっているだろうと考えています。消費者の中からは、屋根の太陽光発電でつくった電気を売るプロシューマー(生産消費者)があらわれます。そのプロシューマーがつくった、少量の余剰電気を束にして、地域内でマネージするような事業者もあらわれるでしょう。

その地域内電力小売事業者は、蓄電に電動車のバッテリーを使い、電気の充電・放電とあわせて、カーシェア事業も地域で展開するかもしれません。自動運転が当たり前なので、カーシェア事業では、電動車が自分で消費者の家に出向くようになり、車として使われない時間帯は、電気が余っている家へ充電しに行ったり、電気が足りない家へ行って貯めた電気を放電したりと、“電気の配達業”をしてくれるかもしれない。

課題は星の数ほどあるでしょうが、消費者の価値観が、モノの“所有”から、必要なときだけ“利用”する方向に急速にシフトしていることも、こうしたモビリティサービスとエネルギーサービスとの融合を後押ししうるのではないでしょうか。

一方、プロシューマー以外の大手発電事業者も依然としてその役割はあるでしょう。ただ、これまでとは役割が変わって、気象条件などに左右される太陽光発電や風力発電などの調整役となるのだろうと思います。即応性が高い火力発電が中心になるでしょうが、炭素制約によっては次世代原子力発電も確保する必要があるでしょう。

送配電事業は、広域をカバーする送電と地域密着の配電に役割が分かれていくでしょう。配電事業は地域密着型のビジネスですから、水道事業やガス事業との融合も考えられます。

「日本の幸福な未来」を実現するために

竹内 純子氏

竹内 課題は星の数ほどと申し上げた通り、たとえば、蓄電池に使用するレアメタルひとつ取っても、それをどう調達するのかという問題があります。レアメタルは産出国に偏りがあり、その多くは途上国ですが、その調達のために産出国の子どもたちが不当労働させられるようなことはあってはなりません(「xEVに必須のレアメタル『コバルト』の安定供給にオールジャパンで挑戦」参照)。

しかし、どのような未来に進むべきなのかをまず描かなければ、どうやればそこに向かえるのかという議論もできません。人口減少が急激に進む「縮小社会」が直面するさまざまな課題を解決し、幸福な未来をのこすには、大きなビジョンに基づく社会変革が必要です。

技術、規制、社会の考え方の全てを変革していかねばなりません。

いずれにしても、低炭素化を進めることは必須であり、そのためのセオリーが「需要の電化×電源の低炭素化」のかけ算だということは、間違いありません。また、デジタル化とシェアリングで徹底的に生産性を向上させていくことが必要であることも間違いありません。国が進むべき未来図の大枠を示し、その枠に沿ったかたちでさまざまな制度やものごとを設計していくことが、何より大切だと考えています。

―パリ協定のチャレンジングな目標を達成し、明るい未来を次世代につなげるためには、かけ算で低炭素社会へ向かうセオリーを進める以外にないというご意見、大変参考になりました。ありがとうございました。

プロフィール
竹内純子 (たけうち すみこ)
NPO法人国際環境経済研究所 理事・主席研究員、筑波大学客員教授。1994年慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社(当時)入社。尾瀬の自然保護や地球温暖化など、主に環境部門を経験。2012年より現職。政府の審議会・研究会などで多くの委員をつとめ、エネルギー・環境政策に幅広く提言活動をおこなう。主な著書に『エネルギー産業の2050年 Utility 3.0へのゲームチェンジ』(日本経済新聞出版社)『誤解だらけの電力問題』(ウェッジ)『原発は“安全”か― たった一人の福島事故報告書』(小学館)。

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