【インタビュー】「電力システム改革と再エネの大量導入の同時進行は、世界的にも類を見ない挑戦」ー山地憲治 氏(前編)

山地憲治 氏

エネルギーシステム工学が専門で、再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会(以下、大量導入小委)の委員長を務める山地憲治氏に、日本の再生可能エネルギー(以下、再エネ)の現状、そして大量導入小委で現在審議中の政策をお聞きしました。前後編の2回に分けてお届けします。

日本が再エネの主力電源化を目指すには

ー先日発表になった「第5次エネルギー基本計画」では、2030年に再エネの主力電源化(電源=電気をつくる方法)を目指すことが明記されました(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」 参照)。日本ではこれまでにも、再エネの導入量を増やすためさまざまな施策が行なわれてきましたが、再エネの主力電源を目指すためにはどのような問題が残っているのでしょうか。

山地 まず、そもそもの問題として、日本は欧州や米国などと比べて、再エネ発電所を設置できる場所に制限があります。たとえば米国や欧州は広大な平原や、強い風が安定的に吹く風況の良い場所など、メガソーラー施設や風力発電施設に適した土地が多くあります。また、水深の浅い海もあり、洋上風力の設置にも適しています。

一方日本ではそうした広い平地が少なく、たとえ平地があってもその場所は人口密度が高いため、大規模施設というものが造りにくいという違いがあります。

諸外国と異なる条件としては、もうひとつ、設備のコスト高という違いもあります。日本では、諸外国と比べ、土地代を含めて土木工事関係費が高くなる傾向があるのです。太陽光発電に利用するソーラーパネルなどのコストは、国内外で差が縮まっていますが、設置工事費はあいかわらず高い水準にあります。再エネの発電コスト全体は年々下がりつつありますが、今でもヨーロッパより2倍ほど高いのが現状です。

これは、2012年に再エネの導入量拡大を狙って創設された「固定価格買取制度(FIT)」によって、再エネで作った電力を固定価格で買い取ってもらえるという状況が生まれたため、発電事業者の間で「コストを下げる」というインセンティブが働きづらくなっていることも一因だと考えられます。FITにかかるコストは、電気料金に含まれる「再エネ賦課金」という形で最終的に国民が負担します。FITによって再エネ事業者は驚異的に増加しましたが、賦課金の国民負担は2017年度には年間2兆円を超えています。

この問題についての解決法のひとつとして、2017年4月に施行された「改正FIT法」では、入札制が導入されました。これによって事業者間に競争を生じさせ、FITを支える国民負担を軽減するのが狙いです。太陽光から入札を始めて、今後、バイオマスや洋上風力にも広げていくことになっています。また、再エネを使った発電事業は認定時点で買い取り価格が決まるため、太陽光パネルなどの設備費が安くなるのを狙って、実際の運転開始を遅らせることで利益を得ようとする事業者がありました。これについても、改正FIT法の施行を機に、運転開始までの期間に関する制限が設けられました。

今後、さらなる再エネの大量導入を目指すにあたっては、再エネのコストをさらに低減していくことも課題となります。

山地憲治 氏

日本と欧州で大きく異なる電力系統のかたち

山地 さらに、再エネを主力電源化するためには、解決すべき大きな問題があります。それは、「送配電網」、つまり電力系統の問題です。

欧州では国をまたいで送配電網がつながっており、また、1つの国がさまざまな国と送配電網をつなぐ「メッシュ型」になっています(「送電線『空き容量ゼロ』は本当に『ゼロ』なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み」 参照)。太陽光発電や風力発電などの再エネは天候によって供給する電力量が変動しますが、欧州のような多くの国とつながっている送配電網であれば、変動の調整がしやすいのです。たとえば、デンマークの再エネは、電力が不足した時にはノルウエーやスウェーデンのダム式水力発電などから電気を融通してもらって、電力量を調整しています。ドイツも、フランスやポーランドと電気を融通し合っています(「なぜ、『再エネが送電線につなげない』事態が起きるのか?再エネの主力電源化に向けて」参照 )。

一方、日本は「くし型」の電力系統になっており、送配電網は列島内を主に縦につながっているだけです。しかも、もともとは従来の電力会社が地域内の電力を発電から送配電網まで含めて管理しており、各自が域内でバランスを取るという原則で長年運営してきたため、地域を越えて電気を送り合う「連系線」が弱いという特徴もあります。

変動性の高い再エネには、変動を調整して電力需給のバランスを取る「調整力」が欠かせません。電気を必要な場所へと融通することでバランスを取るという、ネットワークによる「調整力」の確保は、日本では大きな課題です。

電力ネットワークの合理化を目指す「日本版コネクト&マネージ」

ーそうした課題の解決に向けて、現在、大量導入小委ではどのようなことが話し合われているのでしょうか。

山地憲治 氏

山地 大量導入小委では、再エネのコスト削減、系統制約の克服、調整力の確保に加えて、事業環境の整備、国際的な競争力の強化など、多くの課題について、課題ごとの対応策やルールづくりを審議しています。

その中で中心的に検討されているもののひとつに「日本版コネクト&マネージ」があります。「コネクト&マネージ」とは、発電した電力を送る「電力系統」を、効率的に運用する考え方です。

電力系統は、それぞれの系統で流せる電力の容量が決まっているため、再エネなどの発電所が増えて、系統への接続契約(発電所と系統をつなぐ契約)が増えれば、増強工事をする必要が生じます。しかし、それには多大な費用がかかります。そこで、大量導入小委では、系統を新設する前にまずは既存の系統を効率的に活用しようと、そのための政策を検討しています。

電力系統は、落雷や台風などの不測の事態で止まってしまうリスクにさらされています。しかし、電力は重要なインフラであるため、「ちょっと停電します」というわけにはいきません。そのため、送電線は一般的に2つの回線を用意し、1つの回線が切れてももう1つの回線が機能して、できるだけ供給障害を起こさないようにしています。これは日本に限らず、世界で共通するルールです。このため、原則、ネットワークの半分は、常に余裕(空き容量)をもっていることになります。

その上で、さらに、電力系統は、系統に接続しているすべての発電所と将来建設される発電所が最大出力で発電した場合にも、耐えられるようにしておく必要があります。系統の容量以上の電気が流れれば、大停電につながってしまうためです。実際には、さまざまな電源が同時に最大出力で発電をおこなう可能性は低いのですが、そうなった場合のリスクに備えているわけです。これが、「系統がガラガラなのに、接続をさせてくれない」という誤解を生じることにつながってしまっていました。

山地憲治 氏

ーリスクに備えて、あえて空けていたわけですね。「コネクト&マネージ」では、あえて空けていたその部分を合理的に使おうということですか?

山地 そうです。先日の大量導入小委では、こうした実態も踏まえながら、「想定潮流の合理化」に取り組み、接続できる空き容量を拡大していこうという方針を打ち出しました。

「想定潮流」とは、電力系統をどのくらい電気が流れるか想定するということですが、昔の電力会社は、自前の電源で発電し自前の送配電網にその電気を流していましたから、潮流を想定しやすい状況でした。また、想定外のことが起こった場合でも、電源の発電量を増やしたり減らしたりする調整が容易でした。

ところが、電力システム改革が進んだ今、送配電網を運営する企業にとって、発電事業者や小売事業者は外部の「お客様」になりました。また、さまざまな発電所が電力系統に接続することとなりました。そうなると、送配電網事業者は、どの電源に対しても公平・中立に接続するようにしなくてはなりません。また、発電量が系統容量を上回る場合には発電事業者に発電を止めたり、接続を切ってもらう必要がありますが、これは発電事業者の事業リスクにつながるため、なかなか要請しづらい。こうしたことが、確実に送配電網に受け入れられる分だけ接続しようという考えを強めることにつながっていました。

こうした電力システム改革と再エネの大量導入が同時に進んでいるという状況は、世界的にも類を見ないもので、それが再エネ大量導入の取り組みをより難しくしていると思います。

ーなるほど。それもまた日本特有の難しさなわけですね。

山地 それでも、送電枠の「すき間」を活用して接続を増やす。そのためのルールづくりをしていこうというのが大量導入小委の方針です。

まず、これまで事故などを想定して空けていた枠を、通常時には一部を使用して、運用容量を拡大しようということにしました。もちろん、事故などが起きて、空けていた枠が満杯になる場合には、電源との接続は瞬時に切られ、容量が空けられることになります(「N-1電制」といいます)。発電事業者は、万が一の場合には自分の電源の接続が切られるリスクを承知した上で、接続契約をすることになります。

現在、接続が切られた場合の費用負担ルールや、瞬時に接続を切るために必要な設備の費用をどこが持つかなど、公平性を確保するためのルールを検討中です。条件が揃った部分から、2018年度の後半にも始めようとしています。

もうひとつ、「ノンファーム接続」というものも検討しています。これは、決まった送電容量枠を最初からもたず、空きがある場合に限って送電できるという条件つきの接続契約です。たくさんの電気が流れて送配電網が混雑した時には、出力を抑制してもらいますということを前提に、接続契約をおこないます。ただ、実際に送配電網が混雑した場合には、切断スピードや電源のロケーションなどの関係で、ノンファーム接続の契約をおこなった電源でなく、別の電源との接続を切る場合もありえます。そういう場合の権利の問題や費用負担の問題など、細かいルールや制度づくりは、まだこれからの課題です。

ーさまざまな手法を駆使しながら、空き容量を活用して、多くの再エネの接続を目指すということですね。

後半では、そのほか現在審議中の課題についてお話をうかがいます。

プロフィール
山地憲治(やまじ けんじ)
1950年、香川県生まれ。東京大学工学部原子力工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。専門はエネルギーシステム工学で、総合資源エネルギー調査会などの審議会委員などを歴任し、現在、再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会委員長。東京大学名誉教授。公益財団法人地球環境産業技術研究機構理事・研究所長。

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