【インタビュー】「エネルギー安全保障の観点から考える、原発の意味」―山本隆三 氏(前編)

山本隆三氏

燃料供給の現場に身を置いた経験や、海外事情に精通する立場から、エネルギー問題を経済性や政治状況の観点で検証してきた山本隆三氏。安全保障の観点や、経済と温暖化対策の両立といった観点から考える原子力発電(原発)の意味とは何か、諸外国の最新情報に満ちたインタビューを、前後編の2回に分けてお届けします。

原発が持つ、エネルギー安全保障上の有用性

-山本先生は、「原発は今後も必要」というご発言をされています。その意味するところについてお聞かせください。

山本 「原発の必要性」というのは、さまざまな分野にわたる非常に多様な問題を含んだテーマです。一言で言いあらわすことはとても難しいのですが、僕はエネルギーの安定化や自給率など、安全保障に関わる問題が一番大きいと思っています。しかし、「エネルギー安全保障という観点から原発をどう見るか」という議論は、日本ではまだ十分になされていないように思います。

米国やヨーロッパは、数年ごとにエネルギー供給のリスクに晒されています。たとえばヨーロッパは、2006年と2009年の2回、ロシアにパイプライン経由の天然ガス供給を止められるという経験をしています。これはロシアとウクライナが天然ガスの価格で対立し、ロシアのガスプロム社がウクライナへの供給を停止したことで起こりました。当時、ロシアからヨーロッパへのパイプラインは約8割から9割がウクライナを経由していたため、ヨーロッパへの供給も止まってしまったのです。2009年の天然ガス供給停止の際には、凍死者が出る寸前まで追い込まれた国もあります。

こうした体験から、ヨーロッパの国民は、エネルギー安全保障という問題にとても敏感です。

一方の日本でも、1973年のオイルショック、2011年の東日本大震災にともなう原発の事故や太平洋岸の石炭火力・LNG火力の被災、そして今年2018年の北海道地震など、エネルギー供給に大きな問題が発生した出来事はありました。しかし、たとえばオイルショックの記憶を語ろうとする時、メディアが主として報じるのはトイレットペーパーの買い占め騒ぎについてです。その騒ぎの裏には、当時は製紙に重油を使っていたため品薄になるのではというエネルギーへの不安があったのですが、エネルギーの安全保障という本質的な論点についてはあまり報道されませんし、話題にのぼることもありませんでした。

エネルギー安全保障という考え方、その観点から見たエネルギーのあるべき姿はどういうものかということを、日本でももっと深く議論していくべきだと思います。

-そのようなエネルギー安全保障の観点から見た時、原発はどのように評価されるのでしょうか。

山本隆三氏

山本 原発には、エネルギー安全保障上のさまざまな役割を期待できると考えています。まず、エネルギー自給率の向上です。原発は準国産エネルギーとみなされるため、自給率の向上に役立てることができます。

日本はエネルギーの自給率が8%と低く(「2018―日本が抱えているエネルギー問題」参照)、海外の供給国に依存せざるを得ないという状況です。このことは供給国の言いなりにならざるを得なくなるリスクがあるということです。

たとえば、原発を含めるとエネルギー自給率が50%近くあるヨーロッパは、年々自給率が低くなっていることに危機感を持っています。それは、相対的にロシアからのエネルギー輸入比率が上がっているためです。2018年7月、米国のトランプ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会談でドイツがロシアから天然ガス供給を受けている件を取り上げ、「ドイツはロシアに支配されている」と強い口調で攻撃しました。またブルガリアなどは天然ガスを100%ロシアに依存しています。こうした、ひとつの供給国にエネルギーを依存する状態は、大きなリスクをはらみます。そこで、ヨーロッパ各国はロシアからの依存度の低減を画策しています。バルト3国は、歴史的事情が理由でロシアの管理する送電網に組み込まれていますが、EUの管理する送電線に切り替えようとしています。また、100%近くをロシアに頼っていた天然ガスも米国からLNGの形で輸入し始めました。

エネルギー自給率と比較されるものに食料自給率がありますが、食料はいざという時は、コストがかかってもさまざまな国から調達することが可能です。ところが、エネルギーは供給できる国がごく限られています。資金があってもどうにもならない、それがオイルショックの経験でした。原発を利用してエネルギー自給率を高めることは、このようなリスクを低減することにつながるのです。

電源の多様化を図るためにも役立つ原発

山本隆三氏

山本 安全保障上における原発のもうひとつのメリットは、電源(電気をつくる方法)の多様性をもたらすという点です。多様性が確保されていると、ひとつの電源に何かあった場合でも、ほかの電源でそれをカバーすることが可能になります。

それがよく分かる例が、異常気象です。たとえば、2018年1月の始めに米国が猛烈な冬の嵐に見舞われた時、米国北東部、ニューヨーク州やニュージャージー州近辺では再生可能エネルギー(再エネ)による発電が不可能になりました。それによって突如400万kwもの発電力が失われてしまったため、稼働を控えていた石炭火力、天然ガス火力、石油火力といった火力をフル稼働させ、危機を回避しました。

原発がこうしたカバーの役割を果たした例もあります。米国北東部で2014年に起こった大寒波によるエネルギー需要急増時には、住宅用セントラルヒーティングの燃料として使われる天然ガス需要が急増し、天然ガスを送るパイプラインの能力を完全に越えてしまいました。その結果、火力発電所向けの天然ガスの供給に支障を来たしてしまったのです。代わりに石炭火力に切り替えようとしたのですが、零下20〜30℃で石炭も凍りついて使えなくなってしまっていました。この時ピンチを救ったのが、寒波でも平常どおり動いていた原発でした。

-ひとつの電源が機能しなくなっても、代替できる電源があれば危機を乗り越えることが可能ということですね。

山本 そうです。それぞれの電源にはメリット、デメリットがあるため、エネルギー安全保障の観点からは電源を多様化することが重要なのです。そこでは当然、原発も重要な選択肢のひとつとなるのです。

米国で、電源の多様化を意識して動いているのがジョージア州です。ジョージア州はパイプライン経由天然ガスの供給を受けている地域ですが、同州の公共事業規制委員会の委員長は、「天然ガスのパイプラインには脆弱な箇所が数ポイントある」と述べ、そのポイントが、たとえばテロ攻撃に遭って天然ガスの供給がストップすることを懸念しています。そこで同州は、電源の多様性を確保するため、ボーグル原発に新たな原子炉の建設を進めています。

日本のおかれたエネルギー状況を基に、原発を再度考えてみよう

山本隆三氏

山本 世界情勢を見れば、米国と中東諸国との関係性がこの1年で悪化しているため、産油国からのエネルギーの安定供給に懸念がもたれ始めています。万が一ホルムズ海峡が閉鎖されるようなことがあれば、石油の約8割、天然ガスの3割弱は日本に輸入できなくなってしまいます。別のパイプラインを使えば輸送できるのではという意見もありますが、ホルムズ海峡に何かあれば各国がそのパイプラインに殺到するため、あっという間にパイプラインの供給能力を超えてしまうでしょう。

しかも日本は、送電線もガスパイプラインも他国とつながっていない国であることを考える必要があります。

-世界的にみて、エネルギーが一国で閉じている国というのは珍しいのですか?

山本 非常に珍しいですね。以前、イギリスのビジネス・エネルギー・産業戦略省の高官から、「日本はどの国と送電線がつながっていますか」と尋ねられたことがあります。どこにもつながっていないと答えると、それで本当に大丈夫なのかと非常に驚かれました。

ヨーロッパは国を越えて送電線が網の目のようにつながっています。日本と同様に島国であるイギリスも、送電線はオランダやフランスとつながっており、今後ノルウェーともつなげようと今建設中です。万が一の時には、他の国から供給してもらうことが可能なのです。しかし、日本はその手段を使うことができません。

-日本は、他国に比べても、非常に不安定なエネルギー状況にあるということですね。そのような状況では、原発がより大きな意味をもつということですか?

山本 そうです。イギリスの政府関係者は、安全保障、温暖化対策、それから電気代を安定化させるという原発のメリットを、イギリス国民の6割は認識しており、事故リスクよりもそうしたメリットを得られることを重視していると話していました。エネルギー安全保障の問題の重要性、そして、電源の多様化の必然性について、日本でも議論を深め、その上で原発の必要性についてしっかりと論じるべきだと思います。

-確かにそうですね。後編では、温暖化対策や経済性から見た原発の役割についてお話をうかがいます。

プロフィール
山本隆三(やまもと りゅうぞう)
1951年、⾹川県⽣まれ。京都⼤学⼯学部卒業後、住友商事株式会社に⼊社。⽯炭部副部⻑、地球環境部⻑ を務める。2013年より常葉⼤学経営学部教授。国⽴研究開発法⼈新エネルギー・産業技術総合開発機構「民間主導による低炭素技術普及促進事業採択審査委員会」委員長代理、⽇本商工会議所、東京商工会議所エネルギー・環境委員会学識委員などを務める。

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