【インタビュー】「将来はヨーロッパで最大の電源に~拡大する風力発電」―加藤仁 氏(前編)

加藤仁 氏

再生可能エネルギー(再エネ)のひとつ、風力発電。国によっては電源(電気をつくる方法)のうちかなりの割合を占めるようになりつつあります(「これからの再エネとして期待される風力発電」参照)。日本風力発電協会代表理事の加藤仁氏に、風力発電先進国であるヨーロッパの現状や、日本の風力発電に残されている課題をうかがい、風力発電の将来像を探ります。前後編の2回に分けてお届けします。

ヨーロッパで風力発電が普及した要因とは

―日本では再エネの主流は太陽光で、風力はまだまだ遅れをとっています。一方、ヨーロッパでは風力発電が普及しており、近年さらに増えていると聞きます。普及の要因には何があるとお考えですか。

加藤 最近のニュースでは、ヨーロッパの風力発電は、2027年におけるkWhをベースにした各電源の比較において、最大の電源になるという予測が報じられています。我々の予測でも、同様の数字が出ています。風力発電は、ヨーロッパにおいて、それだけの存在感をもつ電源となっているということです。

その要因として、まず、ヨーロッパは、「風況が良い」いわゆる発電に良い風が吹いていて、風力発電にうってつけの環境があります。風が強いほうがたくさん発電できるわけですから、風力発電にとって「風況が良い」とは「強い風が吹いている」ということです。どのような風か?というと、風力発電では、年間を通しての平均風速を目安としています。ヨーロッパでは冬場など季節によってひじょうに強い風が吹くことがあり、平均風速はおおよそ9〜10m/s前後です。

もともとヨーロッパには、風車を動力として利用する文化が古くから根付いていました。風車メーカーもヨーロッパから始まりましたから、長年にわたる技術的な蓄積があります。ヨーロッパにおける風力発電の普及の背景には、そのような積み重ねた高度な技術力を活かし、信頼性の高い風車をつくることができるメーカーがあるということが、まず前提としてあります。

風力発電というのは、数百万円ほどの部品が故障した場合、その部品を交換・修理するのにクレーンが必要になってしまうことから、結果的には数千万円もの修理費がかかってしまうことがあります。洋上風力発電になると、修理に必要なSEP(Self Elevating Platform)という大型船の費用が相当に高いため、さらに膨大な費用が必要になります。ですから、精度が高く信頼性も高い製品がつくることができるという要素は、風力発電の普及のためには必須なのです。

―まず、そのような下地があったということですね。

加藤 その上で、この5年ほどの間に起こった変化とは、陸上の風力発電に加えて、洋上風力発電が増えたことです。ヨーロッパでは、陸上風車の技術を改良しながら、洋上風車の建設をこの20年ほどの間に少しずつ進めてきました。5年ほど前に8MW(0.8万kW)クラスの洋上専用の風車が開発されると、これまでの倍以上の電気をつくり出すことができるようになり、そのためkWあたりの発電コストが下がりました。発電コストが下がることで風力発電導入費用も下がり、風力発電の普及がどんどん進むという相乗効果が現れています。

洋上に建てられたリルグルンド風力発電の写真です。

リルグルンド風力発電(デンマークとスウェーデン国境付近バルト海上)

―洋上風力発電が、ヨーロッパの風力発電の成長をさらに拡大しているのですね。

加藤 そうですね。洋上風力発電については、ヨーロッパは北海油田の開発を進めてきた歴史があるため、海洋エネルギー利用にもともと積極的でした。実は、かつて北海油田のプラットフォームで作業をしていた人たちが、今、洋上風力発電にたずさわっています。北海油田が下火になったために、その雇用の受け皿として洋上風力発電に力を入れているという経緯もあります。

洋上における風車の建設は、プロレスラーのような屈強な海の男なしではなしえません。彼らは、10kgほどの重さのハーネス(安全帯)をつけて、海上で作業をします。また、洋上風車建設の作業工程を担うには特別な資格も必要なのですが、その資格を取得するための訓練場ではヘリコプターのコックピットごとプールに沈められてそこから脱出するなど、すさまじい訓練を積んでいます。そうした訓練を経て資格を取得した海の男が、洋上風車の建設やメンテナンスにたずさわることができるのです。北海油田の作業経験者を起用することができたということも、ヨーロッパで洋上風力発電が拡大する要因の一つとなったわけです。

洋上風力発電の建設を促進した再エネ政策

加藤 このような風力発電の増加には、ヨーロッパが再エネ推進へと政策を転じたことも影響しています。この再エネ転換政策は、CO2排出を削減していくという課題が世界の高い関心事になったことから始まっています。政策を国の方針にしたり、EU全体として取り組んだりしていることから影響が大きく、特に規模が大きい洋上風力発電に関していえば、その影響は絶大です。

―風力発電について、ヨーロッパではどのような政策がおこなわれているのでしょうか。

加藤仁 氏

加藤 まず、国が洋上風力の明確な導入目標をコミットしています。そして国が中心となって、洋上風力発電に利用する海域のゾーニングをおこなっています。海域の利用について洋上風力発電と利害が対立することもある漁業者との交渉なども、基本的に国が主導しておこなっています。イギリスでは、国が一定の海域を洋上風力発電の場所に指定しており、その海域を割り当てられた各事業者が、地盤や風況を調べて洋上風力発電に取り組むという流れになっています。

一方で、事業者が発電事業以外にわずらわされることのないよう、国が主導して事業環境を整えているところもあります。その中でもっとも徹底しているのがオランダで、国が風力発電に利用する海域を決めて環境アセスメントを行い、風況データの採取や地盤の状況の調査もおこないます。また洋上の風力発電所と陸上を結ぶ海底の送電線設置なども国が実施します。そのような準備を国がおこなった上で、「あとは発電所を建設するだけですが、いくらでできますか」と入札させるのです。これが、オランダのセントラル方式と呼ばれているものです。

―国として風力発電事業者をサポートすることが、結果的に風力発電由来の電力コスト減につながっているのですね。

加藤 エネルギー政策の転換が起こったことで、電力会社も、これまでと異なる方針へと転換しています。

たとえば、これまで原子力発電にたずさわっていたドイツのRWE社やE.ON社といったヨーロッパの電力会社の業績は一時赤字になりましたが、その後再エネに舵を切り、今や100万kWクラスの洋上風力発電を手がけるまでになっています。

ただ、そもそものマーケットが存在しなくては、風車を製造する機会が得られず、技術的な蓄積もできなかったでしょう。米国やヨーロッパでは、陸上風力発電のマーケットが、以前から形成されていました。さらに、洋上風力発電が推進されたおかげで、マーケットはより一層拡大しています。日本で風力発電が普及してこなかったのは、日本国内にマーケットがなかったことも大きな原因です。ホームマーケットがないところには、企業は育ちませんから。

日本の自然条件は風力発電に適しているのか

―対して、日本の風力発電に関する状況は今どのようになっているのでしょうか。そもそも、日本の自然条件は風力発電にとってどうなのですか。

加藤仁 氏

加藤 日本の平均風速はおおよそ6〜7m/sほどで、場所によっては8m/sのところもありますが、平均風速ではヨーロッパには及びません。

ただ、日本の風況は「風力発電ができない」ということではありません。平均風速からおおよその年間発電量を割り出すと、ヨーロッパに比べて発電コストがやや高くなってしまうというだけのことです。

風況に関していえば、日本には台風が襲来するリスクがあります。しかし、そのような強風に対しては、羽の強度を上げる、風を逃すように作動させるなど、現在の技術で対応することができます。また、ここ数年は台湾などで洋上風力発電の導入が進んできたことから、風車にも、東南アジア特有の台風などの自然条件を勘案した「クラスT」という強度の国際基準が新設されました。過去数十年の風況のデータをもとにして強度を設定しており、台風の強風にも耐えうる風車が設計されはじめています。

―日本の海は、陸地から比較的近い海域で水深が深くなっていますが、洋上風力発電の建設はできるのでしょうか。

加藤 その疑問は当然あるでしょう。日本風力発電協会では、10万kW以上の着床式の洋上風力発電所を設置することができる場所の条件を、「年間の平均風速7m/s以上の風が吹く場所で、20km2のまとまった面積を確保できる場所、かつ水深40mまで」と定義しています。我々は、こうした条件の場所が、日本周辺の海域にどれほどあるかということを調査しました。それによると、理論上では、日本周辺の洋上で合計9,100万kW分の発電所が建設できるという結果が得られました。船の航路や経済的活動をしているエリアを除いても、1割程度の1,000万kWほどは実現可能だと考えて、2030年の洋上風力発電の導入目標を10GW(1,000万kW)とするように政府に提言しています。

ほかにも、日本特有の自然条件として地震があげられますが、これは大きな揺れに余裕をもって耐えられる基礎をいかにつくるかという問題で、建物や橋などの構造物と同様です。対処できない課題というわけではありません。

我々としては、風力発電における日本特有の自然環境に対する不安や課題は、克服することが十分可能であると考えています。

―自然条件で見れば、日本も決して風力発電に向いていないわけではないということですね。後編ではさらに、日本における風力発電の将来についてうかがいます。

プロフィール
加藤 仁(かとう じん)
1953年生まれ。1977年、三菱重工業株式会社入社。2008年にエネルギー・環境統括戦略室長、2013年に執行役員原動機事業本部副事業本部長 兼 風車事業部長。2014年、MHI Vestas Offshore Wind A/SのCo-CEO。2017年、日本風力開発株式会社副会長。2018年から一般社団法人 日本風力発電協会代表理事に就任。