【インタビュー】「社会の変容に合わせ、省エネ政策も衣替えを」―中上英俊 氏(後編)

中上英俊氏

エネルギー問題や地球環境問題を専門とし、総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会(以下、省エネルギー小委員会)の委員長を務めている中上英俊氏のインタビュー。前編「AIやIoTの活用で省エネは加速する」に続き、後編ではライフスタイルやビジネスモデルの変化とエネルギー消費との関係、また省エネを世の中で加速させる意外なきっかけについてうかがいました。

新しいビジネスモデルの登場で、増えるエネルギー消費、減るエネルギー消費

―2030年のエネルギーのあり方を定めたエネルギーミックス(長期エネルギー需給見通し)では、「2030年度のエネルギー需要を原油換算で5,030万kl程度削減」という見通しを掲げています。日本のエネルギー消費は2004年度以降減少傾向にありますが、どのような部分で省エネが進んでいるのでしょうか。

中上 データとして表れているわけではないのですが、おそらく、ライフスタイルの変化、新しいビジネスモデルの登場など、社会の変容がエネルギー消費の削減を推し進めているのではないかと推測しています。

2018年6月に成立した改正省エネ法の柱の一つは、それまで「貨物の所有者」としていた荷主の定義を「輸送の方法等を決定する者」と改めることで、貨物の所有権を問わず、ネット小売事業者を確実に荷主に位置づけ、省エネ法の規制対象にすることです(「時代にあわせて変わっていく『省エネ法』」 参照)。改正にいたった背景には、ネット通販市場が急拡大したことで、宅配便の再配達によるムダなエネルギー消費が増大しているという課題が一つにありました。

しかし、ネット通販を利用することで消費者自らが買い物に行くことはなくなりますから、自家用車のガソリン消費は減っている可能性があります。消費者が個別に外出する際のエネルギー消費より、効率的に配送ルートを組んでいる宅配便の方がエネルギー消費は少ないでしょう。さらにいえば、実店舗からネット通販に消費がシフトすることで閉店する実店舗も存在します。現時点では正確に把握ができていませんが、そういったエネルギー消費のマイナスもあるはずです。

中上英俊 氏

―物流が集約されることで、従来、移動に必要だったエネルギーが削減されている可能性があるというわけですね。

中上 そうです。IoTの技術で集まったビッグデータをAIで解析できるようになれば、将来的にはエネルギー消費がどこで増え、どこで減っているかが可視化できるようになるでしょう。可視化ができれば、社会全体をより実態に即した形でとらえることができますから、新しい政策展開が考えられるようになると思います。

新しいビジネスモデルについては、Airbnb(エアビーアンドビー)に代表される民泊や、Uber(ウーバー)に代表される自家用車のライドシェアといったC to Cのビジネスも登場しています。これまでの省エネ政策では、社会で消費されるエネルギーを産業、業務、家庭、運輸という4つの部門に分けて、それぞれの部門に対する施策を講じてきましたが、住宅の空き部屋を民泊で貸し出す際に消費されるエネルギーや、自家用車でライドシェアをした際に消費されるエネルギーは、家庭部門に計上すべきものなのか業務部門あるいは運輸部門に計上すべきものなのかあいまいです。

今後は個人の売電なども制度上の課題になってきそうです。一般住宅で太陽電池を用いて発電した電気の売電はすでにおこなわれていますが、今後、電気自動車を家庭用蓄電池として活用することで家庭での蓄電が可能になり、家庭で創った電気の自家消費が進めば、消費されたエネルギーや売られた電気がそれぞれどの部門に属するのかという線引きを見直す必要も出てくるかもしれません。社会の変容とともに政策自体も迅速に衣替えをしないといけないでしょう。

中上英俊 氏

省エネを加速させる3つの流儀とは

―省エネを日本全体で加速させていくためのポイントは何だとお考えですか?

中上 省エネを加速させるには3つの流儀がある、というのが私の持論です。第一の流儀は、「規制と支援」。家電、自動車、住宅などに最初から規制をかけておけば、省エネに興味がない人でも買い替えるだけで省エネができる。最も効率的に進められる方法です。

住宅での最新事例としては、「ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の推進に向けた取り組みが挙げられます(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~新しい省エネの家『ZEH』」 参照)。ZEHは住宅の断熱性能や設備の高効率化で省エネを実現する一方、太陽光発電パネルを屋根に取り付けるなどして電気を創り出し、年間の一次エネルギー消費を実質的にゼロ以下にする住宅です。省エネを推進する経済産業省、省CO2を推進する環境省、そして住宅の所轄官庁である国土交通省の3省が連携することで取り組みが進み、2018年7月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では、「住宅については、2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」こととしています。今後新築される住宅が最初から省エネ仕様で建設される、という効果は大きいはずです。

省エネを加速させるための第二の流儀は、「トップの決断」です。トヨタのハイブリッド車プリウスは、発売前は「売れば売るほど赤字になる」と言われていました。それでも市場に投入することには意義がある、とトップが決断したのです。結果、その環境性能は大きく評価されてプリウスは人気車になり、生産量が増えることで製造コストが採算ベースに乗り、さらにはトヨタという会社のブランド価値も高めました。プリウスの例は、トップの決断が社会に与えるインパクトの大きさを物語っていると思います。

第三の流儀は、「消費者の声」。消費者のリアルな声が世の中の省エネを加速させ、場合によってはメーカーを動かす力にもなるということを私は身をもって体験しています。1995年のこと。当時の省エネに関する委員会で、私は家電製品の設計における待機電力の削減を提言しました。しかし、使用時の消費電力削減に注力していた家電メーカー各社は待機電力にまで関心をもつことができず、私も資源エネルギー庁もメーカーを説得することはできませんでした。

ところが、一人の主婦が「コンセントからプラグを抜く省エネ方法」で月々約1,000円、年間にして約1万円以上を節約したという話が瞬く間に口コミで広がると、メーカーは待機電力の削減に自主的に取り組み、一気に家電の待機電力が下がったのです。消費者の関心が向けられるとメーカーは動かざるを得ない。資源エネルギー庁や省エネルギー小委員会はメーカーに要請を出すだけではなく、消費者への訴えかけを上手におこなっていくべきでしょう。何が消費者にひびくのか。何が行動を変えるきっかけになるのか。情報の伝え方を研究しなければなりません。

お寿司屋さんでネタを保管しておくケースの照明をLEDに変えたところ、蛍光灯と比べ発熱が少ないためネタの鮮度の持ちがよくなったという話を聞きました。省エネだけではなく食品ロスの削減にもなる、というのはお寿司屋さんの興味をひくポイントです。生真面目にLEDと蛍光灯の消費電力の差を正確な数字で訴えるよりも、そうした具体的なエピソードを興味のある人に届けることがアクションにつながるのです。

中上英俊 氏

エネルギーの供給側はより積極的に省エネに参加を

―最後になりますが、省エネの議論を今後も続けるにあたり、ご意見がありましたらお聞かせください。

中上 電力会社やガス会社などエネルギー供給側の皆さんは、省エネが自社の事業を縮小させるマイナス要因になりうるととらえている節があります。そうではなく、省エネを新たなビジネス展開のチャンスと位置づけ、積極的に議論に参加してほしいと思います。

たとえばドイツでは、電力会社と異業種の代表が集まり、省エネを考える会を開催しています。参加企業のコラボレーションによる新たな事業展開の可能性を検討したり、省エネに関するコンサルタントビジネスを開始したりしているのです。日本でも電気・ガスの小売全面自由化がスタートした以上、今後は企業間競争が激しくなります(「電力小売全面自由化で、何が変わったのか?」 参照)。最終的には、省エネを自社の武器に変えていった企業が勝ち残るのではないでしょうか。

最後に、省エネの議論は、産業界と消費側の双方が揃うことで深まるものです。省エネルギー小委員会でも、双方の意見を踏まえた省エネ政策を検討していきたいと考えています。

―社会の変容とともに、省エネのあり方も変わっていくというお話もありました。あらゆる関係者が、その時代に即した省エネの議論を尽くしていくことが大切ですね。ありがとうございました。

プロフィール
中上英俊(なかがみ ひでとし)
1945年、岡山県生まれ。横浜国立大学工学部建築学科卒業、横浜国立大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程終了、東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程博士課程所定の単位取得退学、東京大学博士(工学)。1973年にエネルギー関連の調査研究やコンサルティングをおこなう株式会社住環境計画研究所を創設。2013年より同社代表取締役会長。エネルギー・地球環境問題、地域問題を専門とし、日本学術会議連携会員、早稲田大学招聘研究員、東京工業大学大学院非常勤講師、経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会委員長、環境省中央環境審議会専門委員、国土交通省社会資本整備審議会臨時委員ほかを務める。

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